大江戸・淫ら鬼喰らい師 -さね吸い祓い奇譚-

中七七三

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19.法悦、立川真言流の復活を語る

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 勝ちたかった。
 負けたくなかった。
 絵だけでは、誰にも負けたくはなかった。
 どんな絵でも書いた。
 他の奴の描く絵には艶がない。力がない。
 人を惹きつける力がない――
 そう思っていた。
 認められていなかったが、己の腕こそ天下一であるという確信があった。

 春画を描いた。 
 たかが睦み合いを描いた絵ではないか。
 己が生まれてきたのも、親が睦み合った結果ではないか。
 同じだ。あるべき物を紙に書き写す。真実以上に真実をつける。
 それだけだった。
 
 結果、破門となった。
 歌川一門は春画が禁止されていたからだ。
 くだらぬことであった。
 
 が、それ以降、絵で食うことが難しくなったのは事実だった。

 男は、過去を述懐しながら筆を走らせる。
 法悦とそこらで買った夜鷹の交わりだった。
 そのうねる様な動きの瞬間を筆で切り取る。

(北斎――)

 その名を思う。
 かつての師であり、食うに困った己に救いの手を差し伸べた男であった。
 あの男も――
 そうだ、同類だ。
 俺と同類。
 絵に狂ってしまった男なのだ。
 と、男は思う。その口元には薄っすらとした笑みが浮かび上がる。

「あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ♥、あ――」

 女が甲高い声をあげ、法悦に身を任せる。
 肉を震わせ気をやった。
 すっと、女と肌を合わせていた男が立ち上がる。
 その逸物はまだ凶悪さをみせていた。

「このくらいでいいでしょう――」
「はい」
「女体反魂の呪法、これで六体。十分なのかもしれません」

 法悦であった。
 鬼喰らい師・鬼狂をこの世に生み出した男。
 立川真言流を復活させ幕府転覆を狙う男だった。
 
 今では鬼狂の敵である。
 永遠に生き続ける――人外の存在としてこの世に存在し続ける呪詛を断ち切るため。
 鬼狂は、法悦を葬らねばならなかった。
 
「この絵は?」
「そうですね…… 鬼狂を封じるのにでも使いますか」
「封じる、殺さぬのですか?」
「あはは、殺す? 葬る? そんなことはできません。あれは「覚鬼」ですよ。滅びませんよ」

 法悦はさも愉快そうに言った。
 元々、自分が立川真言流の秘術で作り出した存在。
 それが鬼狂なのである。
 彼女は不死、不滅の鬼の女王なのだ。

「ただ、私が消えれば、本当に消えれば、鬼狂も輪廻の環からの離脱もできるでしょう」

「そうですか……」

「しかし、関係ありません。今は、立川真言流の復活。そしてこの国―― 徳川幕府を倒すことをやってみようと思います」

 法悦は唇を繊月のようにし、妖艶でありながら、闇の底のような笑みを浮かべていた。
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