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24.対天牙最終決戦

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 本来殺生が禁忌の場所である神宮。
 そこで、殺戮の宴が開催されていたのだからたまらない。
 
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 鎖々木究は必死にガトリング砲の転把ハンドルを回す。
 反乱軍のチンピラゴロツキどもが血まみれになって斃れていく。

(あれ? あ…… あれ?)

 必死であった鎖々木の鼻腔に血の匂いが流れ込んできた。
 きてしまった。
 網膜に映る血まみれの光景が、脳内に流れ込んでいた。

「あばぁぁぁ!!」

 鎖々木は失神。
 自分が血を見ると気を失うという弱点を忘れていたようだった。
 ただ、失神しても、惰性でガトリング砲は回転を続け、弾丸を吐き出しまくっていた。
 ようやく、銃身の回転も止まる。

 が――

 だれも鎖々木の失神に気づかなかった。
 鎖々木は目を開いたまま、意識を喪失していた。
 転把ハンドルを握ったままだ。
 それは「いつでも発射できるけど、今は小休止」というような状況に見えなくも無かった。
 
 ガトリング砲の転把を握った鎖々木には誰一人近づくことができなかった。

        ◇◇◇◇◇◇

「カツラはもっとるんかい?」

「ああ、あの毛唐のおっさんのカツラかぁ」

 明るく微塵の屈託もない笑みを浮かべ、天牙独尊は言った。
 懐からカツラを取り出した。
 無造作に、地面に投げ捨てた。

「ハゲは隠すからみっともないのだ。堂々とすればいい」

「ウチもそう思うけどな」

「話が合うなぁ。おねぇちゃんよぉ」

「でも、それとこれとは話は別や」

「そうだろうな」

「そうや」

「カツラは俺に勝ったら、拾って帰ればいい」

「そうさせてもらうわ」

 由良と天牙独尊は向かい合っていた。
 ちらりとカツラ位置を確認する由良。
 衣擦れの音を残し、由良は僅かに身につけていた腰巻をすりと脱いだ。

 全裸である――
 
 脱げば脱ぐほど強くなる。
 そして、全裸となることで、最強の防御力を得ることができる「忍法全裸無双」だった。
 二〇世紀に生まれた某PCゲームにおける忍者も、装備を外すと防御力のパラメータが上がる。
 これは、この「忍法全裸無双」に起源があることは議論の余地がないであろう。 

「ほう―― いい身体してるじゃねぇか」

「ウチを抱かせてはやらんよ」

「力づくなら?」

「やれるもんなら、やってみいや!」

 由良は腰を落とし構える。
 美麗な口元に、凶悪な笑みを浮かべた。
 天牙は怪物である。が、由良もまた鍛え上げられた人間兵器とでもいう存在だった。

「こいつはいらねーか」

 天牙はそう言って、鬼崩を投げ捨てた。

「素手でええんかい?」

「ぶん殴って犯すより、綺麗な顔のまま犯したいんでね」

「タコがぁ、ぶっ殺したる」

 叫びとともに、由良が跳んだ。
 顔面に向け一直線に蹴りを放った。
 おっぴろげの丸見えであったが、そんなのは関係なかった。

 ボコっと音がして、顔面に由良の脚が食い込む。
 その反動を使って跳ぶ――
 と、由良が動作を起こそうとした瞬間であった。
 脚を掴まれた。
 太く、岩石で出来ているかのような指が白い足首に食い込む。

「い~い、蹴りに、観音様まで拝ませてもらうとはなぁ~」

 蹴りを喰らった顔に笑みをへばり付けたまま、天牙独尊は言った。
 
 びゅッと風を切る音。
 由良の長い髪が弧を描く。
 ドーン!! と、地面が震えた。
 人が地面に激突する音ではなかった。
 鉄の塊が、大地と衝突するような音だ。

 由良の足首を握った天牙が、彼女を地べたに叩きつけたのだった。

「タコがぁぁぁ! ウチをぶん投げてタダで済むとおもぉ取るんか?」

 地面が二尺は陥没していただろう。

「ぶっ殺したるわ、マジで」

 その陥没穴から、由良が跳ね起き、吼えた。
 
「いいぜ、出来るもんならな…… さあ、楽しく殺し合いをしようじゃないか」

 ひゃうッ――
 由良は呼気と共に跳んだ。
 神宮に生えている杉の巨木めがけてだ。
 トンと、幹に着地。そのままギンッと天牙を睨む。
 反動をつけ、跳弾のように突っ込んでいく由良。天牙に向け。
 
 が――
 まるで鞠のように、由良の身体が弾かれた。
 天牙は軽く右手を振っただけだった。

 日ノ本の最強――
 天牙独尊――
 そこまでの存在であったのか……

 由良の中に少しばかりの焦りが生じる。
 ダメージはほとんど無い。
 全裸になったことで、肉体の防御力は最強になっているのだから。

(なんで、ウチの攻撃が通じないんや?)

 その思いが胸に去来する。
 ちらりと、最愛の男の方をみやった。

「あ――――ッ!! 究様ぁっぁ!!」

 由良は声を上げていた。
 鎖々木究は失神していた。ガトリング砲の転把を握り締め失神していたのだ。
 
「ウチを見て! 究様ぁぁ!」

 全裸姿を最愛の男に見てもらういことで、最強無敵の攻撃力を手にいれることができるのだ。
 今、戦闘力を担保すべき、男の視線が無くなっていたのだった。

「究様ァァ!!」

 由良の叫びがむなしく大神宮の木々をさざめかせた。
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