蒼の魔法士

仕神けいた

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蒼の魔法士-本編-

Seg 35 影潜む虚ろなる場所 -02-

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 とびらの向こうへ一歩せば、流れる人の波と喧騒けんそうあらし
 巨大きょだいモニターは、ニュースが終わり流行曲がランキング形式で流れ出す。
 いそがしい人々は信号が点滅てんめつし始めるとあわてて対岸へとせ、待ちきれずに少しずつ動く車はクラクションをひびかせる。

 空腹くうふくもそこそこに、いざ街という海原うなばらへとしたユウとみっちゃんは、そのあらしながめながら途方とほうれていた。

 みっちゃんの手に持つスマホが、
「目的地まで、約百五十キロメートル、所要時間は車で二時間六分、電車で三時間九分、徒歩で二十六時間です。出発しますか?」
 と、無慈悲むじひな情報をかえしているのが原因だった。

 目的地は工場地帯を示している。ここは街の中心部なので、目の前には環状線かんじょうせんが走り、タクシーも絶え間なく往来し、移動手段しゅだんには事欠かない。

 だがしかし、それでも解決できない問題はあった。

 ――急いでおります。十分以内におしください。

 木戸からの連絡れんらく内容である。

「物理的に無理やぁぁあああああん!」
 悲痛ひつうさけびは、車と電車と一斉いっせいに浴びせられた冷たい視線しせんにかき消された。

 金髪きんぱつの結び目をくしゃくしゃといたものだから、ポニーテールがほどけてしまった。

「何やのん! 木戸はんいつからこんな無茶ブリしてくるよぉなったん!? ストレスか? いっつもミサギどんに無理難題むりなんだいけられとるストレスかっ!?」
 みっちゃんはかみい直し、考えあぐねる。
 ユウはというと、やむを得ず食べ残した料理が未練だったらしく、はらを鳴らしてシュンとうなだれている。

 今からアヤカシを討伐とうばつしに向かうというのに、ユウの心は空腹くうふくにばかり向いている。
 事態を理解しているのかいないのか。
 みっちゃんは、ユウのアヤカシに対する行動を測りかねていた。

 自分自身、アヤカシの事件にたずさわるようになってから、何度も命を危険きけんにさらしてきた。自らが望む望まないにかかわらず、だ。

 大半はミサギが原因でもあったが。

 無防備でアヤカシの前に出るのは死に直結する。
 それとも、妖魅呼よみこはアヤカシにかかわりすぎて感覚がマヒしてしまっているのか、と、みっちゃんはミサギを思い出す。

 かれもまた、ユウと同じくアヤカシをかろんじているところがあるのだ。
――いややや、
  ミサギどんの場合、ありゃ最強じゃからじゃ
  やけんども、ユウどんの場合……
  あやういんよのぉ……

 かれの本音としては、危険きけんだとわかっていてユウを連れていくのは気がとがめる。かといって、子供こども一人ひとりを置いていくのも、大人おとなとして、人として非道徳的だと考えていた。
「あー……せめて、今すぐ屋敷やしきもどれたらのぅ……」
 その言葉をユウは聞いていたのだろう、顔を上げて、みっちゃんのシャツをくいと引っ張る。
「帰れるよ、屋敷やしき
「へっ?」
屋敷やしきに帰るなら、木戸さんからもらったかぎを使えば帰れるよ」
 言って、かぎを取り出して見せた。
 銀でできた、美しい細工のアンティーク調のかぎ間違まちがいなく木戸が作り出した、屋敷やしきへのとびらを開くかぎだ。
「それやあ!」
「!?」
 みっちゃんが頭上で豆電球を光らせる。
「そやったそやった! 木戸はんのかぎがあった! それを使えば一瞬いっしゅんやん! ユウどんナイス! さっそく屋敷やしきに行くでっ!」
「う、うん」
 まくしたてるみっちゃんに気圧けおされつつ、辺りを見回しとびらさがす。
 小さなコーヒーショップがおさまっているビルの横に、それはあった。
「あそこ、ちょうどいいかも」
 通用口と書かれた鉄扉てっぴり、ドアノブにある鍵穴かぎあなへそっとかぎを近づける。かぎの形も鍵穴かぎあなもまったく合わないのだが、銀のかぎは自ら光を放ち、鍵穴かぎあなへとまれるように入っていく。
 ガチャリ、とかぎの開く音がすると、
「テッテレテッテテーテテー♪」
 背後はいごで見ていたみっちゃんが、急にファンファーレをくちずさんだ。
「……」
 ユウはだまってみっちゃんを見上げる。
 かれの表情はまるで、どこかの未来ロボットがなにかしらのひみつ道具を出した時のように見えた。

 一方、ユウの顔はうつろであった。いや、心なしかショックを受けているようだ。

「パクリやないっ!」

 みっちゃんは言い切った。
 
「思ってることはわかる!
 けどパクリやないっ!」

「わ、わかったよ……
 ていうか、みっちゃんはもらってないのか、合鍵あいかぎ?」
「うむ、もらえんかった! わっし、やかましいから来るなって。
 じゃけえ、屋敷やしきへは空間のゆがみ? みたいなもんを見つけてはいんどるんよ」
「……」
 ミサギと木戸に拒絶きょぜつされているのを、なぜドヤ顔で言うのか理解はできなかったが、納得なっとくはできた。
 そういえば、初めて会ったときもゆかから飛び出してきて不思議に思ったのをユウは思い出した。
 例え、常人が不可能なことでも、みっちゃんならば可能なのだろう。
 みっちゃんは、そういう存在そんざいなのだとればいいのだ。

「えっと、そろそろ行こうか」
 とびらを開けようとした、その時。

「あっ――」

 ガツンッ

「へぶぁっ!?」

 ユウが開いたとびらおどろくのと、木戸が急にとびらを開けたのと、みっちゃんがとびら激突げきとつしたのは、不運にも同時に起きた事だった。
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