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第14話 ドレスは乙女のバトルコスチューム。

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 「帰ってきたら、どうだったか聴くから。ちゃんと教えなさいよ」と、イルゼ。
 「アナタの幸せを、殿下と上手くいくように祈ってるわ」と、ユリアナ。

 二人とも、こんな場所にわたしをおいて、サッサと領地に帰ってしまった。ユリアナはその伯爵家の寂しすぎる懐事情から。イルゼは、これ以上王都に居座って散財されてたたまらないと、家族に首根っこを引っつかまれての帰宅。
 イルゼもユリアナも一次選考を通過できなかったわけだし。仕方ないちゃあ仕方ないんだけど。

 (わたしも連れて帰ってほしかったなあ)

 なんて思いながら、階段を登る。わたしだって一次選考落選希望だったのにさ。

 隅々までチリ一つなく磨き上げられた王宮。
 寸分の狂いもなく、ズラッと両サイドに整列してお迎えをしてくれた衛兵さんたち。
 敷き詰められたレッドカーペット。 
 どれだけのロウソクが使用されているのか、見当もつかないほどきらびやかなシャンデリア。
 誰も傾聴してないのに、贅沢にも生演奏BGMとして音楽を奏で続ける王宮の楽団。
 ここはなにかね!? どっかの映画の賞が貰える場所なのかね。もしくは「文句があるならここまでいらっしゃい」の宮殿。「パンがないからお菓子を食べてますの」な人たちが暮らしてる場所。(違う)
 そんな場所なら、馬車を降りるなりしたらステキな男性のエスコートが必要でしょうよ。

 「ようこそ。私の愛しい姫ぎみ」

 花……ではなく、華々しすぎる王宮を背にしょった王子のお出迎え。今回は、ユリアナもイルゼもいないから、ちょうど心細かったのよね~。気後れしてたの。だから王子が出迎えてくれてホッといたしましたわ~、なんてことはない。絶対にない。
 白の礼服に、金のモール。髪までキラキラと輝いて、超眩しい。
 上等そうな白の手袋をつけた手を、「さあ」とばかりに伸ばされたら、気分はどこかのお姫さまだよ。

 「ど、どうも……」

 消え入りそうな声で返事をすると、伸ばすかどうかためらってた手を強引にとられた。
 腕をからめるほど親密ではないので手を重ね、腕を添わせてるだけだけど、それでもしっかり「わたしたちラブラブカップルです」アピールにはなる。
 だって。
 
 ――ほら、ご覧になって。
 ――ではあれが、殿下のお気に入りだという。
 ――男爵家のご令嬢だとか。
 ――まあ。

 容赦ない値踏みの視線。扇の裏で交わされるあけすけな批評。
 隠す気があるのかないのか。風に乗って(!?)シッカリわたしの耳にも届いてますよ。ええ。
 人のことを「あれ」とかモノ扱いしてるし。最後の「まあ」ってどういう意味だよ。まったく。(わかっているから、言葉にはしない)

 今日のドレスは、明るいブルーのドレス。
 お姉さまのお下がりをミネッタがリフォームしてくれたんだけど……。

 「本日のドレスは、爽やかな南国の海をイメージいたしました。シンプルなドレスを彩るのは吹き抜ける風を表現した薄いオーガンジーのショール。ドレスは、肩から腰にかけて流すようなラインを作り、腰からフワリと広がることで、軽やかさを出しております」

 って。
 「オマールエビとナントカのテリーヌ。~地中海の風を添えて~」みたいな表現、やめてくれる?

 「腰のあたりには、ショールと同じ淡い空色の薄羽のような軽やかオーガンジーを重ねてみました。肘上まである手袋はサテンの同じ色で。濃い青のドレスの裾には煌めく星を思わせる白の刺繍を。切り返しの下には水色のスカート。幾重にも布を重ね、ドレープをたっぷりとることで、シンプルな中にも華やかさを求めております。チョーカーと髪のリボンはドレスと同じ青。イルゼさまからお借りしたイヤリングはしずく型のアクアマリン」

 って。
 これ、どっかで見たことあるような……。確か、ネズミがいる遊園地の、あそこの白いお城の人……。

 「あ、バレました!?」

 テヘペロ、ミネッタ。
 って。
 これ、コスプレ衣装なのっ?
 版権的に大丈夫なの?

 「違いますよぉ。お嬢さまの未成熟なお胸をカバーするのに悩んで、たまたま思いついたのが、あのドレスだっただけですよぉ。お城のパーティーに参加して王子に見初められるってのが、参考になるなあって」

 人の姉のドレスを使って、何やってくれてるんじゃあっ!!
 人の体形をディスるなあっ!!
 って怒ればいいのか!?
 それとも、よく前世の記憶だけでここまで再現したわねって、感心すればいいのか。
 
 「ホントは、その髪も金色に染めてみたいんですけどねえ」

 ちょっと待ったあぁっ!!
 それじゃあ、完璧にコスプレだよ。ダメだよ、あそこ著作権メッチャ厳しいんだからね?
 
 「ま、髪だけはお嬢さまらしく結い上げておくだけにしておきますね。ガラスの靴もありませんし」

 レイヤーとしては納得してませんが。
 そんな不穏な呟きをしながら、ミネッタがセットしてくれた本日のわたし。
 記憶力バツグンすぎな転生者って、マジでコワい。
 
 とまあ、そんなこんなで出来上がったコスプレ衣装……もとい、夜会用のドレスなんだけど。

 「今日のきみは、一段とキレイだね。よく似合ってる。きみのその愛らしさに、私は何度でも恋をしてしまうよ」

 …………やめて。寒イボ出るわ。
 隣に並んだ王子のセリフに、うへぇって気分になる。
 褒められてうれしくないかって言えば、そりゃあうれしいけど? でも、自分のレベルは充分承知してるから、褒められてもヒクしかない。
 まあ、あれだね。デパートとかの宝石売り場で「さすがです、奥さま」「これが似合う者など、奥さまを置いて他におりません」みたいにおだてられても、「いやぁ。わたし、そんなキャラじゃないし」と逆に冷静になっちゃうような。ああいうセールストークにおだてられる人って、いったいどれだけいるんだろ。

 さて。
 そういうアホな思考は置いといて。
 
 代わるがわるわたしと王子に挨拶に来る人、人、人。
 わたしが注目のお妃候補(多分)だから、みんなして値踏みに来てるのがモロバレ。
 本当に、この娘でいいのか?
 この娘の対抗馬には、誰がいいのか?
 王子の血迷った嗜好を正し、目を覚まさせるにはどうしたらいいのか。
 そんな感じの品定め。
 わたしだって、別に好きで注目候補になったわけじゃないんだけど?
 代われるものなら代わって欲しいんだけど?
 なんて気分で王子の隣に立つ。
 でもね。
 わたし。

 この程度の娘ってバカにされるのだけはガマンならないのよっ!!
 
 この立場に納得はしてないけど、だからって、バカにされるのはもっと納得がいかない。
 こうなったら完璧な令嬢のフリ、してやるわよっ!!
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