転生のバベルと贖罪の世界

森大樹

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BABEL

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 かすかに残る記憶。
この先も語り継がれていく真実はやがて二人を結びつけていくものと私は信じている。





破壊された街。
ビルは倒壊し、電飾からは火花が飛び散っている。至る所で炎が上がり、焼けたプラスチックの臭いが鼻をついてまわる。シルバーの鎧を身に纏うシンヤとトモは背中合わせに剣を構え、辺りを警戒していた。
「さっきまでの敵の気配は‥‥」

シンヤは耳を澄ました。
微かな空気を切り裂く音。
それはしだいに大きくなり一つではなく増殖しているようだ。
「この音は‥‥」
シンヤは空を見上げると、無数の矢がすでに放たれていた。
「トモ!走れ!」
「くそっ!」
二人は矢を避けようと走りだした。
「トモ!あの車の下だ!」
シンヤが叫び指をさす。
しかし、同時にトモの太ももに矢が刺った。
トモはたまらず体のバランスを崩し地面に顔を強打した。
「シンヤ!ダメだ!行け!」
足を止め、すかさずトモに手を伸ばした。
シンヤには空から一本の矢が降りかかってくるのが見えた。
「掴まれ!」

トモの手を掴んだ。一気に体を引っ張りだす。


しかし、無残にも‥‥。

「トモー!!」

トモの喉を古びた矢が貫通した。



画面に浮かんできた赤い文字。

そして、デジタル音声が流れた。

『GAME OVER』

コクピットが開かれ、トモが脳波VRを外しながら出てきた。
「あー、また負けた!あと一回!頼むよシンヤ。お前となら勝てるからさ!」

コクピットから出ようとした僕をトモはもう一度、座席に追いやる。
そして、トモは頭を掻き毟りながら僕の肩に泣きついてきた。
「頼むよ‥‥」
「仕方がないよ。トモの装備は重いしバランスが悪いよ」
「そんなぁ~苦労して手に入れたパーツなのにぃ~」

毎日、学校帰りに寄るゲームセンターは賑やかだった。誰もが大画面に映しだされる脳波VRゲーム『メイソン』に興奮し、歓声を上げていた。僕等もその一員となり、時には世界大会も開かれるほどの人気ぶりだった。

「仕方ないな‥‥じゃあ。あと一回な」
僕はトモの肩を叩き、薄暗いコクピットの中へ再び乗り込んだ。

座席に着いたシンヤ。
右手にある黒い球体に置いた。

『START UP ‥‥?』

流れてくるデジタル音声。
機械が本人識別を始める。

僕は脳波VRを装着し、画面に出てきた文字を瞳に反射させた。
ゲームの世界と意識のリンク。
「‥‥パスワード」
VR画面に羅列した数字と英語が浮かび上がる。シンヤは目を瞑り、アルファベットを想い浮かべた。

ABCDEF‥‥。
頭の中で命じる。

僕の意のままに動け。
そして命令に従え‥‥と。

「B‥‥A‥‥」
イメージして選ばれたアルファベットの文字は赤く光り、宙に浮き出しながら並んでいく。

『BABEL‥‥LINK‥‥OK』

手元に置かれた黒い球体が僕の心臓の鼓動にリンクして青く光りだした。

ゲームが発動する。

「BABEL。力をよこせ」

シンヤの視界が白色に包まれる。
意識が脳波VRからバーチャル世界へと飛び出し、光の粒となる。
バーチャル粒子と混じり合いながら体が異世界へと具現化されていった。


VR『太古の都』


バーチャル世界にシンヤは足を降ろした。
ここは古代遺跡、コロッセオに似た神殿。崩れた石碑が並び、狭い通路がいくつも見える。
「相手は短距離型か?長距離型か?」
僕は地形を把握すると、わざと敵に見つかりやすい闘技場の真ん中で足を止めた。
「あれ?そう言えば。まだトモはバーチャルに辿りついてないのか‥‥」

ザザザ‥‥。
ラジオのような雑音が耳に聞こえる。
シンヤは目を瞑り、この世界とLINKを強める。

気配‥‥。
敵がコロッセオに入ってきたな‥‥。

シンヤは敵に気がつかないふりして、そっとサーベルに手を掛けた。

シンヤの視界には波形が見えている。
そこに映る赤い点は点滅しながら動いていた。

これは‥‥。
ちっ!もう攻撃してきたようだ。

200メートル先。遺跡の通路から矢が放たれたようだ。

シンヤはサーベルを鞘から滑らかに抜いた。

「試しに揺さぶるか‥‥」
シンヤは突然、敵がいない方向に走りだした。
視界に映る赤い点が、動きに合わせて移動する。矢もスピードを上げて追いかけてきているのが分かる。
「やっぱり。自動追跡能力か‥‥でもまだスピードが足りないよ」
放たれた矢が体に近づくと、シンヤは残像を残すほどのスピードで矢を宙返りでかわした。
「その追跡能力は体の反射速度を鈍らせる‥‥俺なら‥‥」
敵がコロッセオに姿を現したのが見えるとすぐさま反撃にでた。
「‥‥BABEL」
シンヤの目に浮には『BABEL』の文字が浮かび赤く光った。
エネルギーを溜め込み、蹴られた地面。
辺りは陥没し巻き上がる煙の中からシンヤが飛び出してきた。
それは弾丸をも超えるスピードだ。

一瞬で敵との距離をつめた。
「速い!」
慌てて仰け反り、後退しようとする敵。
そのスピードはまるで遅い。
シンヤは相手の背後に回ると武器を切り刻み破壊した。
「よし」
画面に『GOOD!』という文字が浮かび上がる。無力化した敵はノイズに包まれながら消えていった。


その活躍を大画面で見た客たちは熱狂した。
シンヤの動きに見惚れ、次は俺の番だと拳を掲げ、興奮している。

僕等がハマってるゲーム『メイソン』は意識をバーチャル空間に転送させ、
具現化された姿で戦い合うバトル体感型ゲームだ。
人の脳と機械をリンクさせることで、手で扱うコントローラは要らなくなり脳波VRさえあれば自由に世界を行き来できるようになった。


そこに二人の女子高生が通りかかった。
「あれ?ユキ。あそこにいるのシンヤじゃない?」
「あ!シンヤだ!またゲームしてるんだ」
「私ならラブゲームやるのになぁ。アオイもやって見たら?」
「私は‥‥いいよ」
推しが強いユキ。ラブゲームと言ってもリアルに体感距離が近いゲームでドキドキするのは‥‥アオイは苦笑いをして手を振り拒否をした。
「シンヤが居たら一緒にプリクラ撮ろっか?」
「え!恥ずかしいよ‥‥痛っ」
お尻を急に鞄で叩かれ、アオイは一歩前に出ると顏を赤くしながら画面を見つめた。

シンヤは次に現れたBOSSとの睨み合いが続いていた。
「確か、こいつはballad。行動パターンは‥‥あれ?‥‥何だっけ?」
すると、balladは突然変形し始めた。
人型からステルス機のような飛行型になる。
「そうか!高スピードの弾丸マシンガンを‥‥」

僕は慌てて距離を取ろうとする。
しかし、balladはあっという間にその先を飛んでいた。

「くっ!初動で負けた!」

その瞬間だった。
猛スピードで進んでいた世界は突然、スローになった。
balladが宙に止まっている。

『君は‥‥』

「なんだ?声がする!」

男の声が聞こえて来た。

『君は選ばれた人間だ‥‥』

「え?」

『試させておくれ‥‥』

急に視界がぐるぐると宙を回り始めた。
「うぅぅ‥‥なんだ?急に視界が‥‥」
シンヤは徐々に力を無くし、コクピットの電源がストンと落ちた。

そしてゲームセンター全体も、停電のように暗くなった。


VRを付けたまま気絶したシンヤ。
画面にはロボットが取り残され『メイソン』という文字が点滅すると、ゆっくりと暗くなっていった。

この時、僕は初めてあの男と対話した。

そして暗いコクピット内で意識は暗闇に落ち、やがて体の感覚は失われていったんだ。
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