人形殺し

中七七三

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6.彷徨う視線

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 身を貫く快楽に響は震えた。
 ほのかにあかく染まった肌がうねっている。
 幼さの残る肢体が長身の晶に絡みついていた。
 繊細であり、儚げな吐息が無垢のまま吐き出され、空気の色彩を変えていく。
 晶と響が交わっていた。
 
 仕事の契約を済ませた二日後の夜のことだった。
 霞がかったかのような灯りが染め上げる空間に白い肌が揺れ、重なり合う。
 揺れ乱れる銀色の長い髪が、生きているかのように踊っていた。
 小さな顔が汗でぬれ、髪の毛が頬や額に張り付いていた。
 響はビクビクと細い身体を痙攣させる。
 唇が開き、甘い声が漏れる。
 蕩けた瞳に濡れた睫毛が影を作った。
 未成熟な響の身体――
 その股間に晶の頭が埋められていた。
 亜麻色の髪が響の視界の底で揺れる。
 一本一本が生きているかのように艶かしく動いていた。
 濡れた舌がもっと濡れている肉の底を穿っていく。

「あふぁぁ♥ いい…… 晶ちゃん」

 細く色のある喘ぎが唇から漏れた。

 ふたりは肌を溶かしあうかのように絡み合う。
 一心不乱に快楽をむさぼり、あえぎ、震え、押し寄せる波のような絶頂の中をたゆたっていた。
 一切の虚飾きょしょくいだ、剥き身の女の痴態は、見る者にある種の痛みすら感じさせるほどに美しかった。
 
 いい―― 気持いい……
 晶の舌の動きに身を任せ、響は肉の内にあふれ出す快楽に酔っていた。
 もう何度も絶頂を極め、脳が溶けてしまいそうだった。
 しかし、響は頭の隅で思考する。
 快楽に抗うようにして考える。
 なりふり構わぬ忘我を見せながら、脳の一部だけは冷たく動いていた。

「あ、あ……らめぇぇ…… 晶の舌が子宮に届くぅぅ」

 響は子宮を穿られ、身をよじる。
「晶ちゃん」ではなく「晶」と名を呼ぶ。
 メス化した幼肉を強張らせ、おこりのように震えていた。

「ああん、ホンと容赦ないわ…… 晶――」

 蕩けた紅い瞳――
 淫靡いんびな色をもった光がゆるゆると漏れ流れていた。 

 すっと股間から、晶が顔を上げた。
 どんよりとした焦点がどこにあるのか分からぬ眼は相変わらずだった。
 薄闇の底で渦巻くような視線が、響に絡みつく。

「い、いったの?」
「ふふ、いったわ。晶の赤ちゃんを妊娠しちゃいそう♥」
「そ、それはできない」
「あーん、つれないのね」

 そして、響は晶の頭を白い腕で抱え込んだ。
 キュッと抱きかかえる。

「お仕事、お願いした通りに…… 晶ちゃんが頼りだから」
「わ、分かっている」

 空をゆらゆらと彷徨さまよう視線のまま、晶は言った。

        ◇◇◇◇◇◇

 電車を乗り継ぎ指定された場所まで行く。
 窓から見える光景は、そのまま今の日本の有り様を示すかのようであった。
 近代的で繁栄する街と対象をなす、ゴミくずのようなスラムが広がる。
 世界には生存すら困難な貧困国家は無くなっていたが、その代償も払っていた。
 グローバル化による富の再配分。
 それは、先進国中間層の崩壊により達成された。
 世界は変った。日本も変った。スラムはある意味では、日本が途上国の貧困を肩代わりしているとも言えた。

 人の境遇も変る。
 ただ先進国に生まれたというだけで、どこの途上国の人間よりもよい生活を保障されるわけではなかった。

 そして、国家は国内に生まれた貧困により疲弊する。
 富の再配分のより利益を得たのは、世界に市場を求める巨大企業群であった。
 世界の対立は「国家対巨大企業」という局面を迎えていた。

 晶がガラスで隔たれた瞳で見ている世界。
 それは、そのような世界であった。
 広がる荒れたスラムはその象徴でもあった。

        ◇◇◇◇◇◇
 
 駅に降り立つ。
 山が空を圧するような場所だった。
 民家も見当たらない。
 どうしてこんなところに駅があるのか、それ自体が不可解に見える場所だった。

「鳴海晶様ですか?」
「はい」

 黒い背広にサングラスをかけた男が声をかけてきた。
 すでに迎えの車が来ていた。
 黒い光沢に包まれたある種の甲虫を想起させるような車だった。

「こちらへ」

 晶は導かれるまま、車に乗った。
 危険はない――と、思っていたのかもしれない。
 ただ、外からその内面がどうであるのかは、全く分からぬ女だった。
 どんよりと曇った瞳のまま、後部座席に身を沈めた。
 車は、かすかなモーター音を沈黙の中に吐き出す。
 ゆっくりと発進した。
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