錬金術師と銀髪の狂戦士

ろんど087

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第7章

不吉を呼ぶ男(4)

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 ツグミと〈スパイダー〉を結ぶ蜘蛛の糸、張りつめたそれに向かって、何かの液体が浴びせかけられた。
 甘い匂いのする液体である。
 いつの間にかすぐ横にオトマタさんが出現し、マニピュレータからその液体を噴霧していた。

『伏せろ!』

 通話機からタイトの声がした。ツグミは咄嗟に体を地面に伏せた。
 閃光とともに液体が爆発し、蜘蛛の糸が千切れ飛んだ。

液体爆弾リキッドボムだ。岩盤などを破砕するのに使うものだが、探査用の装備も武器にはなるものだな』

 タイトの声が聞こえた。
 足が自由になった。と、同時に残った蜘蛛の糸はすぐに蒸発して消えてしまった。

『蜘蛛の糸の正体は特殊なジェル物質と微電流を組み合わせたNTワイヤーと云う拘束具だ。微電流によって大気中で一瞬にしてジェルから固体化するが、微電流が途切れるとすぐに揮発してしまう。痕跡が残らないので諜報活動にはうってつけのオモチャだな。ドMのおまえとしてはもう少し拘束具の縛り心地を味わっていたかったかも知れないが』

 通話機からタイトの声が解説する。

「だ、だ、だから、Mじゃない!」

『まあ、その議論はこれを無事に切り抜けてからにしよう。さてここからはツーマンセルで行くぞ』
 
『スリー、やで』と、オトマタさんが割り込む。

「何をするつもりなのよ、ツーマンセルって?」

『やから、スリーや』

 タイトがオトマタさんの言語機能をオフにした。

『とりあえずオトマタさんの外部フックにつかまれ。多少、気分が悪いかも知れないが手を離すなよ』

 ツグミが云われた通りにフックを掴む。
 森の奥から今の爆発に足を止めていた〈スパイダー〉が、再び速度を上げて近づいて来た。

『跳ぶぞ』

「え?」

 ぐらり、と、世界が揺らいだ。

 眩暈を憶えるがタイトの言葉を思い出し、ツグミは必死にフックにしがみついていた。

『大丈夫か?』

 云われて目を開けると、たった今まで森の出口あたりにいたはずなのに、いつの間にか牧草地の中央付近に移動していた。

「え? 何? どうなったの?」

『簡単なことだ。〈魔女の配送便キキズ・ワーク〉をオトマタさん自身に使ったのだ』

「ど、どゆこと?」

『星船と同じ原理だ。超光速移動、歪空転送、何と云ってもいいが〈歪空システム〉を使って短距離移動をしたのだ』

「え? そ、そんなことが出来るんだったらわざわざ山を歩かなくても、旅の最初から使っていればよかったじゃない!」

『残念なことに短距離専用だ。あまり座標を細かく指定できないので長距離ではどこに行くかわからないのは、さっきも説明しただろう? まあ、短距離でもどこに行くかは保証出来ないのだが、ブレ幅が小さいからな』

「ブレ幅って……マジかよ? 結構、無茶するね、あんた」

 そうして短距離ワープで逃れたものの、もちろん危険が去った訳ではない。
 一瞬、オトマタさんを見失った〈スパイダー〉であったが、すぐにオトマタさんの位置を捕捉して森からゆったりと出現していた。

『どうやらランベールの奴は、問答無用のようだな』

「そうだね」

『ではこちらも問答無用といこう。おい、〈炎月〉のグリップの下側に小さなエンブレムがついているだろう?』

「グリップの下側? この飾りのこと?」

『バカめ。それは飾りではない。それをゆっくりと捻ってみろ。蓋が開くはずだ』

 ツグミが云われた通りにすると、エンブレムが横にずれて開いた。

「あれえ? 知らなかった。こんなになってたんだ」

『それが〈炎月〉の秘密だ。そこからコネクターが引き出せるだろう?』

「うん」

『そいつを〈鍵穴コネクタ〉に挿せ』 

「〈鍵穴〉? うなじの? それって大丈夫なの?」

『大丈夫だ。おれを信じろ』

「……普段のあんたの言動から考えると、どうしても手放しでは信用出来ないんだけど、わかったよ」
 
 不安そうにしながらもツグミはコネクターを引き出すと、自分のうなじの〈鍵穴〉にそれを挿し込んだ。

「あん♪」

 色っぽい声を上げる。

『……おまえはいちいち、そんな声を出すのか?』

「え? そ、そう? おかしいのかな?」

『まあ、おまえがおかしいのは想定内だが――。さて、これで準備OKだ。今度はエンブレムをさらに右にずらせ。すると……』

「あ、頭の中に……」

 不思議な感覚を憶えてツグミは思わず目を閉じた。

『意識を集中しろ。これでおまえと〈炎月〉は同期した。〈炎月〉は単体でも破壊力のある銃ではあるが、中に〈賢者の石〉が仕込んであって人間と同期しその精神力をブースターとして利用することでさらに破壊力を増す。いずれあの程度のメカならば一発で蒸発させてしまえるだろう』

「え? ま、まさか……」

『問題は奴の動きだがそれはおれの方で何とかする』

「何とかって?」

『いいからおまえは黙ってそこに立って意識を集中していろ』

「けど……」

『ツーマンセルの作戦なのだ。パートナーのおれを信用しないでどうする? ――と云うか、おまえはどれだけおれを信用していないんだ?』

「ご、ごめんなさい。信用します」

 そんなふたりのやりとりの間にもその剣呑な高機動メカ〈スパイダー〉の速度が上がった。
 牧草地、と云う平坦な地形に出たために、ジグザグ走行でこちらの目を眩ませようとしていた。
 子供騙しだな、と、タイトは呟いたが、子供騙しであってもその尋常ならざるフットワークは効果的であった。残像が見えるくらいの超速である。

「用意は出来ているか?」

 タイトは通話機に向かって訊ねる。

『OK』と、ツグミ。

「では始めるぞ。おれが良いと云ったら、奴を撃て」

『任せるよ、タイト』

 タイトはタイミングを計る。
〈スパイダー〉の速度は普通の人間の反射速度では追いつけない。ましてや一般人の中でも低レベルの身体能力しか持たないタイトである。
 かれはオトマタさんのコクピットからコネクターを引き出すと、自分の〈鍵穴〉に挿し込んだ。

『何や、せっかく姐さんに接続した思い出のコードに、今度はあんさんかい?』

 不満そうなオトマタさんの声が頭の中に響いた。

「無駄口を叩くな。きっちり同期しろ」

『はいな、あんさん』

 目を閉じると様々な探知機能の情報が脳裡に浮かび上がる。タイトは慎重に情報を精査する。

(奴の動きを見切る。所詮は奴も人間の思考で動作させているのだ。パターンはある。すでにあの娘のおかげでサンプルはきっちり取らせてもらった。あとは実践するだけだ)

 どうやら最初ツグミだけに戦わせていたのはサンプルをとるためだったらしい。
 ツグミが知ったらどんな文句を云うだろうか。

 そんな間にも高機動メカ〈スパイダー〉はどんどん距離を縮めて来る。
 問題は奴にどんな武器があるかだが、元々タイトの捕獲が目的だとすれば、蜘蛛の糸以外に過激な武器は装備していないだろう。
 だが……、と、タイトは様々な可能性を吟味する。

 が、結論は――。

「やってみなければわからないな。――論理的ではないが」

 タイトは、かれには珍しく、無意識に口許に笑みを浮かべて見せた。

『距離一〇〇、九〇、八〇……』

 オトマタさんが告げる。
 タイトはじっと目を閉じたままタイミングを待つ。
 ツグミは〈炎月〉を構えたまま微動だにしない。
 そして。

(ここだ、オトマタさん!)

 タイトが内心で叫ぶのと同時にオトマタさんの〈魔女の配送便〉が作動する。
 前面レンズからビーム状の歪空エネルギーが放射された。

 0・03秒の早撃ち。

 だがそれを察知した〈スパイダー〉が瞬間的に地を蹴って回避行動に移る。
 その反射速度は驚嘆に値するものだったが、タイトは〈スパイダー〉が〈魔女の配送便〉の攻撃を避けるであろうことも折込済みであった。
 オトマタさんが跳躍軌道を計算する。

「左四八度、跳躍は九・八メートルだ。撃て!」

 突然のタイトの指示だったがエージェントとして鍛え上げられたツグミはその内容を瞬時に理解した。
 例え〈スパイダー〉の敏捷性をもってしても空中で位置を変えることは出来ない。
 一度、空中に飛べばあとは重力に従うしかない。狙いはそこだった。
 
 ツグミの構えた〈炎月〉が咆哮を上げた。

 その青白い焔は〈炎月〉を中心に半径数メートルほどの円柱状に眩い輝きを放ちながら、迸るエネルギーの塊となって〈スパイダー〉に襲いかかった。
 あんな機動メカなど一発で蒸発させてしまう、と云うタイトの言葉は、しかし控え目だったと云えよう。
 焔は〈スパイダー〉を飲みこみ、それをあっさりと蒸発させてしまうと、そのまま天高く焔の柱となって突き進んで行った。

 その様子をさすがに唖然として見守るタイト。
 小細工は必要なかった。
 その威力はかれの予想をも大きく上回っていた。

「……〈銀髪の狂戦士バーサーカー〉か。その名はダテではないようだな。下手をすれば町ひとつ、焼き払ってしまいそうだ」

 その銃の本当の威力をツグミに教えたことを、少しばかり後悔するタイトだった。
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