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第5章 コンボイセンターの魔女たち
(3)
しおりを挟む事務所の奥にある所長室のソファで、ユズナとサンタは向き合って座っていた。
少しばかり込み入った話であるからと、サンタが人払いを頼んだのだ。
羽衣とセロリは、自分たちも同席する、と云って聞かなかったが、サンタのいつになく真剣な表情に渋々事務所のカウンター脇のソファで待つことになった。
フタバがご自慢の天然物のコナ・コーヒー運んで来て、それをテーブルに置き所長室から出ると、サンタは事の顛末をユズナに語って聞かせた。
「リスタルの姫さん? ほんまかい? 相変わらずやな、あんさん」
話を聞き終えると、ユズナがあきれたようにサンタを見てため息をついた。
「どないすればそんだけトラブルに巻き込まれるんやろな。それが『そう云う星の下』っちゅう奴かいな」
コーヒーカップを手に取り、一口飲む。
「まあ、否定はしないがな」
「ほいで、さっきの写メかい? あれな、結構、ヤバイかも知れへんで」
声のトーンを少し落とす。
珍しく真顔である。
その様子にサンタも眉をひそめた。
ユズナが「ヤバイ」と云うからにはそれなりの理由があるのだろう。
永年の付き合いから、この手の情報に関してユズナがいい加減な感想をもらすような人間でないことはわかっている。
彼女が云うからには本当に厄介なことなのだ。
「あんさんも聞いとるやろ? ここんとこ『運び屋』を法外な報酬で集めとる奴がおるっちゅう、例の話……」
「ああ、ジョーから噂を聞いた。それが何か関係あるのか?」
「噂やないで。ほんまにその『運び』をやってる連中はぎょうさんおんねん。ウチにもちょくちょくサービスの依頼に来る。かなりいい稼ぎらしくて、いつもは浸みったれた奴らが、フル・オーバーホールやら、エンジンの載せ換えやらと、妙に羽振りのいいオーダーをしてくねん」
「ふむ。マトモな仕事じゃない、ってのか?」
「やろな。あの羽振りの良さは。……んで、そいつらの積荷がどうもリスタルあたりから運ばれて来とるらしいんや。はっきりとはわからんけど」
「なるほど。嫌な符号の一致ってことか」
サンタも、知らず真顔になって、ユズナを見つめた。
ユズナもそんなサンタを見つめ返す。
「なあ、あんさん……」
「なんだ?」
「そんなに見つめられたら、ウチ、変な気分になるで」
「な……なにを、突然、バカなこと」
慌ててサンタが目をそらす。
ユズナがその反応に、くすくすと笑い出す。
「あほ、冗談や。珍しく真面目な顔なんかしとるから、つい、からかいたくなったんや」
「ったく、おまえは……」
「まあ、冗談はさておき話を戻すと、例の写メのことやけどな。あのリストん中にそんな『妙に羽振りのよくなった運び屋』連中の名前が記載されとった」
「何だって? どう云う意味だ?」
サンタが身を乗り出す。
そのおでこに手を当ててユズナが押し戻す。
「近いで、あんさん。それ以上は恋人の距離や」
「何だよ、そりゃ」
「まんまや。あんまり近づくな。……あのリストの写メを拡大したらそんな奴らの名前を見つけたんで、こりゃおかしいな、と。そもそもあれは、孤児の里親斡旋のリストだったんやろ?」
「……と、セロリは云ってるがな」
「けど実際には孤児の遊び相手やったあのシスターの記憶にない名前が含まれてる。つまりそれは教会には実在しなかった子供っちゅうことやろ?」
「実在しない子供の斡旋リスト……か? それじゃあれは何のリストだ?」
「わからへん」
ユズナは誠にあっさりと答えた。
「え? おい、わかったんじゃないのか?」
「わからへん。情報はそこまでや」
「すげえ中途半端で気になるじゃねーか」
「あとは最近のウチの男に調べさせとる。連邦警察のイケメンや」
にやり、とユズナは笑うと、メガネの奥の瞳がきらめいた。
「どや? 気になるやろ?」
「何がだ?」
そう答えたサンタの顔は、大真面目である。
ユズナは、大袈裟なため息をついた。
「あかんな、あんさん。羽衣もあのシスターも可哀想やな」
「?」
「もう、ええわ。はよ、行け」
(このあほ。ほんま、別れて正解やわ)
もはや、興味なし、の体で、ひらひらと片手を振る。
そこで、はた、と思い出した。
「……と、忘れとったわ。実はさっきここにも来たで。神父と警官」
「何だって?」
「家出シスター探し、云うとったがな。どうも胡散臭い感じやった。ジョーもそう云っとったんやろ?」
「ああ。そうだ」
「ウチもそう思うで。特にあの神父の目は聖職者の目やないな。ともあれ、多少、捜索範囲を広げたんやろな。こんなとこまで来るくらいやし。気いつけたが方がいいで」
「そうか。わかった。まあ、何に気をつければいいのか、まだ、よくわかってないんだがな」
「ま、何かわかったら連絡するわ」
ユズナは云いながら、時計を見る。
「さて、そろそろ準備も出来たんやないかな? 整備ドックの方に行けばマミが待っとるはずや」
「わかった。世話になったな」
そこでサンタは席を立った。
ユズナも立ち上がる。
そして所長室の扉を開けて出て行くサンタを目で追いながら、ぽつりと呟くように云う。
「あんまり、いろんな人に心配かけるんやないで、サンタ。あんさんに何かあったら、泣く奴もおんねんで。羽衣とか……」
「おまえとか、か?」
肩越しにユズナを見て、サンタが口許を歪める。
「あほ」
ユズナがそう答えながら、苦笑した。
(まったく、意識せんでそないなこと云うからあかんのや。ぼけ!)
***
サンタが所長室から出ると、待ちくたびれたように羽衣とセロリが立ち上がる。
「行くの?」と、羽衣。
「ああ。待たせて悪かったな。これから整備ドックに行ってそのまま出発だ」
「わかった。じゃ、あたし、先に行くね」
云いながら羽衣が素早く事務所の階段を下りて行く。
と、云うよりは一歩で階下まで跳び下りると、整備ドックに向かって走って行く。
それを苦笑して見送りながら、まったく慌しい奴だな、とサンタは内心で呟いた。
それから事務所を出ようとして、セロリがユズナと自分を交互に見て何かしらぶつぶつと云っているのに気づいた。
「どうした、セロリ?」
不思議そうに訊ねる。
この娘はときおり何を考えているかわからない時があるからなあ、と、思いながら顔色を窺う。
「あの、サンタ?」と、セロリ。
「ユズナさんって素敵な方ですね? サンタの元カノなんですか?」
「え? あ、ああ……。って、羽衣に聞いたのか? あいつ……」
「あの、私もああ云う大人になれるでしょうか?」
「え?」
「どうでしょうか?」
「いや、どうって云われても、どうしたんだ、おまえ? まあ……性格は似て欲しくないが、おまえならあいつよりももっと素敵になれるんじゃないか?」
「本当ですか?」
「ああ、そしたら改めて口説いてみるかな」
「え?」
「……って、訳には行かないか。何と云っても公女殿下だからな」
「あ、当たり前です。無礼ですよ」
「違いない」
そう云って笑う。
セロリは、まったく無礼な人ですね、などと繰り返し呟きながら、ユズナを初め事務所の人々に丁寧にお辞儀をすると先に立って事務所を出た。
「おい、階段に気をつけろよ。おまえ、意外とそそっかしいし」
云いながら、サンタもセロリを追って出て行く。
そんなふたりを見送りながら、ユズナは肩を竦めて微笑した。
「ユズナさん?」と、フタバ。
「まだ、サンタさんのことが気になってるんですか?」
その言葉に、ゆっくりと首を振る。
「あほ、そんな訳ないやろ。あいつはだだのエロロリオヤジや」
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