異世界のおっさんフリー冒険者は固有スキル「傘を刺す」で最強無双だった

中七七三

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7.俺は家出してフリーの冒険者になった

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 ――で、俺は逃げてきた。
 
 逃げた。
 家出した。

 12歳で逃げた。

 王国というか、いまやこの大陸有数の武力を誇る一門となった貴族・ヴァンガード家の逃げてきたのだ。

 もはや家にいられる状況ではなかったのだ。
 この世界の貴族では、長子相続が絶対ではない。
 で、有力なのは「固有スキル」の評価だ。

 俺の「ケツに刺さった傘が開くと無双無敵」という固有スキルは異常に評価が高かった。
 それまでの俺は「切れ者だけど、固有スキルの儀式に失敗してんじゃね?」的な評価。
 それが、一気に「無双無敵」だよ。ケツに刺さった傘が開いたときだけだけど。

 で、貴族の跡目争いに一気に巻き込まれた。
 今まで巻き込まれなかったのが、そもそも奇跡だったのかもしれんが。

 食事に毒がぶち込まれるのは日常茶飯事。
 城の部屋の中やベッドの中にまで「ブービートラップ」が仕掛けられる。
 高性能火薬を体に巻きつけた自爆覚悟の鉄砲玉までやってきた。一度や二度じゃない。

 俺の身辺を護衛するために護衛もついた。
 その護衛も多くが死んでいった……

 生き残ったのもいたけど…… それはそれで……

 もはや、戦場は城の中にも浸透してきたのだった。

 まあ、いい。
 とにかく俺は、ヴァンガード家を飛び出し逃げた。
 当然、追っ手がやってきた。
 
 俺はこの異世界の4つの大陸を流浪した。
 偽名をいくつも使い、異世界を渡り歩いたのだ。

 全然、スローライフじゃねーし、まったししてないし、しかも詳細描写するとストレス展開だよ。マジで。

 とにかく、俺は逃げ回ったわけだ。
 途中では糧を得るために現代知識を使った。
 まあ、身なりは12歳ちょいのガキだが、中身の経験値は「おっさん」だ。
 それも、クソ過酷労働を課せられたサラリーマンだったのだ。

 あははは―ー
 だからかもしれんが、俺は結構そのあたりの耐性はあったのだろう。
 並みの人間なら、精神が破壊されているぞ。この異世界。
 
 とにかく俺は、いろいろやった。

「石鹸」を作ったりとか――
「農業用鋤」を作ったりとか――
「オセロ」とか「すごろく」とか「将棋」とかのゲーム――
 あと、知ってる漫画とか小説を自作の物語としたりとかで吟遊詩人の真似もした―― 

 そんな、現代知識を切り売りしながら、異世界を放浪した。
 
 で、今は元の大陸に戻ってきた。
 盲点かなーと思ったわけではなく、他の大陸の「食い物」が不味すぎだった。
 
 で、今は故郷のヴァンガード家からは遥か東の港町に住んでいる。

 港町で、物流拠点となって、食い物がうまい。
 相変わらず、この大陸は戦乱の中にあったが、この町は比較的平和ってのも良かった。

 物流拠点として重要であるため、各勢力とも手が出せないでいた。
 しかも、街の自治意識が高いのだ。

 そう言った点で俺が潜むには好都合ではあった。

 で、俺はそんな港近くの町で、暮らしていたのだ。
 真っ当に仕事をしながら。

        ◇◇◇◇◇◇


「ふーん、ギルドからの紹介ですか……」

 俺は言った。椅子に身を預けると軋み音が響いた。

「はい。フリー冒険者のジャック・ロドネーさんなら、なんとかしていただけると」

 俺は椅子から少し身を乗り出し、目の前の依頼主を見やる。
 テーブルを挟んで、対面に座っている依頼主だ。お客さんだ。
 椅子とテーブルしかない、ガラーンとした部屋だ。

 俺はこの町で「フリーの冒険者」をやっている。
 ジャック・ロドネーが今の偽名だ。
 何個目かの偽名か忘れた。

 冒険者ギルドに登録した場合、身元が露見する可能性もあった。
 で、俺はフリーで仕事を請けている。

 物品の採取専門だ。
 まあ、冒険者というより「個人商社」のようなもんだ。

 そしてだ―― 
 ときどき、ギルドでは手に負えない仕事が回ってくることがある。
 今のこの依頼者の仕事がまさにそれ。

「イガーナ草ね…… 確かに、最近は見ないですね」
「やはり、大陸にも無いのですか?」

 少女はすがるように俺を見つめた。
 おそらく同じようなことはギルドでも言われたはずだ。

「うーん…… 無いかしれませんねぇ…… うーん……」

 俺は腕を組んで難しそうな顔をする。

「そうなのですか」
「以前ならD級の冒険者でも採取できたレベルの薬草でしたが、乱獲とこの戦乱のせいでね……」

 イガーナ草は薬草だ。
 傷薬にもなるし、ある持病の特効薬になる薬草だ。
 最近は、乱獲のせいなのかめっきり見なくなった。

 ちなみに、少女がイガーナ草が欲しいのは、父親がこの薬草から作られる薬でしか治らぬ病になったからだ。

「そうですか。この大陸にもイガーナ草は――」

 少女が悲しそうな顔をした。そりゃ、父親のことが気になるのだろう。
 俺は俺の父親のことは全然気にならないが。
 今もどこかで、元気に戦争しているだろう。
 元気に、敵の首を狩っているだろうなーと思う。

「やはり、無いのですか? イガーナ草は」

「悲哀」とか「薄幸」の枕詞がつきそうな瞳で俺を見つめる少女。
 その声音も同情を誘うには十分だった。
 とにかく、少女の悲しそうな顔を見るのは、俺の精神衛生上よろしくない。

 しかも、それが掛け値なしの美少女であればなお更だ。

 俺の目の前にいる依頼者は「掛け値なし」とか「比類なし」くらいの言葉がつくくらいの「美少女」だ。
 全方位的に美少女ってことだ。
 なんかとかしてやりたいとは思う――

(イガーナ草か…… くそ、どこかで見た記憶あるんだが……)

 俺はこの大陸を放浪(逃げまわっている)ときに、イガーナ草を見たような記憶があったのだ。

「本当に無いのですか? ギルドではジャック様なら何か知っているかもしれないと――」

 ギルドの受付の行き後れの年増か?
 俺は「余計なことを言いやがって」と俺は思う。
 が、まあそれで客が来たのだから感謝すべきだろう。
 
「イガーナ草…… う~ん、どうだったか……」

 俺はイガーナ草の記憶をサーチしながらも、少女を見やる。
 見たことは確かなのだ。その場所が思い出せない。
 あっちこっち逃げすぎた。記憶が混濁している。

 ただでさえ、おっさん時代の記憶までこの脳には詰まっているのだ。

「どうでしょうか? ジャックさん」
「うーん、イガーナー草かぁ……」

 民族的なものだろうか? 褐色に近い肌の色。
 目に突き刺さるほどに鮮やかに光る豊かな金髪。
 それをツインテールにしている。
 ブルーの大きな瞳は、まるで宝石のようだ。

 着ている物は、この大陸のものではない。エスニックを感じさせる。
 しかし、それが高価なものだろうことは分かる。
 
 美少女で金持ちだ―― 

「メイリーン様、ここに、無き物を求めてもせん無きことかと」

 少女の隣に座っている無骨な男が言った。
 すでに、老境に差し掛かっている年齢に見える。
 しかし、それは衰えや弱さよりも、老練な強かさしたたかさを感じさせるものだ。

「ヌナタラ、まだジャックさんは、答えてません」

 凛とした強さのある声で少女は言った。
 少女――
 名前はメイリーンだ。

「これは、差し出がましい真似を。お許しくださいませ。メイリーン様」

 メイリーンの従者であるヌナタラは非礼を詫びた。
 頭を下げるが、すっと頭を持ち上げ言葉を続けた。

「しかし、我らには時間がございませぬ」
「分かっています」

 そんなふたりを見ていて、すっと記憶がよみがえる。
 思い出した。
 あった。
 イガーナ草はある。恐らくある。今もあるはずだ……

「イガーナ草はありますね。おそらくは」

 俺の言葉に、ヌナタラは半分白く染まった片眉をクイっと持ち上げた。

「本当ですか! ジャック様!」

「ああ、ある。あるが……」

 俺はそういうと、椅子片立ち上がる。

「どこですか! いったいどこにですか?」
 
 椅子から立ち上がった俺に合わせるようにメイリーンも立ち上がった。
 美少女らしいかわいい名前だ。

「ああ、内陸の山地帯だが…… 往復2週間ってことか」

「ヌナタラ! これでお父様も!」
「メイリーン様、やりましたな」

 まあ、俺が自生したのを見たのは1年くらい前だった。
 結構、キッツい崖の壁面にあったのを見た記憶がある。
 1年やそこらで、無くなってしまうこともないだろう。
 場所も場所だし、それほど人が出入りする山でもない。
 
「まあ、街道からも山道からも外れてますからね。前金で一万グオルドですね」

 と、俺が言っている間にも、美少女と従者は――

「宿に戻って荷造りですね。ヌナタラ」
「そうですな。食料なども、この町であれば、十分に手に入るでしょう」

 とか、言っているわけで、その言葉から想定するだに、どう考えても俺について来る事を考えているようだった。
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