10 / 16
第10話 客間にて
しおりを挟む
そろそろ大きなイベントが一つ起こる予定なんですが、なかなかそこまで描写が辿り付かず…
日常回ばかりですみません
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
別邸から本邸までの道のりは長かった。4時間、決して快適ではない馬車に乗り続けた。これなら馬に乗る方が楽だなあと何度思ったかわからない。
アルトゥールはというと、ずっと緊張しっぱなしだったように見えた。馬車の中でも口数は少なく、物憂げな表情で窓の外を眺めていた。
尻も腰も背中も痛くなった頃、ようやく到着した。
御者が開けた扉から出て脇に立ち、馬車の内側に向けて手を差し伸べる。
そっと触れるように手が置かれ、アルトゥールが地面に降り立った。
「出迎えご苦労」
アルトゥールとルアンが見据えた先には、玄関を真ん中にずらりと並ぶ使用人たちの列があった。
その真ん中にいた男が進み出て、再びアルトゥールに深く頭を下げる。
「お待ちしておりました。アルトゥール様。長い距離のご移動お疲れでしょう。直ちに控え室にご案内いたします」
「ああ、頼む」
アルトゥールは硬い表情のまま、男の後ろについていった。
本邸の中はさすが由緒正しき貴族の屋敷ともいうべきか、ホコリひとつなく艶やかで、品の良い調度品に溢れ、どこか輝いて見えた。シャンデリアに照らされたホールを抜け、通された先は大きな客間であった。
「パーティまでこちらの部屋でお過ごしください。何かあれば遠慮なくお申し付けを」
「ああ」
言葉少なく返事をしながら、アルトゥール中央に置かれたソファーにどっかりと腰を下ろした。
使用人の男が部屋から出るのを見届けて、緊張を解くように大きく息を吐く。
そのまま黙り込んでしまったので、ルアンは思い切って彼に質問してみることにした。
「この部屋は客間のようですが、こちらのお屋敷にはアルトゥール様の自室は用意されていないのでしょうか」
間違いなく踏み込みすぎた質問だが、アルトゥールは答えてくれる気がした。
案の定、アルトゥールはルアンを少し見て諦めたように笑った後、口を開いた。
「どうだろう。多分ないんじゃないかな。僕が小さい頃にはあったんだけれどもね」
「小さい頃には?」
「そう。僕が別邸に移る前まではね。…どうしたんだい、今日はやけに僕に興味を持つね」
アルトゥールがくすくすと笑う。
「いろいろと気になってしまって。その、それこそ別邸のこととか」
「ああ、まあそうだろうね。これでも貴族の家だから、色々あるんだよ。ルアンは、いつも通り仕事をしてくれればいいから」
「かしこまりました」
結局何も教えてもらえなかったが、ルアンは納得して頭を下げるしかない。
それをなぜか少し不満そうに見た後、アルトゥールは壁に掛かった時計を見上げた。
「パーティまでもう少ししかないね。馬車の疲れは全く取れていないが、仕方がない。着衣を整えたいからローデリックを呼んできてくれるかい。君も手伝ってくれ」
「かしこまりました」
部屋の外にいた騎士の1人に声をかければ、すぐにローデリックが部屋へとやってきた。
「ああ、ローデリック。身なりを整えたいんだ。頼む」
「かしこまりました。ルアン、私は御髪を整えますから、あなたは衣装を。時間がないですから急ぎますよ」
「はい。アルトゥール様、一度ジャケットを脱いでいただきますね」
シャツの襟元やスラックスの小さな皺を整えた後、ジャケットについた装飾品などを丁寧に整えていく。
その横で、ローデリックがアルトゥールを椅子に腰掛けさせ、髪を優しく梳いている。本当ならばこのように準備を急ぐ必要など無いはずなのに、とローデリックがぼやいた。
「仕方あるまい。それに、見てみろ」
アルトゥールが椅子から立ち上がり、姿見の前に移動した。すっとルアンの方へ振り返る。
「ジャケットを」
ルアンは促されるままに、ジャケットを羽織らせ、ボタンを止め、胸元の装飾を整えた。
アルトゥールは、自分の姿を鏡で確認して、うん、とひとつ頷く。
「素晴らしい出来だ。我ながら、完璧だ。そうだろう?」
そして、くるりと振り返り、おどけた様子で両手を広げた。
それを見て、ローデリックは珍しく口角を上げた。
「ええ。とてもお美しいです」
ルアンはその様子に少し驚いて、ローデリックへの気遣いなのだと悟った。
かといって、ルアンは自分が何と返事をしたら良いかわからない。美しいという言葉はローデリックが使ってしまったし、適当な言葉で褒めるには失礼な気がした。
ローデリックは黙っているルアンに笑みを引っ込めて、お前も何か返事をしないか、と叱った。
「ああ、申し訳ないです。ええと、とてもよくお似合いで…」
「はは、いいんだ。いや、少し恥ずかしいなあ。自画自賛も甚だしかった」
「そんなこともないと思いますが」
「そうかな?ああ、おかげで緊張もほぐれた。時間もちょうど良いね。会場の方へ移動しようか」
そういって、アルトゥールは扉の方へ歩き出した。
ルアンはふと思い立って、その後ろ姿に言葉を投げかける。
「やっぱり緊張なさっていたんですね」
アルトゥールは立ち止まりルアンの方を振り返って、これは一本取られたよと笑った。
日常回ばかりですみません
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
別邸から本邸までの道のりは長かった。4時間、決して快適ではない馬車に乗り続けた。これなら馬に乗る方が楽だなあと何度思ったかわからない。
アルトゥールはというと、ずっと緊張しっぱなしだったように見えた。馬車の中でも口数は少なく、物憂げな表情で窓の外を眺めていた。
尻も腰も背中も痛くなった頃、ようやく到着した。
御者が開けた扉から出て脇に立ち、馬車の内側に向けて手を差し伸べる。
そっと触れるように手が置かれ、アルトゥールが地面に降り立った。
「出迎えご苦労」
アルトゥールとルアンが見据えた先には、玄関を真ん中にずらりと並ぶ使用人たちの列があった。
その真ん中にいた男が進み出て、再びアルトゥールに深く頭を下げる。
「お待ちしておりました。アルトゥール様。長い距離のご移動お疲れでしょう。直ちに控え室にご案内いたします」
「ああ、頼む」
アルトゥールは硬い表情のまま、男の後ろについていった。
本邸の中はさすが由緒正しき貴族の屋敷ともいうべきか、ホコリひとつなく艶やかで、品の良い調度品に溢れ、どこか輝いて見えた。シャンデリアに照らされたホールを抜け、通された先は大きな客間であった。
「パーティまでこちらの部屋でお過ごしください。何かあれば遠慮なくお申し付けを」
「ああ」
言葉少なく返事をしながら、アルトゥール中央に置かれたソファーにどっかりと腰を下ろした。
使用人の男が部屋から出るのを見届けて、緊張を解くように大きく息を吐く。
そのまま黙り込んでしまったので、ルアンは思い切って彼に質問してみることにした。
「この部屋は客間のようですが、こちらのお屋敷にはアルトゥール様の自室は用意されていないのでしょうか」
間違いなく踏み込みすぎた質問だが、アルトゥールは答えてくれる気がした。
案の定、アルトゥールはルアンを少し見て諦めたように笑った後、口を開いた。
「どうだろう。多分ないんじゃないかな。僕が小さい頃にはあったんだけれどもね」
「小さい頃には?」
「そう。僕が別邸に移る前まではね。…どうしたんだい、今日はやけに僕に興味を持つね」
アルトゥールがくすくすと笑う。
「いろいろと気になってしまって。その、それこそ別邸のこととか」
「ああ、まあそうだろうね。これでも貴族の家だから、色々あるんだよ。ルアンは、いつも通り仕事をしてくれればいいから」
「かしこまりました」
結局何も教えてもらえなかったが、ルアンは納得して頭を下げるしかない。
それをなぜか少し不満そうに見た後、アルトゥールは壁に掛かった時計を見上げた。
「パーティまでもう少ししかないね。馬車の疲れは全く取れていないが、仕方がない。着衣を整えたいからローデリックを呼んできてくれるかい。君も手伝ってくれ」
「かしこまりました」
部屋の外にいた騎士の1人に声をかければ、すぐにローデリックが部屋へとやってきた。
「ああ、ローデリック。身なりを整えたいんだ。頼む」
「かしこまりました。ルアン、私は御髪を整えますから、あなたは衣装を。時間がないですから急ぎますよ」
「はい。アルトゥール様、一度ジャケットを脱いでいただきますね」
シャツの襟元やスラックスの小さな皺を整えた後、ジャケットについた装飾品などを丁寧に整えていく。
その横で、ローデリックがアルトゥールを椅子に腰掛けさせ、髪を優しく梳いている。本当ならばこのように準備を急ぐ必要など無いはずなのに、とローデリックがぼやいた。
「仕方あるまい。それに、見てみろ」
アルトゥールが椅子から立ち上がり、姿見の前に移動した。すっとルアンの方へ振り返る。
「ジャケットを」
ルアンは促されるままに、ジャケットを羽織らせ、ボタンを止め、胸元の装飾を整えた。
アルトゥールは、自分の姿を鏡で確認して、うん、とひとつ頷く。
「素晴らしい出来だ。我ながら、完璧だ。そうだろう?」
そして、くるりと振り返り、おどけた様子で両手を広げた。
それを見て、ローデリックは珍しく口角を上げた。
「ええ。とてもお美しいです」
ルアンはその様子に少し驚いて、ローデリックへの気遣いなのだと悟った。
かといって、ルアンは自分が何と返事をしたら良いかわからない。美しいという言葉はローデリックが使ってしまったし、適当な言葉で褒めるには失礼な気がした。
ローデリックは黙っているルアンに笑みを引っ込めて、お前も何か返事をしないか、と叱った。
「ああ、申し訳ないです。ええと、とてもよくお似合いで…」
「はは、いいんだ。いや、少し恥ずかしいなあ。自画自賛も甚だしかった」
「そんなこともないと思いますが」
「そうかな?ああ、おかげで緊張もほぐれた。時間もちょうど良いね。会場の方へ移動しようか」
そういって、アルトゥールは扉の方へ歩き出した。
ルアンはふと思い立って、その後ろ姿に言葉を投げかける。
「やっぱり緊張なさっていたんですね」
アルトゥールは立ち止まりルアンの方を振り返って、これは一本取られたよと笑った。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める
月神世一
ファンタジー
「剣? 魔法? いいえ、俺の武器は『鈍器になるノートPC』と『時速160kmの剛速球』です」
あらすじ
ブラックコンビニで72時間連続勤務の末、過労死した元甲子園優勝投手・赤木大地。
目覚めた彼を待っていたのは、コタツでソシャゲ三昧のダメ女神・ルチアナだった。
「手違いで死なせちゃった☆ 詫び石代わりにこれあげる」
渡されたのは、地球のAmazonもGoogleも使える『絶対破壊不能』のノートPC。
ただし、購入レートは定価の10倍という超ボッタクリ仕様!?
「ふざけんな! 俺は静かに暮らしたいんだよ!」
ブラック労働はもうこりごり。大地は異世界の緩衝地帯「ポポロ村」で、地球の物資とコンビニ知識、そして「うなる右腕(ジャイロボール)」を武器に、悠々自適なスローライフを目指す!
……はずが、可愛い月兎族の村長を助けたり、腹ペコのエルフ王女を餌付けしたり、気づけば村の英雄に!?
元球児が投げる「紅蓮の魔球」が唸り、女神の「ボッタクリ通販」が世界を変える!
異世界コンビニ・コメディ、開店ガラガラ!
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる