13 / 72
第3章 事件の匂いがプンプンしてきた
(5)
しおりを挟むサンタはセロリを見つめた。
彼女はまっすぐにサンタを見つめ返す。相変わらず何かの決意を秘めた瞳で。
(確かに何か裏がありそうな話だし、この目を見ていると助けてやりたくはなるんだが)
「理由としては不十分ですか?」
「いや……」と、サンタ。
「話はわかった。バス・ステーションまで送ることについては、まあ、約束したから、約束は守るさ。けど……」
「『けど』? それは、気が進まない、と云う意味ですか?」
セロリが不愉快そうな顔を向ける。
「そうだ。悪いがおれはこれでも真っ当な『運び屋』なんだ。人を運ぶことがある、とは云ったが子供の家出を助けるなんてのは……」
セロリが、むう、と、頬を膨らませる。
「サンタは、羽衣の云うとおり、変なところで堅物ですね」
「悪いことじゃないだろう」
「だいたい、無法者なんじゃないんですか?」
「相手が無法者の場合はそれなりの対応をするってだけだ」
「夜這いするために私にダブルベッドの部屋を用意したような悪漢なのにですか?」
「夜這いのためじゃない! だいたいおまえの方が逆夜這いしてただろうが?」
「あれは冗談です。羽衣にそそのかされてちょっとしたイタズラをしただけです」
「は・ご・ろ・も!」
羽衣はいつの間にか席を立ち、カウンターでジョーと談笑していた。
(あいつめ!)
「どうしても納得していただけないですか?」
「納得しなくても送っていくよ。それでいいんだろ?」
「それでは私が納得できません。お互いの信頼が必要です。そもそも私の話を信じていないですね? 私がただのワガママな家出娘だと思っているんでしょう?」
「まあ、そうだ」
にべもなく、サンタは答えた。
「そうですか」と、セロリ。
「信用していただけないとなると……」
思いつめた眼差しで、サンタを見つめる。
そして。
「泣きますよ?」
「え?」
「泣きます!」
そう云うと、サンタを睨みつけているセロリの琥珀色の目に見る見る涙がたまって行く。
「お、おい……」
次の瞬間。
「びええええ!」
泣いた。泣きようもあるだろうに、三歳児のような声を上げて。
「おいおい、セロリ」
「びええええ!」
大量の涙を流しながら、号泣する。
カウンターのふたりが、驚いた顔でセロリとサンタに目をやった。
ジョーは、ああ、やっちまったな、と云うような表情であったが、羽衣の方はきつい視線をサンタに浴びせかける。
「サンタ、泣かしたの? やさしくしなさい、って云ったのに」
ドスの効いた声。怒っている。
「びええええ!」
セロリはさらに声のトーンを上げた。羽衣の応援を察知したようだ。
サンタは、頭を抱えた。
(おれが泣きたくなってきた)
「わかった。わかったよ。おれの負けだ」
観念して、呟く。
同時にセロリの泣き声が、ぴたり、と止んだ。
「では?」
「わかったよ。バス・ステーションで無事にバスに乗るまでは送ってやるし、おまえの話を信じる。おまえがただのワガママな家出娘じゃなく、何かに巻き込まれているのもわかったから、そのあたりも考慮してすみやかに『運び』を完遂するさ。神に誓って、な」
(無神論者だけどな)
「ホント?」
セロリが、可愛らしく、サンタの顔を覗き込む。
「本当だ。別に泣かれたから折れた、とか、そう云う訳じゃないぞ。正直、少々そのリストが気になっているのも確かだしな。ただおまえの話だと、この話を聞いた知り合いのシスターが大怪我をしたって事実がある。それが偶然ならいいがそうでなかったとしたら、つまりおれたちにも被害が及ぶ可能性があるってことだ。おまえ本人でなく」
「私、本人でなく?」
きょとんとした顔つきである。
(そうか。こいつ、気づいてなかったのか)
(セロリは、身の危険、と云ったが、それは少し違う。身の危険が降りかかるのはどうやら周囲の人間らしい。むしろ、そのトッテンワイヤーにしても、アズナガにしても、セロリを傷つける気はなく、セロリが見てしまった何かを他の人間に洩れないように監視している、と云うのが正解だろう)
(ジョーの話にあった神父の態度ってのも、気になるし)
「いずれにしても気をつけて行くことにしようぜ、相棒」
セロリの表情がぱっと明るくなる。同時に安堵の微笑を見せた。
「わかりました。ありがとうございます。これで初めてちゃんと契約が締結されたような気がします。安心しました」
「バス・ステーションまで送るだけだからそんなに大袈裟なことじゃないんだがな」
「ええ。それはプロの『運び屋』さんにとっては大したことではないのかも知れませんが、私としては大変、安心しました」
それから思いついたようにサンタの方に身を乗り出し、顔を近づけると囁くように云った。
「それからですね、もしも報酬が不足ならば、今度はイタズラではなく、もう一度、きっちりと、夜這いの続きをさせていただいても構いません」
一瞬、サンタは黙り込んで、まじまじとセロリを眺め、ふっとため息をついた。
「いらね~よ!」
0
あなたにおすすめの小説
錬金術師と銀髪の狂戦士
ろんど087
SF
連邦科学局を退所した若き天才科学者タイト。
「錬金術師」の異名をかれが、旅の護衛を依頼した傭兵は可愛らしい銀髪、ナイスバディの少女。
しかし彼女は「銀髪の狂戦士」の異名を持つ腕利きの傭兵……のはずなのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
花鳥見聞録
木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。
記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる