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本編
70. 「白狐ちゃんってば女同士なのに密着すると変な声出すんだよね〜男の子みたい」
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料理……それは人類が叡智を振り絞り編み出した至高の業。
食材を調理し、その食材が持つ力を最大限に引き出して食す者に幸福と安らぎを与える究極の行為である……
「今日作るのは……肉じゃがでーす!」
清波城の台所で白狐は腕まくりをしつつそう言った。背丈が小さいので袖が余りまくって可愛らしい。
そして白狐の隣にはキヌが不安げな表情を浮かべながら佇んでいる……
「あの、白狐様?本当に料理は大丈夫なんですか?」
「うん!僕毎日師匠にご飯作ってたから慣れてるの!」
そう言って屈託なく笑う白狐を見ていると何だか自分の考えすぎなんじゃないかと思えてきてしまう。師匠というのが何を指しているのかは分からないが。
だがしかし相手は半化生だ、油断は禁物である。不器用な種族は力を入れすぎて台所ごと真っ二つ……なんて事も有り得るのだ。
キヌは不安げな面持ちで、白狐の事を見ていたがそんな心配を他所に彼は調理の準備を始めていた。
「あ、白狐だ!」
「あら、ほんと!白狐ちゃんじゃないの!今日も信葉様の御食事作りかい?」
「うん!台所貸して貰うね!」
そんな白狐の様子を見て台所で炊事をしていた女中達が彼の姿に気付き、話しかけてきた。
彼女達は白狐が台所にいることを疑問に思わないようで、当たり前のように彼と言葉を交わしている。
「皆さんは白狐様とお知り合いなのですか?」
「おや、キヌ様がこんな所にいらっしゃるとは珍しい。白狐ちゃんは最近よく信葉様の御食事を作りにここへ来るんだよ」
「そうそう、信葉様は育ち盛りだからね!よく食べるんだ。私達も最初は驚いたけど白狐ちゃんはお料理が本当に上手でねぇ!今じゃこの台所勢の常連さんだよ!」
炊事場の女中達がケラケラと笑いながらそう言うとキヌは首を傾げた。
不器用な半化生が城で働く女中達に受け入れられたという事実はキヌにとって予想外であった、しかも皆親しげに話しかけている。
……実は最初は女中の皆も半信半疑であった。見慣れぬ半化生が姫の食事を作る為に台所に出入りしている、と。
幼体とはいえ半化生は半化生。何かしでかさないか、と戦々恐々としていたのだが蓋を開けてみると子供とは思えぬ礼儀正しさに子供のような無邪気さ、そしてモフモフの尻尾の愛らしさに手練れの料理人を思わせる手際の良さ……
そんな白狐を見た女中達はすっかり彼に心を奪われてしまったのだ。
今では信葉様より白狐ちゃんに食べさせたいという者も多い。
「そうなんですか。白狐様は忍者だというのにお料理が得意なんですね」
「忍者?何言ってんのさ、この子は女中見習いって聞いたよ?」
「女中見習い?私は信葉様の小姓と聞きましたけど」
「小姓?馬の世話係だって……」
「え?信葉様のペットじゃないの?」
女中達が次々に色んな役職を口にするがそのどれもが全然違うものだ。キヌは訝しげな表情を浮かべる。
皆が一斉に白狐を見つめると、白狐はぷくーと頬を膨らませてこう叫んだ。
「僕は葉脈衆頭領です!小姓でもペットでもありません!」
白狐がそう叫ぶと女中達はポカンとした表情を浮かべ、そして一斉に顔を見合わせた。
ヨーミャクシュートーリョー……ヨーミャクシュートーリョー……女中達が白狐の言葉を反芻する……そして何やらヒソヒソと話をし始めた。
「ヨーミャクシュートーリョーって何?」
「さぁ……何かの役職?」
「信葉様の小姓じゃないの?」
「でも信葉様は白狐ちゃんの事ペットって言ってたよ」
女中達の囁きがキヌの耳まで届く。
どうやら女中達は白狐の事を詳しく知らないらしい……。いや、キヌもなんだかよく分からなくなってきた。
彼は一体何なのだろう……?キヌはチラリと白狐を見ると話に飽きたのかゴソゴソと食材を取り出し料理の下拵えを始めていた。
「……まぁいっか。さ、皆!白狐くんを見習って真面目に仕事しよ!」
白狐がなんなのかは分からないが取り敢えずなんでもいいだろう。可愛いし……
女中達はそう結論付けると各々の仕事に戻っていく。
「ふんふん~♪ふんふんふん~♪」
そんな中、白狐は鼻歌を歌いながら料理の下拵えを始める。その後ろ姿を見てキヌは慌てて白狐の手伝いをしようと近付いた。
どうやらじゃがいもの皮を剥くらしい。野菜の皮剥きというのは単純そうに見えて意外と難しいものなのだ。料理は下拵えに時間が掛かる……
「白狐様、皮剥きは私が……」
そうキヌが言いかけた瞬間だった。
カゴに入ったじゃがいもが不意にビョンと空高くに跳ね飛んだ。そして空中でくるくると回転すると、周囲の空気がヒュウと鳴り、じゃがいもの皮が一気に剥かれた。
「ふんふふんふーん♪」
じゃがいもが机に落ちてコロコロと転がる。そのじゃがいもは綺麗に皮が剥かれており、薄黄色の実を露わにしていた。
「……はい?」
理外の光景にキヌの体が固まる。今、何が起こったのだろう……
キヌが唖然としている間に白狐は次々と皮剥きを終わらせていく。まるで風が意思を持ったかのようにじゃがいもの皮を切り裂き、剥いていく。
「あ、白狐!この野菜の皮剥きもお願い!」
「うん、いいよ!剥いて欲しい野菜をカゴに入れてね~」
白狐がそう言うと女中達は一斉にカゴに野菜を入れ始める。あっという間にカゴは満杯になった。
そして次の瞬間には野菜がビョンビョンと飛び跳ね、先程のじゃがいものように空中で皮が剥かれ、そしてそのまま別のカゴへ投げ込まれた。
大量の野菜が勝手に踊り、皮が剥かれ、そしてカゴへ入れられていく。その光景は怪奇そのものでキヌはドン引きしながらその様子を見ていた。
「じゃがいも剥きましょぽんぽこに~♪」
よく分からない歌を歌いながら野菜を剥く白狐……彼の周りでは意味不明な現象が絶え間無く起こっていた。
白狐の周囲にある物が、まるで意思を持ったかのように動き出し、そして勝手に料理の下拵えをしていく。
空中に大きな水の球が出現し野菜がその中にひとりでに入っていき、水球は野菜を揉み込むようにして動くとそのまま水となって野菜を包み込み、そして泥一つ無い綺麗な野菜がポンポンとカゴに積み重なっていく。
「ありがと~!白狐♡」
女中達はその光景に驚く事無く白狐にお礼を言うと野菜を手に取って仕事を始めていく。
……彼女達の中ではこの光景は日常茶飯事のようである。
この光景を見ていると段々現実かどうか分からなくなる。自分が見ているのは夢なのでは無いかと錯覚してしまう。
「いやぁ、白狐が来てくれた時は仕事が早くなって助かるよ!」
「本当にねぇ……信葉様は白狐の事を気に入っているみたいだし、やっぱり小姓なんじゃない?」
そんな事を女中達が話しているのが聞こえる。明らかに忍術を使っているようにしか見えないのだが、彼女たちはそれでも白狐を忍者だとは思ってないらしい。
やはり幼い見た目が原因だろうか……?いや、そもそも忍者が主の食事を作るというのが聞いた事がないのでそれも仕方ないかもしれないが。
「えっと次は……煮込み……」
どうやら野菜の下拵えが終わったようだ。キヌはハッと意識を取り戻すと白狐に声を掛けて手伝おうとする。
白狐の手伝いにきたというのにボーッとして彼に迷惑をかけた事を反省しつつ、キヌは白狐の横に立つ。
「白狐様、鍋は私が……」
「あ!キヌさんお願い!」
そう言って白狐が指をクイッと動かすと、鍋の下に敷かれた薪に火が付き燃え始めた。その火は煌々と輝き、鍋の水がグツグツと煮立ち始める。
キヌはもう何も思わない事にした。彼に適応しなければこの先やっていけないだろうから……
「白狐ー、何か手伝おうかー?」
白狐とキヌが並んで料理をしていると不意に後ろから若い女中がそう声を掛けてきた。
彼女は白狐の背中にくっつくようにして背伸びをしてまな板を覗き込む。その時、女中の妙に大きな胸が白狐の頭に乗せられた。
ぷにゅり……
突然柔らかい感触が頭に直撃し白狐は「ふへひっ!?♡」と変な声を出して驚く。その瞬間、彼の手がシュバババと高速で動きまな板の上に置かれた肉の塊を一瞬で細切れの挽肉へと変えた。
「うわ!びっくりさせちゃった?ごめんねー」
そのあまりの早業に女中は思わずそう声を零す。そこは驚くところではなく怖がるところだとキヌは思ったが今更である。
「白狐ちゃんは身体が敏感らしいから急に触ったら驚いちゃうって言ってたでしょ。気を付けなさいよー!」
別の女中がそう注意を促した。白狐に胸を乗せた女中は舌をペロッと出して笑いながら「ごめんごめん」と謝る。
「白狐ちゃんってば女同士なのに密着すると変な声出すんだよね~男の子みたい」
「……?」
キヌは女中達の会話に何か違和感を覚える。
男の子みたい……?白狐は正真正銘男の子なのだが……
その時、キヌはハッとある事に気が付いた。
「(も、もしかして皆……白狐様が男の子だという事を知らない……!?)」
稲妻に打たれたかのような衝撃がキヌの全身に走る。
確かにそうだ。彼は見た目こそ幼いが、本当は男の子……それなのに女中達は彼に対して平然と触れ合っている。
一般常識として男の中には極端に女性を怖がる者もいるのでみだりに男に触れてはいけないという事は女中達も知っているはずだ。
それが下町のガラの悪い女ならばそんなの常識を守る訳はないが、ここは清波城である。それなりに品のある女性しかいない。
それなのにどうして彼女達が白狐に普通に触れているのか……?その答えは明白であった。白狐が男だという事を彼女達は知らないのだ……!
「(も、もしや秀菜様も知らないのでは……?)」
キヌの考えはどんどんとよからぬ方へと向かっていく。
確かに最初から違和感を覚えていたのだ。男である白狐の世話を、何故女である自分がするのかという疑問があった。
普通ならば男の貴人は男の使用人が担当する筈なのに、と。白狐は貴人ではないが客人同様に扱えと秀菜から言われている。
なのに、自分に白狐の世話係の役が回ってきた。それはつまり……
「(私以外……誰も知らない!?)」
キヌの額から冷や汗が流れる。キヌも白狐が男だという事を秀菜は当然知っているとばかり思って、その事を秀菜には報告していない。
も、もしかしたらとんでもない秘密を知ってしまったのでは……?彼は……白狐は、男という事を隠したいのかもしれない。
それを自分が無理やり身体を拭くために衣服をひん剥いてしまったのだ。
「(わ、私ったらなんて事を……!)」
いたいけな男児にしでかした仕打ちを後悔するキヌであったが……
別に白狐は自分の性別を隠している訳ではない。というか皆自分が男だと知っているとさえ思っていた。
何故ならば先の戦の時に瀬良や兵士にはもう男だとバレているのだ。だから当然その上司の信葉にも男だとバレていると思っているのだ。
しかし……
瀬良は白狐に散々弄られたあの事件を隠蔽すべくその場にいた武将達に他言無用と強く言い付けていた。
織波の重臣であり、名門瀬良家の当主に逆らう命知らずがいる訳もなく、その場にいた者達は口を閉ざし続けている……
そして一般兵士の方だが、彼女たちは徴兵されてきた農民が大半を占めていたのでその殆どが故郷の村に帰ってしまっていた。
つまり、幸か不幸か分からないが奇跡的にも白狐が男だという事は清波城では瀬良と、キヌしか知らない事である……
信根も……秀菜も。
そして、信葉ですら。
―――白狐を女だと思っているのだ。
「……」
知ってはいけない秘密(本当はそんな事はないのだが)を知ってしまったキヌは顔を真っ青に染めてその場に固まってしまう。
「あ、そういえばまだ私仕事残ってるんだった!ごめんね白狐!またね!」
そう言って若い女中はそそくさといなくなってしまい、再び近くには白狐とキヌだけが残された。
「……?」
衝撃に震えるキヌであったが、ふと奇妙な音が耳に届くのが聞こえてきた。
ダンダンダンダン……!
何やら堅い物が叩き付けられるような音……彼女は反射的に音の鳴る方……白狐へと顔を向ける。
「!?」
彼女の目に入ったもの……それは……
「フッー♡フッー♡」
目にハートマークを浮かべ、恍惚の表情で包丁を高速で動かし、まな板そのものを粉微塵にしている白狐の姿であった……
「び、白狐様……!?」
キヌが驚愕の表情を浮かべるも白狐は何も見えてないらしく、ただ虚空を見つめて尻尾をバタバタと振っているだけだ。
そしてキヌの目には白狐の股間が映った。白装束の上からでも分かる程、そこはパンパンに膨れ上がっていた。
「(ま、まさか……)」
まさか、いや、そうだ。
この子は今の若い女中のおっぱい攻撃で発情して何も見えなくなっている……!
キヌの声も聞こえてないらしく、白狐は一心不乱に包丁でまな板を斬り刻んでいる。
「(こ、この子……)」
男なのに女に触られたくらいで発情するとは信じられないが……目の前の光景こそが白狐の真実なのだという事をキヌは悟った。
いやしかし、そんな事を考えている場合ではない……!
「ふひっー♡ふひっー♡」
―――ダンダンダンダン!!!
段々と白狐の力が強まっているのが目に見えて分かった。
既に分厚いまな板は塵になって消え去っており、今度は台そのものを力任せに叩いている。
このままでは台所どころか城そのものが破壊されてしまうかもしれない……!
なんとかしないと、とキヌは必死に思案に耽る。
「(このままでは白狐様が城を破壊するのも時間の問題……!お止めしなければ!)」
その時、彼女の脳裏に一つの名案が浮かんだ。
白狐がこのような状態に陥っているのは発情しているのが原因……つまり、欲情している状態という事だ。
ならば……発散させてしまえば収まるのでは……?
「(白狐様の……あれ……!)」
あれが暴走の原因……!
彼女は覚悟を決めた表情で白狐のズボン……盛り上がった股間を見つめる。
―――やるしかない!
キヌは誰も自分達を見ていない事を確認し、白狐の真後ろに立ち彼の股間へと手を伸ばしたのであった……
食材を調理し、その食材が持つ力を最大限に引き出して食す者に幸福と安らぎを与える究極の行為である……
「今日作るのは……肉じゃがでーす!」
清波城の台所で白狐は腕まくりをしつつそう言った。背丈が小さいので袖が余りまくって可愛らしい。
そして白狐の隣にはキヌが不安げな表情を浮かべながら佇んでいる……
「あの、白狐様?本当に料理は大丈夫なんですか?」
「うん!僕毎日師匠にご飯作ってたから慣れてるの!」
そう言って屈託なく笑う白狐を見ていると何だか自分の考えすぎなんじゃないかと思えてきてしまう。師匠というのが何を指しているのかは分からないが。
だがしかし相手は半化生だ、油断は禁物である。不器用な種族は力を入れすぎて台所ごと真っ二つ……なんて事も有り得るのだ。
キヌは不安げな面持ちで、白狐の事を見ていたがそんな心配を他所に彼は調理の準備を始めていた。
「あ、白狐だ!」
「あら、ほんと!白狐ちゃんじゃないの!今日も信葉様の御食事作りかい?」
「うん!台所貸して貰うね!」
そんな白狐の様子を見て台所で炊事をしていた女中達が彼の姿に気付き、話しかけてきた。
彼女達は白狐が台所にいることを疑問に思わないようで、当たり前のように彼と言葉を交わしている。
「皆さんは白狐様とお知り合いなのですか?」
「おや、キヌ様がこんな所にいらっしゃるとは珍しい。白狐ちゃんは最近よく信葉様の御食事を作りにここへ来るんだよ」
「そうそう、信葉様は育ち盛りだからね!よく食べるんだ。私達も最初は驚いたけど白狐ちゃんはお料理が本当に上手でねぇ!今じゃこの台所勢の常連さんだよ!」
炊事場の女中達がケラケラと笑いながらそう言うとキヌは首を傾げた。
不器用な半化生が城で働く女中達に受け入れられたという事実はキヌにとって予想外であった、しかも皆親しげに話しかけている。
……実は最初は女中の皆も半信半疑であった。見慣れぬ半化生が姫の食事を作る為に台所に出入りしている、と。
幼体とはいえ半化生は半化生。何かしでかさないか、と戦々恐々としていたのだが蓋を開けてみると子供とは思えぬ礼儀正しさに子供のような無邪気さ、そしてモフモフの尻尾の愛らしさに手練れの料理人を思わせる手際の良さ……
そんな白狐を見た女中達はすっかり彼に心を奪われてしまったのだ。
今では信葉様より白狐ちゃんに食べさせたいという者も多い。
「そうなんですか。白狐様は忍者だというのにお料理が得意なんですね」
「忍者?何言ってんのさ、この子は女中見習いって聞いたよ?」
「女中見習い?私は信葉様の小姓と聞きましたけど」
「小姓?馬の世話係だって……」
「え?信葉様のペットじゃないの?」
女中達が次々に色んな役職を口にするがそのどれもが全然違うものだ。キヌは訝しげな表情を浮かべる。
皆が一斉に白狐を見つめると、白狐はぷくーと頬を膨らませてこう叫んだ。
「僕は葉脈衆頭領です!小姓でもペットでもありません!」
白狐がそう叫ぶと女中達はポカンとした表情を浮かべ、そして一斉に顔を見合わせた。
ヨーミャクシュートーリョー……ヨーミャクシュートーリョー……女中達が白狐の言葉を反芻する……そして何やらヒソヒソと話をし始めた。
「ヨーミャクシュートーリョーって何?」
「さぁ……何かの役職?」
「信葉様の小姓じゃないの?」
「でも信葉様は白狐ちゃんの事ペットって言ってたよ」
女中達の囁きがキヌの耳まで届く。
どうやら女中達は白狐の事を詳しく知らないらしい……。いや、キヌもなんだかよく分からなくなってきた。
彼は一体何なのだろう……?キヌはチラリと白狐を見ると話に飽きたのかゴソゴソと食材を取り出し料理の下拵えを始めていた。
「……まぁいっか。さ、皆!白狐くんを見習って真面目に仕事しよ!」
白狐がなんなのかは分からないが取り敢えずなんでもいいだろう。可愛いし……
女中達はそう結論付けると各々の仕事に戻っていく。
「ふんふん~♪ふんふんふん~♪」
そんな中、白狐は鼻歌を歌いながら料理の下拵えを始める。その後ろ姿を見てキヌは慌てて白狐の手伝いをしようと近付いた。
どうやらじゃがいもの皮を剥くらしい。野菜の皮剥きというのは単純そうに見えて意外と難しいものなのだ。料理は下拵えに時間が掛かる……
「白狐様、皮剥きは私が……」
そうキヌが言いかけた瞬間だった。
カゴに入ったじゃがいもが不意にビョンと空高くに跳ね飛んだ。そして空中でくるくると回転すると、周囲の空気がヒュウと鳴り、じゃがいもの皮が一気に剥かれた。
「ふんふふんふーん♪」
じゃがいもが机に落ちてコロコロと転がる。そのじゃがいもは綺麗に皮が剥かれており、薄黄色の実を露わにしていた。
「……はい?」
理外の光景にキヌの体が固まる。今、何が起こったのだろう……
キヌが唖然としている間に白狐は次々と皮剥きを終わらせていく。まるで風が意思を持ったかのようにじゃがいもの皮を切り裂き、剥いていく。
「あ、白狐!この野菜の皮剥きもお願い!」
「うん、いいよ!剥いて欲しい野菜をカゴに入れてね~」
白狐がそう言うと女中達は一斉にカゴに野菜を入れ始める。あっという間にカゴは満杯になった。
そして次の瞬間には野菜がビョンビョンと飛び跳ね、先程のじゃがいものように空中で皮が剥かれ、そしてそのまま別のカゴへ投げ込まれた。
大量の野菜が勝手に踊り、皮が剥かれ、そしてカゴへ入れられていく。その光景は怪奇そのものでキヌはドン引きしながらその様子を見ていた。
「じゃがいも剥きましょぽんぽこに~♪」
よく分からない歌を歌いながら野菜を剥く白狐……彼の周りでは意味不明な現象が絶え間無く起こっていた。
白狐の周囲にある物が、まるで意思を持ったかのように動き出し、そして勝手に料理の下拵えをしていく。
空中に大きな水の球が出現し野菜がその中にひとりでに入っていき、水球は野菜を揉み込むようにして動くとそのまま水となって野菜を包み込み、そして泥一つ無い綺麗な野菜がポンポンとカゴに積み重なっていく。
「ありがと~!白狐♡」
女中達はその光景に驚く事無く白狐にお礼を言うと野菜を手に取って仕事を始めていく。
……彼女達の中ではこの光景は日常茶飯事のようである。
この光景を見ていると段々現実かどうか分からなくなる。自分が見ているのは夢なのでは無いかと錯覚してしまう。
「いやぁ、白狐が来てくれた時は仕事が早くなって助かるよ!」
「本当にねぇ……信葉様は白狐の事を気に入っているみたいだし、やっぱり小姓なんじゃない?」
そんな事を女中達が話しているのが聞こえる。明らかに忍術を使っているようにしか見えないのだが、彼女たちはそれでも白狐を忍者だとは思ってないらしい。
やはり幼い見た目が原因だろうか……?いや、そもそも忍者が主の食事を作るというのが聞いた事がないのでそれも仕方ないかもしれないが。
「えっと次は……煮込み……」
どうやら野菜の下拵えが終わったようだ。キヌはハッと意識を取り戻すと白狐に声を掛けて手伝おうとする。
白狐の手伝いにきたというのにボーッとして彼に迷惑をかけた事を反省しつつ、キヌは白狐の横に立つ。
「白狐様、鍋は私が……」
「あ!キヌさんお願い!」
そう言って白狐が指をクイッと動かすと、鍋の下に敷かれた薪に火が付き燃え始めた。その火は煌々と輝き、鍋の水がグツグツと煮立ち始める。
キヌはもう何も思わない事にした。彼に適応しなければこの先やっていけないだろうから……
「白狐ー、何か手伝おうかー?」
白狐とキヌが並んで料理をしていると不意に後ろから若い女中がそう声を掛けてきた。
彼女は白狐の背中にくっつくようにして背伸びをしてまな板を覗き込む。その時、女中の妙に大きな胸が白狐の頭に乗せられた。
ぷにゅり……
突然柔らかい感触が頭に直撃し白狐は「ふへひっ!?♡」と変な声を出して驚く。その瞬間、彼の手がシュバババと高速で動きまな板の上に置かれた肉の塊を一瞬で細切れの挽肉へと変えた。
「うわ!びっくりさせちゃった?ごめんねー」
そのあまりの早業に女中は思わずそう声を零す。そこは驚くところではなく怖がるところだとキヌは思ったが今更である。
「白狐ちゃんは身体が敏感らしいから急に触ったら驚いちゃうって言ってたでしょ。気を付けなさいよー!」
別の女中がそう注意を促した。白狐に胸を乗せた女中は舌をペロッと出して笑いながら「ごめんごめん」と謝る。
「白狐ちゃんってば女同士なのに密着すると変な声出すんだよね~男の子みたい」
「……?」
キヌは女中達の会話に何か違和感を覚える。
男の子みたい……?白狐は正真正銘男の子なのだが……
その時、キヌはハッとある事に気が付いた。
「(も、もしかして皆……白狐様が男の子だという事を知らない……!?)」
稲妻に打たれたかのような衝撃がキヌの全身に走る。
確かにそうだ。彼は見た目こそ幼いが、本当は男の子……それなのに女中達は彼に対して平然と触れ合っている。
一般常識として男の中には極端に女性を怖がる者もいるのでみだりに男に触れてはいけないという事は女中達も知っているはずだ。
それが下町のガラの悪い女ならばそんなの常識を守る訳はないが、ここは清波城である。それなりに品のある女性しかいない。
それなのにどうして彼女達が白狐に普通に触れているのか……?その答えは明白であった。白狐が男だという事を彼女達は知らないのだ……!
「(も、もしや秀菜様も知らないのでは……?)」
キヌの考えはどんどんとよからぬ方へと向かっていく。
確かに最初から違和感を覚えていたのだ。男である白狐の世話を、何故女である自分がするのかという疑問があった。
普通ならば男の貴人は男の使用人が担当する筈なのに、と。白狐は貴人ではないが客人同様に扱えと秀菜から言われている。
なのに、自分に白狐の世話係の役が回ってきた。それはつまり……
「(私以外……誰も知らない!?)」
キヌの額から冷や汗が流れる。キヌも白狐が男だという事を秀菜は当然知っているとばかり思って、その事を秀菜には報告していない。
も、もしかしたらとんでもない秘密を知ってしまったのでは……?彼は……白狐は、男という事を隠したいのかもしれない。
それを自分が無理やり身体を拭くために衣服をひん剥いてしまったのだ。
「(わ、私ったらなんて事を……!)」
いたいけな男児にしでかした仕打ちを後悔するキヌであったが……
別に白狐は自分の性別を隠している訳ではない。というか皆自分が男だと知っているとさえ思っていた。
何故ならば先の戦の時に瀬良や兵士にはもう男だとバレているのだ。だから当然その上司の信葉にも男だとバレていると思っているのだ。
しかし……
瀬良は白狐に散々弄られたあの事件を隠蔽すべくその場にいた武将達に他言無用と強く言い付けていた。
織波の重臣であり、名門瀬良家の当主に逆らう命知らずがいる訳もなく、その場にいた者達は口を閉ざし続けている……
そして一般兵士の方だが、彼女たちは徴兵されてきた農民が大半を占めていたのでその殆どが故郷の村に帰ってしまっていた。
つまり、幸か不幸か分からないが奇跡的にも白狐が男だという事は清波城では瀬良と、キヌしか知らない事である……
信根も……秀菜も。
そして、信葉ですら。
―――白狐を女だと思っているのだ。
「……」
知ってはいけない秘密(本当はそんな事はないのだが)を知ってしまったキヌは顔を真っ青に染めてその場に固まってしまう。
「あ、そういえばまだ私仕事残ってるんだった!ごめんね白狐!またね!」
そう言って若い女中はそそくさといなくなってしまい、再び近くには白狐とキヌだけが残された。
「……?」
衝撃に震えるキヌであったが、ふと奇妙な音が耳に届くのが聞こえてきた。
ダンダンダンダン……!
何やら堅い物が叩き付けられるような音……彼女は反射的に音の鳴る方……白狐へと顔を向ける。
「!?」
彼女の目に入ったもの……それは……
「フッー♡フッー♡」
目にハートマークを浮かべ、恍惚の表情で包丁を高速で動かし、まな板そのものを粉微塵にしている白狐の姿であった……
「び、白狐様……!?」
キヌが驚愕の表情を浮かべるも白狐は何も見えてないらしく、ただ虚空を見つめて尻尾をバタバタと振っているだけだ。
そしてキヌの目には白狐の股間が映った。白装束の上からでも分かる程、そこはパンパンに膨れ上がっていた。
「(ま、まさか……)」
まさか、いや、そうだ。
この子は今の若い女中のおっぱい攻撃で発情して何も見えなくなっている……!
キヌの声も聞こえてないらしく、白狐は一心不乱に包丁でまな板を斬り刻んでいる。
「(こ、この子……)」
男なのに女に触られたくらいで発情するとは信じられないが……目の前の光景こそが白狐の真実なのだという事をキヌは悟った。
いやしかし、そんな事を考えている場合ではない……!
「ふひっー♡ふひっー♡」
―――ダンダンダンダン!!!
段々と白狐の力が強まっているのが目に見えて分かった。
既に分厚いまな板は塵になって消え去っており、今度は台そのものを力任せに叩いている。
このままでは台所どころか城そのものが破壊されてしまうかもしれない……!
なんとかしないと、とキヌは必死に思案に耽る。
「(このままでは白狐様が城を破壊するのも時間の問題……!お止めしなければ!)」
その時、彼女の脳裏に一つの名案が浮かんだ。
白狐がこのような状態に陥っているのは発情しているのが原因……つまり、欲情している状態という事だ。
ならば……発散させてしまえば収まるのでは……?
「(白狐様の……あれ……!)」
あれが暴走の原因……!
彼女は覚悟を決めた表情で白狐のズボン……盛り上がった股間を見つめる。
―――やるしかない!
キヌは誰も自分達を見ていない事を確認し、白狐の真後ろに立ち彼の股間へと手を伸ばしたのであった……
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顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
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転生?したら男女逆転世界
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階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
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クラスメイトの美少女と無人島に流された件
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修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
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