ボクが女体化したのは、初恋の最強女教師を倒して恋人にしたいから

中七七三

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48.ボクが勝って先生を手にいれるまで

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 頭蓋の中に心臓が移動して、血管がホースのようになって頭に巻き付いているかのような――
 割れ鐘が響くような感じが取れない。
 闇の中だった――
 ああ、目を開けないと、とボクは思う。
 
 ボクは重くなったまぶたをゆっくりと開けた。
 眼球の上を這いずるかのようにまぶたが動く。

 闘技場カタコンベ
 え?
 なんで、天井がこんな近いんだ。
 なんで、天井が真っ白なんだ。

 戦いは?
 ボクはまだギブアップしていない。
 でも、倒れているのか?

 立たなきゃ。
 立つんだ。
 ボクは、まるで自分の物のように感じられなくなった脚をなんとか動かす。
 激痛が生じた。痛風患者が感じるような激痛なのだろうか?
 とにかく、それで自分の脚なんだと実感できた。
 
 両脚を折り曲げた。
 手を突く。
 なんとか身体が動く。
 首は?
 首を動かすが、ギシギシと軋むようでまるで、油の切れたギアのようだった。

 記憶が混濁している。
 先生と戦っていたはずなのに、以前戦った女の人たちが混じってくる。
 モザイクのような記憶の中――

 それでもはっきりしていることがある。

 ボクは生きている。そしてギブアップしていない。
 だから立つ。何度でも立つ。

 深呼吸をした。
 なんで?
 え、地面が……
 そのときボクは、自分がシーツの上―― ベッドか? そんな物の上にいることに気づいた。
 網膜に映った映像から、脳がある種の結論を導く。

「病院…… ここは病室なのか?」

 その言葉をボクは口にしていた。
 手には包帯がぐるぐる巻きになって、真っ白な棍棒のようになっている。今気づいた。
 まだ、記憶が錯綜している。
 ああ、先生との戦いで指が砕かれたんだと、やっと思い出す。

 深く息を吐いた。
 負けた……
 ボクは負けたのか?
 ボクは上半身を起こした。

 そして、そこで見た。
 先生がいた。
 百鬼薙子なぎりなぎこ先生

「せ、先生……」
「いいのよ、寝ていなさい」
「ボクはまだ…… ギブアップしてません」
「そうね」
「負けてません」
「……」

 先生は長いまつげで縁取られた瞳を真っ直ぐこちらに向けていた。
 魂を吸い込まれそうなほど、深い色をした瞳だった。

 ボクはベットから立ち上がる。
 リュウマチ患者がむりやり立ち上がるかのように、ふらふらとしたものだった。

「御楯君」

 すっと先生がボクに近づいて来た。
 先生は手を広げギュッとボクを抱きかかえた。

「先生―― ボクは」

 言葉の先は、先生の唇でふさがれた。
 先生の舌がボクの口の中に割り入ってくる。
 高い温度を持った先生の舌がボクの舌にまきついてきた。
 
 口の中でうねうねと舌と舌が絡み合った。

 そして、ボクはベッドに押し倒されたのだった……

        ◇◇◇◇◇◇

 ボクがいたのは、地下闘技場に併設された医療施設だった。
 そこで応急措置を受けた後、従姉の晶の大学へ搬送された。
 遺伝子治療を受けるために。

 晶は「なんだ、あの女教師に負けたのか? 度し難い。全く持って度し難い」といいながらも遺伝子治療を施してくれた。
 お陰で、ボクの身体は数日で日常生活に問題ないくらいには動けるようになった。
 本来なら全治数ヶ月どころか、後遺症が残りかねない重症だったにも関わらず。

        ◇◇◇◇◇◇

「なんか、遺伝子治療するたびに、おっぱいが大きくなっているような……」

 ボクは数日ぶりに学校へ行った。
 サラシで縛っていても、女性的な身体のラインを隠すのが難しくなっている。
 いつも、男子の視線を感じるような状況だった。

 放課後、ボクは自分の方から百鬼先生を呼び出した。
 人気のない校舎の裏側。
 雑多な木々が生えているだけで、他にはなにもない場所だった。

「先生――」

「御楯君、こんな場所に私を呼び出して、どうする気かしら?」
  
 ふふっと唇にかすかな笑みを湛え先生は言った。

「続きをしましょう」

 ボクは言った。
 
「あら、ベッドでの続きを、学び舎で…… 意外にいやらしいのね」

「そうじゃないです!」

 ボクは言った、傷だらけのボクに散々、いやらしいことをしたのは先生だ。
 その口で何をいうのだろうか。

「ふーん、じゃあなんの続きかしら?」

 木々の間を吹き抜ける風に煽られ、先生の長いポニーテールが大きく揺れた。

「戦いの、先生との戦いを」

「本気?」

「本気です」

「いいわ。どこでも、今ここでも、戦いは仕掛けられたら受けるしかないもの」

 先生は心底楽しそうにボクを見やった。

「先生ぇぇぇぇ――!!」

 ボクは先生に向かって一気に間合いをつめた。
 ボクは先生を諦めない。
 死ぬまで。
 息の根が止まるまで。
 
 先生が好きだ。
 先生が好きだ。
 先生をボクの恋人にする。
 だからボクは先生と戦い倒す。

 女の子の身体になって、言い訳のできない敗北を先生に与える。

 ボクは絶対に諦めない。負けたと思わない限り、絶対に負けない。
 それは、勝負の途中なんだ。
 だから、ボクはずっと先生と戦い続ける。

 ボクが勝って先生を手にいれるまで。

 ボクの渾身の突きが先生の貌に向かって伸びて言った。
 微笑みめがけ拳が走る。
 力も体重も愛も全てを込めた突きだった。

――完―― 
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感想 2

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みんなの感想(2件)

あむ
2020.07.08 あむ
ネタバレ含む
2020.07.08 中七七三

そんな意図はないんですけどねw

解除
あきらつかさ

TSがいつ来るのかが気になっています。
続き、楽しみにしています。

2020.06.28 中七七三

ありがとうございます!

解除

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