蒼の魔法士

仕神けいた

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蒼の魔法士-本編-

Seg 33 求められしはボケツッコミ? 絶対零度の脅迫 -02-

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 すぐさま周囲を見渡みわたす。気配はわずかだが感じ取れた。だんだんと近づく歌声とともに、かれ警戒心けいかいしん頂点ちょうてんへと達する。

「……」

 歌声がんだ。

「キキィィイイ!」

 突如とつじょ甲高かんだかい悲鳴が眼前から飛び出してきた。
 スマートフォンの画面が波打ち、かと思うと小さなかたまりが飛び出してくる。かれ視認しにんできたのは、小さいながらもするどきばをむき出しにした口だけだった。
 しかしそれが木戸にとどくことはなかった。かれはヒョイと頭をらし、横をすりけたかたまりを手刀のもと真っ二つにした。
 時間に換算かんさんすると一秒未満。

 ゆかに転がった二つのかたまり確認かくにんすると、それはニホンザルの幼獣ようじゅうだった。短くみつおおわれた毛に短い尻尾しっぽ、しかし、その胴体どうたいは木戸によって泣き別れしたにもかかわらずうごめいてうなごえをあげている。
 世間でよく見るサルはそんなことできはしない。木戸は似て非なる存在そんざいを頭のすみかべる。

 ――アヤカシ

 その証拠しょうこに、こちらをにらみつけるは血のように赤く光っていた。

「ギィィイイ!」

 子ザルは断末魔だんまつまを残して、はいとなって散っていく。

 木戸は、再びスマートフォンを見た。
 アヤカシが機械をとおけたせいか、画面はノイズがめぐっている。幸か不幸か、弱いアヤカシだったため、元にもどるのにそんなに時間はかからない様子だ。

 木戸は廊下ろうかへと出た。
 静かだが、耳をますと歌声がまたかすかに聞こえる。

 今回のアヤカシは、一ぴきに見つかるとほかのアヤカシがわんさかといて出てくるらしい。
 そのため、木戸は自らおとりとなってミサギからはなれる行動へと出た。
 木戸のいるこの場所もすでに安全ではなくなっていた。

 ◆ ◆ ◆

 木戸は廊下ろうかを移動しながら、今回ミサギが受けた依頼いらいの内容を思い出していた。

 自分は何も感じることはなかったが、ミサギにとって非常に腹立はらだたしい依頼いらいのされ方だったというのを覚えている。
 内容自体はさほどむずかしいものはなかったはずだ。はい工場で起こる怪奇かいき現象の調査と解決であった。

 通常であれば、調査のみを行い、結果を上層じょうそう部へ報告すれば、後は政府の方で業者を別に依頼いらいして解決してくれる。
 だが、その上層じょうそう部がなんと丸投げしてきたのだ。

 これまで、何人もの魔法士まほうし依頼いらいを受けて調査を行ったが、ことごとくやられてしまったらしい。
 このまま調査だけを下請したうけ業者に依頼いらいしていけば、被害ひがい拡大かくだいは防げない。そこで、政府の意向でミサギに白羽の矢が立ったのだが、言伝ことづてる人選をあやまったようだ。

「『――君もたまには我々われわれになっている仕事の大変さを知るといいよ』とのことです」

 伝達にたロボットは、主人であるお役人の言葉を一字一句たがわず、声音こわねを主人に真似まねて伝えた。

「……ああそう」
 ミサギがイラッときたのを、かたわらで感じ取る木戸。

 このロボットの主人は、見た目も中身も厚かましい中年男性の議員だ、と木戸は思い出す。

 『自分の仕事は部下の仕事、部下の手柄てがらは上司である自分の手柄てがら』を体現したような人間である。

 無表情かつふんぞり返るように立つロボットの背後はいごに、でっぷりしたおなかをさする主人の様子がまざまざとかびがる。

 依頼いらい内容の書かれたタブレットを受け取ったミサギは、
「ありがとう。君のご主人には『うけたまわりました』と伝えてくれ」
 礼を言ったが、表情はこおくほど冷ややかであった。

 あくまでロボットは仕事をこなしただけであり罪は何もない。
 だが不運にも、ミサギかられ出る絶対零度のオーラにあてられてしまった。
 手足の駆動くどう部分がガタガタとふるえだし、音声も振動しんどうによっておびえきった出力となり「うけたまわり……エラー発生」と何度もつぶやきながらもどっていく姿すがたは、あわれとしか言いようがない。

 その後、なんとか主人のもとに辿たどいたロボットは、「サムカッタ」と最後に言い残し、基盤きばんくだけてして再起不能になったと聞く。

 よほどそのロボットに金をつぎんでいたのだろう。
 木戸の脳内のうないで、スケジュールが一件追加された。
 後日、ロボットが故障こしょうしたいかりに日常のストレスをえて、例の議員が怒鳴どなんでくる予定だ。
 そして当然のごとく、ミサギは執務しつむ室にかれを招き入れ、木戸にそっととびらめさせるはずだ。

 数分後、部屋へやを出るころには、きっと謝罪の言葉が出る。こわれたあのロボットのように何度もつぶやきながら。

「『実力行使』なんかしなくとも、言い負かしてむくらい簡単かんたんなんだけどね」
 タブレットを操作そうさしながらミサギは言った。表情はおだやかだ。

 おだやかなのだが、青筋あおすじ前髪まえがみかくしていたのは木戸のみが知る事実。

「今は上層じょうそう部とめるのは面倒めんどうだから仕方ないさ。我慢がまんだよ、木戸」
 主人よりも大柄おおがらで無口な部下は、ただうなずいた。

「さて、じゃあ行くとしようか」

 ミサギと木戸は、こうしてたった二人ふたりで現場へ出向くことになったのだ。
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