殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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お出かけ編

殺人鬼が感じたのはただ唯一の哀しみ-2

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朝の不機嫌はどこへ消えたのやら、恭華の機嫌は快晴だった。

移動中も各国の肉料理への妄想が広がり、ニヤニヤ笑うキツネの横で、全く同じような笑みを浮かべては生唾を呑み込んでいた。

助手席にいた揚羽はバックミラー越しにそんな恭華を冷たい目で見つめていた。

キツネに肩を抱かれている恭華が気に入らないのだ。

そう簡単に気持ちを割り切ることができない。目の前でベタベタしているところをあからさまに見せつけられると気分も機嫌も悪くなる。曇天だ。

そしてその皺寄せは全て稲荷に降りかかってくるのだ。

「何だ今の雑なブレーキは!?殺すぞ?」

「えぇっ!?普通だったッスよ・・・」
とんだ言いがかりだと、揚羽に顔を向けた稲荷だったが、物凄い形相で睨まれ、すぐにすみませんと謝った。

恭華に苛立ちを募らせる揚羽、肉への思いを募らせる恭華、恭華に欲情を募らせるキツネ、その三人を見て不安を募らせる稲荷。

四つの思惑を乗せた車はあっという間に会場へと運んだ。

車を降りた途端に恭華のテンションは上がり、一目散に会場へ向かって駆けて行った。

「あ、恭華ちゃん、チケット!!・・・・」
稲荷が声を高らかに響かせた時、恭華は既に米粒ほどになっていた。

「フフッ、なんて愛らしい生き物なんでしょう❤あ、入口で止められていますね、がっかりしています」

「だから言ったのに・・・」
それよりもあの距離見えるのかと、知ってはいたがその化け物並の能力に驚かされる。

キツネと九尾の出生の秘密を知っているだけに、この国の恐ろしくおぞましい計画にゾッとしない。

「フフッ、恭華さんが手を振っています❤」
大きく腕を振っている恭華に、嬉しそうにキツネが振り返す。

「ああ、それ振り返して欲しいんじゃなくて、早く来いってことッスよ・・・」
稲荷にはその恭華の動作が見えていないが、間違いなくチケットを早く持ってこいと呼んでいるのだろう。

恭華からこちらも見えていないだろうに。

「早く行けクズ!!」
揚羽が稲荷の背中を蹴り飛ばす。

「痛てっ!!」

フロントの制服以外の仕事着は常に全身真っ黒な揚羽には珍しく、真っ白なスカートだ。

キツネとのお出かけが余程楽しみだったと見える。

「お揚げ、せっかくの可愛い姿が台無しですよ?」
ニンマリとキツネが揚羽に笑いかける。

「も、申し訳・・・ありません」
カーッと頬を赤らめて、恥じらう姿はまるで乙女だ。

おしとやかにしている揚羽を見ると、本当に可愛らしい女性だ。一人の普通の女性なのだ。

暗殺などしなければ、揚羽も女子大生として女友達と肩を並べ、買い物に出かけたり、彼氏を作ったり、アイドルを追っかけてみたりしていたかもしれない。

揚羽には、今からでもそんな普通の女の子が歩む人生を送って欲しい。女の子なんだから。それを稲荷は伝えたことがあった。

フンッと軽く鼻で笑われた。

稲荷がボーっと思いを巡らせていると、揚羽が物凄い形相で睨みつけ、ドスの効いた声で警告した。

「オイ!グズグズしてんじゃねーぞ?キツネ様を走らせる気か!」
チケットを稲荷の胸にドンっと押し付ける。

「ハ、ハイッ!!行ってくるッス!」
揚羽に生命を脅かされ、慌てて稲荷が駆け出した。

「恭華ちゃ~ん!!」
ようやく恭華の姿を目にすることができた稲荷が恭華を呼ぶ。

そんな恭華の周囲にはこれでもかというほどの女子達が集まってきていた。

「えぇ、いいじゃん、チケットないんでしょ?一緒に入ろうよぉ❤」
恭華の腕を引くのはお姉さん系女子と、その隣で壊れたおもちゃのようにひたすら頷く友達。

「はぁ?うちの方が先に声かけたんですけど!?年甲斐って言葉知ってます?お・ば・さ・ん!」
逆サイドから、やたら面積の少ない布で遠慮がちに肌を隠しているギャルが、遠慮なく恭華の裾を引く。

「おばさん?黙れブスッ!!」
お姉さん系女子の形相が変貌を遂げ、唾を撒き散らしながらギャルに怒鳴り散らす。

間に挟まれた恭華は慣れたもので、どちらのサイドも完全に相手にはしていない。犬も食わない喧嘩に口を出す程のお人よしではない。

「ねぇ、この服、有名なブランドだよねぇ?てか、全身ブランド・・・すごーい!もしかしてお金持ち!?センス凄くイイ!」
恭華の正面にいたモデル風女子の一言で、周囲の女子がざわめく。上がったのは黄色い声だが、猛禽類のようなその眼は、心の打算が溢れ出ていた。

この顔面偏差値で、金持ち!身長が高くて服のセンスも最高だ!隣を歩くだけでもう勝ちだ。勝ち組だ。己の価値も上がる!
コンピューター演算並のスピードで弾き出された答えに猛禽達の目が光る。

全身しつこい程のブランドで固めているにも拘わらず、それに着せられることのない恭華の整った容姿が、見事な着こなしを見せている。

「え、そうなんだ?貰い物だし、俺金ないし・・・」
実際、無収入である恭華は、キツネから多額のお小遣を貰わなければ、無一文も同然だ。

クリスマスプレゼントに貰った長財布に、これでもかという程の現金とカードが詰め込まれている。
小遣いとしてもらっている金だけでも、一流商社に勤める優秀な社員より、いや下手をすると社長の総資産額を超えている。

だがその事実を恭華は知らない。カードの上限や自分名義で作られた口座など、全て恭華が知らないうちに勝手に財布に入っていたものだ。

恭華からしてみれば、財布から覗くこの札束が全財産ということになる。

恭華としては複雑だ。無職で一緒に暮らしている人からお金を貰って養ってもらっている、それはもうヒモでしかないという事実に、今まさに気が付いてしまった。
そしてこの服のセンスがいい=キツネのセンスが褒められたということなのだ。
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