星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第8章 リステリアス宮のトラブル

(1)

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 首都リステリアス――。

 観光立国である惑星リスタル内でも随一の観光都市であるそこは、地上の町並みは完璧に地球の中世ヨーロッパを模しており、必要最低限の例外を除いてはその景観を壊す一切が排除されている。
 それは再現された歴史絵巻そのものと云えよう。
 またその演出は見た目だけではない。
 町の中央を流れる大河。そこを通る船舶は原則として帆船や手漕舟に制限されている。
 街区へのビークルの進入は禁じられており、観光客、来訪者でさえ、大門でビークルを専用施設に預け、町が用意した馬車に乗り換えなければならなかった。

 サンタ一行もその例に洩れず町で提供される専用施設にオフロードビークルを預けて、代わりに用意された《御者人形》の操る馬車で町の中をのんびりと進んでいた。

「徹底しているな」
 半ばあきれたように、サンタは町を眺めながら肩を竦めて見せる。
 ここまで来ると、もはや、徹底している、と云うよりは滑稽でさえある。
「確かに町全体をテーマパークにしちまうってのはそれはそれで『あり』なんだろうが、行政とかに支障が出ないのかな?」
「ん? サンタ、あたしのデータをちゃんと聞いてなかったね?」
 羽衣がそんなサンタの横顔をため息混じりに見つめる。
「データ?」
「そうよ。この話もちゃんと事前に伝えてあったでしょ? 行政施設なんかはちゃんと地下に配置されているのよ。それもこの町の特徴」
 云われてみればそんなデータもあったような気がするが、そこにあまり興味がなかったためほぼサンタの記憶には残っていなかった。
「まったく、これだからサンタは……」
 羽衣が、やれやれ、と首を振る。
 日頃からあたしにはうるさいのに自分はホントにこんな調子なんだから、などとぶつくさ文句を云っている。

 とりあえずそれは無視することにして、サンタは馬車の向かいの席にちょこんと座っているセロリに目をやった。
 セロリは緊張しているのか、寡黙である。
 黙って窓の外を流れる街の景色を見ているが、しかし、ほとんど目に入ってない、と云う体であった。

「セロリ」
 心配そうにサンタが声をかけた。余計なお世話かも知れないな、と、思いつつ。

「はい?」
「このまま、真っ直ぐに城に向かっていいのか?」
「どう云う意味ですか?」
「つまり心の準備は出来ているのか?」
「何を云っているのですか、サンタ? 私の心は常にパーフェクトです」
 心は決まっているから大丈夫だ、とでも云いたいのだろうが、イマイチいつものキレがない。
 それだけでも彼女が平常心ではないことは明白だった。
 何せ数年ぶりの帰郷なのである。
 サンタはそれ以上は触れることをやめ、だったらいいんだ、とだけ答えると、窓の外に目をやった。

 夕暮れが近づいていた。
 その時間特有の何となくざわついた様子が伝わってくる。
 どこかの家で夕餉の支度をしているのか、それとも料理屋が近くにあるのか、食欲をそそる匂いが漂って来る。
(リステリアス宮、か……)
 三人の乗った馬車は無口な《御者人形》に操られてそんな夕暮れの街をのんびりと進んで行くのだった。

  ***
 
 町外れの森の切れ目にその荘厳な城は佇んでいた。

 大公家の居城。リステリアス宮殿。

 それは数本の尖塔を持つ母城とその脇を固めるように配置されたいくつかの平城とで構成され、さらにそれらを取り囲むような広大な庭園、騎馬軍団や歩兵団などの練習場と宿舎、そこに住まう大人数を養うための物資倉庫やレストハウス群等、数多くの施設が複合した巨大な宮殿であった。

 その正面。リステリアス宮の大手門の前で、サンタは馬車を停止させた。
 セロリは馬車の窓からその巨大な宮殿を眺め、懐かしそうに思い出に浸っていた。

「戻って来たんですね。何年振りでしょうか」

 数年、と、云っていたはずだが、まだ子供であるセロリにとってはそれはあまりにも永い時間と感じられたのかも知れない。

「やっぱり、緊張します」

 居住まいを正し修道衣が乱れていないかを確認する。
 確認したところで所詮はコスプレ・ショップで買った擬い物ではあるのだが。

「完璧です」

 納得する。そもそもが完璧な間違いである。

「行くか?」と、サンタ。
「はい、行きます」
 セロリは決意を込めて頷いた。

 馬車の扉を開け三人はそこに降り立った。
 そこで羽衣が現実的な疑問をセロリにぶつけた。

「ねえ、セロリ、ここってどうやって入って行けばいいのかな? さすがに呼び鈴とかはないよね?」

 確かに、城に入って行く時にはどうすればいいのか、などは一般人が知るはずもない。
 しかしセロリは、心配ない、と笑って見せた。

「大丈夫です、羽衣」
 云いながらいつも首から提げている革袋をごそごそと取り出す。
 それに手を突っ込み何かを取り出すと高々と掲げて見せた。

「《勇者の鍵》!」

 セロリの周囲に、ちゃらららっちゃら~、と効果音が響き、効果線が見えた気がしたのは、きっと錯覚であろう。

「何だそれは? 秘密の道具なのか? おまえは『未来の世界のネコ型ロボット』か?」

 サンタがお約束のツッコミを入れる。

「いえ『未来の世界のネコ型人間』です」
「うまい! いつになく!」

 サンタが賞賛の声を上げ羽衣がパチパチと手を叩いた。
 そのリアクションに頭を下げて礼をした後、しかしセロリは突然、真面目な顔をしてサンタを見つめた。

「でも……、この『お約束』も、最後ですね」

 寂しげな台詞。

「……ああ、そうだな。おれたちの仕事もここまでだ」
「そうですね。今までお世話になりました」
 ぺこり、と頭を下げる。

「ただ、仕事の後にお茶をするくらいの余裕はありますよね?」
「え?」
「両親に会って行ってください。おふたりを紹介したいのです」
「両親って、それって大公殿下と大公妃殿下だろ? さすがにおれたちはそんな立派な人たちに会えるような人間じゃないよ。ここでいいさ」
「ダメです。ともかく待っていてください」

 セロリは云い残すと門番のところまで駆けて行く。
 最初、コスプレ・シスター姿のセロリに不審げな表情を見せていた門番は、セロリが見せた《勇者の鍵》なる未来の道具を見ると慌てて指示を出し、やがて巨大な門がしずしずと開き始めた。

「すごいね、サンタ。本当にあれで開いちゃったよ」
「猫型ロボットの道具と云うよりはゲームのアイテムかな」

 ゆっくりと門が開くと巨大なエントリー・ロードであった。
 そしてそこにはあらかじめわかっていたかのように、セロリを迎えるための騎士団や歩兵団がきっちりと整列して並んでいた。

「おいおい、どう云うことだ?」
「どうやらセロリが戻るのをわかっていたみたいだね」
「どこかで見張られていたのか? 嫌な感じだな」

 サンタの脳裡に一抹の不安が過ぎる。
 だがセロリはそんなことにも気づいていないようだ。
 楽しげな笑顔でふたりを手招きしている。
 ぴょこぴょこ、跳ねている。

「どうする、サンタ?」と、羽衣。
「どうする、と、云っても、ここまでセロリを送ったことで仕事は終わり、だろ?」

(長居は無用だ。ここで危ういのはセロリでなくむしろおれたちの方だからな)

『……この話を先輩のシスターに相談したところ、翌日にはその方が原因不明の大怪我をして入院したり……』

 セロリが出会った頃に云っていた言葉が思い出された。

(気になるのは大公家が亜人売買に関わっていそうだ、と云う情報だが……しかしマグダラの教会での話を聞く限り、セロリに危害を加えることはなさそうだし)

 サンタはセロリの手招きに対して、悪いが招待には応じられない、と云うように首を振る。
 それから羽衣の背に手をやって、馬車に戻ろうと促した。
 羽衣もサンタの意図を理解すると、黙って頷いた。
 セロリが何か叫んでいるのが聞こえたがそれを無視する。

 しかしサンタと羽衣が振り返ると、そこにはいつやって来たものか、数騎の騎士が現れてかれらふたりの前に立ちはだかっていた。

「どこへ行く?」
 一騎の騎馬の上から高圧的な台詞が響いた。

「何?」
「黙って、城へ入れ」
「それは命令か?」
 サンタが目を細めて騎士を睨みつける。
「従わなかったら?」
「不審者としてそれなりに処断される」

 その声は、例え公女殿下の前であっても躊躇はない、と、暗に脅迫するような、そんな声であった。

 ちっ、と、サンタは舌打ちする。

『どうする、サンタ?』
 羽衣の《速話》の声がホットラインから聞こえた。
 サンタは状況を素早く確認する。
 ここから逃げることは、もちろん羽衣もいることだし、不可能ではない。
 しかしこの後の旅のことや出国のことを考えると、騒ぎを起こすことはあまり得策とは云えないだろう。

「流れに任せるしかなさそうだ」

 旅の初めに感じた『キナ臭さ』がここに来て現実味を帯び始めていることに、サンタはうんざりとして肩を竦めるしかなかった。
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