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冷めた疑念
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五時間目の日本史の授業中、斎藤は教科書の隅に無意味な線を書き殴っていた。
耳を突き抜けて脳に直接届く「情報の奔流」は、数時間が経過しても止まる気配がない。それどころか、時間が経つにつれて、斎藤の心にはある種の「冷めた疑念」が芽生え始めていた。
(……待てよ。これ、本当にか?)
最初は自分が超能力に目覚めたのだと興奮した。他人の本音を知ることができる、選ばれし者になったのだと。
だが、あまりにも聞こえてくる内容が、自分の知っている「その人」のイメージとかけ離れすぎているのだ。
例えば、クラスの学級委員を務める真面目な伊藤さん。彼女は今、真剣な顔で黒板の文字をノートに写している。だが、聞こえてくる声はこうだ。
(あー、マジで今すぐ校庭の真ん中で焚き火して、教科書全部燃やして踊り狂いたい。そんでそのまま原付盗んで海まで走って、知らないおじさんと心中したいわ……)
清楚で大人しいはずの伊藤さんが、なぜそんなパンクで破滅的な願望を抱いているのか。
(おかしい。絶対におかしいだろ)
斎藤は顔を覆った。
人は誰しも裏表があるものだ。それは理解している。だが、ここまで全員が全員、パブリックイメージと真逆の、しかも極端なキャラクターを脳内に飼っているものだろうか。
そこで斎藤の思考は、一つの恐ろしい結論に辿り着いた。
(これ……実は俺、頭がおかしくなっただけじゃないのか?)
そうだ。超能力なんて非科学的なことが起きる確率よりも、過度のストレスや何らかの脳の異常で、自分が「他人の声だと思い込んでいる妄想」を聞き続けている可能性の方が、はるかに高い。
自分が無意識のうちにクラスメイトに対して抱いている勝手な偏見や、あるいは自分の中に眠る歪んだ欲望が、「他人の心の声」という形をとって再生されているのではないか。
そう考えると、全ての説明がつく。
自分が「学級委員は抑圧されているはずだ」と思っているから、伊藤が暴走する声を捏造している。
そして何よりもその証拠と言えるのが、今も斜め前で静かに授業を受けている、桜井凛だった。
彼女は、完璧だ。
背筋をピンと伸ばし、時折シャープペンを動かすその指先までが美しい。まさに「大和撫子」を体現したような、非の打ち所がない美少女。
そんな彼女から、先ほどからずっと聞こえ続けている「声」は、あまりにも……あまりにも「酷すぎる」のだ。
(んっ……あー、この席、もっと振動しないかな。このパイプ椅子の硬さが、ちょうどいい感じに局部を圧迫して……。あー、ダメ。昨日の夜、三回もイッたのに、まだ足りない。誰か、今すぐこの教室の真ん中で私を押し倒して、めちゃくちゃにしてくれないかな……。先生でも良いよ。あのチョークまみれの手で、私のスカートの中に突っ込んできて、中を真っ白にしてほしい……)
斎藤は頭を抱えそうになる。
もしこれが本物の声だとしたら、彼女は今、授業を受けながらとんでもない自慰行為の妄想に耽っていることになる。
だが、見てみろ。彼女の表情を。
一点の曇りもない、知的な眼差し。微かに結ばれた唇は、凛とした決意すら感じさせる。
(ありえない……。こんな美少女が、こんな下ネタの塊みたいなことを考えているはずがない。これは俺の妄想だ。俺が、桜井さんみたいな清純な子を『汚したい』という、最低で下劣な性的欲求を持っているから、それが桜井さんの声として聞こえてきているんだ……!)
斎藤は激しい自己嫌悪に陥った。
自分はなんてクズなんだろう。あんなに素敵な女子生徒をターゲットにして、脳内でこんな卑猥なセリフを言わせているなんて。
しかも、内容が具体的すぎる。
(あー、喉渇いた。水じゃなくて、男の人の……温かくて濃いやつ、飲みたいな。一気に流し込んで、胃の奥まで熱くなりたい。ねえ、誰か出してよ。今すぐ。私の口の中に、ドロドロの……)
「やめろ……。聞こえるな……っ」
斎藤は思わず小さく呟き、目を閉じた。
耳を突き抜けて脳に直接届く「情報の奔流」は、数時間が経過しても止まる気配がない。それどころか、時間が経つにつれて、斎藤の心にはある種の「冷めた疑念」が芽生え始めていた。
(……待てよ。これ、本当にか?)
最初は自分が超能力に目覚めたのだと興奮した。他人の本音を知ることができる、選ばれし者になったのだと。
だが、あまりにも聞こえてくる内容が、自分の知っている「その人」のイメージとかけ離れすぎているのだ。
例えば、クラスの学級委員を務める真面目な伊藤さん。彼女は今、真剣な顔で黒板の文字をノートに写している。だが、聞こえてくる声はこうだ。
(あー、マジで今すぐ校庭の真ん中で焚き火して、教科書全部燃やして踊り狂いたい。そんでそのまま原付盗んで海まで走って、知らないおじさんと心中したいわ……)
清楚で大人しいはずの伊藤さんが、なぜそんなパンクで破滅的な願望を抱いているのか。
(おかしい。絶対におかしいだろ)
斎藤は顔を覆った。
人は誰しも裏表があるものだ。それは理解している。だが、ここまで全員が全員、パブリックイメージと真逆の、しかも極端なキャラクターを脳内に飼っているものだろうか。
そこで斎藤の思考は、一つの恐ろしい結論に辿り着いた。
(これ……実は俺、頭がおかしくなっただけじゃないのか?)
そうだ。超能力なんて非科学的なことが起きる確率よりも、過度のストレスや何らかの脳の異常で、自分が「他人の声だと思い込んでいる妄想」を聞き続けている可能性の方が、はるかに高い。
自分が無意識のうちにクラスメイトに対して抱いている勝手な偏見や、あるいは自分の中に眠る歪んだ欲望が、「他人の心の声」という形をとって再生されているのではないか。
そう考えると、全ての説明がつく。
自分が「学級委員は抑圧されているはずだ」と思っているから、伊藤が暴走する声を捏造している。
そして何よりもその証拠と言えるのが、今も斜め前で静かに授業を受けている、桜井凛だった。
彼女は、完璧だ。
背筋をピンと伸ばし、時折シャープペンを動かすその指先までが美しい。まさに「大和撫子」を体現したような、非の打ち所がない美少女。
そんな彼女から、先ほどからずっと聞こえ続けている「声」は、あまりにも……あまりにも「酷すぎる」のだ。
(んっ……あー、この席、もっと振動しないかな。このパイプ椅子の硬さが、ちょうどいい感じに局部を圧迫して……。あー、ダメ。昨日の夜、三回もイッたのに、まだ足りない。誰か、今すぐこの教室の真ん中で私を押し倒して、めちゃくちゃにしてくれないかな……。先生でも良いよ。あのチョークまみれの手で、私のスカートの中に突っ込んできて、中を真っ白にしてほしい……)
斎藤は頭を抱えそうになる。
もしこれが本物の声だとしたら、彼女は今、授業を受けながらとんでもない自慰行為の妄想に耽っていることになる。
だが、見てみろ。彼女の表情を。
一点の曇りもない、知的な眼差し。微かに結ばれた唇は、凛とした決意すら感じさせる。
(ありえない……。こんな美少女が、こんな下ネタの塊みたいなことを考えているはずがない。これは俺の妄想だ。俺が、桜井さんみたいな清純な子を『汚したい』という、最低で下劣な性的欲求を持っているから、それが桜井さんの声として聞こえてきているんだ……!)
斎藤は激しい自己嫌悪に陥った。
自分はなんてクズなんだろう。あんなに素敵な女子生徒をターゲットにして、脳内でこんな卑猥なセリフを言わせているなんて。
しかも、内容が具体的すぎる。
(あー、喉渇いた。水じゃなくて、男の人の……温かくて濃いやつ、飲みたいな。一気に流し込んで、胃の奥まで熱くなりたい。ねえ、誰か出してよ。今すぐ。私の口の中に、ドロドロの……)
「やめろ……。聞こえるな……っ」
斎藤は思わず小さく呟き、目を閉じた。
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