ボクが女体化したのは、初恋の最強女教師を倒して恋人にしたいから

中七七三

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23.先生からのお呼ばれ

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 ボクは部屋の中で「一勝した」という喜びに浸っていた。
 まだ四つも勝たなければいけない。たったの一勝かもしれない。
 でも、それでも嬉しかった。先生の立つ位置に近づいたことが実感できるのが。

 スマホが鳴った。メールの新着を知らせる音だった。
 ボクは机の上においてあったスマホを確認する。

「あ、先生からメールだ」

 先生は今日の試合を配信アプリで見ていたのだろうか?
 それで、ボクのことを知ってメールしてきたのだろうか。
 ボクの登録名は「御楯報子」になっている。
 あからさますぎだ。隠す気もない。
 百鬼なぎり先生に隠してもどうせばれる。ばれるなら隠さないで堂々としていた方がいいと思った。
 
 ボクはメールを開いて、文面を見る。
 
「え? 先生がボクに会いたいって――」

 それも、今日だった。今すぐ――
 駅前のファミレスで待ち合わせだった。
 嫌も応もない。
 先生に呼ばれたならボクは臨終の床からでも跳ね起きて向かうだろう。
 ボクは即OKの返事を送った。

        ◇◇◇◇◇◇

 ファミレスはそんなに混んでなかった。
 この時間に混んでいないというのは、ちょっと経営がまずいのかなと思うくらに空いていた。
 
 先生がボクを見つけて手を上げた。
 顔は笑っていない。真剣な表情だった。
 そんな凛とした顔もボクが先生を好きな理由だった。

 ――ああ…… あの先生の綺麗な顔をボコボコに殴ってみたい……
 ――血まみれにしてみたい…… 
 って、え?

 ボクは一瞬頭によぎったことをかき消す。
 そのほの暗い思いを身体の奥底に封じ込める。
 なんで、そんなことを思うのか――
 ボクはそんな邪悪な人間じゃないはずだ……と、思う。
 でも、得体の知れない欲望自体が尾てい骨のあたりでとぐろをまいて、脈動しているような気もしている。
 
「おめでとう――と、いったらいいのかしら?」

 先生はそう言って、ボクの姿を頭の天辺からつま先まで舐めるようにして見た。

「あぁ~ 本当に女の子にってしまったのね……」

「はい。知り合いに専門の研究者がいますから」

 そう言ってボクは座った。
 ボクの女体化改造は外科レベルの性転換などではなく、遺伝子工学技術を使った、遺伝子レベルの性転換だった。
 今、ボクの肉体は完全に女性化しているし、どんなセックスチャックをしても結果は「女性」としかでてこない。
 染色体が変異しているのだから当たり前だ。

「まったく、本当に、呆れたわ……」

 そう言って先生は下をむいて、ストローで氷だけになったグラスをかき混ぜた。
 カシャカシャと氷が音を立てる。

「こうすれば、先生と戦えるし、もし勝ったら、先生――」

「そうね、女の子にまでなって…… それもそんなに可愛く」
 
 下をむいている先生の頬が赤くなっているのに、ボクは気づいた。
 先生はずっと、ストローで氷をかき混ぜていた。
 氷のぶつかり合う音がボクと先生のふたりの間のBGMになっている。

 先生は手をとめた。
 ほとんど、氷と水で元の飲み物がなんだったか分らなくなったグラスを持ち上げる。
 で、口に氷を含んだ。

 ふふ――
 と先生はボクに向け笑みを向けた。
 瞬間。
 ピュッと、先生は氷を吹いた。
 まるで、含み針を飛ばすようにだ。

 ピシャッ――と湿った音をたて、ボクは氷を手で受け止めた。
 顔の寸前で。反射的に手が出ていた。

「ふーん。御楯君って、出来る人だったんだね――」と、先生は言った。
 
「試したんですか?」

「そう、今の氷が顔に当たってしまうようでは、とてもじゃないけど、あそこカタコンペじゃむりだもの」

「そうですか」

 そういって、ボクは手の中にあった氷を口の中に放り込む。
 そして舐めるのだった。先生との関節キス――
 意図せずその機会がやってきたなら、それを逃す術はなかった。

「あ、あ、あ、あ、あ、御楯君! あの! ちょっと!」

「先に吹きかけてきたのは先生ですよ。ボクがもらたっていいでしょ」

 これが、よく分からないウィルや細菌でも蔓延している世界ならこんなことはしない。
 が、ボクたちの世界はそんなことになっていないのだ。
 関節キス上等だった。

「ほんとうに…… 可愛い女の子になって、そんなことするなんて」

 先生はかなり恥ずかしそうに言うのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

「いや、遅れてすまん」と、やってきたのは地下闘技場カタコンペ興行主プロモーターである秩父賀美礼ちちぶがみれいさんだった。

 百鬼先生とふたりきりじゃなかったのか――と、ボクは少しがっくりくる。
 先生と秩父賀さんは、ボクに付いて「セックスチェックがどうこう」とか「高校生がどうこう」とか話をしていた。
 だけど、そんな問題は全部クリアされていることだだった。

「いちいち、そんなことで呼び出さずとも、アプリのトーク機能を使えばいいだろう?」

「教師として御楯君も呼んでそのあたりをきちんと確認したかったのよ」

「だから、その辺は問題ないというか、そもそも『地下闘技場』にそのような常識を求めてどうする気だ? 薙子。女帝だぞ、チャンピオンだぞ、アンタは――」

 正当性とか健全性の話をすれば、ルール無用の素手の戦い。
 それも、掛けの対象になっている戦いに関して常識を持ち出すほうがズレている。

「アンタさぁ、御楯君が可愛くなったもんで慌ててるの?」

「そ、そんなここちょはない!」

「噛むなよ」

「そんなことはないわ。わたしはノーマルよ」

 先生は語尾を震わせるようにしながら言った。

「――あ、それから」と、秩父賀さんはうろたえる先生をスルーしてボクを見た。

「次の対戦相手は決まったわ。仕合は来週の日曜日」

 秩父賀さんは「楽しみにしているわ」とニッと笑って言った。
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