追放された聖騎士は《武具分解》と《武具融合》を駆使して成り上がる

くぬぎ

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一緒にお風呂

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 全ての掃除を終え、俺たちがリビングの床に大の字になった頃には、窓の外は、すっかり夕闇に包まれていた。体は泥のように疲れている。だがその疲労感は、不思議なほど心地よかった。

「ふぅ……。終わった……」
「おにいちゃん、お腹すいた……」
「ああ、俺もだ。だがその前に、やることがあるだろう」

 埃と汗で汚れた自分の体を見下ろした。

「風呂だ。この家の記念すべき、一番風呂をいただくぞ」

 幸いなことにこの家の風呂は、騎士団長が使っていただけあって、かなり広く、立派なものだった。俺は掃除の合間に、風呂釜にたっぷりと水を張り、薪をくべて沸かしておいたのだ。

「よし、俺が先に入ってくる。リリは、ここで待ってろ」
「はーい」

 俺は着替えを手に、湯気の立つ風呂場へと向かった。
 木の扉を開けると、ふわりと湯気と、真新しい木の匂いが俺を包む。石造りの床に、大きな檜の浴槽。それは宿屋の共同浴場とは比べ物にならない、贅沢な空間だった。

「……最高かよ」

 俺は思わず、笑みがこぼれた。
 服を脱ぎかけ湯で体の汚れをざっと流す。そして、ゆっくりと、湯船に体を沈めた。

「あ゛あ゛~~~……」

 思わずおっさんのような声が漏れる。一日の疲れが、じわじわと、体の芯から溶けていくようだ。手足を思いっきり伸ばしても、まだ余裕がある。俺は、浴槽の縁に頭を乗せ、天井を眺めながら、今日の奮闘を思い返していた。

 その時だった。

 コンコン、と、風呂場の扉が、控えめにノックされた。

「おにいちゃん、入ってる?」
「リリか。ああ、入ってるぞ。もうすぐ上がるから、少し待ってろ」
「ううん、違うの。あのね、お願いがあるんだけど……」

 リリの声はどこか、もじもじとしている。

「なんだ?」
「あのね……リリの背中、洗ってほしいな……なんて」

 その予想外のお願いに、俺は思わず、湯の中で体勢を崩しかけた。

「せ、背中!? お前、一人で洗えるだろ!」
「洗えるけど……。でも、今日は、いっぱい頑張ったから。おにいちゃんに、洗ってほしいの。だめ……かな?」

 扉の向こうから聞こえる、上目遣いが目に浮かぶような、か細い声。そんなことを言われて断れる男がいるだろうか。いや、いない。

「……わかったよ。だけど俺が上がるまで、そこで待ってろ。絶対に入ってくるなよ!」
「うん!」

 嬉しそうな声が返ってくる。
 俺は、大急ぎで風呂場から出た。そして体を拭き、下半身にタオルを巻いた。

「よし、入っていいぞ」

 リリはタオルを体に巻いた姿で、少し恥ずかしそうに中へ入ってきた。そして、小さな椅子にちょこんと座り、俺に背中を向ける。

「……じゃあ、洗うぞ」
「……うん」

 俺はスポンジに石鹸をつけリリの小さな背中を、優しく洗い始めた。
 その背中は、あまりにも小さく、そして華奢だった。普段戦場で俺の隣で、勇敢に戦っている姿からは、想像もつかないほどに。
 背中には俺と同じように、いくつかの小さな、古い傷跡があった。俺と出会う前、彼女が、どれだけ過酷な時間を生きてきたのか。その傷が雄弁に物語っていた。

 俺は何も言わず、ただその傷跡を慈しむように、丁寧に、洗い流していった。

「……おにいちゃんの手、おっきくて、あったかいね」

 リリがぽつりと呟いた。

「そうか?」
「うん。なんだかすごく、安心する」

 その言葉に俺の胸が、きゅっと締め付けられる。
 そしてリリは俺の背中に、ぴとっと、その小さな体をくっつけてきた。

「おにいちゃんの背中、おっきいね。傷もいっぱいある」

 リリはその小さな指で、俺の背中にある、古い傷跡を、そっと撫でた。それは、聖騎士だった頃、仲間を守るために何度も負った、名誉の負傷のはずだった。

「……この傷、痛かった?」
「……もう、昔のことだ」
「リリが今度からは、おにいちゃんのこと、守ってあげる。だから、もう、こんな傷、作っちゃだめだよ」

 そのあまりにも真っ直な言葉に俺は、何も言えなくなってしまった。
 この子はただ甘えているわけじゃない。
 俺のことを心から心配し、対等な「相棒」として俺を守ろうとしてくれているのだ。

 俺の葛藤など露知らず。リリは、楽しそうに、お湯をぱちゃぱちゃとさせ始めた。

「見て、おにいちゃん! お船さん!」

 リリは桶を湯船に浮かべ、それを小舟に見立てて遊んでいる。その姿は、やはり、年相応の無邪気な子供そのものだった。

 ……まあ、いいか。

「よし、終わったぞ。ちゃんと、温まってから上がれよ」
「うん。ありがとう、おにいちゃん」

 俺はリリにそう言い残し、風呂場を後にした。
 リビングで火照った体を冷ましていると、やがてリリも風呂から上がってきた。その顔は、ほんのりと赤く染まり、満足そうな表情を浮かべている。

「いいお湯だったな」
「うん! 最高だった!」

 俺たちは二人で水を飲み干した。
 大掃除の後の風呂。
 それはほんの少しの予期せぬ出来事と、そして、かけがえのない、温かい時間と共に俺たちの新しい家での、最初の夜を優しく彩ってくれた。
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