DREAM DAYS

狩野 理穂

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考察

ハイドの事実

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 やあ。君たち読者とははじめましての関係かな。‟ハイド”だ。もっとも、本名は滝本なんだがな。
 不思議そうな表情だな。俺の名前が滝本だってのが不満か?よく考えてみろ。仮に、君の名字が『佐藤』だとする。そんな君が寝ている間──つまり、今とは別の意識のとき、その名前は何だ。佐藤だろう。ゲームをしているときのアバター名が『キリト』とかのオタク全開でも中身は所詮佐藤なんだよ。つまり、俺の名前は滝本だってわけだ。QEDだな。

 さて、名前の話はどうでもいいだろう。本題に入ろうではないか。
 なに?ここまでが本題じゃないのかって?……馬鹿を言ってはいけないよ。いうならば名前の話は前菜だ。この後には豪華なメインディッシュとデザートが待っている。

 まずはスープだな。スープというには濃すぎるかもしれんが、あの事件の犯人を明かそう。犯人は、滝本拓也俺の容れ物の姉ではあるが、彼女の根底にある意識ではない。

 順を追って話そうか。これがメインディッシュになるのかな?まあ、そんなことはどうでもいい。
 最初に言っておくと、滝本拓也が死ぬ夢を見せていたのは俺じゃあない。誰かって?あいつの姉だよ。
 よく思い出してみろ。思い出せなかったら読み返せ。あいつが起こされたあと、部屋にかぎを掛けられていただろう。そのかぎは外側から掛けられ、おふくろさんに開けられるまでは外せなかった。つまり、外鍵はあっても内鍵はあの部屋にないのさ。すなわち、あの部屋への侵入は針に糸を通すよりも簡単なのさ。その証拠に、姉が部屋にはいいって起こしているじゃないか。
 さて、そうして深夜に部屋に侵入したあいつの姉は寝ているあいつの耳元で囁く。夢を見るってことは、眠りが浅いってことだ。暗示をかけるのも容易いだろうな。こうして、不安を煽る夢を見せることに成功した。それに何の意味があるのかだって?君たちも一度は既視感を憶えたことがあるだろう。その要因として‟正夢”や‟予知夢”があげられる。君たちも感づいたかな?まだ疑問はあると思うが、静かに聞いてろ。そのうちわかる。

 メインディッシュ二品目といこうか。夢についてはある程度納得したと思う。ここでは現実について話そうか。
 ──といっても、ある程度は滝本拓也とアナザーの推理で合っている。では、どこが間違っているのか。それは‟前と後”──彼の姉が騙った部分だ。
 だが、あの部分については推理の材料が足りない。多少、憶測が混ざってしまうが勘弁してくれ。
 まずは、動機だ。東京に行きたいと何度も交渉していたようだが、そんな場面は一度も見たことがない。彼女の性格上、無下に否定されれば大声をあげたりもするのだろう。だが、そんな声は聞いたこともない。つまり彼女はうそをついているのだ。
 さて、次に過去から今にかけての話だが──ここからは話すのが難しくなる。わかりにくい点があれば質問してくれ。
 まず自転車整備だが、あの空き地でやることは通常あり得ない。校則を破る罪悪感を抱えながら、いつ自分の弟やその友達にばれるともわからない場所でできるだろうか。メリットに対するリスクが大きすぎる。
 そこで考えられる可能性は一つだ。それは、リスクを上回るメリットがあること。
 ここで質問だ。君たちにとって、メリットとは何だろう。金、物、ざっくりと『利益』と答える奴もいるか。俺がすべての答えを総括してやろう。メリットとは、‟自身の欲を満たすもの”だ。
 この場合、すべての言葉を真とするならば『メリット→金→東京へ行く資金→東京へ行きたい』と欲が最終目標に来る。もちろんこれでもいいのだが、俺は恐ろしいことに気づいてしまった。
『メリット→子供を呼ぶ→光沢のあるものを生み出す→カラスを呼ぶ→子供を襲わせる→助けるようにカムフラージュする→誰かを傷つける』
 妄想と嗤われるかもしれないが、可能性の一環としては矛盾がないのだ。

 もうそろそろ話しつかれた。デザートにしよう。そうだな……デザートはこの一家の正体でどうだろうか。
 まずは滝本拓也という名前だ。考えてみてほしい。君の名字が滝本だとして、自分の子に拓也という名をつけるか?語感は悪くないが、発音したときにいささかくどいような印象も受ける。しかも、姉の椛には全くこの印象を受けない。俺は感づいたよ。滝本拓也には別の姓があるんじゃないかってな。
 つまり、養子または連れ子だ。このご時世に中流家庭が養子とは考えにくいから、おそらく後者なのだろう。
 ところで、君たちは気づいただろうか。この物語には、拓也の父が一切出てこないのだ。彼が土に埋まっているのか、海に沈んでいるのか、はたまた鳥につつかれているのか──それを知るものは拓也の母を除けば地球上に存在しないのだろう。証拠はないが、確実に父親は死んでいるだろうね。
 次にメインディッシュでも話した部屋のカギだが、不思議に思った人もいるだろう。この構造はまるで、拓也を監禁しようとしているみたいではないか。
 死んでいるであろう拓也の父と部屋のカギ。姉の傷害事件における仮説。滝本拓也とその父を除く‟真・滝本家”は殺人一家なのだよ。


 さあ、これでこの物語は完結した。余談ではあるが、俺は拓也の裏面ではなくアナザーの裏面だ。
 何に裏があり、どこが表なのかは誰にもわからない。拓也の裏であるアナザーは俺の裏でもあるが、俺と拓也の意識は別だ。
 それは夢にも同じことが言える。夢は現実ではない。だが、夢の世界にとってここは現実でない。

 素敵なDREAM DAYSをおくりたまえ。
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