殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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お出かけ編

殺人鬼が感じたのはただ唯一の哀しみ-4

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「何故だ!!?何故こうなった?」
解せない。どうしても解せないと恭華が呟いた。

結局誰も両想いになれなかった四人は話し合いの結果、公平を期すために誰の希望も取り入れないこととした。

そして必然的にできたペア、恭華と揚羽、キツネと稲荷で回ることになったのだ。
何故だ?普通はWIN-WINの関係でいこうと、全員一緒に回るのが筋ではないのか?

まあ、久しぶりに女の子と歩けるのだから良しとするか、と取りあえず自分自身を納得させるため、揚羽への恐怖を払拭するためうなずいた。
それに目の前の肉、肉、肉!!食欲をそそる匂いや、肉を焼く煙と音、何もかもが恭華の野性を呼び覚ます。

「行きますよ、稲荷」

「行くぞ、恭華」

キョロキョロと全ての店に目を配り、どこから行こうかと楽しい一人作戦会議をしていると、揚羽に腕を引かれる。

対面では稲荷がキツネに引きずられていく。

ああ、俺の牛すじ煮込みと和牛の串焼きとホルモン焼きが~と、心の中で泣いたものの、揚羽に大人しくついていく。

だが大人しくしていたのも数秒。堪えきれずに恭華が揚羽の腕を引く。

「揚羽さん、揚羽さん!!あれ、食べよ?」
恭華はその場で切り落として販売しているローストビーフを指す。

恭華の熱烈な肉への愛に気圧された揚羽がうなずいた。

「買ってきてやる。待っていろ」
前に出ようとする揚羽を恭華が抑えた。

「いいよ、キツネからちゃんと小遣いもらったし、俺が買ってくる」
せっかく毎月多額の小遣いを貰っても、使い道も機会もあまりないため、どんどん貯まっていくのだ。

それに人から貰った金とはいえ、女に奢らせる訳にはいかない。
普段女性から奢られまくっていた男、恭華はそう意気込み、フンッと鼻を鳴らす。

容易に立てることができる厚さの札束がぎっしり詰まった財布を取り出し、意気揚々と注文に走った。

「はい、揚羽さんどうぞ」
フリースペースの椅子を引き、揚羽に席を勧める。

「ああ・・・ありがとう」
次いで恭華が箸を割り、揚羽にローストビーフと一緒に差し出す。

「・・・おまえは稲荷と似ているな」
ポソッと呟いた揚羽の言葉に恭華が箸を咥えたまま動きを止める。

「え?稲荷と?」
似ている?そうだろうか?
稲荷はハーフっぽいが、自分はそこまでハーフっぽくは・・・むしろ純日本人なのでは・・・

ペタペタと頬を触っている恭華の心中を察した揚羽が口を開いた。

「顔のことじゃない」

と、いうことは中身の話だ。だが、自分は稲荷のように優しくはない。

ますます分からない。だがローストビーフは美味しい。まあいいか、と箸を進めていく。

さり気なく相手を気遣える優しさを持っているところ、それが稲荷に似ていると揚羽は言っているのだ。

「あ、揚羽さん、ソース付いてるよ」
揚羽の口の端に付いたソースを紙ナプキンで優しく拭い、ニコッと微笑む。

「・・・お前、本当に顔が綺麗だな」
感心したように揚羽が呟く。

恭華から返答が欲しくて言ったわけではないのだ。恭華の笑顔を見て自然と漏れてしまった本心だ。

「揚羽さんの方が綺麗だよ」
ニコッと再び笑う。

これは社交辞令でも何でもなく、恭華の本心だ。

揚羽は随分端整な顔をしている。小さな顔に黒目がちな大きな目。綺麗に通った鼻筋に薄めの唇は純日本人特有の美しさがある。
綺麗な黒髪はよくその顔を引き立てていた。

今日の取り巻きが女性だけではなく、男性も多いのは間違いなく揚羽目当てだろう。

「揚羽さん、稲荷と全然似てないよなぁ・・・」
どちらかと言えば稲荷はハーフのような濃い顔立ち。

ローストビーフを持ち上げた揚羽の手がピタッと止まる。

「あ、ごめん・・・」
何か言ってはいけないことだったのかもしれないと思った恭華が気まずさに謝る。

「血は繋がってないからな」
憤った様子もなく淡々と告げた。

「え?そうなの?」
とは言ってみたものの、驚きはさほどない。

やはりなと、確信が生まれた。

「私も稲荷も、親はとある暗殺一家のファミリーだった。ファミリーとは言っても血の繋がりはない。まあ、いわゆる裏社会だ」

「へ~・・・」
それは意外だと恭華は興味深そうにうなずく。
ということは、生まれながらにして暗殺を背負っていく宿命にあったということだ。

それにしても流れとはいえ、なぜ突然揚羽は出生について語り出したのだろうか。

「うちのファミリーはその界隈では名が知れていた。だから当然敵も多かった。だがな、強大だったうちは向かうところ敵なしだったんだ。各国に幅広く勢力を伸ばしていたし、恐れられていたしな」

揚羽が切々と語っている姿を恭華がマジマジと見つめる。
揚羽がこんなに喋るなど珍しい。まして恭華相手にだ。

「五代続いていたそんなファミリーは、たった一人の少年によって殲滅させられた」

「え!?」
突然のことに恭華が驚く。このままファミリーの長い歴史が語られるものだと思っていたからだ。

それも一人の少年?幅広く勢力を伸ばして恐れられていたファミリーではなかったのだろうか。

それがたった一人の少年の手で壊滅に導けるものか?

「その少年が、当時8歳だったキツネ様だ」

「えっ!?え?え?ちょ、ごめん頭がついていかない・・・」
一体どこから驚き、何に質問をすればいいのか分からない。

「キツネ様に依頼された暗殺は一家の殲滅。つまりいくら子供とはいえ、赤子とはいえ、抹殺の対象となるのがこの世界だ」

え、でもそれなら揚羽や稲荷は?

その疑問を口にしようと開きかけた時、揚羽が待てと言うように制止をかける。

「お前が疑問に思うのはもっともだ。それなら私や稲荷も殺されているはずだ、そう言いたいんだろう?」

揚羽の問いに恭華が頷いた。

「当時私は2歳、稲荷は生後10か月だ。その日は幹部の集まりで各国から代表のみが集結していた。私や稲荷も親に連れられて来た」
「何でそんな危ないところに子どもを・・・」

恭華の表情が曇る。

「まあ、色々なところから狙われていたからな。連れて歩いたほうがまだ安全だったのだろう。それにファミリー内にも抗争がなかったわけではない。誰も皆、自分の世継ぎを次の幹部にと考えていたのだ」

そうした場合、幼い頃からその場に慣れさせるという目的の他、他幹部への抑止力にもなるのだ。

後継ぎがいる幹部の方が、血の繋がらない後継者を立てるよりも信頼が置けると。

「本当に一瞬の出来事だった。人よりは発達が進んでいた私にはハッキリと物心がついていた。瞬きが終わった時、泣き喚く稲荷と私、それと奥の部屋にいたもう一人の子ども以外、生きている者はいなかった」
真っ赤、いや真っ黒に塗りつぶされた床や壁を今でも揚羽は忘れないという。

「だ、大丈夫か?無理して話さなくても・・・」
無理をしてそんな辛い話をする必要はない。

「それにそれならキツネは敵だよな?ファミリーを、親を殺した復讐すべき相手だろ?」
なのに何故だろう。それらを語る揚羽からは悲壮感はおろか、憤怒さえ全く感じられない。

うっとりと青春を語る少女、そんな表現が合致するような表情だ。

穏やかだった揚羽の目が突如吊り上がる。

「敵?憎い?まさか!?キツネ様は私たちを殺さずに育ててくださったのだ!」
揚羽の剣幕に恭華がビビる。

揚羽から飛ぶ唾からローストビーフをサッと抱えて守った。

「分かっている、きっとキツネ様にとっては気まぐれや実験の類にほかならぬだろう。それでもだ、キツネ様は私たちの恩人に違いないのだ」

キリッと恭華に有無を言わさぬよう睨みつけた揚羽にも怯まず、恭華は口を開いた。

「おかしいだろ?親殺されて恩人って・・・お前らもうキツネに脳を支配されてんじゃないのか?」
納得できない。赤子だった稲荷はとにかく、揚羽には物心がついていたのだ。
普通、目の前で親が殺されたら恨むだろう?憎むだろう?

恭華の至極当然の疑問は揚羽の地雷を踏んだらしい。

殺気を漲らせた揚羽がガタリと椅子から立ち上がり、恭華の胸倉を物凄い怪力で掴み上げた。

「調子に乗るなよ、クソガキ。殺されたくなければそんなキツネ様を悲しませるようなことはするなよ。逃げたら私が殺してやる」
血走った目を見開き、稲荷よりも遥かに低い声で唸る。

「あ、揚羽さん・・・く、苦しっ」
驚いたのは恭華だけではない。

恭華達に興味津々だった周囲の取り巻きもまた一様に驚いていた。

フリーテーブルに向き合うように座っていた恭華は、体をテーブルの半分以上も揚羽に引かれ、苦しさを訴えた。

頸動脈が塞がれ、顔が紅くなってきた恭華の胸倉をパッと離す。

ゲホゲホと苦しそうに息をつく恭華に対し、揚羽は涼しい顔でローストビーフを食べ始めた。

「コホッ・・・あ、ごめん、飲み物なかったね。俺買ってくる」
揚羽の返事も待たずに、その場を逃れるように恭華は立ち上がり離れた。

怖かった。泣くかと思った。

とにかく今は女の前で涙を見せなかった自分を褒めてあげたいと、震える手を抑えながら思った。

「稲荷いつもあんなのと一緒なのか・・・スゲーな」
稲荷を心から尊敬した。
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