殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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お出かけ編

殺人鬼が感じたのはただ唯一の哀しみ-3

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「ねぇ、中に入ろう?」
恭華と肉フェスを回る権利を狙っている女性達が一挙に襲い掛かる。

だがその周囲を囲んでいる多くの肉食女子が虎視眈々と狙っている。

「だから、俺には連れがいるんだって・・・」
腕を引く女性たちに辟易して、困り果てたように視線を迷わせている恭華の目に稲荷が止まった。

「稲荷~っ!!」
助かったとばかりに、女性たちをすり抜け小走りで稲荷に近寄っていく。

ああ、本当に連れがいたのかと女性たちの表情に落胆の色が見えたのも一瞬だった。恭華の向かった先にいるのは男、それも長身のハーフのような優し気な顔立ちでなかなかのイケメン。

ガクンと下がった女性たちのテンションがうなぎ上りに上がった。

ゾロゾロと集団が恭華の後を追う。

「恭華ちゃん、凄いね・・・これじゃあまるで」
「ああ、待って!言うな、分かってるから・・・」

客寄せパンダ。

どこに行ってもそう、人が寄ってくる。

だから実際にバイトに引かれることが多い。この制服を着て、立っているだけでいいから、と。

「そっちのお兄さんもカッコイイ!ねぇ、うちらとまわろ?」
自分が一番可愛く見える角度を心得ているのだろう。
斜めから上目遣いで恭華と稲荷を見つめる。

「せっかく綺麗な女性達からのお誘いだけど、今のうちに俺達から離れた方がいいよ?」

「ヤダぁ!お兄さん上手!!綺麗だって!!」
キャアキャアと友達と一緒になってそこらじゅうの女性達が喜んでいる。

「え~?何で離れた方がいいの~?」
クネクネと体をくねらせて、胸をチラチラと強調させる。

「もうすぐ怖い人たちが来るからだよ」
そう口にした稲荷自身が本物の身震いをさせた。背後に悪寒を感じたからだ。

「だぁれが怖いって?」
そのドスの利いた声に、稲荷だけではなく恭華もビクッと反応した。

「えぇ!?何、女いたの?」
あからさまに揚羽に敵意を剥き出しにする周囲の女性たちが殺気立つ。

そんな視線を根絶するような殺気を揚羽が放ち、一睨みした。

「ひっ」
厚かましさや図々しさから怖いものなど何もないと思われた肉食女子から、肉食獣のキングからの牽制に短く悲鳴が漏れた。

「や、何この女!怖くない?」
「見るからに野蛮」
「これお兄さんの彼女?」
やはり女達の神経は図太かった。

揚羽に睨まれてなお、恭華や稲荷から離れようとしない。

「フフッ、怖い人達に僕も含めましたね、稲荷?恭華さん、いつまで遊んでいるんですか?お肉が逃げてしまいますよ?」
女達から恭華の腕を奪い、ゴミを見るような視線を集団に向ける。

更に身長の高い、それも明らかに目がヤバい男に見下ろされ、女達が緊張に硬直する。揚羽の睨みにも屈しなかった女達が、キツネの異様さには気が付いたようだ。
やはり血は洗い流せても、殺人鬼の狂気じみた雰囲気は容易に隠せないのだろう。

「え?ああ」
肉が逃げると言われ、慌てた恭華がキツネに引かれるまま、集団を抜けていく。

「流石、キツネ様。おい、カスッ!!チケット持ってるお前が行かなくてどうすんだよっ!」
「うっ!」
再び揚羽に蹴り飛ばされて稲荷が集団を抜けて地面に転がった。

その様子を見て周囲がざわつく。『可哀想~』『野蛮~』『何あいつ~』などと小さな囁きが聞こえるものの、誰も揚羽と目を合わせようとはしない。

心無い女達の言葉に、揚羽が、無表情でありながらも刹那、目を伏せたのを稲荷は見逃さなかった。

「俺の大切な人、悪く言わないで?君たちも可愛いけれど、俺には揚羽が一番可愛いんだ」
ふわりと周囲の女性達に笑いかけると、稲荷が揚羽の手を取る。

舌打ちや嫉妬が渦巻く黄色い声を抜け、キツネたちの後を追った。
表情には表れないながらも驚きに目を見開いた揚羽が稲荷の背中を見つめる。

「稲荷カッコイイ~!イケメンだな!」
「やめてよ、恭華ちゃん」
恭華に茶化され、照れくさそうに稲荷が笑う。

「調子に乗るなっ!誰がお前の女だ!」
キッと稲荷を睨み、厳しい言葉を吐き捨てた揚羽だったが、稲荷の手は振りほどかなかった。

嬉しさに稲荷がブワッと花が咲いたように微笑んだ。

「じゃあ揚姉、俺と一緒に回ろう?」

「無理だ。私はキツネ様の護衛を」
稲荷の手を振りほどき、護衛という大義名分のもと、キツネと回りたいという意思を示す。

「いえ、護衛は結構ですよ。僕は恭華さんと回ります」

「え、ヤダよ。俺は稲荷と回りたい・・・」

「「「「・・・・・・・・・」」」」
そして四者に気まずい沈黙が訪れた。
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