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なぜバレるのか教えてくれ1
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また来てしまった――ディヴァイアン本部に。
本来なら休みのはずだったのに、ジムでエリさんに捕まったのが運の尽き。
「次いつ来るのよ?」と詰め寄られ、圧に負けて「明後日なら」と答えた自分を、今すぐ殴りたい。
そして出勤当日、本部のドアをくぐった瞬間に腕をがしっと掴まれた。
「待ってたわよ!さあ、私の部屋に来なさい!」
まるで待ち伏せでもしていたかのような勢いで、引きずり込まれる。
――その結果がこれだ。
エリさんの私室に呼び出され、椅子に腰を下ろしている俺。
開口一番、彼女の口から飛んできたのは――
「ねぇ、グリーンとは本当に付き合ってないのよねぇ?」
唐突に切り込まれたが、別に隠すようなことでもない。
俺はわざとらしく肩をすくめ、冷めた声で返す。
「……付き合ってないです」
「クロウからも聞いたけど……あいつ、どこにいようが必ずあんたのところに現れるらしいじゃない?」
「あーまぁ、そうですね。全身スーツで紛れてても、なぜかバレます」
俺はただの雑魚バイト。現場に出ればヒーローに吹っ飛ばされて転がっている、それだけの存在だったはずだ。
それなのに、なぜこうなっているのか。理解できない。
肩をすくめる俺を、エリさんはじっと見下ろし、眉を寄せる。その目には、面白がり半分、苛立ち半分の色が混ざっていた。
「……GPSでも身体に埋め込まれてるんじゃないの、あんた」
エリさんが唇を尖らせて言う。なぜわかるかなんて、むしろ俺が知りたいくらいだ。埋め込まれてはないと思いたい。
「さぁ……」
無表情に返した俺に、エリさんは小さく笑みをこぼし、音もなく立ち上がった。
「――そうね。じゃあ身体のラインさえ出なければ、バレっこないんじゃないかしら?」
その笑みは純真からほど遠く、どう見ても悪だくみの最中の顔だった。胸の奥にぞわりと嫌な予感が走る。
――そして予感は的中した。
「うわ、これ快適!最高じゃないっすか!」
気がつけば雑魚モブども全員、エリさんの提案で“体型不明スーツ”なる怪しげな代物を着せられていた。
分厚く膨れたその姿は、肩から腰まで寸胴で、人間らしいラインを徹底的に抹消している。
もはや兵士というより、着ぐるみの群れだ。
だが、意外なことに中身はやけに快適だった。
内側は空洞で、軽量パッドが仕込まれているだけ。腰のあたりには小型ファンまで内蔵されていて、空気が循環する仕組みだ。
外見は分厚いモコモコなのに、着ている本人はむしろ涼しい――という理不尽なギャップ。
「これ、イベントで売れるっすよ!」
「正規装備より全然いいじゃん!」
雑魚モブたちは妙にテンション高く騒ぎ、鏡の前で無駄にポーズまで決めはじめる。
ずらりと並んだその光景は、恐怖とは程遠く、遊園地の着ぐるみショーのリハーサルにしか見えなかった。
敵組織のはずなのに、この緩さ。思わずため息をつき、心の中でぼやく。
(確かに、これならさすがにわからなさそうだが…)
「ほら見なさい!これならグリーンだってお手上げよ!」
エリさんが両手をパンと叩き、満面の笑みを浮かべる。
「――よし、行くわよ、あんたたち!」
幹部らしからぬ妙なハイテンションの号令に、雑魚モブたちは「おーっ!」と拳を突き上げた。
モコモコのスーツにゆるキャラじみたヘルメット――その行進はどう見ても運動会。恐怖など一欠片もなく、むしろシュールな滑稽さだけが際立っている。
……こうして俺もまた、やたらノリノリのエリさんに引きずられるように現場へ向かうのだった。
*
ショッピングモールの広場。
休日の人混みで賑わうその場所を、俺たちは“占拠”した。
吹き抜けから差し込む陽光に、中央の噴水がきらめく。
普段なら家族連れでにぎわうその一角に――モコモコスーツ姿の雑魚モブたちがずらりと整列。
……誰がどう見ても、着ぐるみショーの開幕である。
「ひぃっ!?」「な、なんだあれ!?」
悲鳴があがる一方で、
「え、キャラショー?」「ご当地ゆるキャラのイベント?」
と首をひねる声まで混じっていた。
「行くわよ!この街にディヴァイアンの存在を刻みつけなさい!」
エリさんが両腕を大げさに広げ、号令を響かせる。
「「おーーっ!!!」」
雑魚モブたちもモコモコの腕を振り上げ、やたらと元気に拳を突き上げる。
……挙句の果てには、子どもに愛想よく手を振るやつまで出てきた。
(……敵組織の出動シーンなのに、緊張感ゼロってどうなんだよ)
俺が心の底からため息をついた、その瞬間――
「ちょーーーっと待ったぁーーー!!」
吹き抜けの上から威風堂々と声が響き渡る。
視線を上げると、そこには緑と黄色の二人組――グリーンとイエロー。彼らは手すりを蹴り、モールの広場へと颯爽と舞い降りた。
ヒーローの登場に場内がどよめき、悲鳴と歓声が入り交じる。空気が一気に張り詰めるのがわかった。
「なんか……お前ら、今日はまた一段と妙な格好してんな~」
イエローが肩をすくめ、皮肉を飛ばす。
「ええ。どう見ても“可愛らしい”装備ですね」
グリーンも冷静に同意。その視線の先には、モコモコスーツに身を包んだ雑魚モブたちがずらりと並んでいた。
「……なんか調子狂うな。で、お前、担当違うのにわざわざ出張ってきたってことは――いるんだろ?」
イエローがモコモコ集団をざっと見回しながら問いかける。
だが、全員同じにしか見えないその光景に、肩をすくめて皮肉を添えた。
「ははっ、けどさすがにこの格好じゃ、どれが365番かなんてわかんねーんじゃね?」
わざとらしくニヤつきながらグリーンを挑発するイエロー。
「そうですねぇ」
イエローの言う通り、これだけ全身モコモコで顔まで覆っていれば、誰が誰かなんて見分けられるはずがない。
……それなのに、グリーンの視線だけは妙に俺を正確に捉えている気がする。
――いや、気のせいだ。気にしすぎてるだけだ。
さっさとやられて、この場から退場してしまおう。
……終わったらフォンダンショコラが食べたい。
そんな場違いな欲求をぼんやり抱きながら、これから始まるであろう戦闘に備えるのだった。
本来なら休みのはずだったのに、ジムでエリさんに捕まったのが運の尽き。
「次いつ来るのよ?」と詰め寄られ、圧に負けて「明後日なら」と答えた自分を、今すぐ殴りたい。
そして出勤当日、本部のドアをくぐった瞬間に腕をがしっと掴まれた。
「待ってたわよ!さあ、私の部屋に来なさい!」
まるで待ち伏せでもしていたかのような勢いで、引きずり込まれる。
――その結果がこれだ。
エリさんの私室に呼び出され、椅子に腰を下ろしている俺。
開口一番、彼女の口から飛んできたのは――
「ねぇ、グリーンとは本当に付き合ってないのよねぇ?」
唐突に切り込まれたが、別に隠すようなことでもない。
俺はわざとらしく肩をすくめ、冷めた声で返す。
「……付き合ってないです」
「クロウからも聞いたけど……あいつ、どこにいようが必ずあんたのところに現れるらしいじゃない?」
「あーまぁ、そうですね。全身スーツで紛れてても、なぜかバレます」
俺はただの雑魚バイト。現場に出ればヒーローに吹っ飛ばされて転がっている、それだけの存在だったはずだ。
それなのに、なぜこうなっているのか。理解できない。
肩をすくめる俺を、エリさんはじっと見下ろし、眉を寄せる。その目には、面白がり半分、苛立ち半分の色が混ざっていた。
「……GPSでも身体に埋め込まれてるんじゃないの、あんた」
エリさんが唇を尖らせて言う。なぜわかるかなんて、むしろ俺が知りたいくらいだ。埋め込まれてはないと思いたい。
「さぁ……」
無表情に返した俺に、エリさんは小さく笑みをこぼし、音もなく立ち上がった。
「――そうね。じゃあ身体のラインさえ出なければ、バレっこないんじゃないかしら?」
その笑みは純真からほど遠く、どう見ても悪だくみの最中の顔だった。胸の奥にぞわりと嫌な予感が走る。
――そして予感は的中した。
「うわ、これ快適!最高じゃないっすか!」
気がつけば雑魚モブども全員、エリさんの提案で“体型不明スーツ”なる怪しげな代物を着せられていた。
分厚く膨れたその姿は、肩から腰まで寸胴で、人間らしいラインを徹底的に抹消している。
もはや兵士というより、着ぐるみの群れだ。
だが、意外なことに中身はやけに快適だった。
内側は空洞で、軽量パッドが仕込まれているだけ。腰のあたりには小型ファンまで内蔵されていて、空気が循環する仕組みだ。
外見は分厚いモコモコなのに、着ている本人はむしろ涼しい――という理不尽なギャップ。
「これ、イベントで売れるっすよ!」
「正規装備より全然いいじゃん!」
雑魚モブたちは妙にテンション高く騒ぎ、鏡の前で無駄にポーズまで決めはじめる。
ずらりと並んだその光景は、恐怖とは程遠く、遊園地の着ぐるみショーのリハーサルにしか見えなかった。
敵組織のはずなのに、この緩さ。思わずため息をつき、心の中でぼやく。
(確かに、これならさすがにわからなさそうだが…)
「ほら見なさい!これならグリーンだってお手上げよ!」
エリさんが両手をパンと叩き、満面の笑みを浮かべる。
「――よし、行くわよ、あんたたち!」
幹部らしからぬ妙なハイテンションの号令に、雑魚モブたちは「おーっ!」と拳を突き上げた。
モコモコのスーツにゆるキャラじみたヘルメット――その行進はどう見ても運動会。恐怖など一欠片もなく、むしろシュールな滑稽さだけが際立っている。
……こうして俺もまた、やたらノリノリのエリさんに引きずられるように現場へ向かうのだった。
*
ショッピングモールの広場。
休日の人混みで賑わうその場所を、俺たちは“占拠”した。
吹き抜けから差し込む陽光に、中央の噴水がきらめく。
普段なら家族連れでにぎわうその一角に――モコモコスーツ姿の雑魚モブたちがずらりと整列。
……誰がどう見ても、着ぐるみショーの開幕である。
「ひぃっ!?」「な、なんだあれ!?」
悲鳴があがる一方で、
「え、キャラショー?」「ご当地ゆるキャラのイベント?」
と首をひねる声まで混じっていた。
「行くわよ!この街にディヴァイアンの存在を刻みつけなさい!」
エリさんが両腕を大げさに広げ、号令を響かせる。
「「おーーっ!!!」」
雑魚モブたちもモコモコの腕を振り上げ、やたらと元気に拳を突き上げる。
……挙句の果てには、子どもに愛想よく手を振るやつまで出てきた。
(……敵組織の出動シーンなのに、緊張感ゼロってどうなんだよ)
俺が心の底からため息をついた、その瞬間――
「ちょーーーっと待ったぁーーー!!」
吹き抜けの上から威風堂々と声が響き渡る。
視線を上げると、そこには緑と黄色の二人組――グリーンとイエロー。彼らは手すりを蹴り、モールの広場へと颯爽と舞い降りた。
ヒーローの登場に場内がどよめき、悲鳴と歓声が入り交じる。空気が一気に張り詰めるのがわかった。
「なんか……お前ら、今日はまた一段と妙な格好してんな~」
イエローが肩をすくめ、皮肉を飛ばす。
「ええ。どう見ても“可愛らしい”装備ですね」
グリーンも冷静に同意。その視線の先には、モコモコスーツに身を包んだ雑魚モブたちがずらりと並んでいた。
「……なんか調子狂うな。で、お前、担当違うのにわざわざ出張ってきたってことは――いるんだろ?」
イエローがモコモコ集団をざっと見回しながら問いかける。
だが、全員同じにしか見えないその光景に、肩をすくめて皮肉を添えた。
「ははっ、けどさすがにこの格好じゃ、どれが365番かなんてわかんねーんじゃね?」
わざとらしくニヤつきながらグリーンを挑発するイエロー。
「そうですねぇ」
イエローの言う通り、これだけ全身モコモコで顔まで覆っていれば、誰が誰かなんて見分けられるはずがない。
……それなのに、グリーンの視線だけは妙に俺を正確に捉えている気がする。
――いや、気のせいだ。気にしすぎてるだけだ。
さっさとやられて、この場から退場してしまおう。
……終わったらフォンダンショコラが食べたい。
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