異世界に転移したら年下の可愛い王子のメイドなりました♥ 王子は私にベタベタです!

中七七三

文字の大きさ
1 / 2

1話

しおりを挟む
 私は魂がふんわり抜けていくような感じだった。
 死んだんだなぁと、存外、落ち着いて考えていた。
 そう、私は死んだ。

 死因は多分、溺死。
 水泳部なのに。あははは。馬鹿だ私。

 何が起きたかというと海で足がつった。
 で、慌てて海水を飲んでしまった。
 それが気管に入ったのかもしれない。
 むせた。
 海中で。

 パニくってもがいている内に、ふわぁぁっと魂が抜けてしまったのだろうと思う。
 というわけで、
 
「三途の川かなぁ……」

 と、誰もいない川辺で私は言った。
 身体は濡れていなけど、着ていたのは水着だった。
 溺れたときに着ていたもの。

 本当は分かれた彼に見せる予定だったもの。
 夏の大会は、私は私なりの成績で終了して、部活は引退。
 暇になった夏休みは彼と海に行くはずだったのに、浮気された。
 で、別れた。悲しくないといえば、嘘かもしれないけど、今は死んでしまったのでどうでもいいかなという感じ。

 で、女友達と海に来て溺れると言うなんとも情けない最期を遂げてしまったわけのだけど。

「意外に、落ち着いているなぁ」と、誰に聞こえるわけでもない独り言を言ってみる。

 しかし、三途の川にしては、どうにも、爽やかな感じがしてしょうがない。
 なんというか「あの世的」な雰囲気が微塵もないのだけど、私はあの世を見たことないのでこんなもんかもしれない。よく分からない。

「川、渡らないで戻れば生き返るのかなぁ……」

 と、川と反対側を振り返ってみる。
 ちょっと、疎林があって、倒木がいくつか転がってる。
 他はどこまでも広がる原っぱなのだから、足を踏み出す気にもなれない。

 渡し舟があるはずでは?
 と、思って見渡してもそんなものはどこにもない。

 川は結構大きくで対岸までは100メートルくらいありそうな気がした。
 かなり適当な目測だけど。

「あれ?」

 私は2.0の視力で川の中ほどを凝視した。
 なにかが流れている。結構な速さ。
 流れが緩いのかなぁと、思っていたけど、かなり速いみたいだった。

「人? 人間? え?」

 流れている「物」は「物」ではなく、人間だった。
 ばしゃばしゃと手を振り回し、何かを叫んでいた。
 どうみても、川遊びで泳いでいるようには見えない。

 明らかに溺れていた。

 三途の川で溺れると言うことがあるのか、死んだ人間が溺れるとどうなるのか?
 ちらりと、そんな疑問が頭をよぎる。

 でも――

 私の身体は考え中でも動いていた。
 いつの間にか、落ちていた倒木の枝を持っていた。


 もう、川に飛び込んでいた。
 無我夢中で泳ぐ。
 今度は、足がつらない。というか、死んだ人間の足がつるのか?

 溺れている人は女の人だった。
 頭の上に籠を載せ、ばしゃばしゃと飛沫を飛ばし「助けて! 助けて!」と叫んでいた。


 川の流れをかき分け、私は溺れていた人の背後に回り、枝を伸ばす。
 女の人がこっちを見た。
 そして、私の差し出した枝をぎゅっと握った。
 
 私は必死に泳いだ。なんで、死んでいるのにこんなことやっているんだろうと少し思った。
 なんとか陸に上がって、枝を引っ張り女の人を引き上げる。

「はぁはぁ、はぁはぁ」
 
 女の人の濡れた肩が上下する。特に水を飲み込んだとか、呼吸が出来なくなっているとかは無いようだった。
 呼気を荒くしながらも、必死に頭の上の荷物?を支えている。

「大丈夫ですか」

 私がそう言うと、女の人は急いで頭の上にある荷物を降ろした。

「ああああ、無事で、無事でぇぇ」

 荷物の前で両手をついてガクガクと震えていた。

「あの――」


 私はもう少し近づいた。
 あれ? なにこれ?
 私は立ち止まって、女の人が頭の上に載せていた籠を見た。

「あ、あ、あなたさまは、命の恩人です。私などどうでもいいのです。この王子の命の恩人です」

 地面にめり込むかのような土下座をしながら女の人は言った。

 確かに、籠の中には、小さな――
 子どもが寝ていたのだった。

 子どもは、まるで命の危機にあっていたことなど微塵も感じさせず、すやすやと寝ていた。
 なんとも、愛らしい、可愛い子どもだった。

 これが王子様――

 なんで、三途の川で王子様と女の人を助けてしまったのか?
 私は、この状況が何を意味するのか分からず、呆然としていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界に転生したら溺愛されてるけど、私が私を好きでいるために努力はやめません!

具なっしー
恋愛
異世界に転生したら、まさかの超貴重種レッサーパンダ獣人の女の子「リア」になっていた元日本の女子高生・星野陽菜(ほしの ひな)。 女性の数が男性の1/50という極端な男女比のため、この世界では女性は「わがままで横暴、太っている」のが当然とされ、一妻多夫制が敷かれています。しかし、日本の常識を持つリアは「このままじゃダメになる!」と危機感を抱き、溺愛されても流されず、努力することを誓います。 容姿端麗なリアは、転生前の知識を活かし、持ち前の努力家精神でマナー、美術、音楽、座学、裁縫といったあらゆるスキルを磨き上げます。唯一どうにもならないのは、運動神経!! 家族にも、そしてイケメン夫候補たちにも、そのひたむきな努力家な面に心惹かれ、超絶溺愛されるリア。 しかし、彼女の夢は、この魔法と様々な種族が存在する世界で冒険すること! 溺愛と束縛から逃れ、自分の力で夢を叶えたいリアと、彼女を溺愛し、どこまでも守ろうとする最強のイケメン夫候補たちとの、甘くも波乱に満ちた異世界溺愛ファンタジー、開幕! ※画像はAIです

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...