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6.口付け
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それは、偶然だった。
家庭教師の無い日、鋭一がコンビ二に言った帰りだった。コンビ二の前の大通りにふと目をやった。枝だけになった、こげ茶の桜並木の向こうに歩いている。
晶――
見間違えるはずもなかった。
背丈、横顔、髪型……
どうみても晶だ。
――なんで、女の人と。
一緒に歩いていたのは、小柄な女の人だった。距離が近い。物理的にも精神的にもふたりの距離が近く見えた。
晶は、久しく見せていない笑顔をその女に見せていた。
すぅぅっと息を吸う。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け――
なんども心の中で唱えた。指先から温度が失われていく感覚。
――なんでもない。ただの大学の友達かもしれないじゃないか。
そう思う。
が、体は駆け出していた。
鋭一はその光景を背後に残し駆け出していたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「受験が終わったら返事をしてくれるんだよね」
家庭教師を受けている最中だった。
真っ直ぐな眼差しを向け、鋭一は言った。
「うん。答える」
「待ちきれそうにない……」
「えッ?」
晶にとっては不意を突かれた言葉だった。
受験が終われば、結果がどうなるにせよ、鋭一の思いに応えようと漠然とは思っていた。
あのアクシデント――そうアクシデントだ――の後、この種の話題はしないことというのが、ふたりの間の暗黙の了解だと晶は思っていた。
「おれもう、我慢ができないんだ。晶が好きなんだ。小さいころからずっと――。取られたくないんだ。他の人には。絶対に。だから、おれ――」
溢れ出すような言葉だった。普段はさほど饒舌とはいえない鋭一が一気に言い募った。
「取られたくないって……」
「見た。おれ見たんだ」
「何を?」
「女の人と歩いているところ」
「え…… それは」
晶は記憶を漁る。すぐに思い当たることがあった。
大学で同じゼミにいる女子だった。たまたま、彼女のバイトがこの付近で、偶然出会っただけだった。
「多分、大学の友人とか、そんなだと思う」
鋭一が先回りして言った。
「そうだけど。ぼくには彼女なんていないし」
晶も事実をそのまま言った。
「だけど、耐えられなかったんだ。このままじゃ、晶を他の人に取られるかもしれないって。おれは、まだ子どもだし、晶は大学生だし……。このままじゃおれは……」
泣きじゃくる子どものような表情で、鋭一は一気に言葉をあふれ出させた。虚飾も打算もない言葉だった。
「鋭一、ぼくは……」
「おれは、嘘はいらない」
ぽろりと零れ出した言葉は、晶の胸をキュッと締め付ける。
「ぼくも、好きだ。ずっと好きだ。でも、それは……」
本当のことを言おうとする。でも、口から出た瞬間にそれは風化し、思いの残骸となってしまうような気がした。
だから、晶は手を伸ばす。柔からな頬に指先が触れた。鋭一の温度が沁みこんでくる。
「晶?」
「本当にぼくでいいのかい」
「いいに決まっている」
「もう、幼馴染は卒業しようか――」
「誰かに取られるのは嫌だ。その前におれの物になってよ」
「なるよ。ずっと傍にいる」
すっとふたりの顔が近づく。
唇がゆっくりと重なり合った。
家庭教師の無い日、鋭一がコンビ二に言った帰りだった。コンビ二の前の大通りにふと目をやった。枝だけになった、こげ茶の桜並木の向こうに歩いている。
晶――
見間違えるはずもなかった。
背丈、横顔、髪型……
どうみても晶だ。
――なんで、女の人と。
一緒に歩いていたのは、小柄な女の人だった。距離が近い。物理的にも精神的にもふたりの距離が近く見えた。
晶は、久しく見せていない笑顔をその女に見せていた。
すぅぅっと息を吸う。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け――
なんども心の中で唱えた。指先から温度が失われていく感覚。
――なんでもない。ただの大学の友達かもしれないじゃないか。
そう思う。
が、体は駆け出していた。
鋭一はその光景を背後に残し駆け出していたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「受験が終わったら返事をしてくれるんだよね」
家庭教師を受けている最中だった。
真っ直ぐな眼差しを向け、鋭一は言った。
「うん。答える」
「待ちきれそうにない……」
「えッ?」
晶にとっては不意を突かれた言葉だった。
受験が終われば、結果がどうなるにせよ、鋭一の思いに応えようと漠然とは思っていた。
あのアクシデント――そうアクシデントだ――の後、この種の話題はしないことというのが、ふたりの間の暗黙の了解だと晶は思っていた。
「おれもう、我慢ができないんだ。晶が好きなんだ。小さいころからずっと――。取られたくないんだ。他の人には。絶対に。だから、おれ――」
溢れ出すような言葉だった。普段はさほど饒舌とはいえない鋭一が一気に言い募った。
「取られたくないって……」
「見た。おれ見たんだ」
「何を?」
「女の人と歩いているところ」
「え…… それは」
晶は記憶を漁る。すぐに思い当たることがあった。
大学で同じゼミにいる女子だった。たまたま、彼女のバイトがこの付近で、偶然出会っただけだった。
「多分、大学の友人とか、そんなだと思う」
鋭一が先回りして言った。
「そうだけど。ぼくには彼女なんていないし」
晶も事実をそのまま言った。
「だけど、耐えられなかったんだ。このままじゃ、晶を他の人に取られるかもしれないって。おれは、まだ子どもだし、晶は大学生だし……。このままじゃおれは……」
泣きじゃくる子どものような表情で、鋭一は一気に言葉をあふれ出させた。虚飾も打算もない言葉だった。
「鋭一、ぼくは……」
「おれは、嘘はいらない」
ぽろりと零れ出した言葉は、晶の胸をキュッと締め付ける。
「ぼくも、好きだ。ずっと好きだ。でも、それは……」
本当のことを言おうとする。でも、口から出た瞬間にそれは風化し、思いの残骸となってしまうような気がした。
だから、晶は手を伸ばす。柔からな頬に指先が触れた。鋭一の温度が沁みこんでくる。
「晶?」
「本当にぼくでいいのかい」
「いいに決まっている」
「もう、幼馴染は卒業しようか――」
「誰かに取られるのは嫌だ。その前におれの物になってよ」
「なるよ。ずっと傍にいる」
すっとふたりの顔が近づく。
唇がゆっくりと重なり合った。
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