3 / 75
一章 〜始まり〜
三話 『転生者』
しおりを挟む――学校に行くことを決めたのはいいが、問題はここからだ。まずは自分のことについて知る必要があるだろう。私はベッドに横になりながら考え始めた。
「ナタリー・アルディ……金髪碧眼……人形のような容姿……お嬢様……?うーん、全然思い当たる節がないなぁ……」
このキャラ、めっちゃくちゃ美形だし一度見たら忘れなさそうな顔してるのになー。うう……全然わからん。
「…考えても分からん。寝よう……」
私は考えることに疲れて眠りについた。
――夢を見た。それは数少ない楽しい記憶だった。中学生の頃の記憶である。
『ねぇ、聞いてよ!奈緒!最近、この漫画にハマっているの!』
奈緒――ああ。そうだ、私の名前は田中奈緒だった。何処でもある平凡な名前だけど、私は気に入っていた。そして彼女は私の唯一の友人だ。名前は鈴木美香。彼女とは所謂、オタク仲間だ。私は漫画とアニメが好きでよく話していた。
『へぇ~、そんなのがあるんだ!読んでみよっかな?』
『是非とも!主人公の名前はね、ローラっていうの!ローラがもう可愛くてね!もう、最高!ナタリーはライバルキャラなんだけどこれが腹黒でね!もう、悪役令嬢ってところがまた良いの!ローラとナタリーの話は面白いけど…それ以外は……うん』
ナタリー!?それって今の名前じゃん!ナタリーって悪役令嬢なのかよ!じゃあ、最後絶対にいい結末迎えられないよね!?
『え?面白くないの?』
私は苦笑いをしながら尋ねると、奈緒は勢いよく頷く。
『うん。内容はありきたりだしテンプレ過ぎてつまらない。でも、絵とローラとナタリーの話は面白いから買って損はしないかな』
ああ、そうか。思い出した。だからこの漫画買わなかったんだ。私はそういうのに興味がなかったから。ナタリーとローラの話だけ面白い、と言われても興味が湧かなかったし。……今思うと読んでおけばよかったかも――なんて今更後悔しても遅いのだけど。
目が覚めると見覚えのない天井が見えた。あれ、ここどこだ?私確か昨日……
「あっ……そうか。私、転生したのか」
一日しか経ってないのに随分と懐かしい気がする。前世の記憶を思い出したからだろうか?
「え……?」
不意にそんな声がして振り向いた。そこには綺麗で整った顔立ちをした少女がいた。ああ……昨日のメイドさんか……って今の聞かれてた!?
「ど、ドアはノックしてから入ってください!」
「ノックをしました。ですが返事がなかったので入らせていただきました。昨日、急に倒れられたのですから心配するのは当然でしょう?」
正論すぎてぐうの音も出ない。確かに私が悪かったな……反省しよう……。
「それで……聞きたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」
「え?あ、はい」
何だ?何を聞こうとしているんだ?まさか……私が転生者なのかバレた?いやいや、流石にあり得な……
「お嬢様は……転生者ですか?」
……バレた。転生一日目にしてバレた。どうしよ……って思ったけどそれを聞いた途端に私はふっと思うことがある。
「……もしかしてあなたも?」
「……ええ。まあ」
一日目にして転生者同士が出会うなんて思ってもいなかった。
「………私の名前はリリィです。下の名前はありません。そして、私は貴方の専属メイドとして仕えることになります。これからよろしくお願いします。お嬢様。前世の名前は……どうでもいいですね」
前世の名前……確かにどうでもいいよね。ここの世界に住んでいくわけだし……。
「そうね。前世の名前なんてどうでもいいわよね」
――こうして私達は出会った。一日目にして同じ境遇の人と出会うなんて誰が想像できただろう?だけど、私には心強い味方ができた。そのことが嬉しかった。
△▼△▼
「お嬢様はこの世界についてどこまで知っていますか?」
リリィに問われて私は少し考える。
「んー……何も知らないかなぁ。私は気づいたらここにいて、自分のことを何も知らなかったの。だから教えて欲しいかな。この世界のこと……」
「そうですか。では説明させて頂きましょう」
リリィは淡々と話し始めた。この世界は漫画『恋と魔法とチョコレート』という恋愛漫画であること。そして、主人公であるローラ・クレーヴは平民でありながら貴族ばかりの学園に特待生として入学すること。そして、そこで様々なイケメン達と出会い恋に落ちていくというストーリーだということ。
そして、この物語において悪役令嬢と呼ばれる存在がいる。それがナタリー・アルディ。金髪碧眼で人形のような容姿を持つ美少女だ。彼女は性格が悪く、主人公に嫌がらせをしたり、時には暴力を振るったりと酷いことばかりしている。最終的には国外追放を言い渡されてしまう。
「……という訳なのです。お嬢様は普段性格が悪く、他人に暴言を浴びせたり、平気で人を陥れるような行為をしています。でも、それは全て主人公に嫉妬していたからなんですよね」
「そっか……」
「そして、お嬢様には婚約者だと思い込んでいる方がいます。名前はレオン・メルヴィル。そのお方を婚約者だとお嬢様は思っているようです。側から見たらストーカーにしか見えません。ただの勘違い野郎ですよね」
………原作のナタリー痛すぎないか……?思い込みとかストーカーって……これで国外追放……って軽すぎるよね!?もっと重い罰があって然るべきだよ!
「そして、お嬢様の破滅エンドを回避する方法は一つしかありません。それは――レオン様のストーカーを辞める、それだけで状況は大きく変わります」
「……わかったわ。そもそも、私ストーカー気質じゃないし、レオン……って人のこと知らないし」
「そうですか。なら良かったです。後は、なるべく関わらないようにすればいいだけですから。それだけで破滅ルートは回避できます。簡単でしょう?」
確かに簡単だ。そんなので破滅を回避できるのならば簡単なものだ。
「では、そろそろ学校に行く準備をしましょうか」
そうか……学校があるのか……自分で行くと言った手前、行かないのも不味いよねぇ……
私は渋々ながら支度を始めた。
△▼△▼
学園の名前は『マグノリア学園』だ。魔法を学ぶための場所である。ここの世界は貴族しか魔力を持っていないため、貴族の子供が通う場所となっているらしい。しかし、主人公のローラは平民でありなががらも、高い魔力を持っている……らしい。リリィが凄く早口でそう語っていた。
その姿は前世で見たオタクの姿と重なって見えた。流石にそんなこと本人の前で言う勇気はないけど。
「私はナタリー様の専属メイドなので一緒に学校に行きますし、お嬢様のこともサポートしますから安心してください」
「ありがとう」
私は素直に感謝の言葉を述べる。心細かったし急に転生して不安だった。でも、リリィがいれば何とかなりそうな気がする。
「……いえ。これが私の仕事ですから」
そう言ってリリィは微笑んだ。
33
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる