転生のバベルと贖罪の世界

森大樹

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gravity

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青春という一ページ。
二度とこないこの時間を僕は‥‥。
君と一瞬に‥‥居たかった。



「目を覚ませ」
その声は、まるでロールプレイングゲームの始まりを告げられたようだった。
「永遠に生きたいと願う人がいたとして。かつて死んでしまった人にもう一度会いたいと願う人がいる。それらが叶うのであれば君達はどうする?」
真っ白な部屋に謎の声が響いた。
その声は奇妙なほどに僕の心に馴染み、望郷に足を踏み入れた感覚に陥った。
シンヤの視界はボヤけ揺れていた。
辺りを見渡すと、部屋の中央に何かが置いてあるのに気がついた。
「あれは何だ?」
全部で7人。透明なカプセルはガラスで囲まれ、それぞれにはホルマリン漬けされた人間が入っている。血色の悪い肌色、さらには生きたまま入れられたのだろうか?苦しみもがいた表情も見える。
そして、驚いたことに中に入る人間から声が聞こえてきたのだ。

「‥‥新作のVR?」
「ならラッキーだな。おい!早く始めろよ?」
「バーチャル空間?やりたくもない!元に戻してよ」
「えぇぇ!ここゲーム空間!?」
「やるなら。報酬もらえんの?」
「あれ?‥‥ユキは?」


シンヤはその声を聞いて、一人静かに息を潜めた。
「‥‥ここは何処だ?」
ゲームに脳波をリンクさせる。意識を辺りに集中させてみる。
「僕がこの部屋にリンクをして来たのなら、必ず認証をしているはずだ」

空間にアルファベットをイメージする。
『B‥‥A‥‥』

宙に浮かんだ文字はノイズが走り消えてしまう。
「そんな‥‥もう一度!」

何度やっても消えていく文字。
「くそ!認証できないといつ来たのかも分からい!」
どうしても思い出せない。僕は此処に来たことを。
無風。無臭。真っ白な部屋の空間。
此処にいると何故か体の感覚が殺されていくように感じる。
もしかしたらバーチャル依存症になったのかもしれない。現実とゲームの世界。その区別がつかなくなる症状は近年の人々に増え。飛び降り、自殺が流行っていた。
僕も最近はバーチャル世界に慣れたせいで転送された後すぐに意識をゲームに馴染もうとする癖がある。

これは推理ゲームかもしれない。
なら、状況を把握しなければ‥‥。

カプセルに入っているのは7人。
若いスーツの男。
学生服の男が二人。
タトゥをいれた金髪の男。
茶髪のギャル服の女の子。
女子高生。
全身黒い服をきた男。

その人間達はどの人も僕と年齢は近そうだが‥‥。
「さっきから聞こえる話し声が気になる」
生きているのか分からないホルマリン漬けの人形の口元。ピクリとも動いてないが、そこから声がしていた。

すると、再び空間に謎の声が聞こえてきた。
「私の名前はメイソン。訳あって君達を拘束し体と脳を切り離させてもらった」

カプセルに入っているタトゥの男が話す。
「はぁ?切り離すって脳波か?最近のゲームなんてもう主流じゃね?」
カプセルに入っているギャルの女の子が話す。
「メイソンってあれ?人気のゲームじゃない?」

僕はカプセルに入る人間をさらに見つめる。すると、その中にとくに見覚えがある人物がいるのに気がついた。

白色の学生服に色白に華奢な腕。
「まさか‥‥」
そして見慣れた髪型。その容姿に僕は大きく同様した。

「くっ!あれは‥‥!」

「俺じゃないか!」

シンヤが自分の姿に気がついた時、他のメンバーの一人が声を争った。
「な!何で!俺の体がカプセルの中に浮いてるんだよっ!」
「え?何!?」
「ホラー系のゲームか?趣味が悪いな」

シンヤは近ずこうと足を踏み出そうとした。
「‥‥?」
何故か、体が動かない。

「あれ?僕‥‥僕の体は?」
視界に体が入ってこない。

すると、そのまま前に視界が進み始めた。

それはまるで遊園地のアトラクションのようだった。真っ白な世界を勝手に前へ進まされていく。奥行きも分からない空間に唯一置かれた人型カプセルを見ながら、自分の体の前でその動きが止まった。
血色の悪い自分がホルマリン漬けにされているのを見て吐き気がした。

すると、目の前に鏡が天井から降りて来た。


視界に飛び込んで来たものに僕等は絶望した。

「馬鹿な!」

そこに映ったのは台座に乗った脳みそだった。
ピクピクと皮膚は鼓動し、血色の悪い血管や神経が見えている。
そして、剥き出しの目玉と僕は鏡の中で目が合った。

「くそ!まずい!皆んな見るな!」

シンヤの声が皆に届く前に、悲痛な叫び声が空間に響いた。

「きゃー!!!!‥‥」
「お!どうした?気絶したか?」
「無理もない‥‥」

空間にまた謎の声が響く。
「世界は変わった‥‥。神の領域にすら近づいてしまったんだよ」

シンヤが横を見ると7人の脳みそが横に並んでいた。目玉がギョロギョロと動き続け、皆が皆を見ていた。

「嫌!何で!?」
「こいつはリアルだな」
「こ!これが僕なの!?」
シンヤは慌てて叫んだ。
「皆んな落ち着け!」
学生服の男からも声が聞こえてきた。
「おい!もしかしたらシンヤか?俺だよ!トモだ!」
「トモがいるのか?」
さらに女子高生が声を出した。
「え?シンヤ?私!アオイ!」
「アオイ!お前まで!何で此処に居るんだ!」

体がない。
動けない。



鏡に映る自分を見つめシンヤはやはり愕然とした。

「これから君達をバーチャル世界にある体に転送させて貰う。そこでリアルワールドを体験してもらわないとな‥‥」

「まて!ルールはないのか!」
シンヤは叫んだ!しかし答えは無く、僕らの脳みそを乗せたエレベーターが地下へ下がっていった。
「此処から出せ!」

僕はこの時、まだ気づいていなかった。

あの大好きなロボットゲームには恐ろしい計画が隠されていたなんて。

そして。


生を争う、恐ろしいゲームが始まったんだ‥‥。
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