魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

中七七三

文字の大きさ
40 / 41

39.時速は91キロです

しおりを挟む
「どこで襲撃されたんだ! おい!」

 これ以上ないというくらいのバッドニュースを伝えてきた事務官をウェルガーは見やった。
 その船には、ラシャーラが乗っているかもしれない。

 この島に帰ってくるために――

 ラシャーラは、リルリルの親友以上。もう、姉のような存在だ。
 ウェルガーにとっても大事な友人だ。

「ああ、あ、あ、あ…… 商船に積んでいる連絡用の鳩れすぅぅ~」
 
 事務官が答える。ガクガクと震え顔面蒼白であった。
 なんとも見当違いの答えだ、ウェルガーは襲撃場所を訊いたのだ。

 普段は温厚そのものといっていいウェルガーの視線が兇悪な刃のようになって事務官を貫いているせいだ。
 彼の頭の混乱していた。
 そのため、時系列的に整理して、質問に回答しようとしたのだ。
 結果口から出た答えは、迂遠なものとなる。

 ふぅ~と、息をすって殺気を抑え込むウェルガー。
 それだけ、目の前の男がカクブルだったのだ。
 事務官の怯えように気づき、ウェルガーは冷静な声で話しかけた。

「だから、襲撃された場所を訊いているんだ、そんなことを訊いていない」
「おそらく王国とこの島の行程、王国から出て四分の一、あたりかと…… キチリ行政事務長が」
「そうか、キチリが……」

 彼は上司であるキチリ・ジムスキーに言われた言葉を思い出しそのまま言った。
 ハトが飛び立った時間は書に書かれていた。
 船の巡航速度、鳩の推定飛行速度からキチリが襲撃地点を計算したのだ。

 概算ではあったが、そのような計算ができるのはキチリくらいなものだった。

「悪い…… ちょっと俺もカッとなっていた―― オマエさんのせいじゃないよな……」

 ウェルガーは優しげすら感じるような声音で言った。
 内心はそれどころではなかったが。

 緊張と恐怖から解放された事務官はその場にへたりこんだ。

 船が襲撃されたのは、彼の責任ではない。
 元とはいえ、超絶チート無双の勇者だったウェルガーの殺気を浴びたのは不運としかいいようがない。 
 彼がこの場に来たのは、事務官の中で一番脚が速いと言うだけの理由だった。
 まったくもって、なにが不運を招くか分かったものではない。

「マリュオン!」

 ウェルガーの声にマリュオンが反応した。ツリーハウスの2階にあたる部屋の戸が開く。
 マリュオンは無造作にふわりと空間に身を躍らせた。
 そしてトンっという感じで、地面に着地する。彼女に階段は必要なかった。

「マイ・マスターなんですか?」
「飛べるか?」

 ウェルガーは小柄な魔法使いマリュオンの肩をガッと掴んで言った。
 彼女は錬金術師の創り上げた人造魔法使い(ビーイング)なのだ。
 漆黒の衣装に身を包み、魔法使いとしか言いようのない帽子をかぶった美少女にしか見えないが。
 
「可能です。現在の最大可能飛行時間は7時間11分となります」
「速度は?」

 ウェルガーの答えにマリュオンは無表情なまま答えた。飛行速度を上げれば、飛行時間は減ることも合わせて。
 巡航で時速45.5キロメートル。
 最速で時速91キロメートル。
 
 ウェルガーの前世での単位でいえば、そんな速度だった。
 最速の方は、真っ赤なマントをひるがえして飛ぶキャラと偶然同じだった。
 ウェルガーの前世での世界の漫画・アニメキャラだが。正体がバレると「クルクルパー」になる設定。
 マリュオンにはそんな設定は無い。ただ、感情が無い。

「俺を抱えても同じか?」
「速度は変わりません。航続時間が大きく落ちます」

 マリュオンはその航続時間を淡々と告げた。かなり短くなる。
 ウェルガーは頭の中で「速度×時間=距離」の計算した。

「届かないか…… それじゃ届かないか」

 そして、その結論を口にしていた。

 前世では日本人のおっさんであり、そこそこの教育を受けてきたのだ。
 この世界の一般人ではほとんど不可能な計算でも、彼には出来る。
 勇者の力とは何の関係もない。元の世界であれば、平均以上の頭の中学生であればできることだ。
 
(俺は、リルリルの血を舐めて、力を復活させても、10分しかもたねぇ……)

 元勇者ウェルガーは引退の際に勇者の力の根源たる魔力核×1000個のパワーを完全封印している。
 それを10分の1だけ解除はできる。
 リルリルの血を舐めればいい。しかし、それは10分しかもたない。

(くそ…… どうする……)

 リルリルは新居の掃除をしている。彼女を悲しませるわけにはいかない。
 絶対にだ。まずは、この話は完全に伏せておく必要がある。

 幸い、リルリルは店の中で掃除しており、この話は聞こえていない。
 ウェルガーは、へたり込んでいる事務官に「誰にもいうな」と言った。
 カクカクと頷く事務官。

 そして、再びマリュオンに向き合った。

「マリュオン、航続距離を伸ばすことは? 巡航速度では?」

 マリュオンの答えた数字で計算。それでも届かない。
 そして、時間は倍近くかかる。

 どうすればいいのか、ウェルガー答えが浮かばない。 

「ぬぅっ!!」
「マイマスター」
「ひぃぃぃーー!!」

 ウェルガーがブワッと全身から汗を吹きだした。
 冷たく凍ったような汗だった。
 鋭い殺気を身にまとい「臨戦態勢」となる。

(この気配―― くそ、頭に血が上りすぎて、接近をゆるしすぎたか)

 ウェルガーはまるでその気配を「宣戦布告」とみなし「当方に迎撃の用意あり」という大勢になった。
 マリュオンは表情を変えぬまま、ウェルガーの視線の方向に、すぅぅっと首を回転させた。人形のようにだ。
 事務官は、先ほどとは比べ物にならぬウェルガーの殺気に当てられ口から泡を吹いていた。 
 
 彼の視線はこの高台となっている家と港・街の方に向かう道に向けられていた。
 そこは階段のようになっている。まだ、人影は見えない。

(カターナに階段の掃除をさせていたが…… 遭遇したのか―― アレと……)

 ウェルガーは混乱の事態がさらに最悪になっていくことを想像した。

 非常識な戦闘力を持つ真紅の髪の大剣の美少女剣士と、この気配の持ち主の遭遇……
 タダで済むはずがない……

「引っ越したのですか。山の方の家に看板が立っていましたが」
「師匠ぉ、このお姉さんが、師匠のお姉さんなんですか? 確かに只者じゃないんですけど――」

 ウェルガーの思いを裏切るのんきな声が聞こえた。
 階段を上がってきた者が姿を現した。

 黒く長い髪をした妙齢の美女――
 そして、鮮血をぶちまけたような目に突き刺さる真紅の髪をした隻眼の美少女だ。

 そのふたりが新居に続く階段を上がって来たのだ。

 ウェルガーの師匠のニュウリーン。
 そして、ウェルガーの押しかけ弟子となったカターナだった。 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...