知らない世界に転生したと思ったら、すぐ側にガチ勢がいた件について

花宮

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一章 〜始まり〜

一話 『どん底人生』

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会社に行って、仕事をして帰って寝る。
その繰り返しだ。
そんな日々をただひたすらに過ごしてきた。残業もしているのに残業代は出ないし、休みもほとんどない。


『お前は仕事が出来ないから』と上司からは言われ続けた。セクハラもパワハラもされた。それでも辞めなかったのは、私には帰る場所がなかったからだ。
家族は妹を可愛がり過ぎて私を見ていない。両親は共働きで忙しく、妹の世話ばかりしていたから。


妹も『お姉ちゃん可哀想』なんて言うだけで私のことを見下し、助けてくれようとしなかった。
だから私は彼しか頼れる人がいなかったのだ。彼は優しかった。私がどんな失敗をして怒られて落ち込んでいても慰めてくれた。


そしていつも最後にこう言ったんだ。
「大丈夫だよ。俺がいる」って……
でも今思えばそれは全部嘘だった。だって――。


「あの女はもういらない。今は君だけを愛してるよ……」


そう言って抱きしめているのは私の妹だったから。いつもそうだ。妹は私のものを奪ってゆく。おもちゃや洋服もそして恋人さえも……。


別におもちゃや洋服ならいい。だけど恋人だけはダメなんだ! あいつらは私の幸せを奪う。
なんで?どうしてなの!? 確かに私は妹より可愛くないかもしれないけど、愛される努力はしてきたつもりなのに!! それに私の方が稼ぎもあるのに何が違うっていうの!? 悔しくて悲しくて涙が出る。
今まで我慢した分が爆発したように泣き喚いた。


そうしたら――、


『何でお姉ちゃんが愛されないか教えてあげようか?それはね、あんたが愛想がなくて仕事ばっかりで彼に構ってあげられなかったからだよ!』


そう言われた。彼も妹も笑っていた。それで悟った。私には居場所がないんだなって……仕事にも両親にも彼にも必要とされなくなったんだって……。


「……バカやろー!ふざけんな!!」


気が付いた時には叫んでいた。普段は全く飲まない酒を飲みながら大声で叫んだ。砂浜に座っているせいで服が汚れる気がしたが、そんなことはどうでもよかった。
ただ腹立たしい気持ちをぶつけたかっただけだから。


「妹の方が可愛い?愛想がいい?んなもん知ってるよ!当たり前だろうがっ!」


妹の方が可愛いなんて私が一番よく知っている。妹はよく笑う子だし誰に対しても優しい。友達も多くて人望がある。勉強が出来るわけじゃないけれど要領がよくて先生からも好かれている愛されキャラなのだ。


……反面、性格は悪く、自分の思い通りにならないと怒るめんどくさいタイプなのだが、隠すのが上手いらしく、それでいて、上手く上司の機嫌を取っていたりするらしい。


対して私は無口で不器用で顔立ちもよくないしスタイルもいいとは言えない。友人と呼べる人も少ないし職場では嫌われている。妹のように、上手くかわす術も出来ないし、そもそも『お前はブスなんだから』と誹謗中傷をされたので機嫌を取る以前の問題だった。


そして、それを聞いた時、私は頭の中で何十回も上司を殺す妄想をした。殺す妄想だけでは飽き足らず、拷問の妄想、奴隷の妄想なんかもした。そしてそれら全ては深夜テンションだ。故に、虚しさしか残らない。そして今日も――。


「……死にたい」


ポツリと呟き、持っていた缶ビールを口に運ぶ。飲み慣れていないアルコール度数の高い酒を一気に流し込んだ。苦味を感じながらも喉の奥へと押し込む。すると胃の中に入った瞬間にカッっと体が熱くなり頭がクラクラとした。
あぁこれが酔うということなのかと実感すると同時に、


「…今なら死ねるかな?」


この苦しみから解放されるのならば死んでも良いと思った。こんな人生生きていたところで何も楽しくないのだから……。
フラつく足取りで立ち上がり、海の方へと向かう。一歩ずつ確実に歩いて行く。波打ち際まで来るとその冷たさに驚いた。


「冷たい……」


でもそれが心地良いと感じた。このまま海に沈んでしまおうと思い目を閉じる。きっと、小説ならここで都合よく誰かに助けられたりするんだろうな……そんなことを考える。しかし、当たり前だが、現実は違う。


ザブンッという音と共に私は水の中に落ちた。息苦しさを感じる前に意識を失い、私は死んだ。……死ぬはずだったのだ。
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