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第12話 当てずっぽうミステリー。
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「ねえ、お兄さまは“事故”で亡くなったのよね」
パタリと閉じた本をテーブルの上に置く。
「はい。ローランドさまがお乗りになった、馬車の馬が突然暴れだしまして……」
アタシが休息を入れたいと思ってる。そう判断したキースが部屋の片隅でお茶の用意を始めた。
いやだから、そういうのは小間使いのジュディスの仕事なんだってば。
かわいそうに、彼女、仕事を盗られてやることなしで突っ立ってるよ。慣れた手つきのキースは、カップに触れても音を立てない。
「御者はどうなったの?」
「ガス燈に衝突しましたので……」
「……」に含まれる余韻ですべてを察する。御者は馬車の前方に座るのが普通。兄が亡くなるほどの衝撃だったのだとしたら、御者も兄と同じ運命を辿っているだろう。
「アンタはお兄さまの執事だって聞いてるけど、一緒にいなかったの?」
兄と御者だけ亡くなった。コイツは無傷。そんなこと、ある?
従僕なら馬車に乗れないから、走って馬車についてくるけど、執事は別。上級使用人なんだから、兄さまと一緒に馬車に乗り込んでいるはず。
「わたくしは、その場におりませんでしたので」
なるほど。
「なぜ、そんなことをお尋ねに?」
「え、と。なんとなくよ、なんとなく」
返された質問に、焦った目線がテーブルの上の本に落ちる。
キースが借りてきた本。恋愛小説もあるけど、メインは冒険小説と推理小説だった。
普通、こんなの令嬢に渡す?
でも面白かったので、そっちをメインに読みふけってしまった。
で。
気づいちゃったのよ。
――兄さまって本当に事故死だったの?って。
今までは、コイツの言ってた「馬車の暴走による事故死」ってのを信じてた。馬だって生き物。どれだけ御者が手綱を握ってたって、暴れたら終わり。乗ってる方が怪我することもあれば、沿道の人が巻き添えを食らうこともある。兄の場合はその馬車がガス燈に激突したってこと。そんなところにガス燈がっていう、不幸な事故。運が悪かった。
馬車がぶつかった時、運悪くガス燈は点灯していた。灯されていた火が、事故で動けなくなった馬車に燃え移ったのだから、もうなんていうのか、「不幸の雪だるま」「運が悪いにもほどがる」。
そういう不幸すぎる事故の遺体だから、損傷が激しすぎるので早めに埋葬した。
その説明を鵜呑みにしてた。けど――。
本当にそうなの?
子爵家を継ぐことになったアタシを襲ういろんな出来事。
船から突き落とされかけたし、階段からは転げ落ちかけた。
全部、未遂。未遂だけど、その魔の手が兄さまに伸びてなかった……なんて確証はない。
もしかしたら兄さまの事故も、事故に見せかけた殺人だったとか? 兄さまを殺して、「これで子爵家の財産はオレのもんだもんねー♪」って思ってたら、「妹いましたー!! 次は妹が相続しまーす!!」ってなって。「ななな、なんだってぇっ!? し、仕方ない。妹も処理するとするか。おい、ヤれ」→「へい!!」ってことになってたり……。
この場合、「へい」はこのキースだと思うんだけど。
だってコイツが「アレのことは任せろ。安心していいと伝えろ」って言ってるの聞いちゃったし。「任せろ、伝えろ」ってことは、コイツ以外、もしかするとコイツの真の主、もしくは共犯者がいるってこと。アレ=アタシだとすると、「前にもソレ(兄)も首尾よく始末した。だから今回、アレのことも任せておけ」ってことになる?
今とりあえず、こうして生かされてるのは、「あまり不幸が続くと不審に思う者が現れる。とりあえずはホテルになり軟禁して、ほとぼりが冷めるのを待つ」なのかもしれない。
うん。ありえる。ありえるわ。
で、軟禁している間、アタシを逃すわけにはいかないから、こうして子分、従僕も追加で呼び寄せた。アタシがジュディスって味方になりそうな子を手に入れたから、対抗するように自分も仲間を増やした。襲われそうになって、アタシがジュディスと一緒に抵抗したとしても、二人でならなんとかなるとか――?
「――お嬢さま」
考え込んでたアタシにキースが声をかけてきた。
「想像力豊かなのはよいことですが、あまり深く考えないほうがよろしいかと。世の中は物語のような出来事ばかりではございませんので」
え? は?
「ローランドさまのことは不幸な事故だったのです。それ以外のなんでもございません」
キースの視線がアタシの読んでいた本に落ちる。
本は推理小説。金持ちの老婦人が何者かに殺された。その犯人は誰?――ってやつ。実は犯人は最初っから登場してて、っていうか、その物語の視線、語り手はなんと犯人自身っていうちょっと変わったもの。犯人の動機は納得できないけど、事件を調べに来た刑事とのやり取りで、主人公(犯人)がドキドキしているのが面白かった。天罰を受けるように、バレてほしい。ああ、でもここでサラリと追求を逃れられたら、悪役としてカッコよくない?みたいな。ちょっとしたジレンマが楽しかった。けど。
(だったら、こんな本ばっか借りてこないでよ)
他にも「鉄道に乗って旅をしていたはずの紳士が、鉄道から大きく離れた場所で遺体となって発見された」とか、「古いお城に招待された、見ず知らずの男女。招待主もわからないまま集められて、次々と不審な事故死が彼らを襲う」とか、そういった類の本ばっかり。
こんなの「フフフ、わたくしとその主が起こしているミステリー、貴女に解けますか? 解けなかったらお命頂戴いたしますよ?」的な宣戦布告にみえるじゃない。
適当なの、恋愛小説多めに借りてきてって命じたら、「お嬢さまなら、このような本がお好みかと」ってミステリー系多めに渡してきた。なかには、検死官みたいなのが出てくる本もある。人体解剖に喜び感じてるみたいなヤバい検死官。三度のメシより遺体好き。遺体を偏愛? 執着? してるけど、そこから恋愛を汲み取れっていうのかしらね。まったく。
「お嬢さま、少しお体を動かしませんか」
「え?」
「あまり思い詰めるとよろしくありませんよ」
クスリと意味ありげに笑う執事。
――ハッ!! まさか、「部屋で殺るのは得策じゃねーから、外に連れ出してザックリ」とかいうヤツ!? ノンビリ公園でも散策してたら、持ってたパラソルの影、もしくは背後からグサリ――みたいな?
ちょっとアタシ、大ピンチじゃない!!
パタリと閉じた本をテーブルの上に置く。
「はい。ローランドさまがお乗りになった、馬車の馬が突然暴れだしまして……」
アタシが休息を入れたいと思ってる。そう判断したキースが部屋の片隅でお茶の用意を始めた。
いやだから、そういうのは小間使いのジュディスの仕事なんだってば。
かわいそうに、彼女、仕事を盗られてやることなしで突っ立ってるよ。慣れた手つきのキースは、カップに触れても音を立てない。
「御者はどうなったの?」
「ガス燈に衝突しましたので……」
「……」に含まれる余韻ですべてを察する。御者は馬車の前方に座るのが普通。兄が亡くなるほどの衝撃だったのだとしたら、御者も兄と同じ運命を辿っているだろう。
「アンタはお兄さまの執事だって聞いてるけど、一緒にいなかったの?」
兄と御者だけ亡くなった。コイツは無傷。そんなこと、ある?
従僕なら馬車に乗れないから、走って馬車についてくるけど、執事は別。上級使用人なんだから、兄さまと一緒に馬車に乗り込んでいるはず。
「わたくしは、その場におりませんでしたので」
なるほど。
「なぜ、そんなことをお尋ねに?」
「え、と。なんとなくよ、なんとなく」
返された質問に、焦った目線がテーブルの上の本に落ちる。
キースが借りてきた本。恋愛小説もあるけど、メインは冒険小説と推理小説だった。
普通、こんなの令嬢に渡す?
でも面白かったので、そっちをメインに読みふけってしまった。
で。
気づいちゃったのよ。
――兄さまって本当に事故死だったの?って。
今までは、コイツの言ってた「馬車の暴走による事故死」ってのを信じてた。馬だって生き物。どれだけ御者が手綱を握ってたって、暴れたら終わり。乗ってる方が怪我することもあれば、沿道の人が巻き添えを食らうこともある。兄の場合はその馬車がガス燈に激突したってこと。そんなところにガス燈がっていう、不幸な事故。運が悪かった。
馬車がぶつかった時、運悪くガス燈は点灯していた。灯されていた火が、事故で動けなくなった馬車に燃え移ったのだから、もうなんていうのか、「不幸の雪だるま」「運が悪いにもほどがる」。
そういう不幸すぎる事故の遺体だから、損傷が激しすぎるので早めに埋葬した。
その説明を鵜呑みにしてた。けど――。
本当にそうなの?
子爵家を継ぐことになったアタシを襲ういろんな出来事。
船から突き落とされかけたし、階段からは転げ落ちかけた。
全部、未遂。未遂だけど、その魔の手が兄さまに伸びてなかった……なんて確証はない。
もしかしたら兄さまの事故も、事故に見せかけた殺人だったとか? 兄さまを殺して、「これで子爵家の財産はオレのもんだもんねー♪」って思ってたら、「妹いましたー!! 次は妹が相続しまーす!!」ってなって。「ななな、なんだってぇっ!? し、仕方ない。妹も処理するとするか。おい、ヤれ」→「へい!!」ってことになってたり……。
この場合、「へい」はこのキースだと思うんだけど。
だってコイツが「アレのことは任せろ。安心していいと伝えろ」って言ってるの聞いちゃったし。「任せろ、伝えろ」ってことは、コイツ以外、もしかするとコイツの真の主、もしくは共犯者がいるってこと。アレ=アタシだとすると、「前にもソレ(兄)も首尾よく始末した。だから今回、アレのことも任せておけ」ってことになる?
今とりあえず、こうして生かされてるのは、「あまり不幸が続くと不審に思う者が現れる。とりあえずはホテルになり軟禁して、ほとぼりが冷めるのを待つ」なのかもしれない。
うん。ありえる。ありえるわ。
で、軟禁している間、アタシを逃すわけにはいかないから、こうして子分、従僕も追加で呼び寄せた。アタシがジュディスって味方になりそうな子を手に入れたから、対抗するように自分も仲間を増やした。襲われそうになって、アタシがジュディスと一緒に抵抗したとしても、二人でならなんとかなるとか――?
「――お嬢さま」
考え込んでたアタシにキースが声をかけてきた。
「想像力豊かなのはよいことですが、あまり深く考えないほうがよろしいかと。世の中は物語のような出来事ばかりではございませんので」
え? は?
「ローランドさまのことは不幸な事故だったのです。それ以外のなんでもございません」
キースの視線がアタシの読んでいた本に落ちる。
本は推理小説。金持ちの老婦人が何者かに殺された。その犯人は誰?――ってやつ。実は犯人は最初っから登場してて、っていうか、その物語の視線、語り手はなんと犯人自身っていうちょっと変わったもの。犯人の動機は納得できないけど、事件を調べに来た刑事とのやり取りで、主人公(犯人)がドキドキしているのが面白かった。天罰を受けるように、バレてほしい。ああ、でもここでサラリと追求を逃れられたら、悪役としてカッコよくない?みたいな。ちょっとしたジレンマが楽しかった。けど。
(だったら、こんな本ばっか借りてこないでよ)
他にも「鉄道に乗って旅をしていたはずの紳士が、鉄道から大きく離れた場所で遺体となって発見された」とか、「古いお城に招待された、見ず知らずの男女。招待主もわからないまま集められて、次々と不審な事故死が彼らを襲う」とか、そういった類の本ばっかり。
こんなの「フフフ、わたくしとその主が起こしているミステリー、貴女に解けますか? 解けなかったらお命頂戴いたしますよ?」的な宣戦布告にみえるじゃない。
適当なの、恋愛小説多めに借りてきてって命じたら、「お嬢さまなら、このような本がお好みかと」ってミステリー系多めに渡してきた。なかには、検死官みたいなのが出てくる本もある。人体解剖に喜び感じてるみたいなヤバい検死官。三度のメシより遺体好き。遺体を偏愛? 執着? してるけど、そこから恋愛を汲み取れっていうのかしらね。まったく。
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「え?」
「あまり思い詰めるとよろしくありませんよ」
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