無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三

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その22:東京空襲! 小笠原沖海戦 6

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 エンタープライズを直撃した25番(250キロ爆弾)は2発とも陸用爆弾だった。
 1発は偶然にも故障し下がった状態で止まっている中央エレベータを襲った。
 瞬発信管が内部の高性能炸薬を化学反応させる。灼熱の塊となった爆風が破壊をもたらした。
 この命中により、復旧作業中の要員38名が死亡した。
 さらに、もう一発は、右舷後部の5インチ両用砲2門を叩き潰した。
 
 ホーネットには1発の通常弾が命中。遅延信管は飛行甲板を貫き、機関室の天井をガードする装甲の上で信管を作動させた。
 カタログ上50ミリの装甲を貫く性能をもっている25番であったが、飛行甲板を貫いた時点で減速。
 機関部を守る37ミリ装甲に止められることになった。
 しかし、この爆発により、周囲に火災発生。爆発の振動により、機関部のシステムが損傷した。同時に火災も発生する。
 やがて、ダメージにより船足が落ちていく。
 甲板に空いた破孔はそれほど大きくはなかったが、内部に侵攻した爆弾のダメージは小さくなかった。

 25番の1発や2発で、2万トンを超える空母は沈まない。
 しかし、無傷ではいられないのも事実だった。
 エンタープライズとホーネットは火災を起こし、黒い煙をたなびかせていた。
 
「クソがぁぁぁ!! ジャップ! 殺す! ジャップ! 殺してやる! 生かして帰すな叩き落せ!」
 エンタープライズではハルゼーが吼えていた。
「提督、傷が……」
「うるさい! つばつけとけば治るわぁッ!」
 殺意のこもった目で傷の心配をした士官を睨み付ける。
 ハルゼーは転倒して頭を切っていた。
 血まみれの顔で目が爛々と光っている。

「被害は!?」
「はい! 中央エレベータと右舷後部両用砲に被弾しました。1000ポンド級の爆弾と思われます」
「早急に消火しろ! 絶対にだ!」
 
 爆弾に関しては明らかに過大な評価だった。実質日本軍の25番(250キロ爆弾)の重量はアメリカの500ポンド爆弾をやや上回る程度だ。

 ハルゼーのこの言葉を待つまでもなく、ダメージコントロールチームは消火作業を開始していた。
 右舷後部の火災はほぼ鎮火していたが、中央エレベータ付近の火災は厄介だった。
 迎撃準備のため、ガソリンを満載したF4F複数機が格納庫内にあった。
 これらの機体に延焼した場合、艦のダメージは更に深刻になる。
 ホースから水がまかれ、F4Fは格納庫開口部から海に投棄されていく。
 いくら物量を誇るアメリカ海軍とはいえ、使える戦闘機の廃棄は痛い。
 まだ、敵の勢力圏内にあるのだ。現在、空母が最も頼れるのは、自分が積んでいる航空機なのだ。
 特に守勢に回れば、戦闘機の役割は非常に大きい。

 戦闘機の廃棄は背に腹を代えられないものだった。現場の士官が廃棄を指示し、F4Fはどんどん海に沈んでいく。
 アメリカの艦艇はダメージコントロールに優れると評価されている。
 爆弾、魚雷を受けても、戦闘力を維持し、戦場に踏みとどまる能力。または、沈んでしまいそうな局面を切り抜ける能力だ。

 特に、空母の場合は、開放式格納庫の採用で、可燃物を即廃棄できたのが大きかった。
 また、基礎化学工業の優越。不燃材料や塗料の使用。
 そして、優れた教育マニュアルの存在。
 アメリカという国家の持つ技術力のすそ野の広さが、優れたダメージコントロールを実現していた。

 しかしだ――
 アメリカ側にとっても、航空機の廃棄は、非常に痛いことであった。
 被害を局限する行為は、航空戦力の減殺を意味していたのだ。
 空母を空母たらしてめている能力の減殺、もしくは喪失と言ってもよかった。
 しかも、姉妹であるホーネットはB-25を搭載したため、本作戦では空母本来の機能を元々持っていなかった。
 エンタープライズの戦力喪失は極めて危険な状況と言えた。

「ホーネットからです。機関部損傷、最大22ノットです」
「クソがぁぁ!」
 
 ハルゼーは血で汚れた己の髪の毛をかきむしった。

「やつらは、まだ来る……」
 ハルゼーは蒼空を見つめ、つぶやくように断言した。
 第十八任務部隊の長い一日はまだ始まったばかりだった。
 
        ◇◇◇◇◇◇

 30機で攻撃して、3発の命中。
 これをどう評価すべきなのか、井本大尉は考えた。
 すでに、編隊はバラバラだった。
 確認できる範囲で、味方は4~5機しか残っていないような気がした。
 自分たちの機も地獄だった。
 機内はドロドロとした血の臭いが充満していた。
 尾部機銃の配置についていた通信士は頭を撃ちぬかれ死んでいた。
 機関士は腹を撃ちぬかれ、ひん死の状態だ。もう長くはもたないだろう。

 今のところ、エンジンに異常はなく、飛行には問題はない。
 投弾後にしつこく追いすがってきたグラマンF4Fはもういなかった。
 彼は、実戦が初めてではなかった。中国戦線からのベテランだ。
 対空砲火の中を飛ぶのも、敵戦闘機との交戦も初めてではない。

 しかしだ――
 次元が違っていた。
 対空砲火の密度、正確さが違った。
 戦闘機パイロットは執念深い。技量も低くない。

 自分たちの敵となるアメリカという国の持つ力。その片鱗を彼は味わっていた。
 それは、彼の軍人としての必勝の信念を揺るがせるものではなかった。
 ただ、この戦争で自分は生き残れないだろうということを確信させるものだった。
 苦くドロドロとした思いが胸の内にあった。

 彼は残った1名の通信士に打電させる。
 敵空母に爆弾命中、そして、自分たちが壊滅状態になったことを。

        ◇◇◇◇◇◇

 柱島の大和には刻々と情報が集まってくる。

「空母に爆弾が命中。しかし、陸攻が全滅……」 

 俺は絶句した。90機の陸攻が全滅したようだ。
 足元が崩れて、平衡感覚が無くなっていくような気がした。

「いえ、第一波の30機攻撃です。残りは……」
 黒島先任参謀が自分自身でも状況を整理しながら、俺に言ってくる。
 90機が全滅したわけではないことを説明する。
 ああ、そうか……

「残りは、接敵に失敗して帰還か……」
「はい。悪天候に阻まれたようです。30機が接敵し攻撃できただけでも幸運かと」

 冗談じゃなかった。
 なんのために、準備をしてきたのか。ここで、空母を仕留められないなら、俺のやったことは意味がない。

「アメリカの防空能力を甘くみたか……」
「はぁ……」

 また、長官の「恐米空母病」がでたか、という感じで俺を見つめる黒島先任参謀。
 はいはい、怖いですよ。怖い。
 やはり、基礎的な技術力が違いすぎる。
 これは、決して日本が悪いというわけではない。
 アメリカがチートすぎるんだ。
 1942年時点、艦隊の対空戦闘能力では、アメリカが突き抜けすぎなんだ。
 高角砲の性能からして違う。
 日本の八九式12.7サンチ高角砲だって悪くない。
 世界水準だよ。
 単純なスペックを見ればやや劣っているかなという程度にみえる。
 
 ただしだ……
 供給される電力が全然違うので砲の旋回速度などが全然違う。
 おまけに、射撃管制システムの精度が違いすぎる。
 VT信管が話題になることが多いが、これだって弾を近くに飛ばさないことには意味がないんだ。
 電波の反射で信管を作動させ、従来の時限信管では実現できなかった命中率を達成するという物。
 でも、これだって、正確な射撃があってこその兵器だ。
 三次元機動する航空機に対し、きっちり撃てなきゃ意味は無い。

 新兵器というより、その新兵器を生かすための兵器システムの基盤が分厚すぎた。
 仮に日本がVT信管だけを供給されても、アメリカほどの対空火力を実現できるかどうかは怪しいものだ。

 日本は高角砲の射撃装置の量産も四苦八苦するんだ。防空駆逐艦の秋月型も、そのため射撃装置を1個しか搭載できなくなる。

 なんで、こんなチート国家に戦争吹っかけたのか……
 他の国ならまだ、技術的にも勝負になるのに……

 これが、もしイギリスの空母だったら、こんなことにはならなかったと思う。
 現時点の対空火力は貧弱だ。日本より弱い。

 技術先進国といわれるドイツはどうか?
 戦艦ビスマルクは複葉のソードフィッシュに魚雷喰らって逃げ切ることができなかった。
 15機の旧式雷撃を1機も撃墜できなかったじゃないか。
 大したことねーだろ。

 日本は相手が悪すぎる。アメリカが強すぎだ。
 しかも、これからもっと強くなるのだ。
 残りの変身の回数をたっぷり残したフ〇ーザ様のようなものだよ。
 日本だってベ〇ータくらいは強いよね。
 だけど、〇空はいないし。
 俺の思考がグダグダになってくる。 

「まだ、五航戦がいます」

 長身の渡辺参謀が、俺に言った。強い口調だった。
 俺の思考が現実に引き戻された。

「五航戦か……」

 空母翔鶴、瑞鶴を基幹とした機動部隊だ。
 日本海軍の最新鋭空母。完成度の高さでは、折り紙つきの空母だ。
 最高速度34ノット以上。
 搭載機は補用機を含め80機以上。
 1942年現在、エセックス級が生まれるまでは世界最強の空母かもしれない。
 
 この二隻は、史実では聯合艦隊が壊滅するまで、戦い抜いた殊勲艦だった。
 日本海軍最強の空母といっていい。搭乗員の練度は比較的低いといわれるが、それでも現在のアメリカ海軍より優位だ。

 そうだ。五航空戦はどこだ?
 確かに、配置はしているが、今のところどこにいるのか、俺も分からない。
 無線封止で行動中なのだ。
 たしかに、第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴が敵を捕らえれば、米空母を仕留める可能性はあった。

「彼らはどこだ?」
 意味の無いことを俺は訊いてしまった。

「無線封止中ですが、おそらく、敵空母の位置情報は掴んでいるはずです。大和からも通信は送っています――」
 そんな俺を元気づけるように、渡辺参謀は力強く言った。

 まだ、戦闘は終わっていない――
 そうだ。まだこれからだ。
 敵だって、無傷じゃない。

「敵機です! 敵機東京湾に侵入!」
 
 来た――

 そうだ。攻撃しているのは、こっちだけじゃない。
 奴らもまた、帝都を爆撃に来ているんだ。
 ドゥーリトルが来たんだ。

 刻々と局面を変える状況の中に俺はいた。
 まさしく、それは見通すことのできない未来がそこにあるという宣告に聞こえた。
 俺は「今」という場に立っていることを実感した。

        ◇◇◇◇◇◇

 アメリカの防空能力は確かに高かった。
 しかし、それはアメリカ艦隊の安全を100パーセント保障するものではなかった。
 現にエンタープライズ、ホーネットには火災が発生。
 エンタープライズは、火災を鎮火し、飛行甲板の損傷の修繕を開始していた。
 落ち込んだ中央エレベータを養生する作業だった。

 ホーネットの火災は思ったより深刻な状況だった。
 飛行甲板を利用することも困難になっている。

 上空に待機している7機のF4Fワイルドキャットの燃料は刻々と減っていく。エンタープライズの修理が終わらねば着艦ができない。

 アメリカ海軍の防空能力を支えるレーダによる監視体制。
 アメリカ海軍にとっても、最新鋭の先端技術の塊ともいえる兵器だった。
 そして、それはまだ多くの解決しなければいけない、運用上の問題、そしてハードに起因する問題を内包していた。

 一つが太陽光の方で誤動作をする確率が高い事だった。
 太陽は光だけではなく、様々な電磁波を出している。光自体が電磁波の一種でもある。
 それが干渉を引き起こし、探知できない不具合があった。
 
 その問題が今ここで起きていた。
 彼らは雲間からいきなり出現したように思えた。

 上空待機していたF4Fの翼がへし折られ、叩き落された。
 20ミリ機銃の直撃が翼の主桁を粉砕していた。
 クルクルと放り投げられたゴミのように機体が落ちていく。

 翼を翻し、鋭いターンをうつ飴色の戦闘機。
 その翼には太陽の紋章が刻まれていた。

 零式艦上戦闘機21型。
 1942年現在、世界最強の艦上戦闘機だ。
 風防を開けパイロットは僚機に手信号を送る。

 雲間から、後続の翼が出現した。
 九九式艦上爆撃機、九七式艦上攻撃機――
 
 連合国の艦船を死神のように狩りまくった九九式艦爆。
 同時代、世界最高性能の艦上雷撃機である九七式艦上攻撃機。

 日本という持たざる国が造り上げた、鋭い刃であった。

 総勢54機の編隊。
 彼らはその視界に2隻の敵空母を捕えていた。
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