無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三

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その127:急転!ラバウル迎撃戦 南海の死闘・蒼空の熾戦 その3

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「第一航空艦隊からの連絡は――」
「連絡有りません。無線封止中かと思われます」
「ブイン、バレラ、ラビからは?」
「その後の連絡はありません」

「第六艦隊司令部より、入電――」
「なんだ!」
「敵空母2、戦艦6、進路変わらず――」
「戦艦2じゃないのか、重巡4の間違いじゃないのか! どっちなんだ!」

 情報が錯そうする。
 空母2隻は間違いないとこだ。サラトガとレンジャー。
 これは複数の偵察情報が一致している。
 
 ただ、戦艦の数が合わない。報告にバラつきがある。
 重巡と戦艦の誤認はあり得る話だ。
 空母2隻、戦艦は6~2、その他駆逐艦を含む艦隊がソロモン海を北上している。
 これだけは間違いない。
 
「とにかく、ここは空母を叩くべきでしょう。その他の艦など後からどうにでもなります」

 黒島先任参謀が俺の方をむいてゆっくりと言った
 ゆっくりな言葉は、俺に対し「少しは落ち着け」と言っているような気がした。

 俺は自分の声がイラついているのが分かった。
 大きく息を吸いこんで吐き出す。
 ここで、イライラしても、何にもできない。クソ――

 日吉の聯合艦隊司令部の作戦室。
 図上演習は中止。そもそも、その作戦を行えるかどうかすら危うくなってきた。
 俺は大机に広げられたソロモン・東部ニューギニア方面の地図を見た。

「他に米艦隊はいないのか……」
「敵を中心にほぼ周囲1200海里まで索敵しています。各基地、潜水艦搭載水上機まで動員しています。もし、このエリア外にいたとしても、発見済の艦隊との連携は難しいでしょう」

 1200海里といえば2200キロメートルを超える。
 この距離では片道飛行ですら可能な艦上戦闘機はほぼないといえる。
 日米ともにだ。

 無類の足の長さを誇る零戦21型ですらカタログ値で3200キロメートル。
 F4Fで2000キロメートル少々。
 理論上は飛行できなくないが、それは机上数字だ。そのような長距離飛行はまず無理だ。
 できたとしても、幕僚が指摘するように連携は不可能といえる。

「各基地の索敵は引き続き十分に行うべきでしょう」
「それはさせているはずだ」

 幕僚の声に俺は答えた。

 ソロモン方面の重要基地の周辺海域の警戒は厳重になっているはずだ。
 この艦隊が囮だという可能性もある。
 アメリカ海軍の所有する正規空母は、サラトガ、レンジャー以外で最大で3隻の可能性がある。
 エセックス級の一番艦、エセックスは確実にいるだろう。もう1隻は分からないがいると思った方がいい。
 
 仮に、残りの空母が見つかったとしてもだ。
 劣勢な空母戦力を分けてきたという事実は変わらない。
 発見されたアメリカ機動部隊は、ソロモン海を堂々と北上してきている。
 その周囲に連携できるような他の機動部隊は存在しない。
 この艦隊が、囮にせよなんにせよ、作戦として不可解すぎる。

「潜水艦による待ち伏せの可能性もあるのではないでしょうか」

 幕僚のひとりが、ニューブリテン島とニューアイルランド島の間、そしてニューギニアとニューブリテン島の間を指さした。
 トラック基地からソロモン海方面に出るのは、どちらかを通るしかない。
 このルート以外を航行することは現実的にあり得ない。
 時間との勝負であり、油もないからだ。くそったれ――

「ラバウルの駆潜艇を回して周辺海域を警戒させる。航空機の警戒も同時に」

 アメリカの潜水艦の活動は低調な部分があるが、それは史実でもあったMk-14魚雷の複合的な不具合のおかげだ。
 この不良品の魚雷であっても斜めに当れば、信管が作動するケースが多かったはずだ。
 それに、問題を解決した魚雷を配備しつつあるかもしれない。
 油断なんかは絶対にできない。

 水中聴音機、水中探信儀は開戦以来のままの九三式だ。
 そもそも、それすらない駆逐艦もあったくらいだ。

 性能はイマイチと戦後言われるが、運用にも問題があった。
 装備時における自艦の騒音対策が十分にされていなかった。

 ハード的には、ロッシェル塩による感度の向上とか思いつくことはあった。
 しかし、既存の駆逐艦の全てに対応させる時間もお金もない。
 史実でもロッシェル塩使用の研究はずっとやっていた。ただ、ドイツの情報が入ってくる1944年まで確信がもてず、装備ができなかった。
 水に溶けやすいということと、対爆性能が悪いということだったか…‥
 俺は文系なので、その程度しか分からない。

「対潜警戒を厳にせよと、伝えよう。あとは現場を信じるしかない」

 潜水艦相手には20ノット以上で突っ走るという対策もある。
 史実の珊瑚海海戦で損傷した翔鶴がこれで、アメリカ潜水艦を振り切っている。
 ただ、現在、大日本帝國は重油不足でそれができない。

「しかし――」

 俺はあらためて、海図を見やった。
 アメリカ機動部隊を示す駒が置いてある。

「明らかに劣勢な戦力で、しかも我らの基地航空隊攻撃圏内。何をやる気なんだ――」

「サラトガ、レンジャーで最大170機くらいですな」

 宇垣参謀長が言った。手帳を開いて確認している。
 サラトガとレンジャーの搭載機数を考えると、言っていることは間違っていない。

 大艦巨砲主義者と後世では評価されることが多いが、戦闘の実相からすでに主力は航空戦力に移っていることは理解している。
 史実では軽巡「阿賀野」が就役したとき「軽巡など爆弾一発でダメになる」という意味のことを日記に書いている。
 戦争の形が変化したことを十分に理解している。
 ただ、この時間軸というか世界の中で、同じことを日記に書いているかどうかは知らない。
 
「そうですね。搭載(つむ)だけなら、もっと搭載(つめ)るかもしれませんが、運用を考えるとそれが限界でしょうか。しかし――」
「しかし?」

 樋端航空参謀は言葉を止め、手を口元に当てて沈思黙考する。
 俺は、言葉の先。何を言いかけたのか尋ねた。
 彼は俺の方を見て、口を開いた。

「山城も出しましょう。第一航空艦隊に付けた方がいいかもしれません」

 元戦艦・山城。
 樋端航空参謀は、艦隊防空艦として改造された艦の名を上げた。

        ◇◇◇◇◇◇

 再編成された第一航空艦隊が波濤を砕きソロモンの海を目指し突き進む。
 赤城、加賀、隼鷹、飛鷹、龍穣の空母を中核とする機動部隊がトラック基地を出撃していた。
 合計搭載機は270機を超える機動部隊だ。しかも、補用機を除いてだ。

 霧島、比叡の高速戦艦も随伴している。36サンチ砲8門、30ノットの韋駄天だ。
 鳥海、愛宕、高雄、摩耶の重巡。20サンチ砲10門を搭載しアメリカ重巡にはない魚雷発射管を持っている。
 更に、駆逐艦は30隻以上――

 アメリカ海軍以外にこの機動部隊に真正面から戦える艦隊を持つ国はない。
 そのアメリカでも、現有空母の全力出撃を強いられるだけの戦力のはずだった。

「空母二隻か―― 間に合うのか?」

 将棋の盤面を見つめながら、岩田飛曹長は言った。
 開戦以来の熟練者である。
 ダッチハーバー空襲、ポートモレスビー沖海戦などに参加し、7機の撃墜を記録している。
 
「基地航空隊が先に喰っちまうかもしれませんね」

 細谷一飛曹がパチンと「香車」を打った。
 彼もまた母艦航空隊として開戦以来のキャリアを積んできた戦闘機搭乗員だった。

 今、ふたりは空母「隼鷹」の戦闘機搭乗員であった。 
 商船改造空母とはいえ、2万トンを超える規模と25.5ノットの速度は正規空母に準ずる能力を持っていた。
 元々が豪華客船だったためか、居住性は良かった。
 ただ、就役当時には残っていた艦内の木製部分は撤去されるか、鉄製に交換されていた。
 塗料まで剥がす徹底的な防火対策が行われていた。
 
 そのため、居住性は以前より悪化している。
 新しく塗られた不燃性の塗料は臭いのだった。
 それでも、隼鷹の居住性は聯合艦隊の中でもTOPクラスだ。

 空母の航空隊の搭乗員は、戦いの現場に到着するまでは、意外にのんびりできた。
 その点が、常に迎撃戦闘に晒される基地航空隊との違いだ。
 ただ、いったん戦闘になれば、航法、発艦、着艦とその難易度の高さは、基地航空隊の比ではない。

「どうしました。分隊長――」
「え…… おい…… ここで香車かい」
 
 ちらりと、細谷一飛曹を見やった。
 70年後の言葉であれば「ドヤ顔」といっていい顔をしていた。
 
「まだ香車1枚ありますから」
「知っているよ!」

 盤面に打たれた香車。歩を打って防ぐしか方法がないか。
 岩田飛曹長は、無造作に歩を打った。

「ということで、私も歩を打ちますか」

 その裏に歩を打たれた。
 この瞬間、その歩が「なり金」になることが確定する。
 どうみてもダメだ。

「くそ‥… 香車で遠くから来るかと思えば、懐に飛び込んできやがって」
「周囲をよく見てないと。重要なのはやはり見張りですね――」

 その後、負けず嫌いの岩田飛曹長が粘るが、すでに勝負はついていた。

「分隊長は、空戦ほどは強くないですな」
「うるせぇ! もう一番やるぞ! まったくあんなとこで……」

 ふと岩田飛曹長の声が止まる。

「いや、なんでもない。もう一番だ」

 ふと、浮かんだ妄想にも似たアメリカ艦隊の動きについての考え。
 まさか、あり得ないと彼は苦笑して、その考えを否定した。

        ◇◇◇◇◇◇

 井本大尉は56機の一式陸攻を指揮していた。
 索敵につぎ込んだ24機の陸攻を除く、ブイン基地、バレラ基地の全稼動機だった。

 彼にとっては過去最大規模の大編隊だった。
 翼を並べ飛行する双発の機体。
 水メタノール噴射装置をつけ、出力が上がった火星エンジン搭載。
 2基合計で800馬力近く出力が上がっている。
 新型の一式陸上攻撃機34型だった。

 その余剰馬力を、防弾性能に回し、以前の一式陸攻に比べかなりの打たれ強さを発揮できるようになった。
 実際に、ガダルカナルへの爆撃任務では、被害はかなり減っていた。
 8000メートルを超える侵入高度をとっており、アメリカの主力機のF4Fの高高度性能が今一つというのも理由ではあったが。

(対艦攻撃で高度8000メートルはあり得ないからな)

 周囲を守る零戦の護衛は64機だ。全て1300馬力の金星エンジンを搭載する54型だった。
 基地には同じ火星エンジンを搭載した局地戦闘機「雷電」もある。
 基地に対する敵からの攻撃は雷電に任せることで、零戦はこちらの護衛に専念できた。

「敵さん、さっそく来やがったか―― 相変わらず、手抜かりがない」

 突き抜けるような碧い空にゴマ粒のように見える敵戦闘機が見える。
 機種はまだ分からない。新型のシコルスキー(F4U)かと井本大尉は思う。
 高速で火力もあり、侮れない機体だった。

 零戦隊は動かない。おそらくは気づいているはずだ。
 
(相変わらずだ。鈴木少佐は――)

 陸攻隊を囲むように守りにはいる零戦。それは、隊長の鈴木少佐の信念のようなものだ。
 敵戦闘機を落すより、陸攻を落されないように射撃空間を占拠する。
 
(グラマンか…… 全部、グラマンか?)

 F4Uは特徴的な逆ガル翼により、容易に機体を判別できる。
 見たところ、中翼真っ直ぐな翼の機体しかないようだった。
 空冷エンジン特有の丸いシルエット。
 おなじみの山猫(ワイルドキャット)。グラマンF4Fだ。

「隊長、ずいぶんと上がってますが―― 本当に空母2隻なんですか?」

 副操縦士の声が固い。
 それは、井本大尉も疑問に思っていたことだからだ。

 視界内に見える敵機はどうみても100機以上。いや200機いるのではないかと思われた。

「どんな、手をつかいやがったんだ? いったい」

 グラマンの航続力から考えて、米軍の基地からここまで飛ばすことは不可能だ。
 そして、周辺には、サラトガ、レンジャー以外の空母はいないはずだった。

 敵の第一波が急速に接近してくる。
 距離が詰った。
 ただ距離はまだ約1000メートル以上あった。
 まだ、攻撃できるような距離ではない。
 
 陸攻の機銃座が旋回しグラマンを指向する。

 そのときであった。
 前方を飛ぶグラマンが火を噴いた。
 次々にだ。

「なんだ! 爆発――?」

 一瞬、井本大尉は、敵機が爆発したのかと思った。
 違った。
 数十本の白煙の尾を引いて、鋼の矢が吹っ飛んできたのだ。

「ロケット弾だ!!」

 編隊が乱れる。
 これは、アメリカ軍から友軍が技術的な奇襲を喰らったのだ。
 遠距離からのロケット攻撃。そして、乱れた編隊に突っ込むグラマン。

「直撃したのかッ!」

 爆炎に包まれた一式陸攻が礫のように海に落ちていった。
 いや、数はさほどでもない。2機――
 食われたのは2機だ。

 おそらくは、瞬発信管を備えたロケット弾だ。
 護衛零戦隊の鈴木少佐の慎重で堅実な作戦が完全に裏目に出た。

 しかし、零戦隊の反応は速かった。即座に陸攻の前に飛び出し、グラマンに斬りこんで行く。
 こんどは、本当にグラマンが火を噴き、バラバラとジュラルミンの外板をばら撒きながら墜ちていく。

 青白い曳光弾がアイスキャンデーのように伸びる。12.7ミリブーロニングの曳光弾が、死神の絵を虚空に描く。
 真っ赤な20ミリ曳光弾は、火の玉のように吹っ飛んでいく。

 バチバチ機銃弾が機体に命中した。
 井本大尉は、ガンガンと背中に衝撃を感じた。

(やられたか!)
 
 一瞬血の気が引く。

 後を振り返った。 
 弾丸は操縦席後部の装甲板に当たったようだった。以前の陸攻であれば、靖国行きだ。

「右発動機被弾! 火災発生!」
「消火装置」
 
 井本大尉は座席の右側にある消火コックを「作動」いれる。
 高圧の二酸化炭素ガスと石鹸水が吹き出し、消火する。
 しかし、これで、片肺飛行になってしまった。
 徐々に高度が落ちていく。

 まるで、視界を埋めつくすようなグラマンの群れだった。
 味方の零戦も60機以上いるのだ。
 敵はその3倍はいるのではないか――
 
「打電しろ! 敵空母はもっといる! どこかにいるぞ! 180機以上の戦闘機の迎撃を受けつつありだ!」

 鉄とジュラルミンが砕け、片肺となった1800馬力の火星が甲高い唸りを上げていく。
 
 ソロモン方面、空母発見から、日米の最初の接触――
 その戦闘は日本海軍にとって、混迷の色を濃くしていくものであった。
 
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