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9.淫鬼女体反魂の呪法
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「鬼狂様ぁぁぁ!!」
万之介は叫んでいた。
「オヌシ、下がっておれ――」
ゆらりと鬼狂が前に出た。
肺腑に血の混ざったような声だった。
妖艶で透き通るようないつもの声ではなかった。
ただ、その口元には見る者を震わせる笑みを浮かべていた。
この鬼狂もまた「怪異」であった。
鬼狂の上半身。
右腕を含むその右四分の一は斜めに切断させ転がっている。
その肉の断面から流れていた血はすでに止まっていた。
ただ、夜の闇よりも深い漆黒の闇の底のような色を見せていた。
「ひひひひひきゃははっはははははははは!!! ああっ、ひぎゅぅぅぅ、くるのぉぉぉ、あひゃあひゃぁぁぁ、ひゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛またイグゥゥのですよぉぉ、ああ、あ、あ淫道が激しくふるぇるのでずぅぅぅ。おさねがにゅれでぇぇえぇ、びっちょり、びっちょりぃぃぃ、うふふふふふふふ、あぁぁ、男のぉぉぉ、アレを食う、食う、くくくくくく、食うろぉぉぉ、もれりゅのでがぁぁぁぁあ~ しゅごい、あ、あ、あ、あ、ででりゅぅゥゥゥ―― み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛ま゛ぁぁぁぁぁぁぁ―― ほほほほほほほほほほ」
血に濡れた剣を無造作にただ手に持っていた。どこの流派にもない形だ。ただ、棒のように持っているだけであった。
万之介はただ、戦慄していた。
鬼狂の「おさね吸い祓い」という仕事が、あからさまな怪異ともいえる者からの攻撃で始まるのは初めてだった。
女剣士――
正しくはそのような姿をした何か――
怪異の存在は、ゲラゲラと笑いながら、意味不明の言葉を夜気に混ぜ立っていた。
万之介は、夜の闇が「狂い神」を呼び出したかのような気がしていた。
がさぁぁぁ――
怪異の女剣士が地を蹴った。まるで地に這いつくばるかのような体勢。
地面を倶風が駆け抜ける――
その剣が鬼狂の脚を払った――
両足首が吹っ飛んだ。
鬼狂はそのまま、前に倒れた。まるで、木が切り倒されるかのようにだ。
「手間が無い――」
鬼狂は残った左腕を怪異の剣士にトンと当てたのだ。
倒れざまにだ。
「あ、ぁ、あ――」
鬼狂の背から剣が突き抜けていた。
下から女剣士が突き上げていたのだ。
細く、童女のような躰を貫き、血まみれの剣が月明かりに光る。
万之介は己が雇い主のこの惨状を見てもどこかで「鬼狂様は、この程度では平気では」という思いを抱く。
チラリと見えた横顔、その美麗な顔が血まみれの中で笑っていたからだ。
「捕まえたのじゃ―― 剣は抜けぬぞ。肉を締めたからのぉ」
剣で貫かれながらも、左の腕だけで、女剣士の身体を地面に釘付けにしていた。
「ああ、あ、あ、ああああ―― 陰戸のぉぉ、淫液流れがぁぁ、よろしゅうにござりますしゅるぅぅぅ~ 淫道、淫道、淫道、あああああ、慕々ががぁぁぁ、岡濡れなのれずごがががががががが――」
「万之介―― 手伝うのじゃ」
「き、鬼狂様」
「コヤツの股、開かせるのじゃ。剣はこの身に刺さったままじゃ。抜けぬ――」
万之介は己の雇用主が抑え込む、女剣士―― いや異形を見た。
男装をした女剣士――
どこぞの藩の「別式女(べっしきめ)」かと思う。
細く流麗な弧を描く眉に、やや釣り目気味ながらも美形の女であった。
その朱色の唇は、ダラダラと涎を垂らし、異様な言葉を吐き続けていた。
呪詛の言葉を思わせるような、ヨガリ声だった。
「早うせい――」
「はい」
万之介は女の股を開いた。そして、剣を持つ腕を方の肩の付け根を強く踏んだ。
そのせいか、女は剣を手放した。
「ほう…… 知っておるではないか。万之介――」
「鬼狂様、剣を抜――」
「後でよいわ―― 己が身を貫かれる。中々気色のいいものじゃ」
そう言うと鬼狂は口を大きく開けた。
着物の裾を口で引きちぎった。
更に、腰巻もだった。
「さぁ、舐るかよ―― 間に合うかのぉぉ」
ヌルリ、ぴちゃりと湿った音がした。
鬼狂の舌が、その女剣士のおさねを舐り始めたのだった。
まくれあがった着物の裾から白い女剣士の脚が伸びる。
その間に鬼狂の頭がもぐりこみ、ぴちゃりぴちゃりと、おさねを舐る音が静かに響く。
夜の静寂の中、淫靡で妖しい、童女のような舌と女剣士のおさねがヌルヌルと音を紡ぐのだった。
ぢゅぷ
ぢゅぷ
ぢゅぷ
ぶちゅ
ぶちゅ
ぶちゅ
「あ、あ、あ、あ、あ―― ふひゅゅゅ~ あはぁぁぁ」
ずちゅぅぅぅぅ――
強烈な吸いが女剣士のおさねを襲っていた。
鬼狂は舌先で包皮をめくり返し、甘噛みを繰り返し、そして吸った――
おさねが血の流れを集め、小豆程の大きさとなっていた。
ぢュチュゥゥゥぅ―― じゅるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――
「ああっ、も゛も゛も゛も゛も゛ぉぉぉぉぉ、ら゛め゛ぇぇぇぇ~ が、が、が、が ハァハァハァハァハァハァぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」
後頭に集められ、結ってあった、長い髪が乱れる。
「あばぁぁぁぁぁ――」
ごぼっと音がして、淫道から大量の淫液が流れ出した。
男装をしているが、女であることを隠すことのできない肉がそこで捩れていたのだ。
鬼狂の「挺孔(さね)吸い祓い」により「淫鬼」が現れようとしているのだった。
しかし―― この女の腹は大きくなっていない。
鬼狂が今まで万之介の前で祓ってきた女たちは、全て孕み腹のような呈していたのだ。
この女剣士の腹はそのようにはなっていなかった。
(今までとは違う――)
万之介はそのことにあらためて気づく。
全てが今までにないことであり、すぐに気付くべきとこまで見落としていた。
すっと、鬼狂は身を離した――
失った足首から先。棒のようになった脚で立ちあがっていた。
「やはり、遅かったか…… 身が喰われておるわ」
異様な立ち姿だ。
足首を失い。
首の付け根の右肩から斜めに切り裂かれ、右腕を失っている。
更に、腹には刀が突き刺ささり、切っ先を背中に生やしているのだ。
「万之介、これが、淫鬼の本当の姿よ――」
鬼狂は気だるそうに言った。
爆ぜるような音を立て、女の身が裂けた。
腹が裂けたのだ。血にまみれたヌルヌルとした黒い腕――
それが天を掴まんとするかのように女の腹から突き出ていた。
濃厚で大量の血の匂いが夜気を染めていく。
万太郎の肺腑の中にもドロリとした血が流れ込んでくるかのようだった。
「淫鬼―― 本当の……」
「女体反魂の呪法―― さて、何を憑かせたのじゃ…… 『アヤツ』は――」
狂人の悪夢よりも、凄絶な光景であったかもしれない。
身を爆ぜさせ、白いアバラ骨が、花のように夜の中に開いていた。
血で染まった骸となった女剣士の肉の内からヌルヌルと血まみれの者が立ちあがってきたのだ。
「女…… この女剣士では――」
黒く見えたのは血だった。肉の残骸だった。
その肉を割り、まるで蛹から孵ったかのようにその場に立ったもの――
それは、鬼の姿をしていなかった。
女だ。その女剣士の姿であった。
己を産みだした女剣士だった肉塊の中にそのものは立っていた。
一糸も纏わぬ姿。
しかし、その女剣士の現身と全く同じであった。
血まみれの黒髪をゆるゆるゆるがせ、ふと上弦の月を見上げていた。
「これは、女子の身体か…… どうれ――」
言葉を発した。同時に、その身が闇の中でぶれた。
(消えた!?)
万之介の目がその姿を見失っていた。
ガッ――
いた。その者は、いた。
凄まじい近くにだ――
鬼狂に刺さった刀の柄を握っていた。
そして鬼狂は残った左の腕でその女の腕を握っていた。
「ほう―― 俺の動きを見切るか。女…… まだ童か?」
声音は女のものであった。
しかし、その語調、聴く者に感じさせる声は女でも男でもはない、別の何かだった。
「ほう…… ずいぶんと強力よのぉ? 誰じゃオヌシ」
「女―― 童ではないか…… 物の怪か?」
「ほう、ワラワを―― では、女の肉を食い破り、腸を突き破り、骨を砕いて産まれたオヌシはなんじゃ?」
「ふむぅ…… そうか―― 俺は今、産まれたのか……」
女はさも不思議そうにそう口にしていた。
「剣は返さぬよ」
鬼狂の左腕が細かく震えている。
どれほどの力がそこに加わっているのか、万之介には分からない。
この一見童女に見える鬼狂の腕力は凄まじいものがある。
己の数倍もある「淫鬼」持ち上げ造作も無く叩きつけるのだ。
万之介も、鬼狂のおさねを舐るときに、頭を押さえつけられることがある。
そうなれば、全く身動きできなくなるのだ。
剣を抜こうとする女の腕がグンと動いた。
ずにゅぅっっと湿った音をたて、一気に引き抜かれた。
同時に剣を振るう。真上からだった。
それが空を斬った。
鬼狂が足首から先を失った状態で跳んだからだ。
後方に大きく跳んだ。
下し髪が、闇の中を舞う――
「俺も、素手で青竹を握り潰せたが―― 女の肉ではそうもいかぬか……」
「ほう…… オヌシ…… 『二天』かえ? これはまた、大物を――」
「二天、二天様…… この女が――」
万之介は声を上げた。
万之介とて、侍であったのだ。
「二天」といえば、それが誰のことを言っているのか、自明だった。
しかし、この血まみれの裸の女が…… なぜ?
「俺を知っているか――」
「ふん、知らんでかよ」
「それでも、まだ俺の前に立つか―― 女、その身体で……」
万之介はそのとき、首筋が刃で貫かれたかのような感覚を覚えた。
背後を見た。
「ああ、気が付きましたか―― 中々、よい狗を飼っているようですね。鬼狂」
闇の中から声が聞こえた。
男だ。男の声、それも若い男だった。
「法越(ほうえつ)来たか……」
「はい。来ました」
「さて―― ワラワに食われにかえ?」
「いえいえ―― 今日は違いますよ」
無造作に「法越」と呼ばれた男は歩みよってきた。
「ヌシが、俺を呼んだか?」
血まみれの女が鋭い眼光で男をみやる。
黒い姿見の中、その目だけが白く輝いているかのようだった。
「はい、殯(もがり)反魂―― 淫鬼女体反魂の呪法にございます」
「ふむ、俺は女となり転生したか――」
男はスッと鬼狂の脇をすり抜けた。
万之介も鬼狂も動けなかった。間を外されたかのような動きだった。
そして、血まみれで、全裸の女に歩みった。
その細い腰にすっと手を回した。
男は女の顔に口を近づける――
口吸い――
男は血まみれの女――
ねっとりとした口吸いをしていた。
「ぬぅ、キサマァ――」
鬼狂が前に行こうとする。しかし、その身がふらりと崩れた。
男はヌルリと女から唇を離した。
真っ赤な舌が伸びていた。ヌルヌルとした舌だった。
血と涎が糸をひき、男と女の唇をつないでいた。
「中々良い口吸いよ……」
女が呟く。
「鬼狂、今日はこれくらいで―― 私も今日はお相手はできません。こちらの相手はをせねばならないからです」
「まてぇ、待つのじゃ! 法越!」
鬼狂が叫ぶ。
しかし、男は鬼狂を一瞥すると、スッと背中を向けた。
「行きましょうか―― 武蔵殿。新免宮本武蔵殿」
その言葉が闇の中に響いていた。
万之介は叫んでいた。
「オヌシ、下がっておれ――」
ゆらりと鬼狂が前に出た。
肺腑に血の混ざったような声だった。
妖艶で透き通るようないつもの声ではなかった。
ただ、その口元には見る者を震わせる笑みを浮かべていた。
この鬼狂もまた「怪異」であった。
鬼狂の上半身。
右腕を含むその右四分の一は斜めに切断させ転がっている。
その肉の断面から流れていた血はすでに止まっていた。
ただ、夜の闇よりも深い漆黒の闇の底のような色を見せていた。
「ひひひひひきゃははっはははははははは!!! ああっ、ひぎゅぅぅぅ、くるのぉぉぉ、あひゃあひゃぁぁぁ、ひゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛またイグゥゥのですよぉぉ、ああ、あ、あ淫道が激しくふるぇるのでずぅぅぅ。おさねがにゅれでぇぇえぇ、びっちょり、びっちょりぃぃぃ、うふふふふふふふ、あぁぁ、男のぉぉぉ、アレを食う、食う、くくくくくく、食うろぉぉぉ、もれりゅのでがぁぁぁぁあ~ しゅごい、あ、あ、あ、あ、ででりゅぅゥゥゥ―― み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛ま゛ぁぁぁぁぁぁぁ―― ほほほほほほほほほほ」
血に濡れた剣を無造作にただ手に持っていた。どこの流派にもない形だ。ただ、棒のように持っているだけであった。
万之介はただ、戦慄していた。
鬼狂の「おさね吸い祓い」という仕事が、あからさまな怪異ともいえる者からの攻撃で始まるのは初めてだった。
女剣士――
正しくはそのような姿をした何か――
怪異の存在は、ゲラゲラと笑いながら、意味不明の言葉を夜気に混ぜ立っていた。
万之介は、夜の闇が「狂い神」を呼び出したかのような気がしていた。
がさぁぁぁ――
怪異の女剣士が地を蹴った。まるで地に這いつくばるかのような体勢。
地面を倶風が駆け抜ける――
その剣が鬼狂の脚を払った――
両足首が吹っ飛んだ。
鬼狂はそのまま、前に倒れた。まるで、木が切り倒されるかのようにだ。
「手間が無い――」
鬼狂は残った左腕を怪異の剣士にトンと当てたのだ。
倒れざまにだ。
「あ、ぁ、あ――」
鬼狂の背から剣が突き抜けていた。
下から女剣士が突き上げていたのだ。
細く、童女のような躰を貫き、血まみれの剣が月明かりに光る。
万之介は己が雇い主のこの惨状を見てもどこかで「鬼狂様は、この程度では平気では」という思いを抱く。
チラリと見えた横顔、その美麗な顔が血まみれの中で笑っていたからだ。
「捕まえたのじゃ―― 剣は抜けぬぞ。肉を締めたからのぉ」
剣で貫かれながらも、左の腕だけで、女剣士の身体を地面に釘付けにしていた。
「ああ、あ、あ、ああああ―― 陰戸のぉぉ、淫液流れがぁぁ、よろしゅうにござりますしゅるぅぅぅ~ 淫道、淫道、淫道、あああああ、慕々ががぁぁぁ、岡濡れなのれずごがががががががが――」
「万之介―― 手伝うのじゃ」
「き、鬼狂様」
「コヤツの股、開かせるのじゃ。剣はこの身に刺さったままじゃ。抜けぬ――」
万之介は己の雇用主が抑え込む、女剣士―― いや異形を見た。
男装をした女剣士――
どこぞの藩の「別式女(べっしきめ)」かと思う。
細く流麗な弧を描く眉に、やや釣り目気味ながらも美形の女であった。
その朱色の唇は、ダラダラと涎を垂らし、異様な言葉を吐き続けていた。
呪詛の言葉を思わせるような、ヨガリ声だった。
「早うせい――」
「はい」
万之介は女の股を開いた。そして、剣を持つ腕を方の肩の付け根を強く踏んだ。
そのせいか、女は剣を手放した。
「ほう…… 知っておるではないか。万之介――」
「鬼狂様、剣を抜――」
「後でよいわ―― 己が身を貫かれる。中々気色のいいものじゃ」
そう言うと鬼狂は口を大きく開けた。
着物の裾を口で引きちぎった。
更に、腰巻もだった。
「さぁ、舐るかよ―― 間に合うかのぉぉ」
ヌルリ、ぴちゃりと湿った音がした。
鬼狂の舌が、その女剣士のおさねを舐り始めたのだった。
まくれあがった着物の裾から白い女剣士の脚が伸びる。
その間に鬼狂の頭がもぐりこみ、ぴちゃりぴちゃりと、おさねを舐る音が静かに響く。
夜の静寂の中、淫靡で妖しい、童女のような舌と女剣士のおさねがヌルヌルと音を紡ぐのだった。
ぢゅぷ
ぢゅぷ
ぢゅぷ
ぶちゅ
ぶちゅ
ぶちゅ
「あ、あ、あ、あ、あ―― ふひゅゅゅ~ あはぁぁぁ」
ずちゅぅぅぅぅ――
強烈な吸いが女剣士のおさねを襲っていた。
鬼狂は舌先で包皮をめくり返し、甘噛みを繰り返し、そして吸った――
おさねが血の流れを集め、小豆程の大きさとなっていた。
ぢュチュゥゥゥぅ―― じゅるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――
「ああっ、も゛も゛も゛も゛も゛ぉぉぉぉぉ、ら゛め゛ぇぇぇぇ~ が、が、が、が ハァハァハァハァハァハァぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」
後頭に集められ、結ってあった、長い髪が乱れる。
「あばぁぁぁぁぁ――」
ごぼっと音がして、淫道から大量の淫液が流れ出した。
男装をしているが、女であることを隠すことのできない肉がそこで捩れていたのだ。
鬼狂の「挺孔(さね)吸い祓い」により「淫鬼」が現れようとしているのだった。
しかし―― この女の腹は大きくなっていない。
鬼狂が今まで万之介の前で祓ってきた女たちは、全て孕み腹のような呈していたのだ。
この女剣士の腹はそのようにはなっていなかった。
(今までとは違う――)
万之介はそのことにあらためて気づく。
全てが今までにないことであり、すぐに気付くべきとこまで見落としていた。
すっと、鬼狂は身を離した――
失った足首から先。棒のようになった脚で立ちあがっていた。
「やはり、遅かったか…… 身が喰われておるわ」
異様な立ち姿だ。
足首を失い。
首の付け根の右肩から斜めに切り裂かれ、右腕を失っている。
更に、腹には刀が突き刺ささり、切っ先を背中に生やしているのだ。
「万之介、これが、淫鬼の本当の姿よ――」
鬼狂は気だるそうに言った。
爆ぜるような音を立て、女の身が裂けた。
腹が裂けたのだ。血にまみれたヌルヌルとした黒い腕――
それが天を掴まんとするかのように女の腹から突き出ていた。
濃厚で大量の血の匂いが夜気を染めていく。
万太郎の肺腑の中にもドロリとした血が流れ込んでくるかのようだった。
「淫鬼―― 本当の……」
「女体反魂の呪法―― さて、何を憑かせたのじゃ…… 『アヤツ』は――」
狂人の悪夢よりも、凄絶な光景であったかもしれない。
身を爆ぜさせ、白いアバラ骨が、花のように夜の中に開いていた。
血で染まった骸となった女剣士の肉の内からヌルヌルと血まみれの者が立ちあがってきたのだ。
「女…… この女剣士では――」
黒く見えたのは血だった。肉の残骸だった。
その肉を割り、まるで蛹から孵ったかのようにその場に立ったもの――
それは、鬼の姿をしていなかった。
女だ。その女剣士の姿であった。
己を産みだした女剣士だった肉塊の中にそのものは立っていた。
一糸も纏わぬ姿。
しかし、その女剣士の現身と全く同じであった。
血まみれの黒髪をゆるゆるゆるがせ、ふと上弦の月を見上げていた。
「これは、女子の身体か…… どうれ――」
言葉を発した。同時に、その身が闇の中でぶれた。
(消えた!?)
万之介の目がその姿を見失っていた。
ガッ――
いた。その者は、いた。
凄まじい近くにだ――
鬼狂に刺さった刀の柄を握っていた。
そして鬼狂は残った左の腕でその女の腕を握っていた。
「ほう―― 俺の動きを見切るか。女…… まだ童か?」
声音は女のものであった。
しかし、その語調、聴く者に感じさせる声は女でも男でもはない、別の何かだった。
「ほう…… ずいぶんと強力よのぉ? 誰じゃオヌシ」
「女―― 童ではないか…… 物の怪か?」
「ほう、ワラワを―― では、女の肉を食い破り、腸を突き破り、骨を砕いて産まれたオヌシはなんじゃ?」
「ふむぅ…… そうか―― 俺は今、産まれたのか……」
女はさも不思議そうにそう口にしていた。
「剣は返さぬよ」
鬼狂の左腕が細かく震えている。
どれほどの力がそこに加わっているのか、万之介には分からない。
この一見童女に見える鬼狂の腕力は凄まじいものがある。
己の数倍もある「淫鬼」持ち上げ造作も無く叩きつけるのだ。
万之介も、鬼狂のおさねを舐るときに、頭を押さえつけられることがある。
そうなれば、全く身動きできなくなるのだ。
剣を抜こうとする女の腕がグンと動いた。
ずにゅぅっっと湿った音をたて、一気に引き抜かれた。
同時に剣を振るう。真上からだった。
それが空を斬った。
鬼狂が足首から先を失った状態で跳んだからだ。
後方に大きく跳んだ。
下し髪が、闇の中を舞う――
「俺も、素手で青竹を握り潰せたが―― 女の肉ではそうもいかぬか……」
「ほう…… オヌシ…… 『二天』かえ? これはまた、大物を――」
「二天、二天様…… この女が――」
万之介は声を上げた。
万之介とて、侍であったのだ。
「二天」といえば、それが誰のことを言っているのか、自明だった。
しかし、この血まみれの裸の女が…… なぜ?
「俺を知っているか――」
「ふん、知らんでかよ」
「それでも、まだ俺の前に立つか―― 女、その身体で……」
万之介はそのとき、首筋が刃で貫かれたかのような感覚を覚えた。
背後を見た。
「ああ、気が付きましたか―― 中々、よい狗を飼っているようですね。鬼狂」
闇の中から声が聞こえた。
男だ。男の声、それも若い男だった。
「法越(ほうえつ)来たか……」
「はい。来ました」
「さて―― ワラワに食われにかえ?」
「いえいえ―― 今日は違いますよ」
無造作に「法越」と呼ばれた男は歩みよってきた。
「ヌシが、俺を呼んだか?」
血まみれの女が鋭い眼光で男をみやる。
黒い姿見の中、その目だけが白く輝いているかのようだった。
「はい、殯(もがり)反魂―― 淫鬼女体反魂の呪法にございます」
「ふむ、俺は女となり転生したか――」
男はスッと鬼狂の脇をすり抜けた。
万之介も鬼狂も動けなかった。間を外されたかのような動きだった。
そして、血まみれで、全裸の女に歩みった。
その細い腰にすっと手を回した。
男は女の顔に口を近づける――
口吸い――
男は血まみれの女――
ねっとりとした口吸いをしていた。
「ぬぅ、キサマァ――」
鬼狂が前に行こうとする。しかし、その身がふらりと崩れた。
男はヌルリと女から唇を離した。
真っ赤な舌が伸びていた。ヌルヌルとした舌だった。
血と涎が糸をひき、男と女の唇をつないでいた。
「中々良い口吸いよ……」
女が呟く。
「鬼狂、今日はこれくらいで―― 私も今日はお相手はできません。こちらの相手はをせねばならないからです」
「まてぇ、待つのじゃ! 法越!」
鬼狂が叫ぶ。
しかし、男は鬼狂を一瞥すると、スッと背中を向けた。
「行きましょうか―― 武蔵殿。新免宮本武蔵殿」
その言葉が闇の中に響いていた。
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