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番外編 サーシャの場合(2/2)
「リアン様が拐われたって?」
『ルース、アイザックもいるな。すぐに来れるか?』
楽しく夕食の準備をしていた時にその知らせが届いた。
お父様にカールおじ様から連絡が入った。
「シャーリー!すぐに支度を!アイザックも大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。シャーリーごめんね。ご飯覚めちゃうね。すぐに片付けて戻ってくるよ。」
「アイザック!それは私のセリフだ!」
「えー!それくらい許してよ。本当、心が狭い男は嫌われるよ。ねぇシャーリー?」
「ふふふ、そうね。」
「ったく。」
お父様はお母様にキスをしてからエリックのお父様と一緒に行ってしまった。
「ねぇ、お母様?リアン様は大丈夫?」
「大丈夫よ。ルースとアイザック様がいるんですものね。」
「ねぇ、リアン様はなぜ拐われたの?」
「リアン様は将来の国王だからね。いろいろ大変な身分なのよ。そんな人達を守るために、お父様達がいるのよ。
心配しないでリアン様はすぐに帰ってくるわ。」
私はお母様のスカートの裾をギュッと握った。
「大丈夫だよ。父上とルーズローツ様は強いからね。」
隣にエリックが来た。
私は訳の分からない不安に押しつぶされそうだった。
もし、間に合わなかったら…リアン様が帰ってこなかったら…。
嫌なことばかり考えてしまう。
お父様がリアン様を連れて帰ってきてくれるのを祈りながら待っていた。
「シャーリー!」
「レイチェ様!」
「リアンは?」
「まだ、連絡がありません。」
突然隣国に行っていた王太子妃のレイクルーゼ様が来た。
レイクルーゼ様はお母様を見るなり抱きついていた。
その隣にはウィルお兄様がいた。
「ウィルお兄様!」
ウィルお兄様の瞳は赤かった。
確かお父様も同じだ。特別な魔法を使うと赤くなるようだ。
逆にアイザック様とエリックは青くなる。
隣のエリックを見た。さっき王宮では青かった瞳は今は赤に戻っていた、
「久しぶりだね。サーシャ。申し訳ないけど、あまり話していられない。ごめんね。」
お母様が、レイクルーゼ様を抱きしめながら話してきた。
「ウィル…ありがとう。転移魔法を何回も繰り返してくれて。疲れたでしょう。ゆっくり休んで欲しいところなんだけど、すぐ戻るのでしょう?」
「はい。」
目の前に立つ金髪の柔らかな髪、綺麗な水色の瞳の人。
私の初恋の人ウィルお兄様だ。
実はずっと好きだった。
お姉様の婚約者だと知ってからは他の誰にも分からないように気持ちを隠してきた。2番目に好きになった人、3番目に好きになった人なんていない。みんなに気づかれないようにしていただけだ。
私はお姉様を愛しく見つめるその瞳を私に向けて欲しいと願っていた。
しかし今は今はリアン様の顔ばかり思い浮かぶ。
同じ金髪、碧眼でも違う。
彼はウィルお兄様とは全然違う。
私の隣でふわりと揺れる金髪。
いつも隣で笑っていたあの笑顔。
いつも優しく見つめていてくれた水色の瞳。
嫌だ…どうか無事で帰ってきて。
また私の隣で笑っていて欲しい。
どうしよう…
私はリアン様が好きだ。
「サーシャ?どうしたの?」
エリックが隣から心配そうに声をかけてきた。
その言葉にお母様が私を見た。
いつの間にかウィルお兄様はいなかった。
レイクルーゼ様に少し声をかけてからお母様は私を抱きしめた。
「ルースが必ずリアン様を連れて帰ってくるから泣かないで。サーシャ、大丈夫よ。」
お母様に言われて初めて自分が泣いているのに気付いた。
「違う…心配しているけど、そうじゃない…。
私は私は…」
「そう、気づいたのね。自分の気持ちに…」
私は声を上げて泣き始めた。
「どうしよう…どうしたらいい…」
「信じて待ちましょう。」
お母様はさっきより強く抱きしめてくれた。
待っている時間は長い。
私達はあの後、ザイン公爵家の本宅に来ていた。
こっちの家の方が情報が早いそうだ。
「リリィ。元気そうね。」
「お母様、お久しぶりです。」
久しぶりに見たお姉様は最後に会った時よりも綺麗に見えた。大好きな人と一緒にいるからだろう。
ザイン公爵家の人に挨拶をした後、私達はリビングにいた。
「レイクルーゼ様、何か飲まれますか?」
「そうね。お願い。」
レイクルーゼ様は心配そうにリビングから見えるカールおじ様の仕事部屋の通信用の魔法石を見つめていた。
「どうしよう。リアンに何かあったら…」
レイクルーゼ様は不安を口にした。
今までずっと我慢してきたのだろう。
そろそろ日付が変わろうとしていた。
私もずっと黙って座っていた。
エリックも隣に静かに座っていた。
しかし突然エリックがその沈黙を破った。
「父上!」
私達は一斉に彼を見た。
「はいっ聞こえてます。はい。あっわかりました。はい…。お疲れ様です。」
エリックは父親のアイザック様と遠くても念話ができた。
エリックはレイクルーゼ様の前に立ち頭を下げた。
そして頭を上げてから私達の一番欲しい言葉をくれた。
「今、父上から連絡がはいりました。無事リアン様を保護しました。少しリアン様は怪我をされているようですが、意識もはっきりしていて大丈夫とのことです。もう少ししたら王宮に戻るそうです。」
レイクルーゼ様は号泣し、お母様も涙を流しながら宥めていた。
エリックが私に向かって言った。
「よかったね。」
たった一言だったけど、その言葉でわたしの不安は消し去られた。
私も大泣きし始めた。
「エリック、申し訳ないんだけど、レイクルーゼ様を王宮にお連れしたいの。頼めるかしら?」
エリックはコクリと頷いた。
エリックは12歳だが転移魔法を使いこなせるほど魔力が高い。エリックはレイクルーゼ様を連れて王宮に行った。
結局、シルバーサの国の犯行だったようだ。
お父様とお母様の話だといよいよ戦争になるらしい。
アイザック様はまた仕事が増えるのかと頭を抱えていた。
今回王太子夫妻がダマガラン王国に行ったのも共同戦線の相談だったらしい。
翌日私はお父様とアイザック様、エリックと一緒に王宮に行った。
「サーシャ、リアン様がお前に会いたいそうだ。行っておいで。」
と、お父様に言われた。
私は自分の気持ちに気づいてしまったからどんな顔をしていいのかわからなかった。
少し戸惑ったが会いたいのに変わりはない。
心を決めて会いに行った。
「よかった。心配したのよ。」
「もう、心配させて何なのよ。」
「大丈夫、怖くなかった?」
出だしの言葉をぶつぶつ考えているうちに部屋の前まで来てしまった。
どうぞ、と使用人が扉を開けた。
リアン様はベッドから体を起こして私を待っていてくれた。
頭に包帯を巻いていた。
口の端はすこし青痣があった。手には縛られていた縄の跡。
痛々しい姿が目の前にあった。
何よ…心配したんだから…って言おうとしていた言葉は涙で掻き消された。
「情けない姿を見せてごめんね。
これでも傷とかは直してもらったんだよ。」
私は首をフルフルと振った。
「よかった…よかった…無事で…」
涙は止まらない。
私はリアン様に向かって飛び込んだ。
正解にはリアン様ではなくてリアン様のベッドの端だ。
リアン様はすこしピクリと体を震わせた。
「あなたが無事で本当によかった。」
「そんなに心配してくれたんだ。
何だか嬉しいな。」
「ばかっ!リアン様がいなくなるかも知れないって思ったらすごく怖かったんだから。」
リアン様のベッドの端で伏していた私の手に優しい手が重ねられた。
「私は君を残してどこもいかないよ。」
「リアン様、私の手を離さないでね。あなたが手を離したら私は生きていけない。」
私はリアン様の手を握り締めた。
「ふふっ…いやだなサーシャ。それじゃあ君が私を好きみたいじゃないか。」
…ズバリそこを突かれた。
今日は怪我人だし大変な思いをしたんだ。
仕方ない。良い思いをさせてあげよう。
「そう…。私はリアン様が好きなんです…。」
リアン様は嬉しそうな顔をしたと思ったらその水色の瞳を潤ませて私を見た。
ウィルお兄様よりはお子様だと思っていたのにいつの間にか大人の顔ができるようになっていたんだ。
ギュッと手を握り返された。
「サーシャ…私はずっと君が好きだったんだ。
愛してる。」
窓から入ってくる風が心地よかった。
「そこにある箱を取ってくれないかな?」
「机の上の?」
「うん。」
私はリアン様に箱を渡した。
「両親が外交から帰ってきたらちゃんと話すつもりだったんだ。」
「開けていいの?」
リアン様は頷いた。
ちょうど箱を開けた時に窓から風が吹いてきた。
水色のリボンが風に舞った。
「綺麗。」
その水色のリボンは表面がキラキラして縁取りの濃い青がアクセントで効いていた。その内側には手の込んだ刺繍が周りに施されている。
リボンの一方の端にはこの国の王家の紋章が刺繍されている。
いくら何でも目の前にあるリボンの意味くらい知っている。
「リアン様…」
「貰ってくれる?」
「私が貰っていいの?」
「君にしか上げたくない…。私に縛られてくれないかな?」
「もう…せっかく泣き止んだのに…嬉しくてまた、涙が出てくるじゃない…」
リアン様は優しく私の頬に手を当ててキスしてくれた。
少し驚いた。確かに涙は止まったかもしれない。
「こうすれば涙は止まるって言われてるんだ。止まった?」
その笑顔を見たら胸が一杯になった。
「幸せすぎて止まりそうにない。」
「じゃあ、止まるまでしてあげる。」
「うん…して…」
※※※
「エリック?お前、リアン様の様子を見に行ったんじゃないのか?」
「なんかお邪魔だったかな?ふふふ。」
父上とルーズローツ様が王宮の廊下で話し込んでいた。
どうやら国王陛下への報告は終わったみたいだ。
「おい、ルース。嫌そうな顔するなよ。」
「お前も娘が年頃になればわかるさ。」
私には4歳下の妹がいる。
「まあ初恋は実らないと言うが、結構簡単なんだな。
ルースもそうだろ?」
「そんな簡単じゃなかったでしょ?」
「違うよ。」
私は父上達の話に割って入った。
「サーシャの初恋はウィル様だよ。」
「「はっ?」」
「そうだったのか…」
「で、お前はいいのか?」
父上が、心配そうに私を見た。
「もう、自分達の子供のことくらいちゃんと見てよ。
私はサーシャのことは別に好きじゃないよ。まあ友達としては好きだけど、恋愛対象にはならない。」
「私はてっきりそうだと思っていたのだが、違ったのか?」
ルーズローツ様が首を傾げて聞いてきた。
「俺もそう思っていた。」
父上もうんうん頷いていた。
じゃあそろそろ爆弾発言でもしようかな。
「私の初恋はシャーロレット様です。今でも変わらないですよ。」
ほらほら父上もルーズローツ様が驚いている。
「だからルーズローツ様。エリーは私に下さいね。よろしくお願いしますね。」
エリーとは
エリシア=ディ=サー=ザイン。
ルーズローツ様の一番末の娘だ。
柔らかい明るい茶色の髪に明るい茶色の瞳。そうシャーロレット様と同じように光にあたると亜麻色に光る。
どこから見ても全てがシャーロレット様だ。
今はまだ8歳だ。
まだ、8歳のエリーを私好みの女の人に育てあげるのが楽しみなんだよ。
エリーは素直でいい子だ。
私だけのエリーにしてあげるから待っていてね。
シャーロレット様と同じようなあの瞳で私だけ見て。
そして私もシャーロレット様より深く君を愛してあげるから。
「さあ、ルーズローツ様の家に戻りましょうか。」
『ルース、アイザックもいるな。すぐに来れるか?』
楽しく夕食の準備をしていた時にその知らせが届いた。
お父様にカールおじ様から連絡が入った。
「シャーリー!すぐに支度を!アイザックも大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。シャーリーごめんね。ご飯覚めちゃうね。すぐに片付けて戻ってくるよ。」
「アイザック!それは私のセリフだ!」
「えー!それくらい許してよ。本当、心が狭い男は嫌われるよ。ねぇシャーリー?」
「ふふふ、そうね。」
「ったく。」
お父様はお母様にキスをしてからエリックのお父様と一緒に行ってしまった。
「ねぇ、お母様?リアン様は大丈夫?」
「大丈夫よ。ルースとアイザック様がいるんですものね。」
「ねぇ、リアン様はなぜ拐われたの?」
「リアン様は将来の国王だからね。いろいろ大変な身分なのよ。そんな人達を守るために、お父様達がいるのよ。
心配しないでリアン様はすぐに帰ってくるわ。」
私はお母様のスカートの裾をギュッと握った。
「大丈夫だよ。父上とルーズローツ様は強いからね。」
隣にエリックが来た。
私は訳の分からない不安に押しつぶされそうだった。
もし、間に合わなかったら…リアン様が帰ってこなかったら…。
嫌なことばかり考えてしまう。
お父様がリアン様を連れて帰ってきてくれるのを祈りながら待っていた。
「シャーリー!」
「レイチェ様!」
「リアンは?」
「まだ、連絡がありません。」
突然隣国に行っていた王太子妃のレイクルーゼ様が来た。
レイクルーゼ様はお母様を見るなり抱きついていた。
その隣にはウィルお兄様がいた。
「ウィルお兄様!」
ウィルお兄様の瞳は赤かった。
確かお父様も同じだ。特別な魔法を使うと赤くなるようだ。
逆にアイザック様とエリックは青くなる。
隣のエリックを見た。さっき王宮では青かった瞳は今は赤に戻っていた、
「久しぶりだね。サーシャ。申し訳ないけど、あまり話していられない。ごめんね。」
お母様が、レイクルーゼ様を抱きしめながら話してきた。
「ウィル…ありがとう。転移魔法を何回も繰り返してくれて。疲れたでしょう。ゆっくり休んで欲しいところなんだけど、すぐ戻るのでしょう?」
「はい。」
目の前に立つ金髪の柔らかな髪、綺麗な水色の瞳の人。
私の初恋の人ウィルお兄様だ。
実はずっと好きだった。
お姉様の婚約者だと知ってからは他の誰にも分からないように気持ちを隠してきた。2番目に好きになった人、3番目に好きになった人なんていない。みんなに気づかれないようにしていただけだ。
私はお姉様を愛しく見つめるその瞳を私に向けて欲しいと願っていた。
しかし今は今はリアン様の顔ばかり思い浮かぶ。
同じ金髪、碧眼でも違う。
彼はウィルお兄様とは全然違う。
私の隣でふわりと揺れる金髪。
いつも隣で笑っていたあの笑顔。
いつも優しく見つめていてくれた水色の瞳。
嫌だ…どうか無事で帰ってきて。
また私の隣で笑っていて欲しい。
どうしよう…
私はリアン様が好きだ。
「サーシャ?どうしたの?」
エリックが隣から心配そうに声をかけてきた。
その言葉にお母様が私を見た。
いつの間にかウィルお兄様はいなかった。
レイクルーゼ様に少し声をかけてからお母様は私を抱きしめた。
「ルースが必ずリアン様を連れて帰ってくるから泣かないで。サーシャ、大丈夫よ。」
お母様に言われて初めて自分が泣いているのに気付いた。
「違う…心配しているけど、そうじゃない…。
私は私は…」
「そう、気づいたのね。自分の気持ちに…」
私は声を上げて泣き始めた。
「どうしよう…どうしたらいい…」
「信じて待ちましょう。」
お母様はさっきより強く抱きしめてくれた。
待っている時間は長い。
私達はあの後、ザイン公爵家の本宅に来ていた。
こっちの家の方が情報が早いそうだ。
「リリィ。元気そうね。」
「お母様、お久しぶりです。」
久しぶりに見たお姉様は最後に会った時よりも綺麗に見えた。大好きな人と一緒にいるからだろう。
ザイン公爵家の人に挨拶をした後、私達はリビングにいた。
「レイクルーゼ様、何か飲まれますか?」
「そうね。お願い。」
レイクルーゼ様は心配そうにリビングから見えるカールおじ様の仕事部屋の通信用の魔法石を見つめていた。
「どうしよう。リアンに何かあったら…」
レイクルーゼ様は不安を口にした。
今までずっと我慢してきたのだろう。
そろそろ日付が変わろうとしていた。
私もずっと黙って座っていた。
エリックも隣に静かに座っていた。
しかし突然エリックがその沈黙を破った。
「父上!」
私達は一斉に彼を見た。
「はいっ聞こえてます。はい。あっわかりました。はい…。お疲れ様です。」
エリックは父親のアイザック様と遠くても念話ができた。
エリックはレイクルーゼ様の前に立ち頭を下げた。
そして頭を上げてから私達の一番欲しい言葉をくれた。
「今、父上から連絡がはいりました。無事リアン様を保護しました。少しリアン様は怪我をされているようですが、意識もはっきりしていて大丈夫とのことです。もう少ししたら王宮に戻るそうです。」
レイクルーゼ様は号泣し、お母様も涙を流しながら宥めていた。
エリックが私に向かって言った。
「よかったね。」
たった一言だったけど、その言葉でわたしの不安は消し去られた。
私も大泣きし始めた。
「エリック、申し訳ないんだけど、レイクルーゼ様を王宮にお連れしたいの。頼めるかしら?」
エリックはコクリと頷いた。
エリックは12歳だが転移魔法を使いこなせるほど魔力が高い。エリックはレイクルーゼ様を連れて王宮に行った。
結局、シルバーサの国の犯行だったようだ。
お父様とお母様の話だといよいよ戦争になるらしい。
アイザック様はまた仕事が増えるのかと頭を抱えていた。
今回王太子夫妻がダマガラン王国に行ったのも共同戦線の相談だったらしい。
翌日私はお父様とアイザック様、エリックと一緒に王宮に行った。
「サーシャ、リアン様がお前に会いたいそうだ。行っておいで。」
と、お父様に言われた。
私は自分の気持ちに気づいてしまったからどんな顔をしていいのかわからなかった。
少し戸惑ったが会いたいのに変わりはない。
心を決めて会いに行った。
「よかった。心配したのよ。」
「もう、心配させて何なのよ。」
「大丈夫、怖くなかった?」
出だしの言葉をぶつぶつ考えているうちに部屋の前まで来てしまった。
どうぞ、と使用人が扉を開けた。
リアン様はベッドから体を起こして私を待っていてくれた。
頭に包帯を巻いていた。
口の端はすこし青痣があった。手には縛られていた縄の跡。
痛々しい姿が目の前にあった。
何よ…心配したんだから…って言おうとしていた言葉は涙で掻き消された。
「情けない姿を見せてごめんね。
これでも傷とかは直してもらったんだよ。」
私は首をフルフルと振った。
「よかった…よかった…無事で…」
涙は止まらない。
私はリアン様に向かって飛び込んだ。
正解にはリアン様ではなくてリアン様のベッドの端だ。
リアン様はすこしピクリと体を震わせた。
「あなたが無事で本当によかった。」
「そんなに心配してくれたんだ。
何だか嬉しいな。」
「ばかっ!リアン様がいなくなるかも知れないって思ったらすごく怖かったんだから。」
リアン様のベッドの端で伏していた私の手に優しい手が重ねられた。
「私は君を残してどこもいかないよ。」
「リアン様、私の手を離さないでね。あなたが手を離したら私は生きていけない。」
私はリアン様の手を握り締めた。
「ふふっ…いやだなサーシャ。それじゃあ君が私を好きみたいじゃないか。」
…ズバリそこを突かれた。
今日は怪我人だし大変な思いをしたんだ。
仕方ない。良い思いをさせてあげよう。
「そう…。私はリアン様が好きなんです…。」
リアン様は嬉しそうな顔をしたと思ったらその水色の瞳を潤ませて私を見た。
ウィルお兄様よりはお子様だと思っていたのにいつの間にか大人の顔ができるようになっていたんだ。
ギュッと手を握り返された。
「サーシャ…私はずっと君が好きだったんだ。
愛してる。」
窓から入ってくる風が心地よかった。
「そこにある箱を取ってくれないかな?」
「机の上の?」
「うん。」
私はリアン様に箱を渡した。
「両親が外交から帰ってきたらちゃんと話すつもりだったんだ。」
「開けていいの?」
リアン様は頷いた。
ちょうど箱を開けた時に窓から風が吹いてきた。
水色のリボンが風に舞った。
「綺麗。」
その水色のリボンは表面がキラキラして縁取りの濃い青がアクセントで効いていた。その内側には手の込んだ刺繍が周りに施されている。
リボンの一方の端にはこの国の王家の紋章が刺繍されている。
いくら何でも目の前にあるリボンの意味くらい知っている。
「リアン様…」
「貰ってくれる?」
「私が貰っていいの?」
「君にしか上げたくない…。私に縛られてくれないかな?」
「もう…せっかく泣き止んだのに…嬉しくてまた、涙が出てくるじゃない…」
リアン様は優しく私の頬に手を当ててキスしてくれた。
少し驚いた。確かに涙は止まったかもしれない。
「こうすれば涙は止まるって言われてるんだ。止まった?」
その笑顔を見たら胸が一杯になった。
「幸せすぎて止まりそうにない。」
「じゃあ、止まるまでしてあげる。」
「うん…して…」
※※※
「エリック?お前、リアン様の様子を見に行ったんじゃないのか?」
「なんかお邪魔だったかな?ふふふ。」
父上とルーズローツ様が王宮の廊下で話し込んでいた。
どうやら国王陛下への報告は終わったみたいだ。
「おい、ルース。嫌そうな顔するなよ。」
「お前も娘が年頃になればわかるさ。」
私には4歳下の妹がいる。
「まあ初恋は実らないと言うが、結構簡単なんだな。
ルースもそうだろ?」
「そんな簡単じゃなかったでしょ?」
「違うよ。」
私は父上達の話に割って入った。
「サーシャの初恋はウィル様だよ。」
「「はっ?」」
「そうだったのか…」
「で、お前はいいのか?」
父上が、心配そうに私を見た。
「もう、自分達の子供のことくらいちゃんと見てよ。
私はサーシャのことは別に好きじゃないよ。まあ友達としては好きだけど、恋愛対象にはならない。」
「私はてっきりそうだと思っていたのだが、違ったのか?」
ルーズローツ様が首を傾げて聞いてきた。
「俺もそう思っていた。」
父上もうんうん頷いていた。
じゃあそろそろ爆弾発言でもしようかな。
「私の初恋はシャーロレット様です。今でも変わらないですよ。」
ほらほら父上もルーズローツ様が驚いている。
「だからルーズローツ様。エリーは私に下さいね。よろしくお願いしますね。」
エリーとは
エリシア=ディ=サー=ザイン。
ルーズローツ様の一番末の娘だ。
柔らかい明るい茶色の髪に明るい茶色の瞳。そうシャーロレット様と同じように光にあたると亜麻色に光る。
どこから見ても全てがシャーロレット様だ。
今はまだ8歳だ。
まだ、8歳のエリーを私好みの女の人に育てあげるのが楽しみなんだよ。
エリーは素直でいい子だ。
私だけのエリーにしてあげるから待っていてね。
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