星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第5章 コンボイセンターの魔女たち

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 マグダリア・コンボイ・センター。
 巨大なコンボイドックと貨物倉庫が広大な敷地に建ち並ぶそこは、首都マグダリアの物流の拠点であると同時に惑星マグダラ近隣の星域の物流の拠点でもある。

 大型コンボイを停泊出来るドックは百余り。
 それらのコンボイの整備や荷物の受払い作業を請け負うサービス会社が、大小30件ほど集まっている。
 巨大コンボイがひっきりなしに出入りし、常に慌しい喧騒に包まれているこのセンターに搬入、搬出される物資は一日で数千トン~数万トン以上にも及ぶが、それほどの物資の内、惑星マグダラ内で消費される分はごくわずかでしかない。
 そのほとんどは他の星域から運び込まれ、再び別の星域に運ばれて行くのだ。
 つまり首都マグダリアは連邦全域に物資を供給する巨大な輸送ルート網の中継都市であり、惑星マグダラそれ自体が連邦内に数多く存在する物流ハブ惑星のひとつでもあった。

 その日も、時刻はすでに午後九時を過ぎていたが、相変わらず巨大なコンボイが次々に出入りして途切れる様子もない。
 サンタは行き交うコンボイを横目に巨大なドックの並ぶ区画を迂回する外縁道路を通り、サービス会社の集まる区画へと小型ビークルを進めて行った。
 そのあたりには物資を一時保管する倉庫群や車両整備のための補助施設が建ち並んでいて、小型のキャリアや作業車両がひっきりなしに行き交っている。
 その合間を縫ってこまごまとした作業用道路を進み、レント・ビークル駐車場に小型ビークルを停車させると、サンタは羽衣とセロリを伴って《自由な鳥フリーバーズ商会》の建物へ向かった。

 コンボイ管理サービス会社、《自由な鳥商会》は区画の端っこにこぢんまりと店を構えていた。
 バラック作りの二階建てでお世辞にも大会社には見えなかったが、サービス品質の高さと店長ユズナの手腕により、個人経営の『運び屋』や自社でサービス拠点を持たない中小物流会社の間でもそこそこの人気店であった。

 いや、人気店、と云うよりは、話題店、と云った方が適切かもしれない。

 何故なら――。

 鉄製の階段を二階の事務所に上がると、サンタは昨今では珍しいすりガラスの手動扉を開けた。

「邪魔するぜ」

 店内に入ると受付カウンターの向こう側にいた若い娘が顔を上げる。

 ふわふわの金髪が肩まで流れ、きらきらと潤んだ瞳は宝石のようなブルーである。
 上品なシルク調のフリルのブラウスを身に着けている。
 カウンターに隠れた下半身は、きっとゴシック調のロングスカートを履いているに違いない、と、そう思わせる。
 彼女は扉から入って来たサンタを見て、立ち上がって丁寧にお辞儀をした。

「いらっしゃいませ、サンタさん。お早いですね」

 まるで鈴を転がすような声。
 やや首を傾けてにっこりと微笑する様は、もはやどこからどう見ても超セレブのお嬢様でしかない。
 荒くれたちばかりが訪れるこの店にはあまりにも似合わな過ぎる容貌と云えた。

「今夜はフタバが当番か?」
「ええ。そうですわ」

 フタバと呼ばれたお嬢様がおっとりと頷く。
 その仕種もお嬢様としか思えない完璧さである。

「フタバ、こんばんは!」
 サンタの後ろから店にはいってきた羽衣が声をかけると、それにも微笑を返す。
 
「こんばんは、羽衣さん。ご機嫌はいかがかしら? ……あら?」
 そこで彼女、フタバは、羽衣の後ろからおずおずと入って来た赤い修道衣姿のセロリに気づいた。
「まあ、可愛いお連れ様ですわね、こんばんは」
「あ、はい、こんばんは。セロリ、と云います」
「セロリさん? わたくしはフタバと云います。よろしくお願いしますね」
「え、ええ……」

 さすがに世間知らずのセロリと云えども、少なからず面喰らった。

(な、何でこんな人が、こんな場所に?)

 そう思って事務所の中を見回すと数人いる事務員はすべて女性だった。それもみんな若い。

「あ、あの、羽衣?」と、セロリは羽衣の振袖を引っ張り、小声で訊ねた。
「みんな、女の人なんですか?」
「え? ああ、そうだよ。この《自由な鳥商会》は所長のユズナさん初め、働いているのはみんな女性なの。だからむさい男ばかりの『運び屋』たちに大人気なんだよ。でも、ここの女性たちはそれだけじゃなくって、みんな男顔負けのスキルを持った人たちでね。つまり人気と実力を兼ね備えたセンター1のサービス会社って評判なんだよね」

 それが《自由な鳥商会》が、話題店、である理由だった。

「はあ、凄いのですね。感心しました。こう云う場所は荒くれた男ばかりだと聞いていましたので」
 セロリは珍しそうに事務所を観察ながらしきりに感心していた。

 確かに、事務所、と云っても女性ばかりの職場らしく、あちらこちらに花が活けられたり、可愛らしい置物が配置されたり、と、どことなく華やかな感じである。

「おい、羽衣、セロリ、そっちの椅子にでも座って待っていろ」
 サンタはふたりにそう指示をすると、カウンターのフタバに向き直った。
「ユズナはいるかい?」
「ええ。今、お呼びしますけれど……」と、云いながら、ちらり、とセロリを見る。
「サンタさん、最近は少女さん趣味でいらっしゃるの? それもシスター・コスプレとはなかなかマニアックですのね?」
「……いや、そうじゃない。あれは依頼人だ」
 また、誤解されたか、と云う表情である。

(そんなにおれはロリ趣味に見えるのか?)

「まあ、依頼人さんなんですか? 依頼人の方にあんな恰好をさせるなんて羽衣さんがよくお怒りにならないですわね」
「だから、そんなんじゃない! いいからユズナを呼んでくれ」
(もう、勘弁してほしい)

「はいはい」
 自分は何でもわかっていますよ、そして、どんな趣味も理解しますよ、的な笑顔でフタバは頷くと、インターフォンでユズナを呼び出した。

「あ、ユズナさん? 雑草野郎……いえ、ウイードさんがお見えになりましたわ」

(今、何気にひどい間違いをしなかったか?)

 だがフタバは悪びれた様子もなく相変わらずの笑顔で、すぐに来ますからお待ちになってくださいね、とだけ云った。

  **

 表の階段を昇って事務所に入って来たユズナは、サンタと羽衣、そしてセロリを見ると、一瞬動きを止めて三人を交互に見較べ、開口一番、叫んだ。

「おい、サンタ、何やねん、あのコスプレ少女は?」

 ぴたりと人差し指でセロリを指差す。
 メガネをかけた彼女の赤いくせっ毛は肩口までのショートヘア。
 ところどころ破れた洗いざらしのジーンズに派手な柄のタンクトップ。
 それに薄いブルーの作業着をはおり、ごっつい安全靴を履いている。
 こちらはフタバとは異なりこういう場所で働くには適切な恰好ではあった。

「いきなり、何だよ?」
「あんさん、ついにそっち方面にも手え出したんか? あきれた奴ちゃな」
 両手を腰に置いて、メガネの奥からサンタを睨みつける。
(またかよ……)
「あの娘は今回のクライアントだ」
「クライアントやて? はん、おおかた、料金を安うする代わりにコスプレを強要でもしたんやないのか?」
「違う! 彼女は本当のシスターだ」
「どの口が云うてんねん、ああ?」

 ユズナの手がサンタの頬に伸び、ぐいっ、とつねる。

「い、いてて……」
「この口か? この口が、そないなふざけたことを云うとんのか?」
「いや、う、嘘じゃなひ。ほ、本当のシスターだって……。あ、痛い、いてて」
「ああ、確かに、イタイ奴やで。あの修道衣はどっから見たってコスプレ・ショップで買うた奴やろ?」

 否定できない。
 確かに、そうである。
 しかし本人はそれを普通の修道衣だと信じているのだから仕方ない。

「こ、これには理由があるんだ」
「理由? この変態、エロロリオヤジが、この状況でどない理由があんねん?」
「だからそれを話すからまずは手を離してくれ」

 やっと手を離したユズナであったが、サンタの頬は赤く腫れ上がっていた。涙目である。
 そんな様子を興味深い視線でじっと見つめていたセロリが、また羽衣の振袖を引っ張った。

「羽衣、あれがサンタの元カノですか?」
「ええ、そうよ」
「なかなか狂暴な方ですね。少し驚きましたが私としては彼女がサンタのことを、エロロリオヤジ、と呼んだところに少し親近感が沸いています。それにお美しい方です。非常に整った顔立ちをしていますね。だいたい、サンタは面食いなんですかね?」
「どちらかと云えば、そうかもね」
「なるほど。そうなんですね」
 セロリは腕を組んで頷きながら、さらにユズナとサンタを観察するように見つめた。

 そんなこととは露知らず、ユズナとサンタの絡みは続いていた。
「んで、どないな理由やねん?」
 ユズナがサンタに詰め寄る。
「それは、話すと長いんだが、つまり『かくかくしかじか』で……」
「ほほう。『かくかくしかじか』か。そう云うことやったんか。なるほど、ようわかったで。……って、そんなんでわかるかい! ちゃんと説明しいや!」

 ユズナの裏拳がサンタの胸を強烈にどついた。
 勢いでサンタはカウンターまで飛ばされ、背中をしたたかカウンターに打ちつけてそのまま崩れ落ちた。
 カウンターの中でフタバがにっこりと微笑した。

「サンタさん、あんまり無茶なさらないでね」

「お、おれかよ?」
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