星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第5章 コンボイセンターの魔女たち

(1)

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 小型ビークルをフリーウエイの支線ブランチに乗り入れると、サンタはフォン端末を操作した。
 しばらく、呼び出し音が鳴った後、モニタに接続を示すランプが点灯した。

『はい、《自由な鳥フリーバーズ商会》……』

 かったるそうな女の声。

 コンボイ・センターに30件ほどあるコンボイ管理サービス会社。
 そのひとつである中堅会社、《自由な鳥商会》のユズナの声だった。

 乱暴者や無法者など、ひと癖もふた癖もある『運び屋』を相手にコンボイ管理サービス会社を経営する女性である。
 一筋縄ではいかない厄介な顧客たちを、時にたしなめ、時に怒鳴りつけ、時になだめすかしながら仕事をこなす彼女は、そんな『運び屋』連中には一目置かれた存在であった。
 本人曰く、その若さと美しい容姿から「マグダリア・コンボイ・センターのマドンナ」だそうだが、「マドンナっぽい」かどうかはさておき、確かにかなりのカリスマ性を備えた女性であることは確かだった。

「ユズナか? おれだ」
『何や、オレオレ詐欺かいな。間に合ってるで。ほなな』

 通話を切ろうとする。

「いや、ちょっ、待て! サンタだよ。サンタ・ウイード」
『あほ、わかっとるがな。冗談や。どうしてそこで気の利いたツッコミのひとつもでけへんのやろなぁ』
「何を期待しているんだ、おまえは?」

 いきなり、うんざりした様子のサンタ。
 今日も話が長くなりそうだ、と、思った。
 そんなサンタの一言には何の反応も示さずに、ユズナが続けた。

『んで、その雑草野郎が何の用やねん?』
「何だよ、雑草野郎ってのは?」
『ウイードは、雑草やん』
「次から次へといろいろとかますなあ、おまえ」
『まあ、それが仕事やし』
「仕事じゃないだろ!」
『ん? そやったかいな? それより二日酔いで具合が悪いんや。あんさんとラブラブ・トークしとるのもしんどいねん』
「どこがラブラブ・トークだよ?」
『いちいち細かいな。っつーか、あれ? あんさん、今回は一週間かけてコンボイのオーバーホールする、云うとったやないけ。今頃は羽衣と、それこそラブラブしとるはずやなかったんか?』
「だから、羽衣とおれはそんな関係じゃねーよ! おまけに『今頃ラブラブ』って、今は真昼間だぞ?」
『ほんま、アホ、やな。この時間から夜中までエンドレスでラブラブするのが楽しいんやないか』
「そんな常識はねーよ!」
『ほほう。絶倫の帝王、と云われたのは、誰やったかいな?』
「そんな怪しいニックネームで呼ばれたことなんかない!」

 ふたりのフォン端末のやりとりをそれまでじっと聞いていたセロリが、後部座席から身を乗り出して羽衣の耳許で囁いた。

「あの、どんな関係なんですか?」
「ん? ユズナ? サンタの元カノだよ」
「元カノ、ですか?」
「うん。とっても美人さんなんだよ」
「はあ、でも会話を聞いていると元カノと云うよりは、元相方みたいですね」

 そしてまた、サンタの様子を窺う。
 サンタはそんな会話がされていることにも気づいてはいなかった。

「話が進まないだろ! ともかく少し黙って聞いてくれ」
『無理難題やな』

 それはスルーする。
 とりあえずお約束はここまでだ。

「実は急遽コンボイが必要になった。おれのコンボイ、《赤鼻のトナカイ》を走れるようにしたい」
『ああ? 何云っとんねん、ぼけ! 昨日からバラし始めたばっかでまだほとんど手付かずやで。一週間の話はどないなってん?』
「だから急用なんだ。組み上げて走れるようになるまでどれくらいかかる?」
『オーバーホールは?』
「急用が済んだらまた依頼する」
『まったく嫌な客やな』

 本気でイヤそうに吐き捨てる。
 感情がダダ漏れである。
 どうしてこれでコンボイ・センターのマドンナなんだかよくわからない。

「すまん」
 ここは素直に謝るのが上策であることはサンタも十分に弁えていた。

『まあ、勝手云われるのんは慣れとるからええけどな。整備のマミに訊かなわからんけど、出来るのは明日の朝やろか。特急でやれば、今夜』
「特急で頼む」
『高いで』
「構わん」
『ほう。何や珍しく豪気やないけ。ええ儲け口でもあったんか? ま、ええで。引き受けたるわ。今夜十時までに片付けとく』
「助かるぜ」
『商売やからな』
「それとコンテナにタウンビークルを1台」

 タウンビークル? と、ユズナが不思議そうに問い返した。
 通常『運び屋』は街中で活動する必要があっても、レンタル・ビークルを利用するものだ。わざわざコンテナに積んで持っていくことなど、普通はありえない。
 行き先が未開の地、とか云う事情さえなければ、輸送時の無駄にしかならないものだが……。

 だが、もうひとつ、ユースケースがある。
 何らかの事情で「レンタル」するのが憚られる場合――。

『そんなん積んでいったいどこ行くつもりやねん? ロクでもないモンに手え出してんのと違うか?』

 ユズナの声には不信感が露骨に出ていた。
 さすがにいい勘をしてるな、と、サンタは苦笑する。

「かも知れないが、まあ、念のための保険だな」
『あんさんのことやから心配することはないと思うねんけど、気ぃつけや』

 それ以上訊こうとしないところは、ユズナもサンタをよく知っていると云えた。
 下手に詮索したところで、どうせかれは自分で決めれば誰の言葉も聞こうとはしないし、つまりはユズナも無駄な心配をするしかなくなるのがよくわかっていた。

「それと、もうひとつ」と、サンタ。
『まだ、あるんかい?』
「これが最後だ。今、画像を転送する。こいつを調べて欲しいんだ」
『画像? 3Dやなく、2D?』
「ああ」
 そう云ってサンタはセロリが教会で撮影した写真をユズナに送信した。

『……来たで。これか?』
「そうだ。そいつを調べてくれ」

『このエロいお姉ちゃんの写メの何を調べんねん?』

「え、えええ?」
 サンタが慌ててフォン端末を確認する。

『冗談や。ほんま、予定通りの反応やな。あんさんのそう云うとこ、大好きやで』
「ば、ばかやろ、からかうな! ……真面目な依頼なんだからな」
『わかっとるって。で、これか? 何かのリストとちゃうんか?』
「らしいんだが、こいつが何かを調べてほしい。教会で撮影されたんだ」
『教会? 《十三番目の使徒教会》か? やっぱり厄介なところに首突っ込んでんねんな。まあ、わかったわ。調べとく』
「ちょっとばかりヤバイものらしいんでうまくやってくれ。もしかしたらゴルゴダ地区警察も絡んでるかも知れない」
『まったく誰に云うてんねん? これでも元軍諜報部出身の筋金入りの出歯亀やで』

(出歯亀かよ?)

『ま、最近ちょっと知りおうた連邦警察の兄ちゃんがおんねんけど、そいつも使うて調べてやるから安心しいや』
「悪いな。厄介かけて」
『ええよ、今さら。あきらめとるわ。ほな今夜な、サンタ』
「よろしく、ユズナ」
『今夜、云うても、エロい話に誘っとるんじゃないねんで』
「わかっとるわい!」

 サンタはそこで通話を切った。
 そして大きくため息をつく。

(あいつと話すと疲れるな……。とは云え、悪い気分じゃないんだけども)

 それから気を取り直してセロリと羽衣を見る。
 ふたりが興味津々で今の会話を聞いていたことなど、まったく気づかずに。

「これから町で買い物だ。リスタルまでは数日かかるから食料やら身の回りの物を揃えるぞ。この支線道路ブランチの先はマルコ地区だ。マグダリアの生活街だから店はたくさんあるし、生活必需品はほぼ揃うはずだ。……セロリには服も必要かな。さすがに羽衣のブカブカの服じゃない方がいいだろう?」
「はい。これはこれで結構お気に入りではあるんですが、そうしていただけると助かります。マルコ地区と云うと実は雑誌で見たショップに一度行って見たかったので、そこに寄っていただけますか? 街区17だそうです」
「ああ。街区17、と云うと、新マルコ地区だな」
「新マルコですか? タマガワ沿いのあたりですね?」
「そのコメントはスルーするぞ」
「はい。結構です」
 そしてまもなくビークルはゆっくりとマルコ地区へと入って行った。


 マルコ地区はマグダリアの生活街と云うだけあり、食料、衣料品の店はもとより、娯楽施設も揃っていて、ゴルゴダ地区の倉庫街とは較べものにならない大勢の人々で活況を呈していた。
 セロリはこうした繁華街に来るのは初めてらしく、あらゆるものに興味を示し、羽衣と腕を組んで十分過ぎるほど街を堪能していた。
 かれらはこれからの数日の旅に備えて食料品等を買い込み、ビークルのトランクに詰め込んでひと息ついた頃には、すでに陽は傾きかけていた。

 惑星マグダラの自転周期は約23時間。
 連邦標準時間、すなわち地球の自転周期に近く、体内時計をほとんど狂わさずにいられるため生活する人々にとっては過ごしやすい惑星である。
 例え地球型改造テラ・フォーミングをされていても自転周期の違いが人間に与える影響は大きい。そうした意味でも惑星マグダラは理想に近い植民惑星コロニーであった。

 荷物を載せ終わったところで、サンタはそろそろ食事にするか、と思いながら、羽衣とセロリを見た。
 しかしふたりは、食事の時間であることになどまったく気づかないように、本当に楽しそうに談笑している真っ最中である。

 セロリは先ほど、雑誌で見たと云うショップで買った真っ赤な地に黒いラインがはいっている修道衣に着替えていた。
 胸と背中と袖に大きく白い十字架がプリントされている。おまけに頬っぺたにはハート型のワンポイント・フェイス・ペイント。

「それにしても驚きました。雑誌で見たときには信じられなかったのですが、本当にあれほどカラフルな修道衣が揃っているとは。私は修道院に来てもうすぐ四年になりますけれども、修道衣は黒しかない、と思っていました」

 セロリが興奮気味に羽衣に話しかけている。

「うん。選ぶのに悩んじゃったね。でも似合うのがあってよかった」
「ええ。私も満足です。それに色だけでなくデザインも様々あって。まさか、ミニスカートや、ほとんど下着レベルのものや、大きくスリットがはいっているものなど、存在していることさえ知りませんでした。私のも、ほら、ここにスリットがはいっているんですよ。今までのに較べてとっても動きやすいんです」
「いい買い物が出来てよかったね」
「はい」

 にっこりと満足そうな笑顔を見せるセロリ。
 そんなふたりの様子を見ながらサンタは心の中でツッコミを入れた。

(あの店、絶対にコスプレ趣味の店だろ。おまえら本当に気づいていないのか? 店のオヤジのおれを見る視線がすげえ痛かったのにも、きっと全然気づいていないんだろうな)

 今頃あの店では「モデル並の美人と少女をつれた薄汚い奴が来て、少女のためにコスプレ修道服を買って行ったが、あいつはこのあと何をするつもりなんだろう」と、話題になっていることは確実である。

(しばらく、このあたりには来れないな)

 かれの内心のことなどお構いなしにはしゃぎまくるふたり――。
 サンタは少しばかり暗い気持ちになって、そんなふたりを見つめるしかなかったのだった。
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