殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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お出かけ編

殺人鬼が感じたのはただ唯一の哀しみ-6

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「恭華さ~ん!!」

遠くから恭華を呼ぶ声が聞こえるが、恭華が振り向くことはない。

「おい、呼んでるぞ」
揚羽が恭華の腕を引く。

「は?え?揚羽さんには何か聞こえるのか?俺にはなにも聞こえない、何もだ」
走ってと揚羽の腕を引き、駆け出す。

「あれ?恭華さ~ん?恭華さ~んっ!!」

「おい、キツネ様が呼んでいる」
歩みを止め、恭華の腕を引く。

ガクンと急停止をかけられた恭華の腕がメキッと悲鳴を上げた。

「痛っ~!!すんげー力・・・」

「あ、恭華さん❤ようやくお会いできましたね」
腕の痛みを訴え、その場にとどまっている恭華を見つけ、周囲の目を気にする様子もなくギュッと抱きしめる。

取り巻きから黄色い歓声が上がる。

恭華の腕から離れた揚羽の表情が翳りを見せ、スッとキツネの一歩後ろへ下がっていく。

「揚姉!こいつらどうしたッスか?」

お肉が歩いている、お肉が喋った。揚羽はそう思った。

「ん?・・・・稲荷か?」
凝視してようやく大量の肉を抱えている稲荷だと分かった。

稲荷は倒れている男達を見て言っているのだ。

「恭華だ。あいつ中々骨のある奴だったんだな」

へ~と感心していると、恭華の声が響き渡った。

「放せっ!!何でこっちに来るんだよっ!お前は稲荷と回ってるはずだろうがっ!?」
グニッと頬を押し返し、迷惑そうな顔をする。

「もう全部回っちゃったんだよ、恭華ちゃん。見てよこの肉の量!」

お肉が歩いている、お肉が喋った。恭華はそう思った。

「稲荷?……だよな?」
凝視してようやく大量の肉を抱えている稲荷だと分かった。

「フフッ、恭華さんへのお土産ですよ❤少し買いすぎましたかねぇ?」
恭華の頭に顎を乗せ、小首を傾げるキツネに、恭華がそんなことはないと首を振る。

「足りないくらいだ」
目が輝き、嬉しさからキツネに抱き着かれていることも忘れて肉を見つめる。

「えぇっ!?勘弁してよ恭華ちゃん……」
これ以上は抱えられない。重さよりもむしろ肉の生臭さに耐え兼ねているのだ。

「恭華さん、これからは僕と回りましょう?おや、この方々は?」
恭華の後ろに倒れている男達にキツネが気がついた。

「な、なんでもない、行くんだろ?」
キツネに知られてはいけない。その瞬間、せっかく揚羽から守ったいくつかの命が、まるでゴミのように除去される可能性があるからだ。

もうキツネと回りたくないなど贅沢は言っていられない。一刻も早くここから離れなくては、という使命感に駆られる。

「おや恭華さん、そんなに慌てなくても殺したりなんかしませんよ?」
クスクスと慌てる恭華の行動に笑みを漏らす。

「べ、別に!」
また考えを読まれたと、顔を赤くし下を向く。

「フフッ、読んではいませんよ?ただズルいと思いましてね」

「は?」

ズルい?何がだろうか?殴りたかったのか?いや、殴られたかったのか?もう変態の考えることはさっぱりだ。

「恭華さんと手合せできるのがズルいです。僕もしたいです」

「嫌だ!」
間をあけずの即答。

冗談ではない。

キツネの胸をドンっと押し退け、お肉もとい稲荷の背後へと逃げ込む。

キツネとやり合ったって一方的に手ひどくやられるだけだということは身をもって体験しているのだ。

廃墟での出来事だけではない。

監禁生活が始まってからキツネと真っ向から勝負を挑み、逃げようとしたことだってある。

結果、いつも以上にいたぶられ、身体中に痣を作り、宙吊りで首を絞められ、恐怖を植え付けられた。

「冗談ですよ❤僕が恭華さんと手合せしたら加減できなくて殺してしまう可能性がありますから」
フフッと笑い、恭華を手招く。

「次、行こうぜ稲荷」
手招くキツネを無視して、稲荷の裾をクイクイと引っ張る。

「え?」
恭華の中では何故か稲荷と回ることが決定事項となっているようだが、稲荷としては全力でご遠慮願いたい。

「ごめん、恭華ちゃん・・・俺肉に包まれてるから無理!キツネさんと回って!揚姉~、車に運ぶの手伝って欲しいッス」

稲荷のヘルプ要請に、揚羽は舌打ちしながらも素直に立ち上がり、稲荷の抱える肉を少し受け持つ。

「えぇっ!?じゃあ俺は誰と・・・」
チラッとキツネを見る。

キツネはフフッと恭華に微笑みかけた。

恭華は、『ないわ~』と首を振る。

「しょうがない、俺は一人で肉を」
「駄目ですよ?お一人での外出は許可していませんよ?」
歩き出した恭華の肩を掴み引き止める。

キュッと恭華が口を閉じ、キツネを見上げた。

「そんな顔しても無駄です。僕と一緒に回りましょう?恭華さん、あちらに人気のターキーレッグがありましたよ?行きましょう」
恭華のへの字に曲がった口をクイッと指で押し上げる。

「え?ターキーレッグ!?どこだ?早く行こう!」
あれほど嫌がっていたキツネの手を自ら率先して引き、肉が逃げるとばかりに、駆け出した。

「あー、さすが恭華ちゃん・・・食べ物のことになると早いわ・・・」
手の平を返すのが・・・

「トロトロすんな、行くぞ稲荷!」
「はーい」
ああ、ああ、あんなに目をキラキラさせちゃって、と食べ物に負けた稲荷は少し寂しそうに恭華を見送った。
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