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第5話 それぞれの真意は
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さて、そうと決めたらどの様に動くべきだろうか。
俺は、目の前に座るアルトゥールを眺めた。
その表情は穏やかで慈愛に満ちているが、腹の中で何を考えているかなどわかったものではない。
慎重に行動しなければ。
だが、やはり怪我のせいで色々鈍っているのだろうか。
「ねえ、君が今何を考えているのかはわからないけれど」
アルトゥールが不意に、目を眇めた。
「僕は、君に危害を加えたりしないよ、誓って本当だ。直ぐに信用してくれとは言わないが、どうか、君が今何を心配しているのかだけは教えてくれないかな」
驚いた。まさか貴族がこんな風なことを言うなんて。
こいつが予想外なことを言うせいで、ここまで言うなら、聞きたいことを聞いてみてもいいかもしれない、などと思ってしまった。なぜだろう、アルトゥールと接すると、せっかく固めた警戒心が春先の雪の様に溶けていくのを止められない。
「あんたは、俺をどうしたいんだ」
「え?」
言いたいことを言えと言ってみたはいいものの、まさか俺が本当に口を開くと思わなかったのか、アルトゥールが驚いた声を発した。
「執事になれ、だって?一体どう言うつもりなんだ、あんた。得体の知れない孤児拾ってきて、挙げ句の果てにそんなこと言うなんて、いったい何企んでる?」
俺がそういうと、アルトゥールが苦笑を浮かべた。
「どういうつもりも何もないよ。さっきも言った通り、通りすがりに倒れているのを見つけたから連れ帰ってきただけだ。君を害する気はないよ」
ね、信じて、とでもいうように眉を下げて、こちらを覗き込んでくる。
「全身に深い傷があったから、ひどい目にあったんだろうと思って、警戒させないようにできるだけ丁寧に接したつもりだったんだけどな。伝わっていなかったようだね。ちゃんと言葉にするべきだったよ」
その言葉を聞いて、ふと今までのこの場での自分の扱いを思い出す。確かに、一度も乱暴に扱われなかった。
メイドも執事も全員、孤児の俺より身分は上のはずなのに。
「執事にならないかと誘ったのも、ちょうど見習いになる者を探していたからだ。僕と年齢が近い方がいいし、見たところ君は僕と同い年くらいだろう?こうして出会ったのも何かの縁だと思ったんだ」
考え込む俺をみて、手応えを感じたのだろうか。アルトゥールが畳み掛けてきた。
「分かってくれたかな?」
「…ああ」
俺は、一瞬躊躇った末、頷いた。これ以上突っかかっても埒が開かないと思ったのだ。
「それはよかった。…それで、どうする?」
「…なる。なるよ、お前の執事に」
今度は、さして迷うことなくすぐに頷いた。
正直、憂うことが何もないなら、アルトゥールの提案は俺にとっては願ったり叶ったりだった。俺は今、無職な上怪我人なのだ。信用できないだのなんだの考えてはいるが、結局、ここを追い出されたら大した日もおかずにそこらへんの路上で野垂れ死ぬことになるだろう。
「そうか!嬉しいよ!」
アルトゥールは、満面の笑みを浮かべた。
「では、今日から君は我が家の一員だ。ええと、名前はなんだい?」
思わず返事に困った。俺にはここで名乗れる名前がない。組織では28番と呼ばれていたが、さすがに不自然だろう。
「ない」
「え?」
「俺に名前はない。特に必要はなかったから」
仕方がないのでそう答えると、アルトゥールは困ったようななんとも言えない顔をして、そうか、といった。
「では、そうだな、君の名前は今日からルアンだ。そう呼んでもいいかい?」
「ああ」
俺が頷くと、アルトゥールは再び笑みを浮かべた。
そして今度はスッと姿勢を正し俺を見つめる。
「それでは、改めて、ルアン。僕の名前はアルトゥール・フォン・シュヴァルツ。今日を持って君の主人となる。これからよろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
俺は、今の自分にできる最大限の礼をした。
ルアン。
俺がこの世に生まれて初めて手に入れた、名前。
なぜかはわからないけれど、胸の辺りがじんわりと温かくなった。
俺は、目の前に座るアルトゥールを眺めた。
その表情は穏やかで慈愛に満ちているが、腹の中で何を考えているかなどわかったものではない。
慎重に行動しなければ。
だが、やはり怪我のせいで色々鈍っているのだろうか。
「ねえ、君が今何を考えているのかはわからないけれど」
アルトゥールが不意に、目を眇めた。
「僕は、君に危害を加えたりしないよ、誓って本当だ。直ぐに信用してくれとは言わないが、どうか、君が今何を心配しているのかだけは教えてくれないかな」
驚いた。まさか貴族がこんな風なことを言うなんて。
こいつが予想外なことを言うせいで、ここまで言うなら、聞きたいことを聞いてみてもいいかもしれない、などと思ってしまった。なぜだろう、アルトゥールと接すると、せっかく固めた警戒心が春先の雪の様に溶けていくのを止められない。
「あんたは、俺をどうしたいんだ」
「え?」
言いたいことを言えと言ってみたはいいものの、まさか俺が本当に口を開くと思わなかったのか、アルトゥールが驚いた声を発した。
「執事になれ、だって?一体どう言うつもりなんだ、あんた。得体の知れない孤児拾ってきて、挙げ句の果てにそんなこと言うなんて、いったい何企んでる?」
俺がそういうと、アルトゥールが苦笑を浮かべた。
「どういうつもりも何もないよ。さっきも言った通り、通りすがりに倒れているのを見つけたから連れ帰ってきただけだ。君を害する気はないよ」
ね、信じて、とでもいうように眉を下げて、こちらを覗き込んでくる。
「全身に深い傷があったから、ひどい目にあったんだろうと思って、警戒させないようにできるだけ丁寧に接したつもりだったんだけどな。伝わっていなかったようだね。ちゃんと言葉にするべきだったよ」
その言葉を聞いて、ふと今までのこの場での自分の扱いを思い出す。確かに、一度も乱暴に扱われなかった。
メイドも執事も全員、孤児の俺より身分は上のはずなのに。
「執事にならないかと誘ったのも、ちょうど見習いになる者を探していたからだ。僕と年齢が近い方がいいし、見たところ君は僕と同い年くらいだろう?こうして出会ったのも何かの縁だと思ったんだ」
考え込む俺をみて、手応えを感じたのだろうか。アルトゥールが畳み掛けてきた。
「分かってくれたかな?」
「…ああ」
俺は、一瞬躊躇った末、頷いた。これ以上突っかかっても埒が開かないと思ったのだ。
「それはよかった。…それで、どうする?」
「…なる。なるよ、お前の執事に」
今度は、さして迷うことなくすぐに頷いた。
正直、憂うことが何もないなら、アルトゥールの提案は俺にとっては願ったり叶ったりだった。俺は今、無職な上怪我人なのだ。信用できないだのなんだの考えてはいるが、結局、ここを追い出されたら大した日もおかずにそこらへんの路上で野垂れ死ぬことになるだろう。
「そうか!嬉しいよ!」
アルトゥールは、満面の笑みを浮かべた。
「では、今日から君は我が家の一員だ。ええと、名前はなんだい?」
思わず返事に困った。俺にはここで名乗れる名前がない。組織では28番と呼ばれていたが、さすがに不自然だろう。
「ない」
「え?」
「俺に名前はない。特に必要はなかったから」
仕方がないのでそう答えると、アルトゥールは困ったようななんとも言えない顔をして、そうか、といった。
「では、そうだな、君の名前は今日からルアンだ。そう呼んでもいいかい?」
「ああ」
俺が頷くと、アルトゥールは再び笑みを浮かべた。
そして今度はスッと姿勢を正し俺を見つめる。
「それでは、改めて、ルアン。僕の名前はアルトゥール・フォン・シュヴァルツ。今日を持って君の主人となる。これからよろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
俺は、今の自分にできる最大限の礼をした。
ルアン。
俺がこの世に生まれて初めて手に入れた、名前。
なぜかはわからないけれど、胸の辺りがじんわりと温かくなった。
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