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私は魂がふんわり抜けていくような感じだった。
死んだんだなぁと、存外、落ち着いて考えていた。
そう、私は死んだ。
死因は多分、溺死。
水泳部なのに。あははは。馬鹿だ私。
何が起きたかというと海で足がつった。
で、慌てて海水を飲んでしまった。
それが気管に入ったのかもしれない。
咽た。
海中で。
パニくってもがいている内に、ふわぁぁっと魂が抜けてしまったのだろうと思う。
というわけで、
「三途の川かなぁ……」
と、誰もいない川辺で私は言った。
身体は濡れていなけど、着ていたのは水着だった。
溺れたときに着ていたもの。
本当は分かれた彼に見せる予定だったもの。
夏の大会は、私は私なりの成績で終了して、部活は引退。
暇になった夏休みは彼と海に行くはずだったのに、浮気された。
で、別れた。悲しくないといえば、嘘かもしれないけど、今は死んでしまったのでどうでもいいかなという感じ。
で、女友達と海に来て溺れると言うなんとも情けない最期を遂げてしまったわけのだけど。
「意外に、落ち着いているなぁ」と、誰に聞こえるわけでもない独り言を言ってみる。
しかし、三途の川にしては、どうにも、爽やかな感じがしてしょうがない。
なんというか「あの世的」な雰囲気が微塵もないのだけど、私はあの世を見たことないのでこんなもんかもしれない。よく分からない。
「川、渡らないで戻れば生き返るのかなぁ……」
と、川と反対側を振り返ってみる。
ちょっと、疎林があって、倒木がいくつか転がってる。
他はどこまでも広がる原っぱなのだから、足を踏み出す気にもなれない。
渡し舟があるはずでは?
と、思って見渡してもそんなものはどこにもない。
川は結構大きくで対岸までは100メートルくらいありそうな気がした。
かなり適当な目測だけど。
「あれ?」
私は2.0の視力で川の中ほどを凝視した。
なにかが流れている。結構な速さ。
流れが緩いのかなぁと、思っていたけど、かなり速いみたいだった。
「人? 人間? え?」
流れている「物」は「物」ではなく、人間だった。
ばしゃばしゃと手を振り回し、何かを叫んでいた。
どうみても、川遊びで泳いでいるようには見えない。
明らかに溺れていた。
三途の川で溺れると言うことがあるのか、死んだ人間が溺れるとどうなるのか?
ちらりと、そんな疑問が頭をよぎる。
でも――
私の身体は考え中でも動いていた。
いつの間にか、落ちていた倒木の枝を持っていた。
もう、川に飛び込んでいた。
無我夢中で泳ぐ。
今度は、足がつらない。というか、死んだ人間の足がつるのか?
溺れている人は女の人だった。
頭の上に籠を載せ、ばしゃばしゃと飛沫を飛ばし「助けて! 助けて!」と叫んでいた。
川の流れをかき分け、私は溺れていた人の背後に回り、枝を伸ばす。
女の人がこっちを見た。
そして、私の差し出した枝をぎゅっと握った。
私は必死に泳いだ。なんで、死んでいるのにこんなことやっているんだろうと少し思った。
なんとか陸に上がって、枝を引っ張り女の人を引き上げる。
「はぁはぁ、はぁはぁ」
女の人の濡れた肩が上下する。特に水を飲み込んだとか、呼吸が出来なくなっているとかは無いようだった。
呼気を荒くしながらも、必死に頭の上の荷物?を支えている。
「大丈夫ですか」
私がそう言うと、女の人は急いで頭の上にある荷物を降ろした。
「ああああ、無事で、無事でぇぇ」
荷物の前で両手をついてガクガクと震えていた。
「あの――」
私はもう少し近づいた。
あれ? なにこれ?
私は立ち止まって、女の人が頭の上に載せていた籠を見た。
「あ、あ、あなたさまは、命の恩人です。私などどうでもいいのです。この王子の命の恩人です」
地面にめり込むかのような土下座をしながら女の人は言った。
確かに、籠の中には、小さな――
子どもが寝ていたのだった。
子どもは、まるで命の危機にあっていたことなど微塵も感じさせず、すやすやと寝ていた。
なんとも、愛らしい、可愛い子どもだった。
これが王子様――
なんで、三途の川で王子様と女の人を助けてしまったのか?
私は、この状況が何を意味するのか分からず、呆然としていた。
死んだんだなぁと、存外、落ち着いて考えていた。
そう、私は死んだ。
死因は多分、溺死。
水泳部なのに。あははは。馬鹿だ私。
何が起きたかというと海で足がつった。
で、慌てて海水を飲んでしまった。
それが気管に入ったのかもしれない。
咽た。
海中で。
パニくってもがいている内に、ふわぁぁっと魂が抜けてしまったのだろうと思う。
というわけで、
「三途の川かなぁ……」
と、誰もいない川辺で私は言った。
身体は濡れていなけど、着ていたのは水着だった。
溺れたときに着ていたもの。
本当は分かれた彼に見せる予定だったもの。
夏の大会は、私は私なりの成績で終了して、部活は引退。
暇になった夏休みは彼と海に行くはずだったのに、浮気された。
で、別れた。悲しくないといえば、嘘かもしれないけど、今は死んでしまったのでどうでもいいかなという感じ。
で、女友達と海に来て溺れると言うなんとも情けない最期を遂げてしまったわけのだけど。
「意外に、落ち着いているなぁ」と、誰に聞こえるわけでもない独り言を言ってみる。
しかし、三途の川にしては、どうにも、爽やかな感じがしてしょうがない。
なんというか「あの世的」な雰囲気が微塵もないのだけど、私はあの世を見たことないのでこんなもんかもしれない。よく分からない。
「川、渡らないで戻れば生き返るのかなぁ……」
と、川と反対側を振り返ってみる。
ちょっと、疎林があって、倒木がいくつか転がってる。
他はどこまでも広がる原っぱなのだから、足を踏み出す気にもなれない。
渡し舟があるはずでは?
と、思って見渡してもそんなものはどこにもない。
川は結構大きくで対岸までは100メートルくらいありそうな気がした。
かなり適当な目測だけど。
「あれ?」
私は2.0の視力で川の中ほどを凝視した。
なにかが流れている。結構な速さ。
流れが緩いのかなぁと、思っていたけど、かなり速いみたいだった。
「人? 人間? え?」
流れている「物」は「物」ではなく、人間だった。
ばしゃばしゃと手を振り回し、何かを叫んでいた。
どうみても、川遊びで泳いでいるようには見えない。
明らかに溺れていた。
三途の川で溺れると言うことがあるのか、死んだ人間が溺れるとどうなるのか?
ちらりと、そんな疑問が頭をよぎる。
でも――
私の身体は考え中でも動いていた。
いつの間にか、落ちていた倒木の枝を持っていた。
もう、川に飛び込んでいた。
無我夢中で泳ぐ。
今度は、足がつらない。というか、死んだ人間の足がつるのか?
溺れている人は女の人だった。
頭の上に籠を載せ、ばしゃばしゃと飛沫を飛ばし「助けて! 助けて!」と叫んでいた。
川の流れをかき分け、私は溺れていた人の背後に回り、枝を伸ばす。
女の人がこっちを見た。
そして、私の差し出した枝をぎゅっと握った。
私は必死に泳いだ。なんで、死んでいるのにこんなことやっているんだろうと少し思った。
なんとか陸に上がって、枝を引っ張り女の人を引き上げる。
「はぁはぁ、はぁはぁ」
女の人の濡れた肩が上下する。特に水を飲み込んだとか、呼吸が出来なくなっているとかは無いようだった。
呼気を荒くしながらも、必死に頭の上の荷物?を支えている。
「大丈夫ですか」
私がそう言うと、女の人は急いで頭の上にある荷物を降ろした。
「ああああ、無事で、無事でぇぇ」
荷物の前で両手をついてガクガクと震えていた。
「あの――」
私はもう少し近づいた。
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「あ、あ、あなたさまは、命の恩人です。私などどうでもいいのです。この王子の命の恩人です」
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確かに、籠の中には、小さな――
子どもが寝ていたのだった。
子どもは、まるで命の危機にあっていたことなど微塵も感じさせず、すやすやと寝ていた。
なんとも、愛らしい、可愛い子どもだった。
これが王子様――
なんで、三途の川で王子様と女の人を助けてしまったのか?
私は、この状況が何を意味するのか分からず、呆然としていた。
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