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1章
甘いものが食べたかっただけなんだ2
「あれ?一般人が巻き込まれてると思ったら……トオルさん?」
「グリーンもいるよ!おーい!」
戦闘服姿のイエローとレッドが、慌ただしく駆け寄ってくる。
彼らの視線の先にあるのは――ディヴァイアン戦闘員たちにぐるりと取り囲まれ、その中心で俺の肩を当然のように抱き寄せているグリーンの姿だった。
「……ねぇ、これどういう状況?」
イエローが片眉を跳ね上げ、俺に説明を求めるように視線をよこす。
「……俺が聞きてぇよ」
吐き捨てた俺の声に、イエローが苦笑いを浮かべて肩をすくめたのが見えた。
だがそのやり取りを外から見ていた戦闘員たちは、一気にざわつき始める。
彼らの目に映るのは――ヒーロー三人が俺を取り囲み、密かに言葉を交わしている光景。
会話の内容までは聞こえない。だからこそ、勝手な妄想が膨らんでいく。
「な、何を話してるんだ……!?」
「まさか捕まって……無理やり従わされてるのか!?」
「いや待て、彼に何かあったらクロウ様が絶対に黙ってないのでは……!」
恐怖と憶測、そして妙な崇拝が渦を巻き、ざわめきは雪崩のように広がっていく。
「彼を――365番を助けなければ!」
「よし、行くぞ!全員なら救い出すチャンスがある!」
モブ戦闘員たちが一斉に拳を突き上げる。普段なら覇気のない連中が、なぜか今は異様な熱気に包まれ、士気高く燃え上がっていた。
「……え、ちょっと待って?なにこれ、どういう状況?」
イエローは顔を引きつらせ、目を白黒させる。一方でレッドは拳を握りしめ、にかっと笑顔を弾けさせた。
「なんか彼ら、いつも以上にやる気あるじゃん!いいねー!よーし、俺もやるぞーー!」
「いや、ちょっと?!この妙な空気に乗っかるなよ?!」
イエローの悲鳴は、戦場に高まっていく熱気にあっさりかき消されていく。戦闘員どもが勝手に拳を突き上げ、盛り上がっていく中――俺は頭を抱えたくなった。
イエローは「何これ?」と繰り返し顔を引きつらせ、レッドは「俺が相手だ!」と楽しそうに叫んでいる。
――その喧騒を切り裂いたのは、隣で肩を抱いていたグリーンの低い声だった。
「……気に食わないですね」
ぐい、と強く抱き寄せられ、胸が押しつぶされる。
グリーンの腕に込められた力は、表面上は優しい抱擁のままなのに、実際は所有を誇示するような硬さがあった。
その気配に気づいた周囲の戦闘員たちのざわめきが、わずかに遠のく。グリーンの視線一つで、皆が無意識に萎縮しているのが分かる。
「……なんでお前が、ちょっと不機嫌そうなんだよ」
思わず呟いた俺の目の前では、イエローとレッドが戦闘員たちと交戦していた。
もっとも、相手は所詮モブの雑魚。力の差は歴然で、戦況は最初からヒーロー側の圧勝だ。
ときおりこちらへ流れてきた戦闘員もいたが――私服姿のままのグリーンが、軽く一撃をくれて即座に沈めていく。
ふと頭をよぎる。……そういえば、28番はどうしただろうか。
同じ格好ばかりで区別もつかない。あの群れのどこかに混じっているのかもしれないが、見分けはもう不可能だった。
「なぁ!こいつらなんかトオルさんの方に向かって行ってる気がするんだけど!?気のせい!?」
戦いながらイエローが声を張り上げる。おそらくグリーン、あるいは俺に向けて言っているのだろうが……知らん。
「なるほど。――これで私がトオルさんを連れ去ったら、完全に悪役の絵面になってしまいますね」
口元に笑みを浮かべたまま、グリーンがさらりと告げる。
楽しそうなその声音に、背筋が嫌な汗でじわりと濡れる。
「は?」と反射的に声を漏らした次の瞬間――腰に回された腕が、ぐっと強く締まった。
「――ですが、悪役でも構いません。だって、こうすれば誰も邪魔できませんから」
そう言い切るや否や、グリーンは俺の体を軽々と抱え上げる。抗議の言葉を吐く間もなく、俺の視界が一気に揺さぶられた。
「ちょ、おい待てバカ!降ろせっ!」
「ふふ……暴れなくても大丈夫ですよ。連れていくだけですから」
まるで恋人を抱き寄せるみたいに、俺を小脇に抱えて歩き出すグリーン。
決して俺は軽い方じゃない。なのにこいつは、片手でも扱えそうな顔で余裕しゃくしゃく。……腕力どうなってんだ。お前ほんとに人間か?
その異様すぎる光景に、戦闘員たちはどよめき、ヒーローたちでさえ思わず足を止める。
――そのざわめきを裂くように、低く鋭い声が響いた。
「……待て」
空気が一瞬で張り詰める。
「そいつを――どこへ連れて行くつもりだ」
黒いコートを翻しながら姿を現したのは、銀縁の眼鏡を光らせる長身の男。
ディヴァイアン幹部――クロウ。
その背後には、こちらの様子をそわそわと窺うモブ戦闘員が一人。視線が合ったかと思えば、親指を突き立ててハンドサインを送ってきた。
いや、なにがだよ。……あれ、もしかして28番か?
「く、クロウ様……!来てくださった!」
その姿を目にした瞬間、戦闘員たちは一斉に膝をつく。広場全体に、さっきまでの喧騒とは別物の、重苦しい緊張が走り抜けた。
幹部クロウとヒーローたちが同じ場に揃う。――それはつまり、誰もが息を呑む「大規模戦闘の前触れ」だ。
「やば……これは完全に想定外~」
イエローが声を裏返し、対照的にレッドは興奮気味に拳を握る。
「まさかの幹部戦!燃えてきたな!」
戦闘員たちもざわめきながらクロウの背後に控え、広場は一気に「決戦ムード」に包まれていった。
重々しい空気の中、ただひとつ、はっきりしていること。
――それはクレープが確実に、遠のいた事だ。
「グリーンもいるよ!おーい!」
戦闘服姿のイエローとレッドが、慌ただしく駆け寄ってくる。
彼らの視線の先にあるのは――ディヴァイアン戦闘員たちにぐるりと取り囲まれ、その中心で俺の肩を当然のように抱き寄せているグリーンの姿だった。
「……ねぇ、これどういう状況?」
イエローが片眉を跳ね上げ、俺に説明を求めるように視線をよこす。
「……俺が聞きてぇよ」
吐き捨てた俺の声に、イエローが苦笑いを浮かべて肩をすくめたのが見えた。
だがそのやり取りを外から見ていた戦闘員たちは、一気にざわつき始める。
彼らの目に映るのは――ヒーロー三人が俺を取り囲み、密かに言葉を交わしている光景。
会話の内容までは聞こえない。だからこそ、勝手な妄想が膨らんでいく。
「な、何を話してるんだ……!?」
「まさか捕まって……無理やり従わされてるのか!?」
「いや待て、彼に何かあったらクロウ様が絶対に黙ってないのでは……!」
恐怖と憶測、そして妙な崇拝が渦を巻き、ざわめきは雪崩のように広がっていく。
「彼を――365番を助けなければ!」
「よし、行くぞ!全員なら救い出すチャンスがある!」
モブ戦闘員たちが一斉に拳を突き上げる。普段なら覇気のない連中が、なぜか今は異様な熱気に包まれ、士気高く燃え上がっていた。
「……え、ちょっと待って?なにこれ、どういう状況?」
イエローは顔を引きつらせ、目を白黒させる。一方でレッドは拳を握りしめ、にかっと笑顔を弾けさせた。
「なんか彼ら、いつも以上にやる気あるじゃん!いいねー!よーし、俺もやるぞーー!」
「いや、ちょっと?!この妙な空気に乗っかるなよ?!」
イエローの悲鳴は、戦場に高まっていく熱気にあっさりかき消されていく。戦闘員どもが勝手に拳を突き上げ、盛り上がっていく中――俺は頭を抱えたくなった。
イエローは「何これ?」と繰り返し顔を引きつらせ、レッドは「俺が相手だ!」と楽しそうに叫んでいる。
――その喧騒を切り裂いたのは、隣で肩を抱いていたグリーンの低い声だった。
「……気に食わないですね」
ぐい、と強く抱き寄せられ、胸が押しつぶされる。
グリーンの腕に込められた力は、表面上は優しい抱擁のままなのに、実際は所有を誇示するような硬さがあった。
その気配に気づいた周囲の戦闘員たちのざわめきが、わずかに遠のく。グリーンの視線一つで、皆が無意識に萎縮しているのが分かる。
「……なんでお前が、ちょっと不機嫌そうなんだよ」
思わず呟いた俺の目の前では、イエローとレッドが戦闘員たちと交戦していた。
もっとも、相手は所詮モブの雑魚。力の差は歴然で、戦況は最初からヒーロー側の圧勝だ。
ときおりこちらへ流れてきた戦闘員もいたが――私服姿のままのグリーンが、軽く一撃をくれて即座に沈めていく。
ふと頭をよぎる。……そういえば、28番はどうしただろうか。
同じ格好ばかりで区別もつかない。あの群れのどこかに混じっているのかもしれないが、見分けはもう不可能だった。
「なぁ!こいつらなんかトオルさんの方に向かって行ってる気がするんだけど!?気のせい!?」
戦いながらイエローが声を張り上げる。おそらくグリーン、あるいは俺に向けて言っているのだろうが……知らん。
「なるほど。――これで私がトオルさんを連れ去ったら、完全に悪役の絵面になってしまいますね」
口元に笑みを浮かべたまま、グリーンがさらりと告げる。
楽しそうなその声音に、背筋が嫌な汗でじわりと濡れる。
「は?」と反射的に声を漏らした次の瞬間――腰に回された腕が、ぐっと強く締まった。
「――ですが、悪役でも構いません。だって、こうすれば誰も邪魔できませんから」
そう言い切るや否や、グリーンは俺の体を軽々と抱え上げる。抗議の言葉を吐く間もなく、俺の視界が一気に揺さぶられた。
「ちょ、おい待てバカ!降ろせっ!」
「ふふ……暴れなくても大丈夫ですよ。連れていくだけですから」
まるで恋人を抱き寄せるみたいに、俺を小脇に抱えて歩き出すグリーン。
決して俺は軽い方じゃない。なのにこいつは、片手でも扱えそうな顔で余裕しゃくしゃく。……腕力どうなってんだ。お前ほんとに人間か?
その異様すぎる光景に、戦闘員たちはどよめき、ヒーローたちでさえ思わず足を止める。
――そのざわめきを裂くように、低く鋭い声が響いた。
「……待て」
空気が一瞬で張り詰める。
「そいつを――どこへ連れて行くつもりだ」
黒いコートを翻しながら姿を現したのは、銀縁の眼鏡を光らせる長身の男。
ディヴァイアン幹部――クロウ。
その背後には、こちらの様子をそわそわと窺うモブ戦闘員が一人。視線が合ったかと思えば、親指を突き立ててハンドサインを送ってきた。
いや、なにがだよ。……あれ、もしかして28番か?
「く、クロウ様……!来てくださった!」
その姿を目にした瞬間、戦闘員たちは一斉に膝をつく。広場全体に、さっきまでの喧騒とは別物の、重苦しい緊張が走り抜けた。
幹部クロウとヒーローたちが同じ場に揃う。――それはつまり、誰もが息を呑む「大規模戦闘の前触れ」だ。
「やば……これは完全に想定外~」
イエローが声を裏返し、対照的にレッドは興奮気味に拳を握る。
「まさかの幹部戦!燃えてきたな!」
戦闘員たちもざわめきながらクロウの背後に控え、広場は一気に「決戦ムード」に包まれていった。
重々しい空気の中、ただひとつ、はっきりしていること。
――それはクレープが確実に、遠のいた事だ。
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