【完結】君に伝えたいこと

かんな

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番外編

『宮沢祐介の苦難? 〜後編〜』

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笹川と洋介が本格的に『恋人』みたいな雰囲気を出し始めた。今は遊びなのか本気なのか分からなかった態度も今じゃ本気そのものに見える。……正直かなり羨ましい。後、松岡が洋介に告白したらしいという噂を聞いた時は驚いたものだ。


結果は見ての通り振られたようだが、それでも諦めきれていない。いや、建前は諦めているのだが本当はまだ好きなままなのだ。そんなもん、表情を見れば分かる。多分本人以外は皆分かっていることだと思う。だってあいつ、全然隠せてねえし。


それに――


「(泣いてたんだよなぁ)」


廊下を歩いている時に偶然見かけてしまった彼女の涙を思い出す度に胸の奥がズキっと痛む。あの時は何も言えなかったけれど、今なら言えるだろうか……?


「(俺変わったな……)」


女なら誰でも良かったはずの自分が、今では一人の女の子しか見えていない。こんなこと初めてだった。だから戸惑っている。どうすればいいのか分からない。自分の気持ちが理解できない。だから、余計に怖いのだ。


もしもこの気持ちを伝えたらどうなるのか……。拒絶されるのか受け入れてくれるのか、それすら予想ができない。自分がこんなに臆病者だと思っていなかっただけに尚更だ。


だから――、


「何なの?宮沢くん」


放課後、俺は松岡を呼び出した。屋上へと続く階段の踊り場まで連れてきたのはいいものの、いざとなると緊張してしまう。ドクンドクンと心臓がうるさいくらい鳴り響いているし。


「……話があるんだけど」


「話って何?」


怪しげに見つめてくる彼女に対して俺はゆっくりと深呼吸をする。そして覚悟を決めたように口を開いた。


「………松岡ってさ、まだ洋介のこと好きか?」


そう言った瞬間、彼女は目を見開いた。その反応だけで答えなんて聞かずとも分かったけども、でもやっぱり本人の口から聞きたかったから黙っていた。すると数秒の間を空けて彼女が小さく呟く。


「………何でそんなこと宮沢くんに
言われないといけないわけ?」


「別に言いたくなければ言わなくて良いよ。ただ知りたいだけなんだ。洋介は笹川と付き合ってるんだからお前にはもう無理なことぐらい分かってるだろうしさ」


「っ!そ、それは……」


言葉に詰まる彼女に俺は畳み掛けるようにして続けた。


「もう諦めたら?あいつらは別れたりしないと思うぞ」
「分かってるわよ!そんなこと!」


胸に内側で燃えたぎる炎が、灼熱の赤が勢いよく噴き出し、思わず声を荒げてしまう松岡。だが一度溢れ出た感情を止めることは出来ずに松岡はさらに続ける。


「私なんかよりずっと可愛くて性格も良い子だし、中村くんだってあんなに楽しそうな顔してるもん。私の入り込む余地がない事ぐらい最初から知ってるわよ!だけどね、簡単に割り切れるほど私は大人じゃないの!好きなものは好きで仕方ないの!!」


涙を流しながら叫ぶ彼女を前に何も言えない俺がいた。彼女の想いの強さを知ったからだ。きっとこれは俺では到底敵わないものなんだろうと悟ったのだ。だから―――


「ごめんなさい、いきなり怒鳴ったりして。宮沢くんは何も悪くないのに……本当にごめ――」


気づいたときにはもう体が勝手に動いていた。彼女の小さな体を抱きしめていたのだ。突然の行動に驚いているのか抵抗する素振りを見せなかった。むしろ固まってしまっているような感じである。
しかし、それも一瞬の出来事だった。我に帰った彼女はすぐに離れようとする。それをさせないためにさらに強く抱き締めると、耳元で囁く。

「好きだ」


「え……?」


「好きなんだよ、松岡の事」


俺の言葉を聞いて信じられないとばかりに大きく見開く松岡。それを見て苦笑しながら再び言う。


「最初は軽い気持ちだったかもしれない。でも今は違う。本気で好きになったんだ」


「は?いやいやちょっと待って!?」


混乱しているのか頭を抱え始めた。まあ当然の反応だよなと思いつつ、少し間を置いてからまた喋り始める。


「そ、その急にこんなこと言われても困るわ……じ、時間を頂戴」


顔を真っ赤にして俯いたままそう答える松岡。それが可愛いと思ってしまった。これが惚れた弱味というものなのだろうか。
だから――。


「……返事貰ったらキスしてもいいかな?」


そう言ったら顔を真っ赤にさせて『馬鹿』と言ってきた。
その反応があまりにも可愛かったし、早くめちゃくちゃにしたい、という衝動に駆られたけども――、


「(今日は我慢、だな)」


こうして、俺は松岡に告白することに成功した。この告白がはたして上手く行くかは分からない。けれど、後悔だけはしないようにしようと思った。
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