正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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1章

囲われます2

外界を遮断するみたいに、ドアの閉まる音がずしりと重く響いた。

――密室。

靴も脱がないまま、玄関の壁へと追い込まれる。俺の足のあいだに入り込んできたグリーンの足。激しく奪われるのかと身構えたのに、落ちてきたのは拍子抜けするほどやわらかな口づけだった。

ひとつ、またひとつと、丁寧に。

両頬を包み込むようにつかまれ、視線ごと縫い止められる。
薄暗かった室内に、不意にぱっと灯りがともる。

視界が白くはじける。どうやらグリーンが器用にスイッチへ手を伸ばしたらしい。……いや、ちょっと待て。この空気の中で、いま点けるか?まさか。

「おい……」

「はい?」

何食わぬ顔で返事をする声。壁際に追い込まれたまま、俺は眉をひそめる。

「……明かりつけたのって、まさか撮ってないだろうな」

問いかけた瞬間、落ちてくるはずだった口づけがぴたりと止まる。至近距離で、きょとんとした顔。

そして、悪びれもなく微笑む。

「当然でしょう。今この瞬間のトオルさんを残さないで、どうするんですか」

さらりと言ってのける声に、背筋がぞくりと粟立った。半分冗談のつもりだったのに……。

「お前な……」

呆れ半分、あきれ半分で吐き出した言葉は、最後まで続かなかった。

グリーンは小さく首をかしげたまま、どこか楽しげにこちらを見つめている。灯りの下で、逃げ場をなくした俺の顔をじっと観察するその視線。

「そんな顔、してるから悪いんですよ」

「どんな顔だよ」

「独り占めしたくなる顔です」

何でもないことのように言って、また距離を詰めてくる。触れたのは唇ではなく、額へ落とす軽い口づけ。

「そう言うわりには、ずいぶん子どもみたいなキスするんだな……」

わざとからかうように言うと、グリーンの動きが一瞬だけ止まった。

「……もっと激しいほうが、お望みでしたか?」

低く囁き返しながら、頬、こめかみ、まぶたへと、くすぐったいほど柔らかなキスを重ねてくる。まるで機嫌を取るように――それとも、本当に子どもをあやすみたいに。

挑発しているのか、甘やかしているのか……。

灯りの下、くすくすと漏れる笑い声だけがやけに近い。

「激しく、私の手の中でとろけるトオルさんを見るのも悪くありませんけど……」

首筋に落ちたキスが、ぞくりと甘い余韻を残す。

「いつもクールなトオルさんが、私のために緊張している今をじっくり味わいたいんですよ」

囁きとともに、服の内側へ忍び込んだ手が、腰の曲線をゆっくりとなぞる。焦らすように、確かめるように。

「ちゃんと自覚して、素直になろうとしている……照れながらも、私に応えようとしてくれてるその顔を、見逃したくないんです。激しくしてしまったら、きっと余裕なんてなくなってしまうでしょう?」

……こいつ、本当にいい性格してる。
抵抗する気もなく身を預けていた俺を、グリーンはそのまま腕の中に閉じ込めるように、ぎゅっと抱きしめた。

「こうしてトオルさんを腕の中に抱けて、あれだけ怒った甲斐があるというものです」

「…は?」

素直に受け入れていたキスを、俺はグリーンの肩を押して距離を取ろうとする。
無駄に怒った……?

「……お前、あの時わざとか」

「腹が立ったのは事実ですよ」

さらりと言いながら、俺の抵抗など意に介さず、両頬から耳元までをやさしく包み込む。逃げ場を奪うような、けれど乱暴ではない手つき。
キスから逃れられないように固定された顔は、思うように動かせない。近すぎる距離で、愉しげな息遣いだけが、やけに熱を帯びていた。

「自覚した時のトオルさん、最高に可愛かったです。他の連中に見せたくなかったですが……私の恋人という宣言にもなりましたし、今回は大目に見ましょう」

「っ……」

満足げに細められた目を見てしまって、続くはずだった文句が喉で止まる。隙を見せた途端、また唇が降ってきた。頬、こめかみ、額へと、律儀に順番をなぞるように。

「……恋人って言われても、俺の態度は変わんねぇぞ」

「ええ。変わらなくて結構です」

額に、軽いキス。

「ストーカーはやめろよ」

「合法になったのに?やめる理由が見当たりませんね」

頬に、もう一度。

「……囲われるだけだと思うなよ」

わざと低く言い返すと、グリーンの動きが一瞬止まった。
ゆっくりと視線が落ちてくる。値踏みするみたいな、それでいてどこか愉しげな目。

「それはつまり――」

指先が顎をなぞる。逃げ道を塞ぐように、じわりと距離を詰める。

「トオルさんも、私を囲いますか?」

静かな声なのに、妙に熱を帯びている。

「……覚悟しとけよ」

小さく吐き捨てると、今度は俺のほうから襟元を掴んだ。
引き寄せて、そのまま深く唇を重ねる。遠慮なく、奪うように。

一瞬、グリーンの目が見開かれた。

けれど次の瞬間には、応じるように舌が絡んでくる。押し込んだはずなのに、いつの間にか絡め取られている感覚に、思わず舌打ちしそうになる。くそ、余裕ぶってるのが腹立つ。

ゆっくりと唇が離れる。名残みたいに、わずかに糸を引いた。

「トオルさん……」

その様子を見下ろしながら、グリーンは指先で俺の口元をなぞる。次いで、垂れかけたそれを舐め取るように拭い、満足そうに目を細めた。

「挑発するなら、最後まで覚悟してください」

低い声が、耳元に落ちる。

「たっぷり、私に甘やかされていてください。トオルさん」

背筋がぞくりと震える。
玄関の灯りの下、気づけばまた腕の中だ。

本当に、面倒な男に捕まったものだ。
このヒーローに目をつけられた時点で、とっくに逃げ道なんてなかったのだろう。
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