Olympus Quest

狩野 理穂

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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~

消失

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「ルーシュ‼」

 俺は、反射的に叫んでいた。
 彼がイザナミの前に飛び出した。そして、次の瞬間には彼が消え去っていた。視覚的にわかっても、理解が追い付かない。

「謌代??r邊セ逾樒ァサ蜍輔?荳也阜縺ク」

 イザナミが何か呟くと、俺は再び光の粒子に包まれていた。ルーシュの姿は、無い。
 彼はどこに行ったのか──いや、彼は消滅したのだ。カオスの攻撃によって。

「なあ、イザナミ」
「なんでしょう」
「どうしてルーシュを犠牲にした」
「私の知るところではありません。まさか彼があんな行動をとるとは思いませんでしたが──」

 イザナミの言葉に嘘はない。これが八つ当たりだということもわかっている。ただ、どうしても気持ちを抑えられなかった。
 なにか……なにか、ルーシュを助ける方法はないのか?

「今は、彼一人の存在よりも世界の命運です。諦めてください」

 イザナミに訊くと、そう一蹴されてしまった。

「お前は馬鹿か! 人の命は──」
「地球より重い、ですか? 流石は愚かな人間の理論ですね。世界よりも重たい命を一つ救うことで、その命を何億と失うことになるんですよ。結果はマイナス。小学生でもできる算数です」

 それは違うと言いたかった。だが、情を含まず達観した神の言葉であるが為に、その一言一言がとても重く感じる。
 それでも──それでも俺はルーシュを助けたかった。

「着きました」

 イザナミが言う。何かに引っ張られるような感覚を憶え、大きく息を吸う。間違いなく、俺は自分の身体に還ってきた。だが、隣には跪いたまま止まっているルーシュ。まるで何かに救われたかのような表情で、永遠の眠りについている。
 イザナミが言うには、あの空間は精神だけが干渉していて、肉体はここに放置されていたらしい。存在しながら存在しないあの場所は時間の概念がないため、こちらの世界で肉体のみが腐敗することもない。つまり、タイミングをずらして還ってくるとしても同時に目が覚めることになる。
 一方のみしか戻れない状況は大きく分けて二つ。一つ目は、肉体が死んでいること。肉体を精神の器と考えると、肉体の死は器に穴が開いているのと同じ。精神を戻したところで、穴から漏れてしまう。二つ目は精神の死。これは、そもそも器に入れるものがなくなっている状態だ。今のルーシュも、これに当たる。
 そして、ルーシュの状態を正確に表すと「消滅」なので、イザナミにも復活させることは不可能──つまり、ルーシュは生き返らない。

「一つ……」

 イザナミが呟いた。

「現状と貴方の悩みを同時に解決できる方法が一つだけ有ります」
「どんなものですか!」
「ルーシュさんが居た世界線では、死者の国を媒介にして現代の東京から古代ギリシャに還ったようです。其れが出来るならば、貴方が過去を変えることも可能です」
「!! すぐ行きましょう!」

 確かに、それならば全てを変えることができる。ルーシュどころか、カオスさえも──
 だが、イザナミは首を縦に振らなかった。

「之は爆薬を治療に使うようなもの。効果は大きいですがリスクが高過ぎます。やはり止めておきましょう」
「そんな……」

 あくまで直観だが、ルーシュを救うにはこの方法しかない。そう感じる。
 ならば、取るべき方法は一つしかない。

 俺は、今までのうなだれた姿勢のまま足に力を入れ、少し腰を落とす。悟られないように気を付けながらもしっかりと相手を見据える。
 神様でも呼吸はするんだな──そんなふうに思いながら、上下するイザナミの胸でタイミングを計る。
 三……ニ……一……今だ!
 両足でバネのように地面をはじき、イザナミとの距離を詰める。途中で体を半回転させ、左手で彼女の右膝を引き寄せる。着物であることによりバランスを取れずに、隙が生まれる。
 その隙を逃さずにイザナミの服の袂に手を入れる。本来ならば女性にこんなことはしたくないのだが、仕方がない。

「──あった」

 指先に触れる硬い感触。多少のぬくもりも感じられるが、命を吸い取られるような感覚。
 それを掴み、まっすぐに引き抜く。檜の柄に、黒光りする刃が付いたそれは、過去に別の世界線でルーシュを刺したであろう短刀だった。

「何をしているのです! 止めなさい!」

 イザナミが手を伸ばす。だが、その手が意味を成すことはなかった。
 なぜなら、イザナミが触れる前に、俺が短刀で自分の腹を刺したから──

「うう……あああああああああ!!」

 叫び声が聞こえる。誰が……いや、俺が叫んでいる。短刀から広がるような激しい痛みと、熱。消えず、慣れない痛みで意識を失うこともできない。風景から色が消え、次第に黒く塗りつぶされていく。何も考えられない。



「貴方は大馬鹿者ですね」
「…………うるさい」

 俺を罵倒する声で目を覚ますと、そこは仄かな明かりの中で地平線まで続く荒野だった。
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