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その9:復活!古代魔法文明の英知!俺の「2次エロ絵」で異世界よ震えよ!

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 ふっと立ち上がる俺。
 そして、オニィィターンのところまで歩く。

 「オニィィターン、ちょっとそれ貸してくれないか?」

 俺は言った。

 オニィィターンは絵を描く手を止める。

 そして、こちらを見た。

 リボンで結ばれたツインテールが揺れる。

 スク水、白ニーソ、ポニーテールの美少女だ。
 大きなリボンも可愛らしい。

 外見は、幻想の中にだけ住む「妹」の存在を具現化したものだ。
 あざいといまでの、「妹萌」である。
 いまどき、エロゲーですらあり得ない。

 外見はドストライク。
 しかし、スイングにいったら、急激な変化をして顔面目がけて飛んでくるビンボール。
 それが、オニィィターンである。

 「キャハハハハ!!! 素晴らしいのでーす!! お兄様も、大宇宙コスモ創造神様の美しい御姿をご所望なのでーす! イエイ」

 そう言うと俺に、電波強度のがビンビン言っている絵を渡した。
 触手と目玉と口と粘液がリアルに描かれている。
 紙の白い部分がないほど、ビッチリ描きこまれている。
 この手の絵をかく人間はなぜ、余白を嫌うのか……

 「大宇宙コスモ創造神様は偶像崇拝も認める御心の優しい神なのでーす! 万歳三唱なのでーす! いくのでーす! イエーイ!」
 オニィィターンはガタンと椅子から立ちあがる。
 そして、両手に自分の描いた絵をもった。

 「大宇宙コスモ創造神様! ばんざーいい!! ばんざーーいい!! ばんざーーいい!! なのでーす!! イエイ!」

 万歳三唱を行った……

 「なにをやっているのですか? お兄様も万歳三唱なのでーす! 万歳三唱はあまねく、ご信心の光なのでーす! 特異点も破壊するご信心の超電波パワーなのでーす! イエイ!」

 オニィィターンは俺に一緒に万歳三唱するように言った。
 分けがわからない。
 しかし、この種類の人間のいうことは実害がない限り従った方がいいのだ。

 「「大宇宙コスモ創造神様! ばんざーいい!! ばんざーーいい!! ばんざーーいい!! なのでーす!! イエイ!」」
 俺とオニィィターンの万歳三唱が響き渡る。

 「これで、お兄様のご信心の心も、あまねく超電波波動にのって、大宇宙コスモ創造神様に入電するのでーす!! イエイ!」

 入電しなくていいから。
 なんか、呪われそうだし。
 そうじゃないから、俺が欲しいのは、カルト教の祝福じゃないからね。

 「いや、ちょっとその紙とペンを貸してほしいだけなんだけど」
 「お兄様が望むなら、巫女の我が身はその血の一滴までも捧げるのでーす! その心も体も捧げるのでーす! ただし、その半分は、大宇宙コスモ創造神様が混じっているのでーす! 我が身は神罰の地上代行、アウトソーシングなのでーす! イエイ!」

 変なものが交っている妹で嫁だ。

 すっと、オニィィターンは俺にペンと紙を渡した。

 よし、これで俺の計画が遂行できる……

 俺は渡されたそれを見た。

 紙だ。
 これは質がイマイチだ。
 新聞紙よりはマシかという程度。
 ただ、絵をかく分には困らない程度のレベルだ。

 A4サイズくらいで、数十枚束ねてある。

 パラパラめくってみた――

 見なきゃよかった――

 ドロドロの心の闇を焼きつけたような絵が、びっしりとたくさん描かれていた。

 俺は、オニィィターンを見た。
 クリクリとした可愛らしい目で俺を見つめている。
 スク水、白ニーソの格好。
 超電波!大宇宙コスモ教の巫女の正装である。
 ペンは……
 これは、あれだ、初期の鉛筆みたいなものだな。

 二枚の木の板に、鉛かなにかの金属芯が挟まれている。
 直径5ミリくらいか。
 その上から、タコ糸のようなものでクルクル巻にされ固定されている。

 芯を削れば、かなり細かい絵がかける。
 芯は削ったばかりのようで、尖っていた。

 試し書きしてみる。
 書き味はそう悪くない。持った感じもそんなに悪くない。
 細いクレヨンという感じだ。
 芯は、金属粉と粘土をまぜたものか?

 「結構、いいな――」

 俺は言った。
 「それは、巫女の我が身もお気に入りなのでーす! イエイ!」

 オニィィターンが言った。

 王子には絵心が無い。
 脳内情報を検索したら分かった。
 まあ、それはなんとでも言える。  そして、この世界にある文化があるかどうか?
 それを確認する。
 あああ、あるのか?
 一応、似たような絵本のような、ああ、そんな文化があるのか……
 かえって好都合じゃね?

 俺の計画は「漫画」だ。  この世界に漫画を持ちこむ。
 どうやら、似たような文化。

 絵物語的な本の文化がこの世界にもある。

 まあ、絵と物語の融合はそれほど、特殊というわけでもない。

 しかし、クールジャパンである。

 「MANGA」である。
 この21世紀の日本が誇る、恐るべき文化をこっちに持ち込む。
 そして、本にして大儲けだ。

 ダンジョンで戦う必要もねーよ。

 これでも俺はプロなのである。
 絵のプロだ。

 「何をする気ですか? 王子?」

 パイォーツが言った。

 俺は黙って、紙の上にペンを走らせた。
 こんなものか?
 そうだ、国民的漫画「ド〇ラ〇ン・ボ〇ル」をパクレばいいのだ。
 あれ?
 まてよ?
 どんな、漫画だったっけ?
 エロゲーと、エロ漫画しかやってないのでよく覚えてないな……
 確か……

 うん、これだ。
 これであっている。

 ちょっとラフな感じだが、俺はそれを書いた。

 「パイォーツ、どうだ?」
 俺は描き上げた「ド〇ラ〇ン・ボ〇ル」を見せた。

 「ああああん、ゴ〇ウぅぅぅぅ、激しいぃぃ、はげしすぎるだぁぁ~」
 「だって、オラ、死んでるあいだ、お前を抱けねえんだぞ! 生き返ってるときくらいオマエを抱かないと――」
 「ああああ、ゴ〇ンちゃんが起きちゃうだぁぁ、だめだぁぁ、奥さんをこんな激しくせめてどうするだぁぁ ああん、後ろからけ? オラ恥ずかしいべぇ~」
 「あああ、オラの「赤ちゃんできちゃう器」に力を集めてくれぇぇぇ!! はぁぁぁぁあ!!!!」
 「ああああああ、〇ーパー〇イヤ人はだめぇ! ダメっオラ壊れちまうだぁぁぁ!!」
 「〇チ~、オラの10倍界〇拳だぁぁ~」
 「いいべぇぇ、とてもいいだぁぁ!! そこがいいべぇぇ」
 「クリ〇リ〇のことかぁぁぁあ!!!」

 確か、こんな見せ場があったはずだ――
 会心のパクリである。

 腕を組んで勝ち誇る俺。

 「なんですか? これ?」

 意外な反応。まずい、レベルが高すぎたか?

 「『漫画』という文化だ。教養といってもいいな。王族としての軽いたしなみだな」

 ビッと人差し指を突きだして俺は言った。

 「下手くそな絵ですねェぇぇ~、なんですこれ?」

 ヒクヒクと笑いをこらえて、パイォーツが言った。

 「きゃはははは!!!! お兄様の手は巫女の我が身の乳首いじり以外は下手くそなのでーす! イエイ!」
 オニィィターンがダイレクトに俺の心を折にきた。

 何のオブラートにも包まれていない、言葉の刃。

 何の遠慮も配慮もありません。

 「絵とは、こう描くのでは?」

 俺から、ペン受け取ると、パイォーツは絵を描きだした。
 スラスラとペンを紙の上に走らせる。

 「と…… 〇り山先生か…… お前は……」

 驚愕する俺。

 俺のラフな絵から、見たことも無いはずの、オリジナルの絵を再現。
 どういう能力なんだこいつ……

 「王子の絵にはなにか、勢いがないです。デッサンも狂ってます。線がくすんでます。全体に雑です――」

 全否定。 

 底辺エロ絵師の積み上げたスキルを全否定であった。

 「お兄様は、絵が下手でも、巫女の我が身の乳首をクリクリしてればいいのでーす! イエイ!」

 そう言うと、オニィィターンはパイォーツから、ペンと紙を受け取って、また絵を描きはじめた。

 「宗教画と写実画は違うのでーす! イエイ!」

 オニィィターンは言った。

 「おま…… ベ〇セ〇クの作者か……」

 まるで三〇健〇郎先生のような筆致で、触手を描きだしたオニィィターンである。
 たしかに、電波絵も緻密は緻密だった。
 しかし、これ写実画なのか?
 触手だけど?

 「あああああああああああ~」

 俺はその場に崩れ落ちた。

 積み上げてきた何かが粉砕された。

 なんだ?
 この目から溢れる液体。
 涙?
 俺泣いているのか? 

 涙がこぼれてきた。
 俺の足元にポツポツ落ちる。

 俺はしゃがみこんで、その涙をなぞる。

 指でなぞった。

 異世界…… 
 甘くねーよ。
 つーか、今日何曜日?
 ああああ、異世界来たら、ユリキュアが見られない……
 そうだ。
 もう、俺は「ユリキュア」を見ることができない。

 急に悲しみで俺の胸が苦しくなった。

 今期始まったばかりの「プリン説・ユリキュア」は、俺の心のバイブルだ。

 キュア・テインクルたんの、釣り目が好き――
 あああああ、液晶画面をペロペロしていた俺。
 しかし、もう会えない……

 俺は、指で「キュア・テインクルたん」を描いていた。

 「キュア・テンクルたん……」

 俺の描いた、キュア・テンクルたんが、俺に微笑んでいた。

 あれ?

 なんか、青く光っているんですけど?

 なにこれ?

 ガタン!!
 椅子を後ろにひっくり返して、ロロリィが立ち上がった。

 「なんなのよぉぉ! これ!! この力はぁぁ?」

 驚愕の表情を浮かべ叫ぶロロリィ。 

 光っていた。
 俺の描いた、俺が涙で描いた「キュア・テンクルたん」が青く輝いていたのである。
 「2次元エロ絵……」

 つぶやくようにロロリィが言った。

 「なんですか? それは?」

 パイォーツが言った。

 メガネに指を当てて、俺の描いた「キュア・テンクルたん」を見ながらである。
 なんとも、不可解なものを見るような、胡散臭そうに見ている。

 「私も初めてなのよぉぉ……」

 ロロリィが言った。

 「その存在を予測していたのは、私を含め、数人の魔法研究者なのよ――」 
 「はあ……」

 このポンチ絵が?
 って感じの表情で、見つめるパイォーツ。

 「古代魔法文明の発掘遺跡の痕跡から、存在を確信していたのよ…… でも、まさか……」

 すっと、ロロリィが青い光を放つ、「キュア・テンクルたん」に触れた。
 瞬間、奔流となった青い光が、ロロリィの中に流れ込んでいった。

 「あああああん、らめぇ、くるのぉぉ、きちゃうぅぅ、こんな濃いのが、パンパンにぃぃぃ~」

 ガクガクと体を震わせのけ反るロロリィ。
 口の端からよだれを垂らす。

 そして、青い光が消えた。
 全て、ロロリィの中に流れ込んだように見えた。

 「スゴイのよぉぉ!!! 私の魔力封印がぁぁ!! 30%は外れたのよ!! すごいのよぉぉ!!」

 胸を張って絶叫するロロリィ。

 「ひゃははっはあああ!!!! いけるのよぉぉ!! もうね、天才賢者様、復活の序章なのよぉぉお!!!!」

 高らかに宣言するロロリィ。

 なんか、俺、解放しちゃいけない、魔神ぽいいのを間違えて解放しちゃった気分なんだけど。

 ヤバくね?

 「な、なにが起きたの? ジーク! 説明しなさい!」

 うろたえるクールビューティ。
 「いや、俺しらねーよ。ロロリィに訊いてくれ」

 「ふっふん―― もうね、この8歳、初潮前の天才賢者様に、舐めた口きかない方がいいのよ! 天才!ロロリィ様は復活なのよぉぉ!!」

 ロロリィは、全身からうっすらと青い魔力光を放っている。

 「古代魔法文明の禁断の技術―― 『2次元エロ絵』その封印を王子が解いたのよ!」

 「なんですか? それ『2次元エロ絵』って?」
 パイォーツが言った。

 「邪教徒の、怪しき技は、巫女の心眼で、打ち破るのでーす! 邪教徒のチンケな魔法など、神の奇跡の前には、大腸菌のクソほども価値がいないでーす! イエイ!」

 オニィィターンが言った。

 「いや、描いた俺が分からんのだが…… なんだ? 『2次元エロ絵』って?」

 俺は言った。

 「ふん―― アホウどもに説明してあげるのよ! この天才賢者様がぁぁ!」

 そう言うとロロリィはトコトコと、黒板の前まで歩いた。

 「古代魔法文明―― 5万年前に隆盛を極めたといわれる魔法文明――」

 ロロリィは、黒板に説明を書きはじめた。

 「この古代魔法文明の中でも禁断の技術といわれたのが『2次元エロ絵』なのよ」

 「禁断の技術――」

 俺は言った。

 「そうよ、それは物質の組成を変化させ、死者すら復活させる、呪詛、既存の魔法による現象など、これ比べれば、おままごとなのよ――」

 「それを、なぜ王子…… ジークが……」

 パイォーツが言った。

 「分からないわ―― 偶然かもしれない。必然かもしれない」

 ロロリィが言った。

 すっと、ロロリィは俺の方に歩いてきた。
 そして、俺の手を握る。
 繊細な、芸術品のような幼女の手。

 碧い瞳で俺をジッと見つめる。

 俺はその手を握り返した。

 そして、ロロリィはクルッと向き直った。
 金髪ツインテールが舞った。

 「これは、王子のスキルよ!『2次元エロ絵』は。でも、これを使いこなすには、私よ! 天才のこのロロリィ・ペイドの力が必要なのよ!!」

 ロロリィの声が、食堂兼用作戦室に響いたのであった。
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