星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第7章 麗しき惑星リスタル

(4)

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 サンタが部屋に戻ったのは深夜過ぎだった。

 かれはふたりの寝息が聞こえるのを確認するとそっとベッドに潜り込んだ。
 結局、今夜もセロリのワガママのおかげでハリウッド・ツインの部屋である。
 ひとりで出掛けたのはふたりが寝静まるのを待つためだった。

(たいがい、おれもセロリには弱いな)
 苦笑する。
(さて、明日も早いし、さっさと寝て疲れをとらないとな)

 だが。

「遅かったですね、サンタ」
 目を閉じて毛布にくるまったサンタの耳許に息を吹きかけながら、セロリが囁いた。

「……!」
 危うく大声を上げるところだった。息を吹きかられる謂れはない。

「お、脅かすな。まだ、起きていたのか?」
「サンタを待っていました。ひと目会いたくて」
「え?」
「失礼、間違えました。ひと言云いたくて」
「似ているが、だいぶ雲行きが違う台詞だな」
 怪訝そうに振り向くとセロリの顔が目の前にあった。
 それも眉が吊り上がっている。

(おいおい、おれが何かしたのか?)

「羽衣を大事にしてください」
「え? どう云う意味だ?」
「羽衣の気持ちをわかってあげてください。何故、羽衣があんなに《愛玩人形ペットドール》になりたがっているのに、何もしてあげないんですか?」
「お、おい、ちょっと待てよ。藪から棒に何を云いだすんだ? いったいおれがいない間に何を話したんだ?」
「もしも、あれでしたら、今すぐに羽衣を抱いてあげてください。私が邪魔ならば、私はバス・ルームにこもってじっと聞き耳を立てています」
「聞き耳を立てるのかよ?」
「私も実のところ興味はありますので。健全な好奇心を持つ子供です」
「いや、子供にとっては不健全な好奇心だろ!」

 そこでセロリは言葉を切った。
 それからサンタの目をじっと見つめる。

「サンタ……」

「は、はい?」
 セロリの迫力につい神妙に答える。
「サンタが羽衣に何もしてあげないのは彼女が《バイオ・ドール》だからですか? 彼女が人間じゃないから、なのですか? 彼女は人間そのものじゃないですか?」
 セロリの目が潤んでいた。

(こいつ、泣いているのか? 羽衣のために?)

 サンタはふっと笑みを浮かべる。

「そうだな。あいつは……『電気羊の夢』を見ちまうから」
「え? どう云うことですか?」
「まあ、おれたちのことは気にするな。これでもうまくいってるんだから」
 そう云ってサンタはセロリの頭を優しく撫でた。
 セロリは思わず耳をピクつかせる。
 サンタの手の感触が心地よかった。

「そんなことより早く寝ろ。寝不足は美容の大敵だぞ」

 かれは、くるりとセロリに背を向けて毛布にくるまった。
 セロリは何となく次の言葉を見つけられずにそんなサンタをぼんやりと眺めた。

(これでもうまくいってる、ですか。私ってお節介なんでしょうかね……)
(それにしても……)
(サンタと云い、羽衣と云い、どうしてあんなに優しく私の頭を撫でてくれるんでしょうか?)

  **

「少し、サルサザードの街で買い物をしよう」

 翌朝、サンタの提案で三人は街に繰り出した。
 目的地の首都リステリアスまではあと半日ほどであるが、ここから首都までの間には大きな町はなく、食料を買い込んで車中で食事をする必要があったからだ。

 サルサザードはリスタルの他の町と同様に基本は石造りである。
 街路も家々も石造りであり、それが観光客に遥か昔、まだ人々が地球の上だけで暮らしていた頃の原風景を思い出させる。
 街道以外の街路は大路から小路に至るまで種々雑多な露店が並んでいる。
 それがどうやらサルサザードの名物のようでもあった。
 香ばしい匂いの肉の香草焼き、とろとろに煮込んだシチュー、地酒、地ワイン、地ビールなどの酒類、安っぽいが味のある装飾品、占いの店、怪しげな骨董商まで、ありとあらゆる露店が軒を並べ活況を呈している。

 そんな街を歩きながら、最初は楽しげにしていたセロリが、やがて、どこか腑に落ちない、と云うような表情を見せ始めた。
 盛んに首を傾げたり腕組みをして考えたりしている。

「どうしたの、セロリ?」
 その様子に気づいた羽衣が声を掛ける。
「ええ、少し様子が……、あの、何だか亜人が少ないような気がします」
「亜人が少ない?」

 もちろん初めてリスタルを訪れたサンタも羽衣もそう云われてもよくわからない。
 街を行く人々の八割ほどが普通人であったが、その割合が多いのかどうかもかれらには判断できなかった。

「いつもなら、リスタルの街は半分が亜人なんです」
「ふむ。だとすると確かに少ないな」
「どうしたんでしょう?」

 不安そうにセロリは見回すがそれ以外はこれと云っておかしなことはない。
 むしろそこここの露店はお客で賑わっていたし、町の酒場からはまだ朝だと云うのに陽気な歌声が聞こえて来たりしている。
 亜人が少ない、と云うセロリの印象以外は、それはおそらくいつも通りの街の光景なのだろう。

「ともかく適当に食材を買って出発しよう。まだ首都まではしばらくかかるからな」

 サンタがそう云った時、突然、かれのフォン端末の呼び出し音が鳴った。
 モニタを見るとユズナからだった。

「ユズナからだ。どうかしたかな?」
「ふ~ん。例のセロリの持ってきた写真のことがわかったのかも知れないね」
「かもな。じゃ、ふたりでそこらの店を物色しててくれ。離れるなよ」
「ホットラインは持ってるでしょ?」
「ああ。だからってはしゃいで迷子になるなよ」
「は~い」

 羽衣はセロリの腕を持って近くの露店まで引っ張って行く。
 本当に羽衣は楽しそうだ。それだけでもこの仕事をやった甲斐がある、と、サンタは思った。
 もっとも、最初から感じている油断ならないキナ臭さを、常に孕んでいる旅ではあったのだが。

「ユズナか?」

 サンタは路地の隅の壁に寄りかかると、フォン端末に向かって話しかけた。

『おお、サンタ。やっと繋がった。どうやら通信障害は解除されたようやな』
「通信障害?」
『《歪空回廊トンネル》の中、ずっとあかんかったからイラついたで』
「あれ? おまえ、《歪空回廊》にいるのか? どうして?」
『あんさんを追って来たのに決まっとるやろが』
(追って来た?)
「おい、どう云うことだ?」
『それが、やな……』

 ユズナはマグダラのコンボイ・センターでのことを手短に説明した。
 リスタルから輸送されて来たのが亜人の子供たちであったこと、その子供たちはどうやら亜人売買の商品であったこと。そして一部の子供たちは誘拐されて来た可能性があると云うこと。

「誘拐に亜人売買だって?」

 セロリが『亜人が少ない』と云っていたが、どうやらそれは、誘拐事件が発生しているため亜人が出歩くのを控えているから、ということらしい。

『そうや。あの神父、アズナガ、とか云ったか? 奴も拘束されたっちゅう連絡がさっきクロードんとこに入ってん』
「クロード?」
『ああ、連邦の警部や。新しく知り合うた、云うたやろ? なかなかウチに懐いとるんやで』
 サンタの反応を窺うようにユズナは云う。

「おまえに懐くとは命知らずだな」
『何や、それは? ギャグにも聞こえへん』
 あっさりとダメ出しするユズナだった。

『ま、ええか。んで、サンタ、あんさん、今何処におんねん?』
「今はサルサザードの街だ。あと数時間で首都だな」
『何やて? すでにリスタルに入っとんか? アホか。リスタルは曲がりなりにも独立国や。連邦警察云うたかて《歪空回廊》や港から半径2キロを越えたら手が出せへんのやで!』
「ってことは連邦警察がお出ましになったからと云って、一件落着って訳じゃないんだな?」
『そや。たぶん《十三番目の使徒教会》はただのブローカーや。売り手はそっちにいるんやと思う』
「当たりはついているのか?」
『わからん。が、どうやら大公家が絡んどる可能性が高い』
「リスタルの大公家か?」
『そや。姫さんの家やな。もしそれがマジやったら相手が悪い。やからそれがわかるまで動かんほうがええ』
「わかった。気をつけるよ。ありがとうな」
『ええか、動くなよ!』

 そこでユズナからの通話は切れた。

 動くな、と云われても、これは『運び』の仕事だ。
 動かない訳には行かない。
 そしてユズナもそれがわかっているだろうから、きっとそのままサンタたちを追って来るだろう。

「それにしても、亜人売買とは穏やかじゃないな。つまりはセンターで見たコンテナにも、亜人の子供たちが積まれていたってことか? 確かにリスタル大公家からの積荷だとは云っていたが……マジかよ」

 サンタは吐き捨てるように、そう呟いた。
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