星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第12章 トラブル、トラブル、トラブル

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 羽衣は素早く振り返る。
 次の瞬間には彼女の必殺の連続蹴りが背後にいたふたりの兵士の甲冑の顔面に炸裂した。
 べこり、と甲冑が凹みふたりの兵士はもんどり打って倒れるとその場で失神した。
 相手が甲冑と云うこともあって、手加減なし、の一撃だった。

「羽衣?」
「サンタ、逃げて!」

 ふたりの兵士が倒されたのを見て大男の兵士が羽衣をとり抑えようと跳びかかる。
 それを寸でのところで避けると、彼女のローキックが兵士の脛当を勢いよく払った。
 さらに勢いそのままにもうひとりの足も払う。
 倒れたところに脳天に踵落としを見舞った。

 一瞬の攻撃であった。
 両手を手錠で拘束されていたとしても《バイオ・ドール》の運動能力には並の人間では対応できるはずがない。

「早く、サンタ。ここはあたしが食い止めるから」
「バカ、羽衣、何を……」
「大丈夫。あたしならひとりでもどうにかなるし、万が一があってもバックアップを使ってまた前みたいに再起動させてね」

 羽衣がウインクをして見せる。
 しかし、その表情は……。

「バックアップなんて、そんな機能、おまえにはないだろ?」
(つまり自分のことは気にせずにおれに逃げろと云っているつもりなのか?)

「大丈夫だよ。今まで秘密にしてただけだよ」

 そう繰り返すと羽衣が兵士の方へ向き直る。
 見ている間にも数人の歩兵たちがふたりをとり囲む。
 その手には儀式用の槍。
 何人かは剣を抜き放って構えている。
 さらに新手の騎士たちがこちらに向かって来るところだ。

 賓客や見物人たちはこのアクシデントにやんやの喝采である。
 新手の騎士や兵士は手に電磁槍を携えていた。
 それが彼女に対して有効であることはすでに知られている。
 悪知恵の働くラスバルトのこと、こうした事態も予測していてしっかりと準備をしていたのだろう。
 羽衣が周囲をとり囲んでいる兵士たちを睨みつけて腰を落として身構えた。
 そんな羽衣を手錠がかかったままの手でサンタが制した。

「やめとけ、羽衣」
 穏やかな口調である。
「でも……」
「いいんだ。十分さ。おれはおまえが傷つくのは見たくないんだ」
「サンタ……」
 羽衣がサンタに振り返る。
 ルビー色の潤んだ目がサンタを見つめていた。

 万事休す――。

 ちらりと賓客席に目をやると、ラスバルトが口許に微笑を浮かべてこちらを見ているのがわかった。
 かれの目には、退屈なイベントにちょっとした演出を加えてくれて感謝しているよ、とでも云うような感情がありありと浮かんでいた。

(あの野郎、わかっていてあえて警備を手薄にしやがったんだな)
 サンタは悔しそうに奥歯を噛み締めた。

「……ごめんね、サンタ」
 羽衣が寂しそうに呟いた。
「おれの方こそ、すまない」
「ううん。あたしは所詮は《バイオ・ドール》だし、いいんだよ。でも……サンタは、サンタは死んじゃったら終わりなんだよ?」

 彼女の目から涙が溢れていた。
 その様子にサンタは目を細めて苦笑する。

「ったく、《バイオ・ドール》のくせしてどれだけ人間臭いんだ、おまえは……」

 手錠をしたままの手で羽衣のプラチナ色の髪を撫でてやる。
 目を閉じて身を任す羽衣。

「あたしに……もしもあたしに自爆装置がついてたら、すぐにでもあいつらを道連れにして爆発してやるのに……」
「そうしたら、おれも巻き添えだろうが?」
「あは♪ そうだね。それじゃダメか。……これが最期の天然ボケかな?」
「出来は、イマイチ、だけどな」
 本当の絶望がふたりの心を支配した。

 そのとき。

 突然、何かががらがらと崩れる音がリステリアス宮に響き渡った。
 兵士や人々の悲鳴が交錯する。
 見ると、表門のすぐ脇の城壁が音を立てて崩れ落ちようとしていた。
 そのあたりにいた兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

「わああ、何だ、あれは?」

 誰かが叫んだ。
 そこに現れたのは――。 

  ***

 それより少し前――。

 セロリ一行は行動を起こしていた。

 セロリの私室で控えの間の四人の兵士を始末したのは、大公と喜助じいさん、弥平次じいさんであった。

 もともと騎士の出であった大公は、しかし、剣ではなく、向かって来たふたりの兵士を両腕のウエスタン・ラリアットで一気に片付けた。
 残りのふたりは喜助じいさん、弥平次じいさんが暖炉の上に飾ってあった装飾品の剣を手に見事な立ち回りを演じた挙句、最後には見事に討ち取っていた。
 ちなみに侍女長ともうひとりの侍女は、ラフィンがどこからか取り出したフライパンで頭を叩かれ失神した。

 さらに部屋の外の兵士たちも手際よく始末すると、かれらはそのまま一気に大公執務室に向かった。
 大公執務室には十名ほどの兵士が守りを固めていた。
 セロリの私室を守っていたような下級兵士ではなくどうやら騎士団か近衛兵団の者であったが、対する大公もじいさんズも元騎士長の名に恥じないツワモノであった。
 多少苦戦はしたもののわずか数分の闘いであっさり兵士たちを討ち取ってしまった。

「手応えがないのう。まったく昨今の若者はだらしない」
 喜助じいさんが首をこきこきと鳴らしながら、不満そうにその場に倒れて意識を失っている兵士たちを見下ろしていた。

 そして。

 執務室に足を踏み入れた途端、その中に隠れていた別の二名の兵士がイザベラ妃に襲いかかったのだった。

「イザベラ!」
「大公妃様!」
「お母様!」

 そんな絶望的な叫び声が交錯する中――。
 イザベラ妃は身軽なステップで兵士たちの手を逃れ、体重を落として身構えた。
「あちょ!」
 叫び声とともに強烈なハイキックがひとりの兵士の顔面を捕らえ、かれはそのまま壁に叩きつけられた。

 さらに。

「あたたたたた……!」
 もうひとりの兵士に向かって、左右の連打。
 かれが放心したように動きを止めたところでとどめはジャンプしての、ローリング・ソバット、であった。

 セロリがその様子に目を瞠った。
「ローリング・ソバットとは驚きです。サンタに『嬉しいときにローリング・ソバットをお見舞いするのがリスタルの正式な作法です』と適当なことを云いましたが、ローリング・ソバット自体はリスタルの正式なたしなみのようです」
 彼女は、ふむふむ、と頷いて見せた。

「お父様が強いのは、昔から知っていましたが……」
 大公執務室の床に倒れている兵士たちを見つめながらセロリは呟いた。
「お母様までこんなに強いとは知りませんでした」
 彼女は、何事もなかったかのように淑女然としてそこに立っているイザベラ妃を見つめた。

「ええ? そうかしら? ふふ。実はね、通信教育でムエタイと中国拳法を習ったのよ。護身用だったのだけど役に立って嬉しいわ」
 事もなげに彼女は云い放つ。
(……お母様、ローリング・ソバットはムエタイでも中国拳法でもありませんが)


「他にはいないじゃろな?」
 喜助じいさんが油断なく様子を窺う。
「大丈夫のようダスな」
 弥平次じいさんも周囲に目を配る。
「大公殿下、他には敵は見当たりませんようですじゃ」
「うむ、ご苦労であった」
 大公が、大儀であった、とふたりを褒め称え、ふたりは膝をついて騎士の礼をする。
「お父様、それでは早く処刑の中止を」
「そうであったな」
 かれは足早に執務机まで行こうとしてふと立ち止まった。

「何だ?」
 窓の外に目をやる。
「何か、外が騒がしいぞ」
「ま、まさか、もう処刑が?」
 セロリが蒼白な顔をする。
 ラフィンが慌てて窓に駆け寄りカーテンを開いた。

「ああ? 何じゃ、あれは?」
 窓の向こうに見えたそれを指差し、喜助じいさんが叫ぶ。

 他の者もそれを茫然と見つめた。

「い、いったい、あれは?」
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