婚約破棄した姉の代わりに俺が王子に嫁ぐわけですか?

中七七三

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3.すごく変な王子なんだけど

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 徒歩よりも遅い馬車に揺られ、俺はやっと王城に到着した。

「ついてきなさい」と、となりに座っていた石で出来たような女官(?)が俺に言った。
 俺は「はい」と言って馬車を降りる。でもって、その女官の後に付いていく。
 まあ、地声は低くないので、普通に話しても少し声の低い女程度にはごまかせるとは思う。
 ただ、なるべくボロが出ないようにしゃべらないようにした。
 別に話すこともないし、話したいとも思わなかったし。
 
 城門をくぐって城内に入った。

 さすがに王城はデカイ。
 本来は軍事的な目的があった巨大な塔は、王の権威を表す建造物に変わっていた。

『民よひれ伏せ。これが王だ!』って感じだ。

 そして、これまた権威を示す以外目的を感じない非効率極まりないデカイ扉。
 それがギリギリと開いて、中に入っていく。
 
(すぐに、後宮とやらに行くのか)

 城内に入り、広い廊下を歩いていく。
 さすがに外壁のように石がむき出しということはなく、木造で落ちつく感じになっていた。
 それにしても、長い廊下だ。

 ここが、王国の中心であり政治の中心。
 政治とは国家の経営であり、でかい商売みたいなもんだろうと思う。
 ふと、そんなことを考えた。俺は根っからの商売人なのだなぁと思ったりする。

 とにかく、早くあの逃亡した「虐殺守護天使」の姉を連れ戻し、俺と入れ替わってもらわないとヤバいのだ。
 どの程度の間、俺が男だとバレないでいられるか、その目算が今のことろ立たない。

 これまた、無駄にでかい扉の前で女官が立ち止まった。
 扉の脇には屈強な男が左右に2人控えていた。
 完全に頭を下げ、臣下の礼をとっている。

(なんだ、この部屋は)と、俺は思っていると女官が口を開いた。

「王家の方々との面会となります――」

 カチカチの抑揚のない声だった。
 
(王家の人間と面会かよ…… く…… バレねぇよなぁ。大丈夫だよなぁ)

 今のところ、誰にも不審には思われていない。
 顔を見ただけで、バレる心配はないとは思う。
 姉そっくりの女顔で、しかも背も同じくらい。
 コルセットでギュッと締めた腰はかなり細くなっている。
 ちと苦しいが。

 しかし、結婚相手(本当は俺じゃないぞ)の王子に会うというのは緊張を強いられた。
 ドキドキしてくるが。別にときめいているわけじゃない。
 証拠に手のひらと背中は嫌なあせでびっしょりだ。これは恐怖と緊張だ。

「開けよ」

 石人形のような女官が言うと、ぬっと脇にいた男が立ちあがる。 
 凄まじい筋肉の巨体。扉に手をかけ「ぐぬぬぬぬぬ――ッ!!」と全身の血管が破裂しそうなほどの力を込めていく。
 扉がゆっくりと動いていく。引き戸だ。観音開きではない。

 こんな巨大で重い扉を観音開の構造するとおそらく、設計から施工まで相当費用が掛かるだろうなと思う。
 まあ、引き戸でもいいが、なんで、2人の屈強な男でなければ開けられないような扉にするのか?
 不経済であり、人的資源の無駄遣いにしか見えない。

(このふたりの給料はいくらなんだ? もしかして扉を開けるだけの仕事なのか?)

 と、思っていると「ギリ~ギリ~ッ」と軋み音を上げ、扉が開いた。
 
「では」

 そう言って、目で俺に中に入るように促す女官。
 視線までカラクリめいて人間味が無い感じがする。
 女官が入り、俺はそれに続いた。
 
 そして、後ろでは再び軋む音が響いている。
 扉が閉まっているのだろう。なんとも、いちいち大げさで不経済だ。

(誰もいないじゃないか……)

 俺はガラーンとした部屋を見た。
 確かに装飾を凝らした壁や天井など、金がかかっている感じだ。
 おそらくは、王家の者と臣下や外部の人間が謁見する部屋なのだろうと思う。
 税金を絞りとって、こんなことに使っていたのか…… 

 俺は、この無駄に豪華な部屋の装飾を見てちょっとムッとした。
 エンドール家が王国に納める税金は膨大な金額になっているのだ。
 貴族の領主階級はどうだか知らない。
 ただ、俺としては毎年「搾り取られている」という感じがしていたのだ。
 しかも、納税の事務処理は面倒だし――

(こんな広さも、装飾もいらんだろう……)

 と、俺が「税の正しい使い方」について考えていたら、王家の人たちがやってきた。 
 王子だけじゃない。
 お年を召された女性(おばはん)もいた。王妃か? 
 他にも偉そうな人と、護衛がゾロゾロと入場してきたのだ。
 
(王様はいないか…… お加減が悪いという噂は本当か)
 
 俺はチラリと思う。 
 彼らは、一段高いところにあるイスに座っていく。
 真ん中には、王妃らしきおばさんが座っていた。
 
 彼女からはどーみても好意的な視線を感じない。
 嫁姑問題は、王家にも有るのかなぁと思う。いや俺がそのまま嫁になるわけではないが。

 俺はずっと立ちぱなしだ。そのせいか、腰を絞めつけるコルセットが痛くなってきた…… 

 俺は儀礼に従った所作で定型的感じで「陛下においてはご機嫌麗しゅう――」ってな感じであいさつし名乗る。
 その儀礼的な体勢が、結構キツイ。ギリギリとコルセットが俺の身体に喰いこんでくる。
 ほぼ拷問。
 
「ヵ…… ファウラ・エンドールにございます――」

 やべ、「カナタ」と言いそうなった。集中しろ俺。
 待たされたせいで、緊張とコルセットの痛みがきつくなって、凡ミスをやらかすとこだった。
 チラリと中央にいる王妃の顔を見た。顔つきに変化はない。
 非好意的な感じなのは変わらなかった。

 俺のアホウのような儀礼的な挨拶が終わる。
 まだ、気を緩めるわけにはいかなかった。

「素晴らしい――」

 男の声だった。若い男だ。明らかに興奮して俺を見ていた。
 イケメンだよ。王子か? まあ、噂の90%くらいは本当だと言っていいレベルのイケメンだった。
 緩やかにウェイブのかかった金髪で肩より下の長い髪をしている。
 にこやかに笑みを浮かべこっちをみている。
 
 確かに整った顔をしているが――
 よく言えば、人の良さそうな感じ。
 悪く言えば少し頭の中身に弱点を持っていそうな感じだった。
 端的に言ってしまえば「バカ王子」という感じだ。
 なにか、軽薄な感じがしまくるのだ。

 王子は言葉を続けた。 

「それに美しい―― 『虐殺守護天使』ファウラ・エンドール。美貌の女剣士と聞いていたが、噂に違わぬ、いやそれ以上の美貌だ」

 おそらく、本心からだろう。善人ではあるのかもしれない。
 王家の人間としては、どうかと思うが……

「トマス王子、まだ返礼が済んでいませんよ」
「ああ、そうですね。すいません母上。どうにも、ボクは、こういうのは苦手で。はははは」

 王妃が初めて口を開いた。
 トマス王子――
 それは、俺―― いやいやいや! 姉だ。姉さんの婿になる王子だ。

 そして、儀礼的で伝統に即した返礼が行われる。
 王妃の返礼が終わり、王子が立ちあがった。

「トマス第二王子です。兄ほうが体調が悪いそうで……」

 とても、王族とは思えない様な馴れ馴れしい言葉づかいで話し出した。

「気分屋なんですよね。兄さんは、まあ、でも悪い人じゃないんで―― 多分、近々会えると思うんですけど」

 咳払いの音が聞こえた。
 年かさの男だった。それを聞いて「あははは、いや関係ないか。今は」と言って、返礼を始める王子だった。
 
 俺はポカーンだ。
 え?
 ここにいるのは、王妃と王子、それからそれに連なる王族だ。
 しかし、王子は弟で、第二王子ということか?

 事前に俺は入手した情報では王子に弟がいたとか、ないんだが……
 どうにも、王室内部は秘密主義がすぎる。 

 で、実際に当事者の王子は、正室となる許嫁がやって来たにも関わらず、すっぽかしたわけか?
 なんだそれ?

 本当に体調が悪いのか?
 それとも第二王子のトマスが言った「気分屋」という言葉が気になる。
 この第二王子もアレだが、それよりもっと酷いのか?
 
 しかしだ――
 とにかく俺は、一応は王室関係の人間の顔と名前を頭に叩き込む。
 この中で、要注意はおそらく王妃だ。
 どー考えても俺に対し、好意を持っているとは思えない。

(平民での商人がなんで王室に……)という思いがあるんだろうと思う。
 確か彼女は隣国の王室の出身だ。
 しかも、正室ではあるが、以前の正室が亡くなって、その後に正室になったはずだ。
 分かる範囲では、王室の情報を仕入れて頭に入れてはあるが、時間がなくてそれほどの情報が得られたわけでもない。
 第二王子の存在もつかめなかったくらいだ。それにしても、これは手落ちだ。なぜだ――

 エンドール商会は、大貴族相手に商売をやり、王国中枢ともコネクションを持っている。
 それでも、王室の個々人に関する情報を手に入れるのは難しかった。

 どこの王国の王室も同じだ。
 秘密は権威を生み出すと信じており、外部からの「呪詛」とかそういった古臭くありもしない脅威に怯えているのだ。

 コルセットの痛みに耐え、やっと儀礼が終わりに近づく。
 
「ファウラ・エンドールよ。我が王国の伝統を引き継ぎ、栄光ある王家の血を守るため、精進を期待します――」

 王妃は言葉で儀礼は終了した。
 俺も伝統に従った儀礼と作法で、その言葉をありがたく頂戴するのだ。
 
 こっちも身分の高い人間相手に商売もしてきている。
 基本は分かっているので、俺にはそういった部分で戸惑いはあまりない。
 ただ、これが姉だったら…… 途中でブチ切れていたかもしれん。

 俺は、来た時と同じように、女官の後をついて謁見の間を出る。

「では、後宮に向かいます。そこでアナタは、王妃となる相応しい教育を受けもらういます―― それまでは、あくまでもアナタは「王妃候補」です」
 
「はい」

 最低限「話を聞いていますよ」という意思表示の返事をする。
 
(しかし、王妃となる教育か…… 座学なら、まあしばらくはしのげるか)
 
 この時の俺は、王家の王妃という存在を甘くみていた。

 その最大の役割は?
 王家の血を絶やさず、跡継ぎを生むこと。
 そしてそのために、何を学び、何をすべきなのか?

 恐怖の後宮教育が俺を待っているなどと夢想だにもしていなかった。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

上里純一
2017.09.19 上里純一

真夏の夜の夢みたいな大団円でした!エエ話やんかー

2017.09.19 中七七三

感想ありがとうございます。ツギクルさまにはガイドラインでアウトといわれて、消されましたwww

解除
ぽん
2017.06.18 ぽん

題名だけ見ると、あれ、普通の小説なんじゃない?と思ってですね。
しかし、途中ミダーラ師が出てきた時はあっやっぱり、と思ってですね。
しかし最後は感動させてきてですね。
要するにいいお話でしたね。
最後の部分はカナタは商会に戻って、2代目として継ぐと思ってました。。。

(前に感想書かれてたぽんさんとは別人です!!)

2017.06.18 中七七三

感想ありがとうございます。ギャグとエロと勢いで攻めて、ラストでいきなり感動というのは、昔のガイナックスのアニメの影響かなとは思うのです。ふたりはどこへ行ったのか、続編も頭の中にはあるのですけどね。

解除
にんげんだもの

無茶苦茶なギャグ展開からの謎の感動ラストが相変わらずですよねw
計算しているのですか。

誤字
最終話
「行こうか! ラース」はラーサでは。

2017.05.22 中七七三

感想ありがとうございます。バカの一つ覚えですね。マジで。
ご指摘ありがとうございました。修正しました。

解除

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