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11.枕絵呪法、メス堕ち淫鬼孕みの春画
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「はぁ、はぁ、はぁ…… 鬼狂様ぁぁぁ」
「ふふ、愛いのぉ、万之介よぉ、どうじゃ? これは?」
「あ~ あっ、あっ ダメですまた……」
「どうした? ワラワのを吸わぬか? ほれ? これほどまでに淫液で濡れたのは久しぶりじゃ」
濃藍の空の下、東の空が茜に染まっていく。
黎明の時が訪れつつあるが、まだ川土手が薄暗等がりの中にある。
白蛇のような鬼狂の白い脚が、万之介の頭を絞めつけ、更なる「おさね舐り」を求めるのだった。
肉の快楽に乱れ、その淫靡な声が、次第に白みゆく土手の気の中に溶け込んでいく。
鬼狂と万之介はお互いの秘所とマラを舐めあい、一夜を過ごしたのだ。
その間、幾度も鬼狂は気をやり、そして万之介の精を啜った。
すでに、ふたりとも数えきれるほど気をやってた。
(鬼狂様―― もう傷痕も見えなくなっている)
万之介は両断された、鬼狂の足首をみやる。
白く滑らかな肌があるだけであり、傷などはなかった。
「お、お、お、お―― 足指かえ? そこを舐るか…… よいのぉ~ ふふ」
鬼狂は全身が淫靡であり、淫らで妖しかった。
おさねだけではない。足指を舐めるのも、万之介にとってはたまらなかったのだ。
できるなばら――
万之介は、鬼狂の肌に舌を這わせ思う。
その全身を舐めつくし、己が股間のパンパンとなった鉄まらを、幼い肉の奥に入れたいのだ。
鬼狂を犯したかった。
肉をかき分け、この八寸の逸物を根元までズブズブと入れたいのだ。
そして、その柔肉の奥に精を放ちたい。何度でもだ――
しかし、それは出来ない。
無垢(童貞)でなくなるからだ。
鬼狂は無垢であるから万之介に仕事を与え、己が牝肉をしゃぶらせ、おさねを吸わせているのだ。
無垢でなくなった瞬間――
おそらく、鬼狂との縁は切れる。
万之介にとってそれを耐え、受け入れることはできそうになかったのだ。
舐り続けた。だから、おさねを舐る。皮を剥き、甘噛みし啜るのだ。
万之介は、己が舌で、悦楽の声をあげる鬼狂の白い尻を抱え込み、その舌を肉奥深くへと挿しこむのであった。
(あ、あ、あ、あ―― ま、またぁ――)
万之介の痙攣をする八寸の逸物が震え、精を吐きだした。
「おぉぉ、イクのかえぇ~ ふふ、激しいのぉぉ、万之介よぉ。精を漏らしながらも、ワラワのおさねがそれほど好きか? のぉ―― あ、ああああ、わ、ワラワもぉぉ――」
鬼狂の淫道がキュンを締まり、淫液を迸らせた。
万之介はそれを下で吸うのである。
ふと、この舌から己が陽根が生えれば―― そう思ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
北斎がジッとその画を見つめていた。
無言だ。
いつもならば、パラパラと画帳を見て突き返す。
そして、二三の「思うところ」という刃のような言葉をつき立てるのだ。
しかし、今日は違っていた。ただ、ジッと万之介の画を見ていた。
「オメェよぉ―― 剥けたか?」
「え?」
「魔羅じゃねェ―― そりゃもうズルムケだからなぁ。へへへへへへひぃぃ」
北斎はいつもの笑い声をあげた。
そんな、北斎を万之介はジッとみているしかない。
何度訪れても、北斎とお栄の仕事場となっている長屋の一室は混とんの中にあった。
反故紙が散らばり、脱ぎ捨てた着物が散乱しているのだ。
それは、北斎だけのものではなく、出戻りとはいえ女のお栄のモノすらあったのだ。
「悪かねぇよ―― 口から魔羅を生やして、女を犯すかよ…… いいねぇ。ひひひひひ」
稀代の天才が下卑極まりない声で笑った。
しかし、その言葉と笑いは万之介を震えさえせたのだ。
(師匠に認められたのか―― あの天下の北斎に、己の画が……)
大地が揺らぎ、歓喜でその場に崩れ落ちそうになる。
崩れ落ちれば、反故紙とゴミと、汚れ物の中に埋没するが。
「人だ―― これも人だぜ」
「え?」
意味が分からなかった。
そもそも、その画は、鬼狂のさねを舐る中、己が舌が逸物になればいいと思い、その想いで書いたモノだった。
我ながら奇妙であり、描きあがったときは何か可笑しかったような気もあった。
「笑って交わる。笑って淫液を舐める。笑っておさねを舐り、吸う。そんなことが出来るのは、人だ。人しかいねぇよ。ひっひひひ。人だぜぇぇ。異形だがよぉ、人だぁ」
そして、スッと気の色が変わった。北斎の周囲の気だ。
氷でできた刃のような研ぎ澄まされた気の色――
「まんすけ―― いや、万之介よ」
「せ、先生…」…
「俺と、同じ場所に立つ気があるのかい? この北斎とよぉ」
背の低い北斎が下からねめつけるように万之介を見た。
ドロドロとした血の匂いのするような視線。どす黒い視線を送り込んできたのだ。
この目の前の画に全てを捧げた男。
己の師匠――
尊敬している。崇拝している。
しかし――
恐怖を感じた。怖れを感じた。
今まで出会った「怪異」の類にも劣らぬほどの、恐ろしさをその身に纏ってのだ。
「どうして黙ってるんだよぉ。万之介ぇぇ――」
普段の呼び名である「まんすけ」ではなく「万之介」と本名で問うてきたのだ。
万之介は、師匠の問いに対し口を動かすことができなかったのだ。
ただ戦慄し、そこに固まっていた。
「あははは! このジジィ、弟子に対抗意識燃やしてやがるぜぇ、莫迦か、オメェは?」
「なんだとぉぉ!! アゴぉぉ!」
「てめぇが取った弟子の才能に嫉妬しやがっらぁ―― これが天下の北斎かよぉぉッ!!」
「嫉妬ぉぉだとぉぉ! いつ誰がだぁ。クソアゴ女がぁぁ!」
不意に、笑い声が響く。大きな女の声だ。
文机で画を仕上げていた、お栄が振り向き笑っていたのだ。
大きな顎を突きだし、大笑いしていた。
「嫉妬、意外になんだ? クソ鉄ジジィ、テメェはいつもそうじゃねぇか! 見境ねぇんだよ」
「て、テメェ!! 何が嫉妬だぁぁ! べぇかぁ野郎ぉぉ、そんなんじゃねぇ。仕事だ―― コイツも仕事をだなぁ……」
「先生! 仕事を! 仕事ですか! 画の!」
万之介は北斎の肩をグッと掴み言ったのだ。
「べぇかぁ! テメェ、クソ力で握るんじゃねぇよ!」
「すいません。先生」
慌てて手を離す、万之介だった。
「なんちゅぅ、力だ…… てめぇ、剣術の方はからっきしだって聞いていたが、力だけはありやがるな――」
「いえ…… 人足仕事ばかりしてましたので…‥」
「まあ、いいや。すぐってわけにはいかねぇが、書肆に売り込んでおいてやる。この画借りるぜ」
「は、はい――!!」
天下の葛飾北斎が、版元に推薦するのだ。
もはやそれは、己が画が世に出るということが、保証されたも同じである。
万之介は身の震えを抑えるのが精一杯だった。
「万之介よ。気にすんなよぉ。このクソ鉄ジジィは、若い奴だろうがなんだろうが、画のことになると、狂ってやがる―― ちょっとでも良いと嫉妬するんだぜぇ――」
「ちょっとでも良いと?」
「おおッ! オメェの画が良いんだよ―― 認めてんだ。このクソ鉄ジジィが」
お栄の言葉。それで、万之介は有頂天になりそうになる。
浅黒く大きなアゴをした姉御肌の北斎の娘。
細い目が更に細くなり、万之介を見やっていた。
「取り込み中かのぉ――」
開けっ放しの戸から声が聞こえた。
気だるげで淫蕩な響きを持った声。
鬼狂だった――
「鬼狂様」
「ほうぉ、おったかよ、万之介」
「そりゃいるさ。クソ鉄ジジィの弟子だしな」
「そうじゃな――」
「水でも飲むかい?」
「もらおうかのぉ」
そう言って、脇に置いてある水桶に太く黒い腕を突っ込むお栄。
乱暴に、碗に水をくむとゆらりと、座敷に上がり、まるで散らばるゴミの上を滑るように鬼狂は歩み寄った。
万之介を妖艶な眼差しで一瞥すると、碗を受け取りそれを飲んだ。
「おう、なんでぇ? 鬼狂――」
北斎が鬼狂に声をかけた。
すっと、鬼狂は北斎を見やる。そして、懐から何やら取り出したのだ。
「黄表紙?」
「そうじゃ、鉄蔵」
「どこの書肆のでぇ、そいつは」
「知らぬ」
「まあ、いい―― で、見てもいいが……」
そう言って、北斎は黄表紙を受け取る。
「なんだ? この刷は…… 彫りもひでぇぜ――」
そういって、丁をめくる北斎だった。
しかし、次第に顔は真剣味を帯びてくる。
ジリッと額から汗が流れ出していた。
「どうじゃ? どこぞの絵師か―― 鉄蔵よ」
「いや…… そいつは、俺の方が訊きてぇよ」
黄表紙を閉じ、北斎はそう答えた。
「おい、なんだよぉ、俺にも見せてみろよぉ、イイだろ? 鬼狂様よ」
お栄が興味を隠せぬといった風に言った。
万之介もそうであった。北斎が顔色を変える画――
何があったのだ?
「万之介、オメェも見るか? こっち来い。なんなら、ひざの上に乗ってもいいぜぇ」
お栄は「ひひひ」と父に良く似た笑い声を上げた。
そのような戯言をとりあえず、置いておきふたりは黄表紙の丁をめくったのだ。
確かに荒い彫だ。しかも、どうにも刷も甘い。
安い黄表紙なのだろう。
ただ、万之介は何処かで、その画を見た記憶があった。
(どこであったか……)
彼は記憶をたどる。
最近は「手すさび」に他人の画を使わない。
己が画や鬼狂を想い「手すさび」するため、この種の本を使っていないのだ。
なにやら、見た覚えがありそうであったが、モヤモヤとし思い出せない。
その鬼狂は、ごみを払いのけ、場所を作ると座り込み、煙管をふかし始めていた。
(武者絵? 武者が…… 物の怪と―― むぅぅぅ、武者が犯されるのか、物の怪に――)
食われていた。武者が、物の怪に食われ。
そして、犯されていのだ。
腸を食われながら、物の怪の陽根で、尻を貫かれていた。
食い入るように万之介はその画を見た。
そえ文も読んだ。その文と絵が、刷の甘さ、彫の雑さを忘れさせる。
まるで、脳髄の中に映像が流れ込むかのようだった。
気が付くと「ふぅ、ふぅ、ふぅ」とお栄が呼気を荒くしていた。
その細く切れ上がった目が、淫蕩な色に染まっている。
(女―― 武者が女に変化―― なんだこれは……)
そして、物の怪に食われ、武者は女に変化していた。
そして、無数の物の怪に、犯されていたのだ。
口も尻も、その身に出来た淫道もだった――
-------------------
アウつ フゥ フゥ たまりませぬ 夢かともおもうふ もふ七かいもいきました
ああああ わかみの おのこがなかりせねば このみは小名子に なりて ああああ
もつとそこをきつくすつてくだいませ おのことは くらへものになりわせぬ
アフゥ このみで いきませう わたくしはいきます いきます いきます
おなこのからだに おちまする――
---------------------
その枕絵の「書き入れ」と呼ばれる文がまるで、呪詛のように頭に響く。
万之介の頭の中では、武者が怪異に犯され、女へと変容し、犯され、淫蕩な喜悦の声を上げていたのだった。
そしてそれは、容易にあの体験と結びついた。
「武者が女に…… この画…… 二天様……」
つぶやく万之介。
鬼狂は、煙管を手に持ち、その万之介を流し見るのであった。
「ふふ、愛いのぉ、万之介よぉ、どうじゃ? これは?」
「あ~ あっ、あっ ダメですまた……」
「どうした? ワラワのを吸わぬか? ほれ? これほどまでに淫液で濡れたのは久しぶりじゃ」
濃藍の空の下、東の空が茜に染まっていく。
黎明の時が訪れつつあるが、まだ川土手が薄暗等がりの中にある。
白蛇のような鬼狂の白い脚が、万之介の頭を絞めつけ、更なる「おさね舐り」を求めるのだった。
肉の快楽に乱れ、その淫靡な声が、次第に白みゆく土手の気の中に溶け込んでいく。
鬼狂と万之介はお互いの秘所とマラを舐めあい、一夜を過ごしたのだ。
その間、幾度も鬼狂は気をやり、そして万之介の精を啜った。
すでに、ふたりとも数えきれるほど気をやってた。
(鬼狂様―― もう傷痕も見えなくなっている)
万之介は両断された、鬼狂の足首をみやる。
白く滑らかな肌があるだけであり、傷などはなかった。
「お、お、お、お―― 足指かえ? そこを舐るか…… よいのぉ~ ふふ」
鬼狂は全身が淫靡であり、淫らで妖しかった。
おさねだけではない。足指を舐めるのも、万之介にとってはたまらなかったのだ。
できるなばら――
万之介は、鬼狂の肌に舌を這わせ思う。
その全身を舐めつくし、己が股間のパンパンとなった鉄まらを、幼い肉の奥に入れたいのだ。
鬼狂を犯したかった。
肉をかき分け、この八寸の逸物を根元までズブズブと入れたいのだ。
そして、その柔肉の奥に精を放ちたい。何度でもだ――
しかし、それは出来ない。
無垢(童貞)でなくなるからだ。
鬼狂は無垢であるから万之介に仕事を与え、己が牝肉をしゃぶらせ、おさねを吸わせているのだ。
無垢でなくなった瞬間――
おそらく、鬼狂との縁は切れる。
万之介にとってそれを耐え、受け入れることはできそうになかったのだ。
舐り続けた。だから、おさねを舐る。皮を剥き、甘噛みし啜るのだ。
万之介は、己が舌で、悦楽の声をあげる鬼狂の白い尻を抱え込み、その舌を肉奥深くへと挿しこむのであった。
(あ、あ、あ、あ―― ま、またぁ――)
万之介の痙攣をする八寸の逸物が震え、精を吐きだした。
「おぉぉ、イクのかえぇ~ ふふ、激しいのぉぉ、万之介よぉ。精を漏らしながらも、ワラワのおさねがそれほど好きか? のぉ―― あ、ああああ、わ、ワラワもぉぉ――」
鬼狂の淫道がキュンを締まり、淫液を迸らせた。
万之介はそれを下で吸うのである。
ふと、この舌から己が陽根が生えれば―― そう思ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
北斎がジッとその画を見つめていた。
無言だ。
いつもならば、パラパラと画帳を見て突き返す。
そして、二三の「思うところ」という刃のような言葉をつき立てるのだ。
しかし、今日は違っていた。ただ、ジッと万之介の画を見ていた。
「オメェよぉ―― 剥けたか?」
「え?」
「魔羅じゃねェ―― そりゃもうズルムケだからなぁ。へへへへへへひぃぃ」
北斎はいつもの笑い声をあげた。
そんな、北斎を万之介はジッとみているしかない。
何度訪れても、北斎とお栄の仕事場となっている長屋の一室は混とんの中にあった。
反故紙が散らばり、脱ぎ捨てた着物が散乱しているのだ。
それは、北斎だけのものではなく、出戻りとはいえ女のお栄のモノすらあったのだ。
「悪かねぇよ―― 口から魔羅を生やして、女を犯すかよ…… いいねぇ。ひひひひひ」
稀代の天才が下卑極まりない声で笑った。
しかし、その言葉と笑いは万之介を震えさえせたのだ。
(師匠に認められたのか―― あの天下の北斎に、己の画が……)
大地が揺らぎ、歓喜でその場に崩れ落ちそうになる。
崩れ落ちれば、反故紙とゴミと、汚れ物の中に埋没するが。
「人だ―― これも人だぜ」
「え?」
意味が分からなかった。
そもそも、その画は、鬼狂のさねを舐る中、己が舌が逸物になればいいと思い、その想いで書いたモノだった。
我ながら奇妙であり、描きあがったときは何か可笑しかったような気もあった。
「笑って交わる。笑って淫液を舐める。笑っておさねを舐り、吸う。そんなことが出来るのは、人だ。人しかいねぇよ。ひっひひひ。人だぜぇぇ。異形だがよぉ、人だぁ」
そして、スッと気の色が変わった。北斎の周囲の気だ。
氷でできた刃のような研ぎ澄まされた気の色――
「まんすけ―― いや、万之介よ」
「せ、先生…」…
「俺と、同じ場所に立つ気があるのかい? この北斎とよぉ」
背の低い北斎が下からねめつけるように万之介を見た。
ドロドロとした血の匂いのするような視線。どす黒い視線を送り込んできたのだ。
この目の前の画に全てを捧げた男。
己の師匠――
尊敬している。崇拝している。
しかし――
恐怖を感じた。怖れを感じた。
今まで出会った「怪異」の類にも劣らぬほどの、恐ろしさをその身に纏ってのだ。
「どうして黙ってるんだよぉ。万之介ぇぇ――」
普段の呼び名である「まんすけ」ではなく「万之介」と本名で問うてきたのだ。
万之介は、師匠の問いに対し口を動かすことができなかったのだ。
ただ戦慄し、そこに固まっていた。
「あははは! このジジィ、弟子に対抗意識燃やしてやがるぜぇ、莫迦か、オメェは?」
「なんだとぉぉ!! アゴぉぉ!」
「てめぇが取った弟子の才能に嫉妬しやがっらぁ―― これが天下の北斎かよぉぉッ!!」
「嫉妬ぉぉだとぉぉ! いつ誰がだぁ。クソアゴ女がぁぁ!」
不意に、笑い声が響く。大きな女の声だ。
文机で画を仕上げていた、お栄が振り向き笑っていたのだ。
大きな顎を突きだし、大笑いしていた。
「嫉妬、意外になんだ? クソ鉄ジジィ、テメェはいつもそうじゃねぇか! 見境ねぇんだよ」
「て、テメェ!! 何が嫉妬だぁぁ! べぇかぁ野郎ぉぉ、そんなんじゃねぇ。仕事だ―― コイツも仕事をだなぁ……」
「先生! 仕事を! 仕事ですか! 画の!」
万之介は北斎の肩をグッと掴み言ったのだ。
「べぇかぁ! テメェ、クソ力で握るんじゃねぇよ!」
「すいません。先生」
慌てて手を離す、万之介だった。
「なんちゅぅ、力だ…… てめぇ、剣術の方はからっきしだって聞いていたが、力だけはありやがるな――」
「いえ…… 人足仕事ばかりしてましたので…‥」
「まあ、いいや。すぐってわけにはいかねぇが、書肆に売り込んでおいてやる。この画借りるぜ」
「は、はい――!!」
天下の葛飾北斎が、版元に推薦するのだ。
もはやそれは、己が画が世に出るということが、保証されたも同じである。
万之介は身の震えを抑えるのが精一杯だった。
「万之介よ。気にすんなよぉ。このクソ鉄ジジィは、若い奴だろうがなんだろうが、画のことになると、狂ってやがる―― ちょっとでも良いと嫉妬するんだぜぇ――」
「ちょっとでも良いと?」
「おおッ! オメェの画が良いんだよ―― 認めてんだ。このクソ鉄ジジィが」
お栄の言葉。それで、万之介は有頂天になりそうになる。
浅黒く大きなアゴをした姉御肌の北斎の娘。
細い目が更に細くなり、万之介を見やっていた。
「取り込み中かのぉ――」
開けっ放しの戸から声が聞こえた。
気だるげで淫蕩な響きを持った声。
鬼狂だった――
「鬼狂様」
「ほうぉ、おったかよ、万之介」
「そりゃいるさ。クソ鉄ジジィの弟子だしな」
「そうじゃな――」
「水でも飲むかい?」
「もらおうかのぉ」
そう言って、脇に置いてある水桶に太く黒い腕を突っ込むお栄。
乱暴に、碗に水をくむとゆらりと、座敷に上がり、まるで散らばるゴミの上を滑るように鬼狂は歩み寄った。
万之介を妖艶な眼差しで一瞥すると、碗を受け取りそれを飲んだ。
「おう、なんでぇ? 鬼狂――」
北斎が鬼狂に声をかけた。
すっと、鬼狂は北斎を見やる。そして、懐から何やら取り出したのだ。
「黄表紙?」
「そうじゃ、鉄蔵」
「どこの書肆のでぇ、そいつは」
「知らぬ」
「まあ、いい―― で、見てもいいが……」
そう言って、北斎は黄表紙を受け取る。
「なんだ? この刷は…… 彫りもひでぇぜ――」
そういって、丁をめくる北斎だった。
しかし、次第に顔は真剣味を帯びてくる。
ジリッと額から汗が流れ出していた。
「どうじゃ? どこぞの絵師か―― 鉄蔵よ」
「いや…… そいつは、俺の方が訊きてぇよ」
黄表紙を閉じ、北斎はそう答えた。
「おい、なんだよぉ、俺にも見せてみろよぉ、イイだろ? 鬼狂様よ」
お栄が興味を隠せぬといった風に言った。
万之介もそうであった。北斎が顔色を変える画――
何があったのだ?
「万之介、オメェも見るか? こっち来い。なんなら、ひざの上に乗ってもいいぜぇ」
お栄は「ひひひ」と父に良く似た笑い声を上げた。
そのような戯言をとりあえず、置いておきふたりは黄表紙の丁をめくったのだ。
確かに荒い彫だ。しかも、どうにも刷も甘い。
安い黄表紙なのだろう。
ただ、万之介は何処かで、その画を見た記憶があった。
(どこであったか……)
彼は記憶をたどる。
最近は「手すさび」に他人の画を使わない。
己が画や鬼狂を想い「手すさび」するため、この種の本を使っていないのだ。
なにやら、見た覚えがありそうであったが、モヤモヤとし思い出せない。
その鬼狂は、ごみを払いのけ、場所を作ると座り込み、煙管をふかし始めていた。
(武者絵? 武者が…… 物の怪と―― むぅぅぅ、武者が犯されるのか、物の怪に――)
食われていた。武者が、物の怪に食われ。
そして、犯されていのだ。
腸を食われながら、物の怪の陽根で、尻を貫かれていた。
食い入るように万之介はその画を見た。
そえ文も読んだ。その文と絵が、刷の甘さ、彫の雑さを忘れさせる。
まるで、脳髄の中に映像が流れ込むかのようだった。
気が付くと「ふぅ、ふぅ、ふぅ」とお栄が呼気を荒くしていた。
その細く切れ上がった目が、淫蕩な色に染まっている。
(女―― 武者が女に変化―― なんだこれは……)
そして、物の怪に食われ、武者は女に変化していた。
そして、無数の物の怪に、犯されていたのだ。
口も尻も、その身に出来た淫道もだった――
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アウつ フゥ フゥ たまりませぬ 夢かともおもうふ もふ七かいもいきました
ああああ わかみの おのこがなかりせねば このみは小名子に なりて ああああ
もつとそこをきつくすつてくだいませ おのことは くらへものになりわせぬ
アフゥ このみで いきませう わたくしはいきます いきます いきます
おなこのからだに おちまする――
---------------------
その枕絵の「書き入れ」と呼ばれる文がまるで、呪詛のように頭に響く。
万之介の頭の中では、武者が怪異に犯され、女へと変容し、犯され、淫蕩な喜悦の声を上げていたのだった。
そしてそれは、容易にあの体験と結びついた。
「武者が女に…… この画…… 二天様……」
つぶやく万之介。
鬼狂は、煙管を手に持ち、その万之介を流し見るのであった。
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