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第1章
傭兵少女と変人少年(2)
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「怪我しなかった?」
膝に手をついた中腰の姿勢でタイトを覗き込み、にっこりと笑う。
「あ、ああ……大丈夫だ」と、タイト。
かれは服の汚れをはたきながら、まいったな、と呟いて立ち上がる。
立ち上がって見ると目の前の彼女は小柄で、いかにも少女らしい愛嬌のある顔立ちの娘だと気づいた。
一方娘の方は、タイトをじろじろと観察した挙句、不快そうに眉間に皺を寄せた。
「ってか、あんた……ダサ! 何よ、そのダサい恰好? 学生? あたしと同い年くらいだよね? 新市街から来たの? 今どきこんなダサい恰好してる奴、久々に見たよ」
彼女はいきなりマシンガンのように悪態を並べ立てた。
見た目は可愛いが口は悪い。
「んで、あんた、何しにこんなところに来たのよ? 素人がこんな旧市街まで入って来たらダメだよ。ここらは危険地帯だから」
「ああ、そのようだ」と、その言葉にタイトは素直に頷いた。
「思ったよりもアンクローデの街は物騒なところなのだな。ここは旧市街なのか? 宿からワンブロックくらいしか来ていないのに旧市街に入ってしまうとは迂闊だった」
「ワンブロック?」と、娘が首を傾げる。
ここから新市街までは数ブロック以上離れているはずよね、と、呟く。
「あんた、いったいどっから来たのよ?」
「〈月見草〉だが?」
「え? 何よ、それ? 〈月見草〉って有名なラブ・インじゃない? どう見ても彼女いそうもないのに。……憎ったらしい」
不愉快そうな顔を見せる娘。
「彼女などいない。ひとりで泊まっている」と、タイト。
「ひとり? え? じゃ、何でラブ・イン? おかしいでしょ、それ?
ラブ・インって云えば恋人たちがワクワク、ドキドキの夢を見るワンダーランドじゃない?
あんなことやこんなことやそんなことや……色々楽しいことをする所でしょ?
そこにどうしてひとりで泊まるのよ?」
その娘は何やらラブ・インに対して並々ならぬ思いでもあるようだ。
妙に情熱的に語り出したが、だがそこで話が逸れたことに気づいたらしい。
「ま、ラブ・イン論のことはこの際どうでもいいのか」と、呟く。
「……ともかく宿からここまでは五ブロック以上あるはずなんだけど?」
それを聞いてタイトは、ん? と、唸ってからしばらく考え込んだ。
「考え事をしながら歩いていたからワンブロックじゃなかったかも知れないな」
「は? マジかよ」
娘、今度はあきれ顔。
よく表情が変わる娘である。
「あんた、ボケっとしてて危なっかしいね。注意しないと旧市街は下手すれば盗られるのは金だけじゃ済まないんだからね」
命の危険もある、と云う意味のようだ。
「ふむ。わかった。忠告、感謝する」
タイトは大袈裟に頷いて見せた。
「ところで、ひとつ訊いてもいいか? おまえ、ええと……、ツバメだったか?」
「違う。ツグミ。ツグミ=スター・フォックス。ちなみに現在、彼氏ぼしゅーちゅー♪」
右手を選手宣誓のように真っ直ぐに伸ばして宣言する。
「おれはタイト=ハーゲン。おまえが彼氏募集中かどうかには興味がない。ちなみにおまえのような子供には興味はない」
「え? ちょっと、あたしのこと子供扱いかよ? あんただって同じくらいの歳じゃない?」
「おれは天才だから年齢は関係ない。幼い頃からそこらの無価値な人間よりも数段社会に貢献して来ている。もっとも意に添わぬこともあるが――」
「は? 天才?」
天才? 何? 天才? ヤバイんじゃないの、こいつ、と、彼女、ツグミは一歩引いて、タイトを怪訝そうに眺める。
それから微妙な薄笑いを浮かべると、とりあえず話を合わせる。
「……んで、その天才さんは何を訊きたいって?」
「ああ。……おまえはおれのことを、素人、素人、と云っていたがどこが素人に見えるんだろうかと思ったのだ。逆目立ちするのもこの先困るから聞いておきたい」
「え? そこなの、あんたの疑問って?」
どうやら変人さんだな、こいつ、と小声で呟いて、うんうん、と納得したようだ。
「んじゃ、解説してあげるわよ。
ええと、例えばその飾り気のまったくないダサい白シャツ。それをパンツにインさせてストラップで吊ってるダサいセンス。くたびれたダサい黒革靴。さらに斜めがけしたダサいショルダーバッグ。
そんなダサい恰好、誰がどう見てもこの街のスタンダードじゃないってことだよ。ダサすぎ。ここではさっきの奴らみたいなTシャツにパイロットパンツってのがワルの定番で粋なんだよね。
だから、あんたはどう見たって、ダサい素人にしか見えないってこと」
ダサい、を連発する。だがタイトは特に気にも留めていないようであった。
「ふん。人を見た目で判断するとは愚かな奴らだな」
「じゃ、あんた、実は見た目と違って、結構イけてるワルだって云いたいの?」
「いや、ダサい素人だな」
「だったらまんまじゃん! 訳わかんない……やっぱ、変な奴」
ツグミはひとつ溜息をつく。
「変な奴? おれから見ればおまえの方が相当な変わり者に見えるのだが」
タイトがツグミを観察しながら云った。
ショート丈のタンクトップ&ミニスカのファッションが研究所暮らしをしていたタイトにはどうにも違和感があったが、ツグミの方はそうは思っていないようだ。
不思議そうに小首を傾げている。
「相当な変わり者、って、あたしが? あたしのどこが変わり者よ?」
「そう云うことは本人は意外と気づかないものだ。人の意見を聞いた方がいい」
「あんたに云われたくないよ!」
「……」
タイトは無言でツグミをじっと見つめた。無表情な視線で。
「うわあ、黙るなよ! 無視するなよ! イラつく! そのとぼけた顔が何かムカついてきた!」
タイトを睨みつけた上でツグミは左手を腰のホルスターに伸ばした。
「……マジに怒るよ? あんた、命が惜しくないの?
さっき奴らが云ってたあたしのウワサ、聞いたでしょ? あたしってば、怖い女なんだよ。
機嫌を損ねたらこの銃を簡単に引っこ抜いちゃうような奴なんだよ?」
「ウワサ? ああ、さっきの……」
うんうん、と頷くツグミ。
本人的にはそのウワサは実は満更でもないらしい。
早く呼んでよ、あたしの恰好いい二つ名で、と、彼女の目は訴えていた。
「確か〈銀髪の露出狂戦士〉だったかな?」
タイトの台詞にツグミの顔が見る見る赤く染まる。
「おい! だ、誰が〈露出狂戦士〉よ? 露出は余計! ただの〈狂戦士〉!」
「すまない。その恰好を見ていたら、つい露出をつけてしまった」
ツグミの剣幕にタイトは申し訳程度に頭を下げた。
「あ、あ、あ、あんたねぇ、あたしのこと、おちょくってる?」
ツグミは下唇を突き出して不満そうな表情を作る。それが妙に可愛らしい表情である。
「おちょくる気はないが(まあ、嘘だが)、要するにおれは世間知らずなのだ」
「何が『世間知らずなのだ』よ。威張るなよ。変な開き直りしたよ、こいつ。やな奴だなあ。
……ってかさ、あんた、そもそも何者?」
「天才だ」
「それ、さっき聞いたよ。それ以外」
「研究者だ」
「研究者? マジ? な、なんか若いのに凄いじゃん? それって学者さんみたいなもん?」
「そうだな」
「何の研究?」
「秘密だ」
「ええ? 教えてよ、ケチ!」
「ケチで結構だ」
「ちょっとくらい、教えなさいよ」
「ダメだ」
何よ、減るもんでもないのに、と、ツグミが不満を洩らす。
「ふん、そこまで云うんなら、もう訊かないけどね。本当は別に興味もないしぃ」
負け惜しみっぽいが、それ以上食い下がるのも疲れるだけだ、とでも思ったらしい。
「……それじゃ、さ、タイト」と、ツグミ。
「いきなり呼び捨てか?」
「いけない?」
「別に差し支えはないが、今まではドクター・ハーゲンと呼ばれるのに慣れている」
「堅っ苦しいよ、それ。いいじゃん、タイトで」
「まあ、いいだろう。許そう」
「何でそんなに上から目線? あんた、どんだけ偉いのよ? ったく、変なのに関わっちゃったなぁ……で、これからどうするつもりなのよ? まだここらをぶらつくつもり?」
「いや、宿に戻ることにする」
「あっそ。まあ、それが賢明だと思うよ。云った通りここらは物騒だからね。……じゃ、送ってくよ。せっかく助けたのにまた襲われでもしたらあたしも寝覚めが悪いし、まあ、この銃を見れば襲って来ようなんて命知らずはいないから」
云われてタイトは彼女の背中のホルスターに納まっている大型の装飾銃に目をやった。
(〈魔銃〉か? 何処でこんなものを手に入れたんだ?)
「何、じろじろ、見てるの?」
視線に気づいてツグミが怪訝そうな表情を見せる。
それから、ははあ、と独りごちて、にやり、と笑った。
「なるほど。あたしのナイス・バディに見とれてたんでしょ? ふっふ~ん。どう、この巨乳? Gカップだよ。エロい? 触りたい?」
その台詞にタイトは横を向いて視線を逸らし、ちっ、と、舌打ちした。
「な、な、な、何よ、その反応? 舌打ちってどう云うこと?」
ツグミが顔を真っ赤にして抗議する。
「別に」
「べ、別に、って。失礼しちゃうわね、あんた!」
「そんなことよりも」
「そんなこと? そんなことって何よぉ! あたしのこのナイス・バディのことを『そんなこと』よばわり?」
涙目になっている。
どうやらご自慢のナイス・バディをスルーされてプライドが傷ついたらしい。
「その銃だ」
「銃? あんた、あたしの身体よりも銃の方に興味があるの? わからない。あんたの性の嗜好が!」
涙目のまま、真剣に驚いた顔をする。
(何故、性の嗜好の話になるのだ? と云うか、バカだな、この娘は)
「どこで手に入れたんだ?」
タイトは無視して訊ねる。
「え? この銃? 何でそんなこと訊くのよ?」
「珍しい銃だ。なかなかの値打ち物なのではないか? おれがおまえのように銃を使えたら、是非手に入れたい逸品に見える」
ツグミはその言葉にちょっと嬉しそうな顔をする。
たった今、身体よりも銃か? と、食ってかかっていた割にはその銃を褒められだけで機嫌が直ったらしい。
先ほど傷ついたプライドは意外と安いプライドだったようだ。
「うん。まあ……。なかなかお洒落でしょ? 値打ちはよくわからないけど、確かこれはどっかの町で傭兵をやった時に雇い主が給料代わりにくれたんだよ」
「そうか……」
タイトはそれだけ呟くと、顎に手をやり何事か考える仕種をする。
(妙だな。この銃が街中に出回るはずはないのだが)
「どうしたのよ?」
「いや……。ところで宿まで送ってくれるんだったな?」
「え? ああ、うん。……あれ? 何か別の話、してなかったっけ?」
どうやら銃の話をしたらナイス・バディの話のことは忘れてしまっているようだ。見事な鳥頭である。
「助けてもらった礼として食事くらいなら奢ってやる」
話が戻るとややこしいので、タイトは次の話題を被せる。
「へ?」
「ちょうど食事時だ。腹が減ってないか?」
「う、うん。……ホントに? 奢ってくれるの?」
タイトが頷く。
満面の笑みを浮かべるツグミ。
「えへ、ラッキー♪ 実はこのところ、マトモな物、食べてなかったんだよね」
ひゃっほ~、と、万歳をしながら歩き出す。単純な娘であった。
膝に手をついた中腰の姿勢でタイトを覗き込み、にっこりと笑う。
「あ、ああ……大丈夫だ」と、タイト。
かれは服の汚れをはたきながら、まいったな、と呟いて立ち上がる。
立ち上がって見ると目の前の彼女は小柄で、いかにも少女らしい愛嬌のある顔立ちの娘だと気づいた。
一方娘の方は、タイトをじろじろと観察した挙句、不快そうに眉間に皺を寄せた。
「ってか、あんた……ダサ! 何よ、そのダサい恰好? 学生? あたしと同い年くらいだよね? 新市街から来たの? 今どきこんなダサい恰好してる奴、久々に見たよ」
彼女はいきなりマシンガンのように悪態を並べ立てた。
見た目は可愛いが口は悪い。
「んで、あんた、何しにこんなところに来たのよ? 素人がこんな旧市街まで入って来たらダメだよ。ここらは危険地帯だから」
「ああ、そのようだ」と、その言葉にタイトは素直に頷いた。
「思ったよりもアンクローデの街は物騒なところなのだな。ここは旧市街なのか? 宿からワンブロックくらいしか来ていないのに旧市街に入ってしまうとは迂闊だった」
「ワンブロック?」と、娘が首を傾げる。
ここから新市街までは数ブロック以上離れているはずよね、と、呟く。
「あんた、いったいどっから来たのよ?」
「〈月見草〉だが?」
「え? 何よ、それ? 〈月見草〉って有名なラブ・インじゃない? どう見ても彼女いそうもないのに。……憎ったらしい」
不愉快そうな顔を見せる娘。
「彼女などいない。ひとりで泊まっている」と、タイト。
「ひとり? え? じゃ、何でラブ・イン? おかしいでしょ、それ?
ラブ・インって云えば恋人たちがワクワク、ドキドキの夢を見るワンダーランドじゃない?
あんなことやこんなことやそんなことや……色々楽しいことをする所でしょ?
そこにどうしてひとりで泊まるのよ?」
その娘は何やらラブ・インに対して並々ならぬ思いでもあるようだ。
妙に情熱的に語り出したが、だがそこで話が逸れたことに気づいたらしい。
「ま、ラブ・イン論のことはこの際どうでもいいのか」と、呟く。
「……ともかく宿からここまでは五ブロック以上あるはずなんだけど?」
それを聞いてタイトは、ん? と、唸ってからしばらく考え込んだ。
「考え事をしながら歩いていたからワンブロックじゃなかったかも知れないな」
「は? マジかよ」
娘、今度はあきれ顔。
よく表情が変わる娘である。
「あんた、ボケっとしてて危なっかしいね。注意しないと旧市街は下手すれば盗られるのは金だけじゃ済まないんだからね」
命の危険もある、と云う意味のようだ。
「ふむ。わかった。忠告、感謝する」
タイトは大袈裟に頷いて見せた。
「ところで、ひとつ訊いてもいいか? おまえ、ええと……、ツバメだったか?」
「違う。ツグミ。ツグミ=スター・フォックス。ちなみに現在、彼氏ぼしゅーちゅー♪」
右手を選手宣誓のように真っ直ぐに伸ばして宣言する。
「おれはタイト=ハーゲン。おまえが彼氏募集中かどうかには興味がない。ちなみにおまえのような子供には興味はない」
「え? ちょっと、あたしのこと子供扱いかよ? あんただって同じくらいの歳じゃない?」
「おれは天才だから年齢は関係ない。幼い頃からそこらの無価値な人間よりも数段社会に貢献して来ている。もっとも意に添わぬこともあるが――」
「は? 天才?」
天才? 何? 天才? ヤバイんじゃないの、こいつ、と、彼女、ツグミは一歩引いて、タイトを怪訝そうに眺める。
それから微妙な薄笑いを浮かべると、とりあえず話を合わせる。
「……んで、その天才さんは何を訊きたいって?」
「ああ。……おまえはおれのことを、素人、素人、と云っていたがどこが素人に見えるんだろうかと思ったのだ。逆目立ちするのもこの先困るから聞いておきたい」
「え? そこなの、あんたの疑問って?」
どうやら変人さんだな、こいつ、と小声で呟いて、うんうん、と納得したようだ。
「んじゃ、解説してあげるわよ。
ええと、例えばその飾り気のまったくないダサい白シャツ。それをパンツにインさせてストラップで吊ってるダサいセンス。くたびれたダサい黒革靴。さらに斜めがけしたダサいショルダーバッグ。
そんなダサい恰好、誰がどう見てもこの街のスタンダードじゃないってことだよ。ダサすぎ。ここではさっきの奴らみたいなTシャツにパイロットパンツってのがワルの定番で粋なんだよね。
だから、あんたはどう見たって、ダサい素人にしか見えないってこと」
ダサい、を連発する。だがタイトは特に気にも留めていないようであった。
「ふん。人を見た目で判断するとは愚かな奴らだな」
「じゃ、あんた、実は見た目と違って、結構イけてるワルだって云いたいの?」
「いや、ダサい素人だな」
「だったらまんまじゃん! 訳わかんない……やっぱ、変な奴」
ツグミはひとつ溜息をつく。
「変な奴? おれから見ればおまえの方が相当な変わり者に見えるのだが」
タイトがツグミを観察しながら云った。
ショート丈のタンクトップ&ミニスカのファッションが研究所暮らしをしていたタイトにはどうにも違和感があったが、ツグミの方はそうは思っていないようだ。
不思議そうに小首を傾げている。
「相当な変わり者、って、あたしが? あたしのどこが変わり者よ?」
「そう云うことは本人は意外と気づかないものだ。人の意見を聞いた方がいい」
「あんたに云われたくないよ!」
「……」
タイトは無言でツグミをじっと見つめた。無表情な視線で。
「うわあ、黙るなよ! 無視するなよ! イラつく! そのとぼけた顔が何かムカついてきた!」
タイトを睨みつけた上でツグミは左手を腰のホルスターに伸ばした。
「……マジに怒るよ? あんた、命が惜しくないの?
さっき奴らが云ってたあたしのウワサ、聞いたでしょ? あたしってば、怖い女なんだよ。
機嫌を損ねたらこの銃を簡単に引っこ抜いちゃうような奴なんだよ?」
「ウワサ? ああ、さっきの……」
うんうん、と頷くツグミ。
本人的にはそのウワサは実は満更でもないらしい。
早く呼んでよ、あたしの恰好いい二つ名で、と、彼女の目は訴えていた。
「確か〈銀髪の露出狂戦士〉だったかな?」
タイトの台詞にツグミの顔が見る見る赤く染まる。
「おい! だ、誰が〈露出狂戦士〉よ? 露出は余計! ただの〈狂戦士〉!」
「すまない。その恰好を見ていたら、つい露出をつけてしまった」
ツグミの剣幕にタイトは申し訳程度に頭を下げた。
「あ、あ、あ、あんたねぇ、あたしのこと、おちょくってる?」
ツグミは下唇を突き出して不満そうな表情を作る。それが妙に可愛らしい表情である。
「おちょくる気はないが(まあ、嘘だが)、要するにおれは世間知らずなのだ」
「何が『世間知らずなのだ』よ。威張るなよ。変な開き直りしたよ、こいつ。やな奴だなあ。
……ってかさ、あんた、そもそも何者?」
「天才だ」
「それ、さっき聞いたよ。それ以外」
「研究者だ」
「研究者? マジ? な、なんか若いのに凄いじゃん? それって学者さんみたいなもん?」
「そうだな」
「何の研究?」
「秘密だ」
「ええ? 教えてよ、ケチ!」
「ケチで結構だ」
「ちょっとくらい、教えなさいよ」
「ダメだ」
何よ、減るもんでもないのに、と、ツグミが不満を洩らす。
「ふん、そこまで云うんなら、もう訊かないけどね。本当は別に興味もないしぃ」
負け惜しみっぽいが、それ以上食い下がるのも疲れるだけだ、とでも思ったらしい。
「……それじゃ、さ、タイト」と、ツグミ。
「いきなり呼び捨てか?」
「いけない?」
「別に差し支えはないが、今まではドクター・ハーゲンと呼ばれるのに慣れている」
「堅っ苦しいよ、それ。いいじゃん、タイトで」
「まあ、いいだろう。許そう」
「何でそんなに上から目線? あんた、どんだけ偉いのよ? ったく、変なのに関わっちゃったなぁ……で、これからどうするつもりなのよ? まだここらをぶらつくつもり?」
「いや、宿に戻ることにする」
「あっそ。まあ、それが賢明だと思うよ。云った通りここらは物騒だからね。……じゃ、送ってくよ。せっかく助けたのにまた襲われでもしたらあたしも寝覚めが悪いし、まあ、この銃を見れば襲って来ようなんて命知らずはいないから」
云われてタイトは彼女の背中のホルスターに納まっている大型の装飾銃に目をやった。
(〈魔銃〉か? 何処でこんなものを手に入れたんだ?)
「何、じろじろ、見てるの?」
視線に気づいてツグミが怪訝そうな表情を見せる。
それから、ははあ、と独りごちて、にやり、と笑った。
「なるほど。あたしのナイス・バディに見とれてたんでしょ? ふっふ~ん。どう、この巨乳? Gカップだよ。エロい? 触りたい?」
その台詞にタイトは横を向いて視線を逸らし、ちっ、と、舌打ちした。
「な、な、な、何よ、その反応? 舌打ちってどう云うこと?」
ツグミが顔を真っ赤にして抗議する。
「別に」
「べ、別に、って。失礼しちゃうわね、あんた!」
「そんなことよりも」
「そんなこと? そんなことって何よぉ! あたしのこのナイス・バディのことを『そんなこと』よばわり?」
涙目になっている。
どうやらご自慢のナイス・バディをスルーされてプライドが傷ついたらしい。
「その銃だ」
「銃? あんた、あたしの身体よりも銃の方に興味があるの? わからない。あんたの性の嗜好が!」
涙目のまま、真剣に驚いた顔をする。
(何故、性の嗜好の話になるのだ? と云うか、バカだな、この娘は)
「どこで手に入れたんだ?」
タイトは無視して訊ねる。
「え? この銃? 何でそんなこと訊くのよ?」
「珍しい銃だ。なかなかの値打ち物なのではないか? おれがおまえのように銃を使えたら、是非手に入れたい逸品に見える」
ツグミはその言葉にちょっと嬉しそうな顔をする。
たった今、身体よりも銃か? と、食ってかかっていた割にはその銃を褒められだけで機嫌が直ったらしい。
先ほど傷ついたプライドは意外と安いプライドだったようだ。
「うん。まあ……。なかなかお洒落でしょ? 値打ちはよくわからないけど、確かこれはどっかの町で傭兵をやった時に雇い主が給料代わりにくれたんだよ」
「そうか……」
タイトはそれだけ呟くと、顎に手をやり何事か考える仕種をする。
(妙だな。この銃が街中に出回るはずはないのだが)
「どうしたのよ?」
「いや……。ところで宿まで送ってくれるんだったな?」
「え? ああ、うん。……あれ? 何か別の話、してなかったっけ?」
どうやら銃の話をしたらナイス・バディの話のことは忘れてしまっているようだ。見事な鳥頭である。
「助けてもらった礼として食事くらいなら奢ってやる」
話が戻るとややこしいので、タイトは次の話題を被せる。
「へ?」
「ちょうど食事時だ。腹が減ってないか?」
「う、うん。……ホントに? 奢ってくれるの?」
タイトが頷く。
満面の笑みを浮かべるツグミ。
「えへ、ラッキー♪ 実はこのところ、マトモな物、食べてなかったんだよね」
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恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
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