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20.決戦・大神宮1

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「ところで『大神宮』ってどこやの?」

 土煙を上げ、突っ走る由良にどうにか着いてた鎖々木。
 文仕事中心の勤番侍であるが、結構タフで身体能力は高い。
 そうでなければ、由良の相手など出来はしないのだから。

「あの店で訊こう」
「閉まっとるけど」
「突き破れ! 由良」
「はいな!」

 由良は鎧戸が完全に閉まっている店を蹴破った。
 
「ぎゃぁぁぁぁ!! お許しをぉぉぉ!!」

 息を潜めて隠れていた店の者が驚愕と恐怖の混ざり合った悲鳴を上げた。
 当たり前の話である。

「違う、公儀だ! 公儀の者だぁ!」

 鎖々木が叫ぶ。
 
「ご、ご、ご、ご公儀?」
「左様! 大神宮とはどこだ!」
「いや、あの…… あそこですが。直ぐそばです」

 店の者(主人であろうか)は恐る恐る店から顔を出すとその方向を指さした。
 本当に直ぐそこであった。
 
 海に近く平らな鮒橋の宿。
 そのような場所でこんもりと盛り上がり、鬱蒼と木々が生えている場所があった。
 石造りの階段と、石垣で囲まれた台地だった。

 ――確かにこれは城のようだ。と、鎖々木は思う。
 
(見張りがかなりおるではないか……)
 
 しかも、周囲は見張りが多く。
 台地の上、木々の間にも動く人影が見える。
 
「ゆくぞ、由良。派手には動くな目立たぬよう近づく」

 鎖々木は由良に声をかける。
 由良は頷き、身を低くし、宿場の建物の影に潜むようにして進む。
 鎖々木も後を続く。
 忍者であるのに、由良が目立たぬように行動するというのが意外に鎖々木は思う。

(絶叫して突っ込まれてはどうなるか分らん)

 突き詰めて言ってしまえば、目的は「ペルリのカツラ」の奪還であった。
 それを奪った天牙独尊を倒すというのは、その手段でしかない。
 避けられぬ手段であるとしてもだ。

(カツラを無事に奪いかいさねば、ならぬからな)と、自分に言い聞かせる。

 由良が「きゃはははは! 死ねぇぇ! ぶち殺したる!」と、突撃した場合、カツラを無事に獲り返せる気がしなかった。
 とにかく、本能的にそう思ったのである。

「由良、ここでしばし様子を見る」
「忍び込んでも、ええんやけど、うち忍者だし」
「そうだな。しかし、拙速は避けよう」
「ん~、究様がそうゆーなら」

 ということで、鎖々木と由良のアホウ夫婦は、宿の建物の影に隠れ、様子を伺うのであった。

        ◇◇◇◇◇◇

「由良…… 大丈夫なのか?」

 理不尽な暴力の結晶体のような由良の呼気が荒くなっていた。
 顔の赤くなっている。

「はぁはぁはぁ、あ、あ、あ、あかん…… 欲しくなってまう~ あふぁぁん、欲しいのぉ、究様のがぁぁ――」
 
 由良は発情していた。
 これは、攻撃力を増す「忍法脱衣無法」の副作用のようなものであった。
 ドロドロに愛する良人の視線が、由良の内部で高圧のエネルギーを生み出していたのだ。
 これは、戦闘さえしていれば、消費される。
 が、見張っている状態で、鎖々木の視線に晒されることを意識していたら、あかんことになってしまったのだ。
 戦闘で消費できず、行き場のないドロドロのエネルギーが、由良の肌の下でマグマのように沸騰していた。
 それが、情欲、性欲へと逆流し、強烈な発情状態となったのである。
 
 が――

 そんな理由など、知ったところで、解決にはなにもならないし、理由も分らない。
 鎖々木は、発情した由良をぐんにゃりした顔で見つめるしかなかった。

「せめて、せめてベロチューが欲しいねん♥♥♥♥」

 細く滑るような色を見せる由良の腕が鎖々木の首に回る。
 艶やかとも言うべき色をもった唇が湿ったままゆっくりと開いた。

「仕方あるまい。駄目だ! 下は! 下は触るな! 駄目だというと――」

 由良の唇が鎖々木の口を塞いだ。
 そのまま、ふたりの下は絡み合い、溶け合い、お互いを求めあった。
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