正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず

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香り

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ディヴァイアンのアジト。
365番――吉川トオルは今日もやられ役の雑魚モブバイトとして出勤していた。
支給されたダサすぎる全身スーツに着替えようと更衣室へ向かったところで、開口一番に呼び止められる。

「貴様、止まれ!」

「はい?」

突然の怒声に振り返ると、やたら高貴な顔立ちの男が仁王立ちしていた。
手にはガラス製の香水ボトル。中身は真紅の液体。

そのままの勢いで、俺の胸元に向かってスプレーを噴射してきた。

「……なにこれ」

「“薔薇の記憶”。我が部隊の統一香水だ。見た目だけでなく、香りにも統一感が必要だろう?」

(……こだわり強……)

俺だけでなく、他の雑兵たちも例外なくこの香水を浴びせられていた。
大量の香水を浴びせられ、いい香りどころか不快感を与える香りになっている。

(地獄のローズ畑かよ)

鼻を突く甘ったるい薔薇の香りにげんなりしながら、スーツへ着替え、今日の現場――ショッピングモール前の広場へと向かう。


***


今日も市民の逃げ惑う悲鳴が響く。…ただし、鼻を押さえながら。
香水の香りは想像以上に強烈だったらしく、逃げる人々の中には涙目の者までいる。

(……やっぱくせぇよな)

そんな中、「正義の味方」たちが到着する。

「これ以上暴れるのは許さないぞ!レッド見参!」

颯爽と現れたのは、正義のヒーロー・レッド。
その隣には、無言で佇むグリーン。

「グリーン行くぞ!」とレッドが叫ぶが、グリーンは動かない。

「グリーン? ……どうしたの?」

ヒーローの一人が動かないという異常事態に、敵側もざわつき始める。
俺もモブの影から様子を見ようと顔を出した――その瞬間、目が合った。

バッチリ、グリーンと。

遠くからでも分かる。普段と違う、張り詰めた雰囲気。
怒ってる、いや、なんかすごくヤバい方向に怒ってる。

「何してる!やつらを倒せ!」

香水スプレー男――本日の現場ボスが怒声を上げる。
他の雑兵たちは一斉に動き出し、俺もその流れに乗ってレッド方面へと出撃。

(とりあえずさっさと吹っ飛ばされて、終了コース狙いだな)

そう思っていた、のに。

(……来てる。こっち来てる、絶対俺に向かって来てる)

グリーンが、一直線に俺の方へ迫ってくる。すげぇスピードで。

「こんにちは、365番」

(今日もバレてたのか、やっぱ…)

周囲のモブを吹き飛ばし、真正面に立ちはだかるグリーン。
その瞳はまるで“異変”を見逃さない研究者のよう。

「ねぇ、この香りはなんでしょうか?なぜ365番から“知らない匂い”がするんでしょう?」

知らない匂いとは、おそらくこの吹きかけられた薔薇の香りのことだろう。
まぁこれだけ匂いがしてたら誰だって気付く。

「……俺だけじゃなくて、全員この匂いになってるから」

「ふうん……つまり、他の男たちと、君は“同じ匂い”ってわけですか?」

「いやいや、そういう意味じゃ――」

「意味しかないけど?」

笑ってない。グリーンの顔が、引きつるような静けさに満ちる。

「君が、私の知らない香りを纏って、無防備に立ってるとか……耐えられません」

(やばい、話が通じねぇ)

腕を掴まれ、スーツの胸元に手をかけられる。

「落としましょうか。その匂い。今すぐに」

「ちょ、待て。ここ戦場!人前!」

「関係ありません。その香り、君の肌に似合いませんよ。誰が君に吹きかけたんでしょう?」

「あー…」

「……許せないなぁ」

目が完全に理性を失った猛獣のそれに変わる。

「ほんとにやめ――」

「我慢、限界です」

ぐいっとジッパーを下ろされかける。

必死で抵抗するが、さすがヒーロー。腕力がバグってる。

「待てって!スーツ脱いだってニオイとれねぇ…か、ら…」

「……は?」

ピタッと動きが止まり、グリーンの表情が一変する。

「まさか、素肌に直接……?」

(……あ、やっべ)

その瞬間、空気が凍りついた。

「……最初は、優しく拭き取ってあげようかと思ってましたが…気が変わりました」

「え、いや、なにその不穏な方向転換」

「全身舐めた方が早いですね。私の匂いに塗り替えましょう」

あ、これは終わった。と諦めかけていたその時ーーーー

「レッドよ!お前も薔薇の香りを纏うがいい!!」

現場ボスがまた香水を撒き散らし始めた。

その声に、グリーンの眉がぴくりと跳ねる。

「……あいつですね」

にっこりと笑った次の瞬間、グリーンは俺の手をそっと離し、

「少々お待ちください。殺してきますので」

爆風と共にボスへと突撃していった。砂煙で視界がふさがれた中、俺は本能で即座に行動した。

そう、全力で逃げた。

アジトに戻り、速攻でシャワールームに駆け込み、全力で体を洗った。

薔薇の記憶?
そんなもん一刻も早く記憶から消えてほしい。
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